富士通と横浜国立大学、スーパーコンピュータ「富岳」を利用して、台風に伴う竜巻の予測を可能にする気象シミュレーションを世界で初めて実現

富士通株式会社

富士通株式会社(以下、富士通)(注1)と国立大学法人横浜国立大学(以下、横浜国立大学)(注2)は、スーパーコンピュータ「富岳」(注3)上で、富士通の大規模並列処理技術と、横浜国立大学 台風科学技術研究センターの坪木和久教授が開発した気象シミュレーターCloud Resolving Storm Simulator(以下、略称:CReSS)(注4)を組み合わせることで、これまで困難だった台風に伴い発生する竜巻の予測を可能にする気象シミュレーションに世界で初めて成功しました。

数百キロメートル(以下、km)におよぶ台風と最大でも直径数百メートル(以下、m)の竜巻では1,000倍以上も空間的スケールが異なります。従来の気象シミュレーションは、竜巻発生の予測に必要な解像度で局所的な強風予測ができるモデル設計になっていないことに加え、台風全体やその進路を含む広範囲な領域を100m以下の高い解像度でシミュレーションする必要があるため計算量が膨大となり、予測には使えませんでした。

上記課題を解決するため、両者は、大規模な高精度シミュレーションが可能で竜巻を発生させる雲の形成や発達を正確に計算できる気象シミュレーターCReSSを、「富岳」上で大規模並列処理向けに最適化することで、計算時間を大幅に短縮しました。大規模並列処理に最適化したCReSSを「富岳」上で台風に伴う竜巻の予測に活用したところ、例えば2024年8月に発生した台風10号において、4時間後に竜巻が発生するという予測をするために、最適化する前は11時間以上要していたところを大幅に高速化させて約80分でシミュレートし、実際に発生した竜巻を実時間以上の速度で再現できることを確認しました。これにより、一つの気象シミュレーターで、非常に大規模な領域にわたる台風と局所的な竜巻の発生をともに予測することを可能にする気象シミュレーションを、世界で初めて実現しました。

両者は、今回の取り組みで開発した大規模並列処理向けに最適化した、坪木和久教授開発のCReSSを、今年度中に研究コミュニティ向けに公開する予定です。今後も、竜巻などの台風による局所的な突風や大雨を予測しその被害を減らすための研究を進めることで、富士通のマテリアリティの一つでもある地球環境問題の解決に貢献していきます。

背景

日本で発生する竜巻の約2割が台風に伴って発生します。竜巻による相次ぐ被害を受けて、2008年から日本国内で竜巻注意情報の発表が始まりましたが、高い的中率で予測が可能な降水などの気象現象と比較すると、狭い範囲で発生し短時間しか持続しない竜巻のような気象現象は予測が困難なのが現状です(注5)。また、竜巻注意情報の有効期間は1時間程度であり、その延長も望まれています。

富士通と横浜国立大学は、地球温暖化に伴い激甚化しつつある台風に対する防災や減災という社会課題の解決を目指し、2022年11月から、台風の発達予測や台風予測シミュレーションの高速化および高精度化に関する共同研究を、富士通スモールリサーチラボ「富士通-横浜国大台風リサーチ・ラボ共同研究講座」で行っています。

共同研究の成果

  1. 適用技術
    気象シミュレーターCReSSは、雲スケール(水平方向で50m~2,000mの範囲)からメソスケール(水平方向で2km~2,000kmの範囲)の高精度なシミュレーションが可能な気象シミュレーターであり、竜巻を発生させるスーパーセル積乱雲の形成や発達を正確にシミュレートできるものの、台風に伴う竜巻予測に必要な高精度シミュレーションでは計算時間が課題となっていました。
    そこで、両者は、竜巻予測に必要な精度を維持しつつ、計算量を大幅に削減したCReSSの軽量モデルを開発しました。さらに、富士通の大規模並列処理技術として、「富岳」のサーバ間のネットワーク構造に適したシミュレーション処理のマッピングや、演算とファイル出力のオーバーラップ実行(注6)を適用することで、「富岳」上でのシミュレーション時間を短縮し、従来の所要時間より大幅に速く予測結果を導くことができるようになりました。

  2.  適用結果
    2024年8月に九州地方で竜巻の被害をもたらした台風10号について、「富岳」の8,192ノード上でCReSSを使い予測実験を行いました。気温、気圧、湿度、風向き・風速等の3次元空間データを活用し、九州地方に接近および上陸した際の台風全体のシミュレーションをした結果、九州東岸で発生した多数の竜巻を再現することに成功しました。図1は台風全域のシミュレーション結果を、図2はその一部である九州東岸の20km四方の風や雲の動きを可視化したもので、複数の竜巻が発生していることが分かります。また、4時間後の予測のためのシミュレーション時間は、本技術の適用前の約11時間から約80分に高速化され、スケールの異なる台風と竜巻を実時間以上の速度で正確にシミュレートできました。この予測計算は「富岳」のわずか5%の計算資源を用いた結果であり、さらに大規模で高速な予測に発展させることが可能です。

図1. 2024年台風10号の台風全域のシミュレーション結果(左:雨量、右:風速)
右図の赤丸は強い渦状の強風が現れた箇所
図2. 2024年台風10号に伴う竜巻の再現(20km x 20km)
赤い部分が竜巻と思われる強い渦状の強風、白い部分が竜巻上部の渦状の雲
(横浜国立大学が気象向け可視化ツールVAPOR(注7)を用いて可視化したもの)

動画:富士通と横浜国立大学、スーパーコンピュータ「富岳」を利用して、台風に伴う竜巻の予測を可能にする気象シミュレーションを世界で初めて実現

今後について

今後、横浜国立大学および富士通は、台風をはじめとする気象災害に関する研究を加速するため、今回の取り組みで開発した大規模並列版のCReSSを今年度中に公開する予定です。また両者は、今回の成果をもとに、AI技術も活用し、さらなる高速化や予測精度の向上に取り組みます。これらの取り組みを通じて富士通のマテリアリティの一つである地球環境問題の解決に貢献していきます。

国立大学法人横浜国立大学 総合学術高等研究院 台風科学技術研究センター長 筆保弘徳教授のコメント

この「富士通-横浜国大台風リサーチ・ラボ共同研究講座」で行われた研究の成果は、台風に伴う竜巻という、これまで予測が困難だった現象の理解を大きく進めるものです。スーパーコンピュータ「富岳」と高解像度モデルの組み合わせにより、異なるスケールの気象現象を高精度にシミュレートすることが可能になったことは、気象学における大きなブレークスルーとなります。特に、台風による大規模な被害と局所的な竜巻のリアルタイムな予測を可能にすることは、早急な警報システムの改善に直結します。この先進的なシミュレーションが、地球環境への影響を最小限に抑えつつ、自然災害のリスクを軽減するための研究に貢献することを期待しています。

富士通株式会社 執行役員EVP 富士通研究所長 岡本青史のコメント

横浜国立大学と富士通が、2年以上にわたり取り組んできた共同研究の中から、今回大きな成果を出せたことを嬉しく思います。今後、両者の持つ知識と技術の融合をさらに加速し、台風の発達予測や台風予測シミュレーションの高度化の研究を通して、気象災害への対策や被害の軽減を実現することで、富士通のマテリアリティの一つでもある地球環境問題の解決に貢献する成果に発展していくことを期待しています。

付記

本研究は、「富岳」産業試行課題(課題番号:hp240255)を通じて、スーパーコンピュータ「富岳」の計算資源の提供を受け実施しました。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

注釈

注1

富士通株式会社:
本店:神奈川県川崎市、代表取締役社長:時田 隆仁

(補足:掲載先メディアや閲覧環境の仕様によっては、「隆」の文字が正しく表示されない場合があります。正しくは、「隆」の「生」の上に「一」が入ります。)

注2

国立大学法人横浜国立大学:
所在地:神奈川県横浜市、学長 梅原 出

注3

スーパーコンピュータ「富岳」:
スーパーコンピュータ「京」の後継機として理化学研究所が設置し、2021年3月から共用を開始した計算機。
2020年6月以降、世界のスーパーコンピュータに関するランキングにおいて、4部門で4期連続1位、うち2部門で10期連続1位を獲得するなど、世界トップレベルの性能を持つ。

注4
「Cloud Resolving Storm Simulator」および「CReSS」は、坪木和久教授開発の気象シミュレーターの名称です。

注5

出典:気象庁ホームページ 竜巻注意情報の精度について(気象庁|竜巻注意情報の精度について)
https://www.data.jma.go.jp/tatsumaki/tatsumaki_hyoka_top.html

注6

演算とファイル出力のオーバーラップ実行:
「富岳」での、ある時刻についてのシミュレーション結果をファイル出力のデータとしてメモリ上にコピーすることで、ストレージシステムへのファイル出力と次の時刻のシミュレーション計算を重ねて実行する。

注7

気象向け可視化ツールVAPOR:
https://www.vapor.ucar.edu

関連リンク

富士通スモールリサーチラボ

本件に関するお問い合わせ

横浜国立大学

総合学術高等研究院 台風科学技術研究センター
電話:045-339-3494 受付時間:10:00~12:00および13:00~16:00(土・日・祝日・本学指定の休業日を除く)
E-mail:trc-office@ynu.ac.jp

富士通株式会社
富士通コンタクトライン(総合窓口)

0120-933-200(通話無料)

受付時間: 9時~12時および13時~17時30分(土曜日・日曜日・祝日・富士通指定の休業日を除く)

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会社概要

富士通株式会社

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業種
情報通信
本社所在地
神奈川県川崎市中原区上小田中4-1-1
電話番号
-
代表者名
時田 隆仁
上場
東証プライム
資本金
-
設立
1935年06月