細胞に圧力がかかると小胞体ストレスが発生 表情表出時にシワが固着する一因に
①皮膚細胞に表情表出時のような圧力がかかると、タンパク質産生低下に繋がる「小胞体ストレス」が発生
②小胞体ストレスを軽減する植物エキスを発見
- 表情圧の研究でタンパク質産生工場である小胞体に着目
ポーラ化成工業では、表情によってシワが形成されるメカニズムについて研究を進めています。これまでに、表情を作った時と同じような圧力を皮膚組織に加えると、キズが出来た時に似た炎症反応が起こることを解明しています※1。また同時に、組織中のタンパク質全体量が減少している可能性も示唆されていました。
タンパク質は肌の構成成分のうち約30%を占め水分に次いで2番目に多く、生命にとって欠かすことのできない成分です。肌はさまざまなタンパク質で構成されているため、タンパク質量の減少は肌に対する影響が大きいのではないかと考え、より深く研究を進めることにしました。
まず表情圧の受けやすさとタンパク質密度の関係を調べたところ、両者が相関することが分かりました(補足資料 1)。さらに解析を進めた結果、タンパク質の産生や、正常な構造に整える品質管理を行っている細胞内器官、「小胞体※2」の状態が表情圧と関係していることが分かってきました。つまり、細胞のタンパク質産生工場が圧力により機能不全に陥ることで、タンパク質量が少なくなる可能性が見えてきたのです。
※1 参考リリース: 「表情によりシワができる全行程を解明 皮膚に圧力がかかると好中球が集まることを発見」(2019年10月4日)http://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20191004_2.pdf
※2 細胞内の器官の一つ。核から送られた遺伝情報をもとにタンパク質を合成し、正常な立体構造への折りたたみを行う。小胞体がさまざまな刺激を感知すると「小胞体ストレス」と呼ばれる状態になり、細胞に悪影響を及ぼすことが知られている。
- 表情圧によって小胞体ストレスが起こり、タンパク質量が低下していた
次に、圧力でタンパク質が減るメカニズムをより詳しく調べるため、表皮細胞や線維芽細胞に対して、表情圧を模して横から圧力を加える実験を行いました。その結果、小胞体ストレスが誘導されたことを示すマーカーが増加しました(図1、補足資料2)。さらに小胞体ストレスがタンパク質産生に与える影響を調べるため、薬剤で人為的に小胞体ストレスを引き起こすと、タンパク質量が低下することも確認しました(図2、補足資料3)。
- 小胞体ストレスを低減するエキスを発見
タンパク質量の減少を防ぐため小胞体ストレスを低減するエキスを探索した結果、表皮細胞に対してはユキノシタエキスが、線維芽細胞に対してはヒキオコシエキス※3が有効であることが分かりました(補足資料4)。肌の細胞の多くを占める両細胞の小胞体ストレスを低減することで、肌全体のタンパク質産生力が戻ることが期待されます。
日常生活を過ごす上では、感情を抑圧してばかりいるのも好ましくありません。シワを気にすることなく思い切り表情を出せるよう、今後もシワ改善のパイオニアとして研究を進めていきます。
※3 医薬部外品の成分表示名「ヒキオコシエキス-1」
【補足資料1】 タンパク質密度と皮膚弾力性の相関
あらかじめ弾力性を測定しておいたヒトの皮膚組織を薄く切り出し、真皮のタンパク質を染色し画像解析によりタンパク質の密度を割り出しました。弾力性とタンパク質密度の関係を解析したところ、両者は相関関係にありました(図3)。
弾力性の高い皮膚ほど、皮膚にかかる圧力を跳ねのけられると考えられます。つまり、皮膚のタンパク質密度が高いほど表情圧の影響を受けにくい可能性が示されました。
【補足資料2】 圧力負荷時の小胞体ストレス
表情圧を模した圧力を負荷した表皮細胞・線維芽細胞では、小胞体ストレスマーカーの遺伝子発現量が有意に増加していました(図4)。
つまり、皮膚に表情圧がかかると細胞の小胞体ストレスが増すと考えられます。
【補足資料3】 小胞体ストレス誘導時のタンパク質量
表皮細胞・線維芽細胞に対して小胞体ストレスを引き起こす薬剤を添加したところ、細胞当たりの総タンパク質量が減少しました(図5)。
このことは、小胞体ストレスにより小胞体のタンパク質産生機能が低下することを示唆しています。
【補足資料4】 小胞体ストレス低減エキス
小胞体ストレスを低減するエキスを探索したところ、表皮細胞にはユキノシタエキスが、線維芽細胞にはヒキオコシエキスが有効でした(図6)。
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像