中学・高校生期と高齢期の両方の運動習慣が女性の骨粗鬆症リスクを低減
~高齢者を対象とした文京ヘルススタディーで明らかに~
順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターの大学院生 大塚光、田端宏樹 研究員、田村好史 先任准教授、河盛隆造 特任教授、綿田裕孝 教授らの研究グループは都内在住高齢者1596名を対象とした調査により、中学・高校生期と高齢期の両方の時期に運動習慣がある女性では骨密度が高く、骨粗鬆症(*1)のリスクが低いことを明らかにしました。我が国では、女性の要介護となる原因の多くは転倒・骨折であり、その背景にある骨粗鬆症を予防することは重要な課題です。
本成果は骨粗鬆症のリスク低減となる運動を実施すべき重要な時期を示唆しており、我が国における介護予防や健康寿命の延伸の観点から、極めて有益な情報であると考えられます。本研究は「Journal of Clinical Medicine」のオンライン版で公開されました。
本成果は骨粗鬆症のリスク低減となる運動を実施すべき重要な時期を示唆しており、我が国における介護予防や健康寿命の延伸の観点から、極めて有益な情報であると考えられます。本研究は「Journal of Clinical Medicine」のオンライン版で公開されました。
本研究成果のポイント
背景
我が国の骨粗鬆症の有病率は先進諸国の中でも高いことが知られています。特に、女性において、骨粗鬆症は骨折や要介護の重要なリスクになっており、その適切な予防が重要です。先行研究から、骨粗鬆症の予防には運動が有効であり、中学・高校生期の運動習慣は最大骨量(一生の中でのピークに達した時点の骨量)を高めることや、高齢期の運動習慣は骨量減少を抑えることが明らかになっています。そのため、中学・高校生期と高齢期の両方の時期で運動習慣を有することが、より高齢期の骨粗鬆症の予防に繋がる可能性が考えられてきましたが、現在まで明らかとなっていませんでした。
そこで本研究では、都市部在住高齢者のコホート研究“Bunkyo Health Study(文京ヘルススタディー)*2”において、中学・高校生期および高齢期の運動習慣と骨密度や骨粗鬆症の有病率との関連についての研究を行いました。
内容
本研究では、東京都文京区在住高齢者のコホート研究“Bunkyo Health Study”に参加した65~84歳の高齢者1596名(男性681名、女性915名)を対象とし質問紙調査を実施しました。中学・高校生期に運動部活動をしていたかどうかで中学・高校生期の運動習慣の有無を、現在運動習慣があるかどうかで高齢期の運動習慣の有無をそれぞれ定義しました。次に、それらの運動習慣の有無の組み合わせで4群に分類し骨密度や骨粗鬆症の有病率を比較しました。その結果、女性の股関節の骨密度は、中学・高校生期および高齢期の運動習慣が両方ある群では、他の3群と比べて有意に高いことが明らかとなりました(図1)。
本研究では、女性は中学・高校生期の運動と高齢期の両方の時期に運動することにより、骨粗鬆症のリスクを低減する可能性が明らかになりました。我が国の女性においては、現在、中学・高校生期に運動を全く行わない人と、活発に行う人の「2極化」が顕著に進んでおり、その原因として現在の運動部活動などが女性の運動のニーズに必ずしも合っていないことが指摘されています。そのため、競技スポーツでない「ゆるい」スポーツの普及の推進が期待されます。また、今回の調査に参加した高齢者では、カルシウムやビタミンDの摂取量が国の推奨量に達していない人を多く認め、今後栄養摂取の面でも改善が必要と考えられます。
今回の研究により、中学・高校生期だけでなく高齢期の運動も骨に良い影響を与えうることが示唆されましたが、それぞれの時期にどの運動をどれくらい行うことが必要かなど、まだ不明の点が多く残されており、今後さらなる研究を進めていきます。
用語解説
*1 骨粗鬆症:骨密度の低下と骨質の悪化により骨の強度が低下する病気のこと。
*2 Bunkyo Health Study(文京ヘルススタディー):順天堂大学が東京都文京区民1,629名の高齢者を対象として実施している研究で、認知機能・運動機能などが「いつから」「どのような人が」「なぜ」低下するのか、「どのように」早期の発見・予防が可能となるかなどを明らかにすることを目的としている。
(参照: https://research-center.juntendo.ac.jp/sportology/research/bunkyo/)
*3 オッズ比:ある疾患などへのかかりやすさを群間比較した尺度のこと。オッズ比が1より小さいとかかりにくいことを意味する。
原著論文
本研究成果は「Journal of Clinical medicine」のオンライン版(2021年12月19日付 )で公開されました。
英文タイトル:Associations of exercise habits in adolescence and old age with risk of osteoporosis in older adults: The Bunkyo Health Study
タイトル(日本語訳):青年期および高齢期の運動習慣と高齢者の骨粗鬆症リスクとの関連:文京ヘルススタディ-
著者: Hikaru Otsuka1, Hiroki Tabata2,Huicong Shi1,Hideyoshi Kaga3,Yuki Someya1,2,4, Abudurezake Abulaiti2,Hitoshi Naito3,Futaba Umemura1,Saori Kakehi2,3,Muneaki Ishijima1,2,5,Ryuzo Kawamori1,2,3, Hirotaka Watada2,3 and Yoshifumi Tamura1,2,3,6,7
著者(日本語表記):大塚 光, 田端 宏樹, 石 薈聡, 加賀 英義, 染谷 由希, アブドラザク アブラディ, 内藤 仁嗣, 梅村 二葉, 筧 佐織, 石島 旨章, 河盛 隆造, 綿田 裕孝, 田村 好史
著者所属:
1.順天堂大学大学院医学研究科 スポーツ医学・スポートロジー学
2.順天堂大学大学院医学研究科 スポートロジーセンター
3.順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学
4.順天堂大学大学院医学研究科 整形外科・運動器医学
5.順天堂大学大学院医学研究科 共同研究講座(健康寿命学講座)
6.順天堂大学スポーツ健康科学部
7.順天堂大学国際教養学部
DOI : https://doi.org/10.3390/jcm10245968
本研究は、基盤形成支援事業 (文部科学省)、ハイテクリサーチセンター整備事業(文部科学省)、JSPS科研費(文部科学省)(JP23680069, JP26282197, JP15K01729)の支援を受け実施しました。
また、本研究に協力頂きました参加者様のご厚意に深謝いたします。
- 東京都文京区在住の高齢者1596名を対象とした調査を実施
- 中学・高校生期と高齢期の両方の時期で運動習慣がある女性では骨密度が高く、骨粗鬆症のリスクが低いことが明らかとなった。
- 女性の骨粗鬆症の予防のために中学・高校生期と高齢期に運動を実施する重要性が示唆された。
背景
我が国の骨粗鬆症の有病率は先進諸国の中でも高いことが知られています。特に、女性において、骨粗鬆症は骨折や要介護の重要なリスクになっており、その適切な予防が重要です。先行研究から、骨粗鬆症の予防には運動が有効であり、中学・高校生期の運動習慣は最大骨量(一生の中でのピークに達した時点の骨量)を高めることや、高齢期の運動習慣は骨量減少を抑えることが明らかになっています。そのため、中学・高校生期と高齢期の両方の時期で運動習慣を有することが、より高齢期の骨粗鬆症の予防に繋がる可能性が考えられてきましたが、現在まで明らかとなっていませんでした。
そこで本研究では、都市部在住高齢者のコホート研究“Bunkyo Health Study(文京ヘルススタディー)*2”において、中学・高校生期および高齢期の運動習慣と骨密度や骨粗鬆症の有病率との関連についての研究を行いました。
内容
本研究では、東京都文京区在住高齢者のコホート研究“Bunkyo Health Study”に参加した65~84歳の高齢者1596名(男性681名、女性915名)を対象とし質問紙調査を実施しました。中学・高校生期に運動部活動をしていたかどうかで中学・高校生期の運動習慣の有無を、現在運動習慣があるかどうかで高齢期の運動習慣の有無をそれぞれ定義しました。次に、それらの運動習慣の有無の組み合わせで4群に分類し骨密度や骨粗鬆症の有病率を比較しました。その結果、女性の股関節の骨密度は、中学・高校生期および高齢期の運動習慣が両方ある群では、他の3群と比べて有意に高いことが明らかとなりました(図1)。
また、これと同様に、女性で中学・高校生期と高齢期の両方で運動習慣を有している群は、両時期運動していない群に比べて骨粗鬆症のリスク(オッズ比*3)が35%低下していました(図2)。その一方で、男性では骨粗鬆症の割合が女性と比べ低く、過去の運動歴との有意な関連性も認められませんでした。
今後の展開
本研究では、女性は中学・高校生期の運動と高齢期の両方の時期に運動することにより、骨粗鬆症のリスクを低減する可能性が明らかになりました。我が国の女性においては、現在、中学・高校生期に運動を全く行わない人と、活発に行う人の「2極化」が顕著に進んでおり、その原因として現在の運動部活動などが女性の運動のニーズに必ずしも合っていないことが指摘されています。そのため、競技スポーツでない「ゆるい」スポーツの普及の推進が期待されます。また、今回の調査に参加した高齢者では、カルシウムやビタミンDの摂取量が国の推奨量に達していない人を多く認め、今後栄養摂取の面でも改善が必要と考えられます。
今回の研究により、中学・高校生期だけでなく高齢期の運動も骨に良い影響を与えうることが示唆されましたが、それぞれの時期にどの運動をどれくらい行うことが必要かなど、まだ不明の点が多く残されており、今後さらなる研究を進めていきます。
用語解説
*1 骨粗鬆症:骨密度の低下と骨質の悪化により骨の強度が低下する病気のこと。
*2 Bunkyo Health Study(文京ヘルススタディー):順天堂大学が東京都文京区民1,629名の高齢者を対象として実施している研究で、認知機能・運動機能などが「いつから」「どのような人が」「なぜ」低下するのか、「どのように」早期の発見・予防が可能となるかなどを明らかにすることを目的としている。
(参照: https://research-center.juntendo.ac.jp/sportology/research/bunkyo/)
*3 オッズ比:ある疾患などへのかかりやすさを群間比較した尺度のこと。オッズ比が1より小さいとかかりにくいことを意味する。
原著論文
本研究成果は「Journal of Clinical medicine」のオンライン版(2021年12月19日付 )で公開されました。
英文タイトル:Associations of exercise habits in adolescence and old age with risk of osteoporosis in older adults: The Bunkyo Health Study
タイトル(日本語訳):青年期および高齢期の運動習慣と高齢者の骨粗鬆症リスクとの関連:文京ヘルススタディ-
著者: Hikaru Otsuka1, Hiroki Tabata2,Huicong Shi1,Hideyoshi Kaga3,Yuki Someya1,2,4, Abudurezake Abulaiti2,Hitoshi Naito3,Futaba Umemura1,Saori Kakehi2,3,Muneaki Ishijima1,2,5,Ryuzo Kawamori1,2,3, Hirotaka Watada2,3 and Yoshifumi Tamura1,2,3,6,7
著者(日本語表記):大塚 光, 田端 宏樹, 石 薈聡, 加賀 英義, 染谷 由希, アブドラザク アブラディ, 内藤 仁嗣, 梅村 二葉, 筧 佐織, 石島 旨章, 河盛 隆造, 綿田 裕孝, 田村 好史
著者所属:
1.順天堂大学大学院医学研究科 スポーツ医学・スポートロジー学
2.順天堂大学大学院医学研究科 スポートロジーセンター
3.順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学
4.順天堂大学大学院医学研究科 整形外科・運動器医学
5.順天堂大学大学院医学研究科 共同研究講座(健康寿命学講座)
6.順天堂大学スポーツ健康科学部
7.順天堂大学国際教養学部
DOI : https://doi.org/10.3390/jcm10245968
本研究は、基盤形成支援事業 (文部科学省)、ハイテクリサーチセンター整備事業(文部科学省)、JSPS科研費(文部科学省)(JP23680069, JP26282197, JP15K01729)の支援を受け実施しました。
また、本研究に協力頂きました参加者様のご厚意に深謝いたします。
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