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【国立科学博物館】博物館の収蔵庫から新種の巻貝化石を発見!

文化庁


研究のポイント
  • 千葉県銚子市から採集され、千葉県立中央博物館に寄贈された銚子層群の岩石から、殻長が1㎝に満たない微小な巻貝化石を発見しました。
  • 巻貝化石は12種類におよび、そのうちの6種を新種として記載しました。
  • これらの巻貝化石は、巻貝類の系統進化上、重要な最新・最古の化石記録を含むうえ、当時の浅海生巻貝類の真の多様性を明らかにするものです。


概要
 千葉県銚子市に分布する銚子層群※1(中生代前期白亜紀の浅海成堆積物)から採集され、千葉県立中央博物館に寄贈された岩石を詳しく調査したところ、これまで銚子層群から報告されていなかった微小な巻貝を12種類発見し、そのうちの6種を新種として記載しました。銚子層群の巻貝化石としては、42年ぶりに新種が加わったことになります。
 生き物には大小様々な種類が存在しますが、その多様性を明らかにするためには、目につきやすい大型の種類だけではなく、小さな種類にも目を向けることが重要です。巻貝類には、微小な種類が多く存在しますが、化石種はその発見がより困難となります。今回の研究では、微化石を抽出する手法を用いた結果、これまで見過ごされてきた微小な巻貝化石を多数見出すことができました。
 今回の研究の特色として、博物館に寄贈され、収蔵庫に保管されていた岩石から新種が発見されたことが挙げられます。寄贈を受けた資料は、公的機関において収蔵する価値が高いと判断されたものですが、そのような資料から新しい発見が得られることは、博物館等の研究施設における自然誌研究や保管機能の重要性を改めて示すものです。
 この研究成果は、2022年1月1日発行の日本古生物学会の国際学術誌「Paleontological Research」(パレオントロジカル・リサーチ)において発表されました。


【発見の経緯
 今回、新種として記載した6種の巻貝化石は、博物館資料として収蔵されていた、千葉県銚子市に分布する銚子層群君ヶ浜層(前期白亜紀“約1億2500万年前”)から採集された岩石より見出されました。この岩石は、銚子市在住の山田勝彦さんによって、1998年に採集され、2000年に千葉県立中央博物館に寄贈されたものです。
 この岩石には貝類化石が多量に含まれており、これまでに発見されていない微小な種類が見つかる可能性がありました。千葉県立中央博物館の伊左治鎭司は、2011年頃から、有孔虫などの微化石を探す手法※2を用いて、この岩石から微小な化石を抽出する調査を開始し、多数の微小な巻貝化石を発見しました。
 この巻貝化石に関する調査を進める過程で、軟体動物化石に詳しい芳賀拓真(国立科学博物館)に意見を求めるとともに、共産する微化石の同定に関しては中生代の微化石研究に実績のある柏木健司(富山大学)にも助言を求め、科学研究費等を用いた共同研究を開始し、その成果として新種の巻貝化石を記載する論文を発表しました。


【巻貝化石について】
 微化石抽出の成果として、1000個以上の殻長が1㎝に満たない微小貝化石を発見しました。その中には、これまで銚子層群から見つかっていなかった微小な巻貝が12種類含まれ、そのうちの6種を新種として記載しました。
 なお、銚子層群の巻貝化石は、1980年に12種類が記載されていましたが、今回発見されたような小さな種類は報告されていませんでした。今回の新種発見は、銚子層群の巻貝化石としては、42年ぶりのことになります。また、これまでの研究によって、銚子層群の巻貝化石は24種類となり、そのうち新種とされたものは1980年に記載された10種と、今回の6種をあわせて、16種です。


【本研究の学術的意義】
 1、見過ごされてきた微小貝化石に光をあてた
 ある分類群の種の多様性を明らかにするためには、大型種だけではなく、微小種の存在に目を向ける必要があります。軟体動物、特に巻貝類は微小種からなる分類群が多く、例えば熱帯域では現生種の半分以上を占めるなどと言われています。そのため、微小種の発見は、真の多様性に迫るために重要です。微小種の記載分類は、走査電子顕微鏡が普及してから本格化し、現生種においても、1980年代以降活発に行われるようになりました。一方で、化石の微小種は、現生種よりもさらに見過ごされてきたと考えられます。とりわけ、日本の中生代以前の地層では、岩石が硬く固結しているため、微小種を見出すことが困難であり、先行研究は多くありませんでした。今回、これまで知られていた大型の種類とほぼ同数の微小種化石を発見したことにより、銚子層群が堆積した白亜紀の浅海に生息した巻貝群集の多様性に、新しい光をあてることができました。

 2、巻貝類の進化史上の新発見
 発見された微小種の中には、当時汎世界的に生息していたグループだけでなく、これまで三畳紀の地層からしか発見されていなかったグループ(Ampezzopleurinaeの巻貝)や、新生代になって繁栄するミツクチキリオレガイ類の最古の種類(Antiphora aurora)なども含まれることが判明しました。また、沈木が形成する還元的な微小環境に生息した可能性がある種(Stuoraxis kasei)も存在するなど、巻貝類の進化史に新しい知見を加えることができました。

 3、博物館資料の自然誌研究への役割を再認識
 今回の発見は、自然誌研究という学問分野において、博物館等の施設の持つ重要な役割を再認識することにもつながりました。自然誌資料の中には、乱獲や産地の消失などで将来的なフィールドでの採集が困難、あるいは不可能になってしまったケースがあります。
 微小貝化石を発見するきっかけとなった岩石は、消失のおそれがある化石産地より得られたもので、発見者が公的機関において収蔵・保管すべきものと判断したことにより、中央博物館に寄贈されたものです。そのような寄贈資料から、新しい発見が得られることは、博物館の自然誌研究や保管機能の重要性を改めて示しています。さらに、博物館の研究成果を常設展示に反映させ、地域に根差した博物館独自の教育普及活動を展開するための資源として活用できます。

論文情報
Shinji Isaji, Takuma Haga and Kenji Kashiwagi, 2022: Early Cretaceous small-sized gastropods from the shallow marine deposits of the Kimigahama Formation, Choshi Group, Japan.
​ Paleontological Research, vol. 26, no. 1, p. 31–54.
 doi:10.2517/PR20009

【用語解説】
※1 銚子層群 
 銚子半島の海岸周辺に分布する中生代前期白亜紀に堆積した地層の集まり。台風のような嵐の影響を受ける浅海で堆積した地層が特色。今回発見された新種は、銚子層群君ヶ浜層より産出し、その地質時代はバレミアン期にあたる。

※2 微化石を探す手法 
 有孔虫や放散虫などの微化石研究に用いられるボロン法を用いた。ボロン法は、泥質岩に含まれる雲母鉱物からカリウムイオンを分離し、ナトリウムイオンや水に補わせることによって粘土鉱物化させ、自然界で起こる風化現象を急速に人工的に引き起す。この処理により、岩石を軟泥化させ、水洗い処理だけで微小貝を取り出すことが可能となる画期的な方法である。

※3 (新種の解説文中に記述)
 幼生期 (ベリジャー幼生期) に形成される殻。終殻※4とは異なった形・彫刻をもつことが多い。分類や系統を明らかにするために重要である。殻の保存が良い場合は、成貝の先端部(殻頂部)に原殻が残されている場合が多い。

※4 終殻(新種の解説文中に記述)
 ベリジャー幼生期を終えて変態し、海底で生活するようになってから形成される殻。成殻ともいい、日常生活で貝殻と呼ぶものはこれにあたる。


本研究で記載した種の解説
 

[学名] Pseudomelania yamadai 
 (読み方の一例:シュードメラニア・ヤマダイ)
[学名の由来] 
 ●Pseudomelania
 「Pseudo-」は、「ニセの」を表す接頭辞。
 「melania」は「カワニナ類」。「黒い」が語源。
 現生のカワニナの仲間に似ているが、細かな違いがあることから。
 ●yamadai
 化石を含む岩石を千葉県立中央博物館に寄贈された山田勝彦(やまだかつひこ)さんに献名。
解説
 Pseudomelania属は新生腹足亜綱に属する絶滅したグループです。螺塔が高く、滑らかな殻の表面を持つことが特徴ですが、分類上の位置がはっきりしません。同じような特徴を持った巻貝は多く知られ、本来は異なる系統に属する種類がPseudomelania属に便宜上まとめられている可能性も指摘されています。その中でも、P. yamadaiは、幼生期の殻である原殻※3に、他種にはみられない特徴(深く湾曲した成長線)があります。

 

] Ampezzopleura barremica 
 (読み方の一例:アンペッツォプレウラ・バレミカ)
学名の由来
 ●Ampezzopleura
 「Ampezzo-」はイタリアの地名“Ampezzo”から。
 「pleura」は、「肋」の意味。
 イタリアのアンペッツォ地方に分布する石灰岩から発見された種に由来。pleuraは殻に多数の縦肋が発達することから。
 ●barremica
 地層の年代が中生代白亜紀バレミアン期Barremianであることから。
解説
 Ampezzopleura属は、新生腹足亜綱に属する絶滅したグループです。これまでは三畳紀の地層からのみ知られていましたが、白亜紀の地層から世界ではじめて発見されました。Ampezzopleura属として最も新しい化石記録です。
 

学名] Choshipleura striata 
 (読み方の一例:チョウシプレウラ・ストリアータ)
学名の由来
 ●Choshipleura
 「Choshi-」は、発見場所の銚子市より。
 「pleura」は、「肋」の意味。
 ●striata
 「溝のある」の意味。終殻※4に螺旋状の溝があることから。
解説
 本種は、原殻に多数の肋があることから、Ampezzopleura属と同じく、Ampezzopleurinaeに分類されます。しかしながら、Ampezzopleura属の終殻には、通常縦方向の肋(縦肋)があるのに対して、本種では終殻に縦肋がなく、螺旋状の溝があることから、新属Choshipleuraを設立しました。

 

学名] Metacerithium boshuae 
 (読み方の一例:メタセリシウム・ボウシュウアエ)
学名の由来
 ●Metacerithium
 「Meta-」は「異なる、後の」を意味する接頭辞。
 「cerithium」は「オニノツノガイ類」。
 かつてオニノツノガイ類と混同されたが、後に区別されたため。
 ●boshuae
 銚子ジオパークガイドを務める房州文子(ぼうしゅうふみこ)さんに献名。
解説
 Metacerithium属は、殻に突起状または小さなイボ状の彫刻が発達するエンマノツノガイ上科のグループで、白亜紀初頭から古第三紀に栄えました。ヨーロッパの同時代の地層から、本種に似た種類が報告されていますが、M. boshuaeは他のどの種よりも、突起が相対的に大きく、また数が少ないことが特徴です。

 

学名] Antiphora aurora 
 (読み方の一例:アンティフォラ・アウロラ)
学名の由来
 ●Antiphora
 「Anti-」は「逆向きの」の意味。
 「phora」は「〜をもつ」の意味。
 ミツクチキリオレガイ類は通常左巻きだが、本属は右巻き(逆巻)であることから。
 ●aurora
 「夜明け」の意味。ミツクチキリオレガイ類として、最初に出現した“曙の種”であることから。
解説
 本種は、その原殻の特徴から、現在も生息するミツクチキリオレガイ類と考えられます。ミツクチキリオレガイ類は、海生の巻貝類としては稀な「左巻き」の種を多く含みますが、Metaxiinaeのように「右巻き」の種類も存在します。左巻きのミツクチキリオレガイ類が、海生巻貝としては少数派であることから、「右巻きの先祖から左巻き種が派生した」という説が提唱されていました。しかし、これまでの化石記録では、最古の右巻き種が約5000万年前(始新世前期)から発見されているのに対して、最古の左巻き種がより古い時代(約6100万年前:暁新世前期)から発見されており、「右巻き→左巻き」仮説に対して、実際の化石記録の順序が逆であることが指摘されていました。今回のA. auroraの発見で、右巻きの種の化石記録が約7500万年遡ることになり、左巻き種よりも古い時代に出現していたことが判明し、右巻き種から左巻き種が派生したという考えを支持します。

 

学名] Stuoraxis kasei 
 (読み方の一例:ステュオラクシス・カセイ)
学名の由来
 ●Stuoraxis
 「Stuor-」イタリア北部の化石産地の名称Stuores Wiesenより。
 「axis」クルマガイ科巻貝Pseudomalaxisに似ていることから。
 ●kasei
 銚子層群を含む日本の中生代の地層から産出する巻貝化石を網羅的に研究し、多くの新種を記載した加瀬友喜(かせともき)博士(当時:国立科学博物館、現在:神奈川大学)に献名。
解説
 Stuoraxis属は、直径1mm程度の平巻き型の巻貝で、原始的異鰓類(非公式群)に含まれるグループです。これまでペルム紀〜ジュラ紀の地層から5種が知られていました。S. kaseiは、原殻に見られる肋の凹凸が緩く、数も少ない点で既知の5種とは異なります。今回の発見は、白亜紀の地層からの初産出であり、最も新しい化石記録となります。
 Stuoraxis属は、さまざまな海洋環境に生息していたと考えられており、ジュラ紀の種類は、深海に生息し、酸素の少ない環境に適応していた可能性が指摘されています。一方、S. kaseiは嵐の際に海底の砂が動かされるほどの浅い海に生息していました。ジュラ紀から白亜紀にかけて、Stuoraxis属が深海から浅海に生息場所を広げた要因として、海底に沈んだ木の幹(沈木)の存在が考えられます。沈木の周りには、局所的な還元環境が生成されることが知られており、S. kaseiはそのような環境を好んで生息していたのかもしれません。



 

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