長期作用型HIV治療薬レナカパビルの第二のメカニズムを解明-治療薬の高い効果を理解する手がかりに-

国立大学法人熊本大学

【研究成果のポイント】

♦レナカパビルは長期作用型の新規抗HIV薬であり、極めて強力な抗ウイルス効果を示します。

♦作用原理として、標的細胞に侵入するウイルスの感染をブロックすることが知られていました。一方で、強力な抗ウイルス効果を説明する第二の作用メカニズムが予測されていましたが、その実体は不明でした。

♦本研究により、レナカパビルがHIVの粒子形成に異常を生じさせることが、第二の抗ウイルス作用メカニズムであることが明らかになりました。

♦粒子径計測技術や電子顕微鏡観察などの解析により、レナカパビルによってウイルス粒子が異常な大きさになり、ウイルスの感染力が低下することがわかりました。

 

【概要】

 レナカパビル(以下、LENと略します)は、AIDS(後天性免疫不全症候群)の原因となるHIV-1の増殖を強力に抑制する、長時間作用型の新規治療薬です。ウイルス粒子の骨格を形づくるカプシドタンパク質*1を標的とします。LENは、ウイルスが標的細胞内に侵入してから、ウイルス遺伝子が標的細胞のゲノム遺伝子に組み込まれるまでの一連の過程(複製の前期過程)を阻害することで、子孫ウイルスの産生を強く阻害します。しかし、LENの強力な抗ウイルス作用は、この前期過程の抑制機序だけでは説明できませんでした。そのため、第二の作用機序の存在が想定されていましたが、その実体は不明のままでした。今回、熊本大学大学院生命科学研究部の講師 門出和精 博士と浜松医科大学医学部の教授 岩谷靖雅 博士らの研究グループは、粒子径計測技術や電子顕微鏡観察を駆使した解析により、LENがウイルス粒子形成過程でカプシド前駆体タンパク質*2に結合し、巨大化したウイルス様粒子の形成を促進することを初めて明らかにしました。LENによって巨大化した異常粒子は標的細胞内に侵入するものの、機能不全に陥り、感染力消失していることを見つけました。これらの研究成果は、新しい作用原理をもつLENの作用機序の理解を深めるだけでなく、その原理を応用することで、さらに強力な次世代型の抗ウイルス薬を開発する手掛かりになることが期待されます。

 

【研究の背景と目的】

 AIDSの起因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型 (HIV-1, human immunodeficiency Virus Type 1)は、ウイルス粒子内に三角錐型のコア(ウイルス遺伝子を内包するカゴのような構造物)をもち、これはウイルスが標的細胞に感染するために不可欠なものです。コアは、ウイルスのカプシドタンパク質 (CA) 分子、約200分子から構成されます。近年、米国Gilead Sciences 社(ギリアド・サイエンシズ)により開発された新規HIV-1薬であるレナカパビル(以下、LENと略します)は、このCA を標的とした、極めて高い抗ウイルス活性をもつ長期作用型治療薬です(参考図参照)。これまで、LENの作用原理として、ウイルスが標的細胞内へ侵入してからウイルス遺伝子が細胞の染色体ゲノム遺伝子に組み込まれるまでの一連の過程(複製の前期過程という)を阻害することで、子孫ウイルスの産生を強く阻害することが明らかにされていました。つまり、感染成立に不可欠な、ウイルス粒子の細胞核内への移送、あるいはコアからのウイルス遺伝子放出のいずれかを阻害していると考えられます。しかし、LENの強力な抗ウイルス作用は、この前期過程の抑制機序だけでは説明しきれず、第二の作用機序の存在が想定されていましたが、その実体は不明のままでした。LENを超える創薬開発を進めるためには、この第二の作用機序を明らかにする必要があります。そこで本研究では、前期過程とは異なる第二のメカニズムの実態を明らかにすることを目的として研究を行いました。

 

【研究内容】

 本研究では、LENがHIV-1の後期複製過程に及ぼす影響を様々な手法で解析しました。その結果、ウイルス量の測定方法の違いによってLENによる阻害効果が大きく異なることを発見しました。LEN処理によって、カプシド前駆体タンパク質(以下、Gagと略します)由来のCAの可溶性が低下するため、CA のELISA(酵素免疫測定法)ではLENによるウイルス放出阻害効果が実際よりも過大評価されることが分かりました。さらに、LEN存在下ではウイルスプロテアーゼ*3による細胞内Gagのプロセシング(成熟)が過剰に促進されることを見いだし、これが正常なウイルス粒子形成・放出の障害につながることを突き止めました。

 また、LEN処理により細胞膜上にGagの異常なクラスターが多数形成されることも明らかにしました。粒子径計測技術であるmass photometry*4(参考図A.粒子径解析参照)と透過型電子顕微鏡(TEM)*5解析(参考図B:電子顕微鏡解析参照)を組み合わせて調べた結果、LEN処理によって直径200 nmを超える不均一な巨大ウイルス様粒子(LEN-induced virus-like particles、以下LENiVLPsと略します)が形成されることを発見しました。これらのLENiVLPsにはGagおよび外被糖タンパク質(ウイルス表面を覆うタンパク質)が含まれており、単なるGagの凝集体ではなく、ウイルス粒子形成過程に由来する構造体であることが示されました。

 さらに、LENiVLPsは細胞膜との融合能を保持しているにもかかわらず、感染性を示さないことも明らかになりました。これは、LENiVLPsが標的細胞への侵入能を維持する一方、侵入後のウイルス複製過程が障害されるためです。以上の結果から、LENは成熟したCAのみならず、粒子形成過程にあるカプシド前駆体タンパク質Gagにも作用し、Gagの異常な成熟と粒子形成を誘導し、結果的に、巨大かつ非感染性のLENiVLPsを形成させることが明らかとなりました。本研究は、LENの第二の作用機序として、後期複製過程における新たな作用原理を示すとともに、CAを標的とする抗HIV薬の作用機構に関する新たな知見を提供します。

 

【今後の展望】

 LENによりウイルス粒子が巨大化し、ウイルスとして機能不全になることがわかりました。粒子が形成される際に前駆体タンパク質の集合に異常が生じることは理解されましたが、より詳細な機序はまだ明らかになっていません。例えば、2つの作用機序につながる、LENの薬剤標的ポケット部位への結合様式(ファーマコフォア*6)の違いが明らかになっておらず、構造生物学的な解析が必要です。今後は、両方の作用機序について、より精度の高いファーマコフォアの特定を進めていく予定です。それにより、それぞれの阻害効果をさらに高める化合物の創出が進み、より強力で薬剤耐性が生じにくい治療薬の改良・開発が加速すると期待されます。

 

【用語解説】

*1 カプシド(CA)

HIV-1のウイルス粒子の内部にあるタンパク質の殻(コア)を構成するタンパク質(参考図参照)。ウイルスの遺伝情報を保護し、感染・侵入した標的細胞内でウイルスが増殖するために重要な役割を担う。LENはこのカプシドを標的として作用する。

*2 カプシド前駆体タンパク質 (Gag)

HIV-1の粒子の形を作るために必要なタンパク質のもととなる前駆体タンパク質。ウイルス粒子が形成される際に細胞膜へ集まり、粒子の基本構造を作る。その後、ウイルスのプロテアーゼによって順に切断され、成熟したウイルス粒子が形成される。

*3 ウイルスプロテアーゼ

HIV-1のタンパク質を適切な位置で切断し、感染性をもつ成熟ウイルス粒子を作るために必要なウイルス由来の酵素。

*4 mass photometry(質量光度法)

超微細粒子サイズを測定する技術。溶液中に存在するウイルス粒子などの大きさや質量を、光の散乱を利用して一粒子ごとに測定する技術。本研究では、他分野で使われていた本技術を応用し、巨大なウイルス様粒子の検出・解析に利用した。

*5 透過型電子顕微鏡(TEM)

電子線を利用して、ウイルス粒子などの非常に小さな構造を高い解像度で観察する装置。通常の光学顕微鏡で解析できない、微細構造を解析する技術。

*6 ファーマコフォア

薬剤が標的タンパク質に結合して作用するために必要な分子上の特徴や配置を示す概念。薬剤が結合する際の立体的な特徴。ファーマコフォアを精密化することにより、阻害化合物のデザイン・改良を進める精度が高まる。本研究では、LENがHIV-1の異なる段階で作用する際の結合様式の違いを明らかにすることで、より効果的な薬剤開発につなげることを目指している。

 

【発表雑誌】

Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)

doi: http://doi.org/10.1073/pnas.26096344123

 

【論文タイトル】

Lenacapavir binding to immature Gag induces giant virions and causes protease-dependent inhibition of viral release

 

【著者】

アメシメク ライト、中田佳宏、門出奈美、寺沢広美、大出裕高、佐々木博之、ルコンド コンソラタ、松井毅、ニャメ パーペチュアル、Md ジャキル フセイン、齊藤暁、澤智裕、池田輝政、前田洋助、岩谷靖雅、門出和精

(Wright Andrews Ofotsu Amesimeku, Yoshihiro Nakata, Nami Monde, Hiromi Terasawa, Hirotaka Ode, Hiroyuki Sasaki, Consolata Elias Rukondo, Takeshi Matsui, Perpetual Nyame, Md. Jakir Hossain, Akatsuki Saito, Tomohiro Sawa, Terumasa Ikeda, Yosuke Maeda, Yasumasa Iwatani, Kazuaki Monde)

 

【研究グループ】

本研究は、熊本大学大学院生命科学研究部微生物学講座、浜松医科大学医学部微生物学・免疫学講座、宮崎大学フロンティア科学総合研究センターウイルス感染制御学ラボ、名古屋医療センター臨床研究センター感染・免疫研究部、東京工科大学応用生物学部化粧品コース皮膚進化細胞生物学研究室、熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センターとの共同研究として行われました。

 

【研究支援】

日本医療研究開発機構(AMED)エイズ対策実用化研究事業(25fk0410058h9903, 26fk0410080h0001: 代表者_岩谷, 分担者_門出 および 19fk0410026h0001, 24fk0410065h0001: 代表者_門出)などの支援により本研究を実施しました。

【研究に関する問い合わせ先】

国立大学法人 熊本大学大学院生命科学研究部 微生物学講座

講師 門出和精

〒860-8556 熊本県熊本市中央区本荘1-1-1

Tel: 096-373-5129 / e-mail: monde@kumamoto-u.ac.jp

 

【報道に関する問い合わせ先】

国立大学法人 熊本大学

担当:総務部 総務課 広報戦略室

電話:096-342-3269

 e-mail:sos-koho@jimu.kumamoto-u.ac.jp

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業種
教育・学習支援業
本社所在地
熊本県熊本市中央区黒髪2-39-1
電話番号
096-344-2111
代表者名
小川 久雄
上場
未上場
資本金
-
設立
1949年05月