認知症予防のための多因子介入プログラムの成果報告―熊本県菊陽町における半年間の実践研究―

(ポイント)
熊本大学と菊陽町などが連携し、地域在住高齢者を対象とした地域版 J-MINT Brain Health プログラムを実施しました。 6か月間のプログラムにおいて、認知機能の中でも「注意機能」が変化を捉えやすい評価指標となる可能性が示されました。 自治体と大学が連携した認知症予防の地域実装を進めるうえで、今後のプログラム評価や改善に役立つことが期待されます。
(概要説明)
熊本大学大学院生命科学研究部附属健康長寿代謝制御研究センターの梶谷直人助教、山縣和也センター長らの研究グループは、国立長寿医療研究センター(理事長 荒井秀典)および台湾国立陽明交通大学との共同研究により、熊本県菊陽町で実施された地域在住高齢者を対象とする認知症予防のための地域版 J-MINT Brain Health プログラムについて、6か月間の実施前後における認知機能や身体機能、生活習慣などの変化を検討しました。
認知症の発症には、運動不足、生活習慣病、社会参加の低下など、修正可能な生活・健康要因が関与することが知られており、近年、運動、栄養、認知トレーニング、生活習慣改善などを組み合わせた多因子介入が注目されています。一方で、こうした多因子介入プログラムを自治体の現場で実施した際に、どのような評価指標が変化を捉えやすいかについては、まだ十分に明らかではありませんでした。
本研究では、菊陽町で実施された地域版 J-MINT Brain Health プログラムの参加者を対象に、6か月後の認知機能や身体機能、生活習慣などの変化を検討しました。その結果、認知機能の中でも「注意機能」が、地域における認知症予防のための多因子介入プログラムの変化を捉えるうえで有用な指標となる可能性が示されました。
本研究成果は、今後、自治体と大学が連携して実施する認知症予防事業において、プログラムの効果をより適切に評価し、地域の実情に合わせた取り組みを発展させるための基盤となることが期待されます。本研究は、TSMC Charity Foundationの支援を受けて実施されました。
本研究成果は、令和8年6月25日に国際学術誌「Archives of Gerontology and Geriatrics」に掲載されました。
(説明)
[背景]
認知症は高齢化が進む社会において大きな課題であり、発症後の治療だけでなく、発症リスクを下げるための予防的な取り組みが重要です。近年、運動、栄養、認知トレーニング、生活習慣病の管理、社会参加など、複数の要素を組み合わせた「多因子介入」により、高齢者の認知機能維持を目指す研究が世界的に進められています。
日本では、国立長寿医療研究センターを中心に、認知症予防を目的とした多因子介入研究「J-MINT」が実施されてきました。一方で、研究として厳密に管理された環境で行う介入と、自治体の現場で住民を対象に実施するプログラムとでは、参加者の背景、運営方法、継続のしやすさなどが異なります。そのため、研究で得られた知見を地域の現場で実践可能な形に発展させ、どのように評価していくかが重要な課題となっています。
[研究の内容]
本研究では、国立長寿医療研究センターがJ-MINT研究の知見をもとに作成した、市町村で実施可能な多因子介入プログラム(名称:地域版 J-MINT Brain Health プログラム)を、熊本県菊陽町において実施しました。このプログラムでは、運動、栄養、認知トレーニング、生活習慣改善などを組み合わせ、地域在住高齢者が継続して参加しやすい形で認知症予防を目指しました(図1)。
熊本大学を中心とする研究グループは、プログラム参加者について、開始時と6か月後の認知機能、身体機能、生活習慣などを評価しました。特に、認知機能のどの側面が、地域で実施する短期間の認知症予防プログラムにおける変化を捉えやすいかに着目して解析を行いました。
[成果]
6か月間のプログラムを通じて、認知機能のうち「注意機能」が変化を捉えやすい指標となる可能性が示されました。注意機能は、日常生活の中で情報に気づき、必要なことに集中し、作業を進めるために重要な認知機能です。
本成果は、地域版 J-MINT Brain Health プログラムにおいて、全般的な認知機能だけでなく、注意機能などの特定の認知領域に注目することの重要性を示すものです。また、研究として行われてきた認知症予防のための多因子介入プログラムを地域の現場へ社会実装していく際の評価方法を考えるうえでも、有用な知見となります。
[展開]
今後は、より多くの参加者を対象とした検討や、より長期的な追跡を通じて、地域版 J-MINT Brain Health プログラムが認知機能や生活機能、健康寿命に与える影響を明らかにしていく必要があります。
本研究成果は、菊陽町における認知症予防事業の発展に加え、他の自治体における健康づくり・介護予防・認知症予防の取り組みにも応用されることが期待されます。地域の高齢者が住み慣れた場所で健康に暮らし続けるための、実践的な予防モデルの構築につながる可能性があります。
[用語解説]
多因子介入
運動、栄養、認知トレーニング、生活習慣病の管理、社会参加など、複数の要素を組み合わせて行う介入のことです。認知症予防の分野では、単一の方法ではなく、生活全体に働きかける取り組みとして注目されています。
J-MINT
Japan-Multimodal Intervention Trial for Prevention of Dementiaの略称です。認知症予防を目的として、運動、栄養、認知トレーニング、生活習慣改善などを組み合わせた多因子介入の有効性を検討する日本の研究・実践の枠組みです。
地域版 J-MINT Brain Health プログラム
国立長寿医療研究センターが開発した、市町村で実施可能な認知症予防のための多因子介入プログラム。詳細は下記プレスリリースに記載されています。
https://www.ncgg.go.jp/ri/report/20251104.html
注意機能
必要な情報に意識を向け、集中し、作業を続けるための認知機能です。日常生活では、会話を聞く、周囲の状況に気づく、作業を順序立てて行うなど、さまざまな場面に関わります。
(論文情報)
論文名:
Attention as a potentially responsive cognitive outcome in a community-based multidomain dementia prevention program (the community-adapted J-MINT Brain Health Program in Kikuyo Town, Japan)
著者:
Naoto Kajitani, Nobuhiro Kajihara, Tomonori Tsuyama, Minoru Takebayashi, Naoto Kubota, Kazuaki Uchida, Liang-Kung Chen, Takashi Sakurai, Hidenori Arai, Kazuya Yamagata
掲載誌:Archives of Gerontology and Geriatrics
doi:10.1016/j.archger.2026.106347
URL:https://doi.org/10.1016/j.archger.2026.106347
【詳細】 プレスリリース(PDF525KB)
お問い合わせ
(研究に関するお問い合わせ先)
熊本大学大学院生命科学研究部
担当:梶谷直人(助教)
電話:096-373-5076
e-mail:kajitani.naoto@kuh.kumamoto-u.ac.jp
(報道に関するお問い合わせ先)
熊本大学総務部総務課広報戦略室
電話:096-373-3269
e-mail:sos-koho@jimu.kumamoto-u.ac.jp
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