G20保健大臣会合:MSF、3つの医療・人道問題への取り組みを呼び掛け
独ベルリンで開催される20ヵ国・地域(G20)保健大臣会合に先立ち、国境なき医師団(MSF)は、MSFインターナショナル会長のジョアンヌ・リュー医師による公開書簡を発表、「医療施設への攻撃」「緊急事態への備えと対応」「抗菌薬耐性(AMR)と薬剤耐性結核(DR-TB)」の3つの医療・人道問題に各国が緊急に取り組むべきだと訴えた。
リュー医師は「世界が直面する医療・健康問題の解決にはG20による強い意志とリーダーシップ、リソースが必要」と述べ、「最も過酷な環境で暮らす患者の苦悩を減らし、必要な薬や治療へのアクセスを改善するために各国による改革が急務」と訴えた。
書簡は次の3つの医療・人道問題についての取り組みを各国に呼びかけるもので、5月17日に日本を含む主要国政府に提出された。
1. 医療施設への攻撃
イエメン、シリア、南スーダン、アフガニスタンなどで、医療施設が紛争当事国家やその他の勢力によって略奪され、焼き討ちされ、爆撃されています。これにより、患者、医師、看護師を含む数千の民間人が命を落とし、地域に暮らす人びとが必須の医療を受ける機会が奪われているのです。
1年前、国連安全保障理事会は医療援助活動保護に関する安保理決議第2286号を全会一致で採択しました。しかし現場では何も変わっていません。国家による医療施設への攻撃は、戦争における意図的な戦略の一端を帯びていることすらあります。G20保健大臣会合では、保健・医療体制強化について協議されるものと想定しますが、医療活動への意図的な攻撃を止めさせる方法についても話し合うべきではないでしょうか。現状は、もはや待ったなしです。MSFはG20に対し、安保理決議第2286号が紛争下で具体的な行動へと移され、医療施設と医療従事者に向けられた攻撃を阻止させるための道筋を作ることを求めます。
2. 緊急事態への備えと対応
2014年に西アフリカでエボラ出血熱の流行宣言が出された時、MSFを含む一握りの団体と政府のみが対応にあたりました。G20 は、世界保健機関(WHO)を支え、先進国の安全上の脅威という観点ではなく、流行地域社会の健康と福祉を対応の中心に据え、WHOが責任をもって脅威に対応できるよう、流行国当局との緊密な連携のもと、必要なリソースを結集すべきです。また、感染が見つかった国が、透明性を確保しつつ、WHOに対しアウトブレイクを迅速に宣言できるようにするためのインセンティブ(動機付け)も必要です。
緊急事態への備えが十分整っていても、数千人以上が死んだり病気になったりする際に対応できなければ、何の意味もありません。また、緊急事態への備えは、自国のセキュリティという観点のみで脅威と認識された感染症に限定すべきではありません。
研究開発(R&D)の努力は、貧しい国や、これまで軽んじられてきた地域で発生する病気に対して向けられなければなりません。MSFは、WHOと感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)による最近の取り組みに対し、G20は必要な支援をすべきと考えます。また、このような研究開発における成果は、それを必要とする全ての国と人びとの手に届く形にならなければなりません。
3. 抗菌薬耐性(AMR)と薬剤耐性結核(DR-TB)
MSFは昨年9月の国連総会で全ての国が合意した「AMRに関する国連ハイレベル会合」でのコミットメントを歓迎します。しかし一方で、ようやく勝ち得たこの公約に関してG20が後戻りしていることを懸念しています。この公約は、AMR対策がグローバルに展開され、患者のニーズをくみ取り、全ての保健医療体制、特にリソースが不十分な環境で徹底されていくためのものです。
G20に求められていることは、効果的な医薬品、ワクチン、診断器具の開発に対し公金を投じ、医薬品が手に届く価格で提供され、必要な人びとに行き渡るようにすることです。これは、研究開発費を成果物となった医薬品の売り上げと切り離すことによってのみ可能です。また、MSFはG20が、これまで顧みられてこなかった人びとが新たに抗菌薬を利用することを妨げるような政策を立案すべきではないと考えます。
G20がDR-TBに集中的に取り組むこともきわめて重要です。DR-TBは、AMRに起因する2015年の全死者数の3分の1以上を占めているのです。そのため、MSFはG20に対し、診断や治療における格差を縮めるとともに、ベストプラクティスならびにWHOに推奨された政策の実施への支援を要請します。また、「3Pプロジェクト(Push=推進する、Pull=ひきつける、Pool=共同利用)」研究開発イニシアチブをはじめとした、結核の全形態を1ヵ月以内に治療する、新しく低価格なレジメン開発に向けた取り組みへの支援を求めます。
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