人工衛星ひまわり8号が捉えた「台風15号一過の猛暑」 地表面温度は50℃以上に

千葉大学環境リモートセンシング研究センターの山本雄平特任助教らの研究チームは、静止地球環境観測衛星「ひまわり8号」を用いて、台風15号(ファクサイ)通過後の正午付近の「地表面温度」を推定しました。その結果、関西から関東の平野部で50℃を上回る高温環境となっていたことが明らかになりました。

 

  • 台風15号通過後の地表面温度は50℃以上に

 

図1~3: 台風15号接近前と通過後の正午付近(11時~14時)に推定された地表面温度から画素ごとに最大値を抽出したもの。図1は9月6日~7日、図2は9月10日、図3は通過前と通過後との温度差。雲により推定できなかった地域と水域は黒色で示す。図1~3: 台風15号接近前と通過後の正午付近(11時~14時)に推定された地表面温度から画素ごとに最大値を抽出したもの。図1は9月6日~7日、図2は9月10日、図3は通過前と通過後との温度差。雲により推定できなかった地域と水域は黒色で示す。

2019年9月9日の未明から朝にかけて、台風15号が関東地方に襲来し、千葉県南部を中心に甚大な被害をもたらしました。研究チームが台風の通過前と通過後の地表面温度を「ひまわり8号」を用いて推定した結果、台風接近前も、太平洋高気圧の張り出しによって正午付近は非常に高い状態でしたが (図1)、台風15号通過後の正午付近は関西から関東の平野部で50℃を上回る高温環境となっていました (図2)。通過後には50℃以上の高温域が拡大し、平野部のほとんどの地域で温度上昇がみられ(図3)、特に東海と関東南部の一部地域で顕著な上昇が確認されました。

 

  • 台風通過後の「高温害」に警戒が必要
台風による直接的な災害といえば、暴風や大雨・洪水などの風水害が一般的に知られていますが、台風が去った後も、今回のケースのように風向の変化や日差しの強まりによって猛烈な暑さとなり「高温害」が引き起こされる可能性があります。消防庁の熱中症情報(※1)によると、9日から15日にかけての千葉県の熱中症による救急搬送者数(速報値)は498人(昨年より470人増)と全国最多を記録し、次いで愛知県342人(同333人増)、大阪で319人(同259人増)と、人的被害は非常に大きいと言えます。また、救急搬送者数が200人を超えた都道府県はいずれも、図2, 3で台風通過後に温度上昇がみられ、高温となっていました。
※1:総務省消防庁「熱中症情報」 (https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post3.html)
  • 解説

1.地表面温度とは

物体表面の温度のことで、大気の温度を表す気温とは性質が異なります。人工衛星ひまわりは、宇宙空間から地球の表面を観測しています。したがって今回推定された地表面温度は、我々の生活環境ですと道路面や建物の壁面・屋根面の温度が反映されたものになります。
 

図4. 体感温度に影響を与える気象要素。図4. 体感温度に影響を与える気象要素。

2.地表面温度からわかる「暑さ」の情報
人間が実際に感じる暑さは気温だけで判断することはできません。例えば、日差しが照りつける高温のアスファルトの路面とその付近の木陰とでは、気温が同じであっても体感温度は大きく異なります。具体的には、地表面温度・湿度・日射量・風速が主な判断材料として必要になります(図4)。地表面温度に関しては、人体をジリジリと熱する効果(輻射熱)があり、これが体感温度を上昇させます。輻射熱は物体表面に近いほど大きくなります。つまり、図1と図2で高温となっている地域に関して言えば、屋外では背の低い高齢者や子ども(または小動物)ほど高温の路面からの輻射熱を受けやすく、屋内では高温の屋根面に近い最上階の人が影響を受けやすい傾向があります。

3.地球を常時モニタリングするひまわり8号
ひまわり8号は、従来機よりも観測機能が大幅に向上した新世代の衛星です。従来機の7号までは雲や水蒸気のようすを観測する「気象衛星」としての機能に優れていましたが、ひまわり8号からは雲に覆われていない晴れた陸面のようすも詳細に把握できるようになり、「地球環境観測衛星」とも呼ばれています。地表面温度も、雲のない晴天域を検出してより正確に推定できるようになりました(※2)。秋雨前線の影響で雲の多いこの時期は地表面温度を推定することは困難ですが、今回は「台風一過の晴天」によって推定可能な条件となり、その昇温度合いを調べることができました。ひまわり8号を利用することで、今回のような猛暑の実態を広域かつ高頻度に把握することができると期待されます。
本解析に使用したひまわり8号データは、環境リモートセンシング研究センターで精密幾何補正処理が施され、アーカイブ化されたものです(※3)。なお、当センターにて配布しているデータは、大学の資源を社会に還元するため、研究・教育目的での利用の他、開発段階であれば営利目的の利用も推奨しています。
※2:Yamamoto, Y., H. Ishikawa, Y. Oku, and Z. Hu, 2018: An algorithm for land surface temperature retrieval using three thermal infrared bands of Himawari-8. J. Meteor. Soc. Japan, 96B, 59–76.
※3:ひまわり8/9号グリッドデータリリースノート (http://www.cr.chiba-u.jp/databases/GEO/H8_9/FD/index_jp.html)
  • 研究者のコメント(山本雄平 特任助教)
この度は台風15号の被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。上述しましたように、体感温度としてどれだけ危険な状況かを判断するには、気温以外にも様々な気象状態を考える必要があり、地表面温度が高い状態ですと、特に背の低い高齢者や子供、小動物が強く熱せられることになります。今回の我々の報告が、猛暑(欲を言えば衛星観測)への関心や理解に少しでも繋がれば幸いです。今後は地表面温度推定手法の改良やプロダクト化を行い、都市ヒートアイランド現象や今後起こりうる様々な猛暑ケースに対して貢献できればと考えております。
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