事業承継問題、コロナ下で大幅改善 「後継者不在」61.5%、過去10年で最も低く
「同族承継」型の就任割合は減少傾向、脱・ファミリーの動き継続
地域の経済や雇用を支える中小企業。しかし、近年は後継者が見つからないことで、事業が黒字でも廃業を選択する企業は多い。日本政策金融公庫の調査では、60歳以上の経営者のうち50%超が将来的な廃業を予定。このうち「後継者難」を理由とする廃業が約3割に迫る。
後継者が不在であるなか、新型コロナウイルスによる業績悪化などが追い打ちとなり事業継続を断念する事例も想定され、その回避策として事業承継支援が今まで以上に注目されている。中小企業庁が2017年7月に打ち出した、事業承継支援を集中的に実施する「事業承継5ヶ年計画」を皮切りに、中小企業の経営資源の引継ぎを後押しする「事業承継補助金」の運用、経営・幹部人材の派遣、M&Aマッチング支援など、円滑な事業承継に向けたサポートが進んでいる。
後継者が不在であるなか、新型コロナウイルスによる業績悪化などが追い打ちとなり事業継続を断念する事例も想定され、その回避策として事業承継支援が今まで以上に注目されている。中小企業庁が2017年7月に打ち出した、事業承継支援を集中的に実施する「事業承継5ヶ年計画」を皮切りに、中小企業の経営資源の引継ぎを後押しする「事業承継補助金」の運用、経営・幹部人材の派遣、M&Aマッチング支援など、円滑な事業承継に向けたサポートが進んでいる。
<調査結果(概要)>
1. 2021年の「後継者不在」状況
総合:後継者不在率は4年連続で改善、調査開始後の2011年以降で最低
2021年の全国・全業種約26万6000社における後継者動向は、後継者が「いない」、または「未定」とした企業が約16万社に上った。この結果、全国の後継者不在率は61.5%となり、20年の不在率65.1%から3.6ptの改善、4年連続で不在率が低下し、調査を開始した‘11年以降で最低となった。
一方、昨年まで後継者がいたにも関わらず、2021年に「後継者不在となった「計画の中止・取りやめ」が全体の0.4%(約1000社)発生した。「後継者候補だった役員が退任し事業承継計画自体が白紙に戻った」「外部から人材を迎えたものの、後継者候補がなかなか見定まらない」ケースも散見され、足元では事業承継に課題を抱える企業が一定数存在している状況もうかがえる。また、経営者のボリュームゾーンの一つとなる50代では、後継者不在率が全年代で唯一増加したほか、2年ぶりに7割を超えた。代表交代直後などで後継者計画が未定となったケースも含まれるものの、これらの経営者層では後継者計画がコロナ禍による経営環境の変化で先送りなどが発生した可能性がある。
業種別では、全業種で前年を下回り、かつ不在率70%を下回った。全業種で不在率が70%を下回るのは、2011年の調査開始以降で初めてで、全業種ともに過去最も低い。2021年の不在率が高いのは建設業(67.4%)であったが、‘11年の調査以来の70%割れとなった。卸売業と運輸・通信業の2業種は、調査開始以降で初めて不在率が6割を下回った。全業種で最も低いのは製造業(53.7%)だった。
都道府県で最も不在率が低いのは三重県で35.8%だった。三重県が全国最低となるのは2011年以降で初めてで、2021年のなかで不在率が4割を下回った唯一の県となった。同県では2019年に不在率69.3%を記録して以降、急激な低下がみられる。「地域金融機関などが密着して支援を行っていることに加え、経営や商圏が比較的安定している企業も多い」などの理由から、子息など親族が経営を引き継ぎやすい環境が整っていることも背景にある。
他方、鳥取県は全国平均を大幅に上回る74.9%となり、全国で最も高い水準だった。2011年以降で最高となった前年(77.9%)を下回ったものの、初めて不在率が8割を下回った沖縄県(73.3%)を上回り、最も後継者不在率が高い地域となった。沖縄県は、2011-20年調査まで一貫して全国で不在率がトップだったものの、初めて首位から外れた。
総じて、後継者不在率は全国的に低下傾向となっており、不在率60%を下回る都道府県は過去最多の22だった。ただ、九州地方をはじめとして、後継者不在率が総じて全国的に低かった地域では、近年不在率が上昇傾向となっている。北海道や沖縄県など、2011年の調査開始以降不在率が一貫して70%を超える地域もあり、後継者問題の改善状況には地域ごとに濃淡が表れている。
就任経緯:M&A(買収)などによる事業承継が増加傾向
2017年以降の事業承継について、先代経営者との関係性(就任経緯別)をみると、2021年の事業承継は「同族承継」により引き継いだ割合が38.3%に達し、全項目中最も高かった。しかし、2017年からは3.3ptの低下となり、親族間の事業承継割合は緩やかに減少傾向をたどっている。代わって存在感を発揮しているのが、血縁関係によらない役員などを登用した「内部昇格」で31.7%となり、同族承継に次いで高い水準となったものの、前年からは割合が低下した。
後継者候補属性:「子供」の割合が低下、初の30%台へ 「脱ファミリー」加速
後継候補が判明する全国約10万社の後継者属性をみると、「子供」が最も高い38.5%で、前年からは1.9pt減少した。子供を後継者とする割合が全体の4割を下回るのは、調査開始以降で初めて。承継を受けた社長の先代経営者との関係別(就任経緯別)で、特に子供を後継者とする傾向が強い創業者・同族承継で、後継者を「子供」とする割合が大きく低下したことが影響した。
他方、社内外の第三者である「非同族」を後継候補に位置づけているのは「内部昇格」と「外部招聘」、買収などを含む「その他」に多い。「創業者」「同族承継」などファミリー企業でも「非同族」への事業承継=脱ファミリー化を考える割合が高まっている。
帝国データバンクが2021年8月に実施した調査では、新型コロナウイルスの影響で事業承継の意識が変化した企業の割合は対象全体の8.7%に上った。「コロナ下でも、M&Aや後継者育成などで事業承継コンサルのニーズが旺盛」(M&A支援機関)といった声もあり、コロナ禍という未曽有の危機において改めて自社の後継者問題に向き合った中小企業は多いとされる。こうしたなか、M&Aの普及や事業承継税制の改良・拡大、金融機関主導の事業承継ファンドなど、多種多様なニーズ・ウォンツに対応可能なメニューが増えたことも、後継者問題の解消に大きな役割を果たしている。今後も、国や自治体によるプル・プッシュ型の公的支援といった働きかけが継続されれば、企業の後継者問題に対する意識が一層高まる形で、不在率も改善傾向に向かう可能性が高い。
他方、帝国データバンクが集計している「後継者難倒産」は1~10月で369件発生し、過去最高だった2019年と同様のペースで推移している。近時の後継者難倒産の特徴としては、後継候補への育成といった具体的な計画を進めていたにも関わらず、コロナ禍による業績の急変や後継候補と目した人材の退社、代表者が先に死亡するなどで事業承継が間に合わない「息切れ型」によるものが目立つ。また、後継者の経営手腕・資質が不十分であったり、先代からの従業員や取引先との意思疎通が円滑に引き継がれず、承継後早期に経営が行きづまるものも多い。事業承継は後継者候補の選定から育成・就任に至るまで相応の期間を要し、かつリ・スタートが難しい。そのため、こうした課題でつまずいた際の影響は時間や経営体力に余力がない中小企業ほど大きく、円滑な事業承継を阻害するほか、最終的に経営者心理が廃業などに傾く遠因にもなりかねない。
中小企業庁は4月に「中小M&A推進計画」を策定。後継者難などによる中小企業の休廃業防止に有効な手段としてM&Aを主軸に据える方針を明確に打ち出すなど、事業承継の支援フェーズはより踏み込んだ具体的な内容へ移行している。「後継者問題への啓蒙」による、経営者の後継者問題に対する意識改革は確実に成果を上げているなかで、次のステップとして後継者候補のリサーチや育成、社長の個人的な能力に依存するオーナー企業などでは内部管理体制の構築や引継ぎ前後の経営幹部人材の紹介・マッチングなど、それぞれの承継ステージや課題感に合った支援メニューの拡充にも目を向けていく必要がある。
- 2021年の全国・全業種約26万6000社における後継者動向は、後継者が「いない」、または「未定」とした企業が16万社に上った。この結果、全国の後継者不在率は61.5%となり、20年の不在率65.1%から3.6ptの改善、4年連続で不在率が低下し、調査を開始した11年以降で最低となった
- 業種別では、全業種で前年を下回り、かつ不在率70%を下回った。全業種で不在率が70%を下回るのは、2011年の調査開始以降で初めてで、全業種ともに過去最も低い。2021年の不在率が高いのは建設業(67.4%)であったが、2011年の調査以来となる70%割れ
- 先代経営者との関係性(就任経緯別)をみると、2021年の事業承継は「同族承継」により引き継いだ割合が38.3%に達し、全項目中最も高かった。しかし、2017年からは3.3ptの低下となり、親族間の事業承継割合は緩やかに縮小傾向をたどっている。代わって存在感を発揮しているのが、血縁関係によらない役員などを登用した「内部昇格」で31.7%
- 後継候補が判明する全国約10万社の後継者属性をみると、「子供」が最も高い38.5%で、前年から1.9pt減少した。他方、社内外の第三者である「非同族」を後継候補に位置づけているのは「内部昇格」と「外部招聘」、買収などを含む「その他」に多い
1. 2021年の「後継者不在」状況
総合:後継者不在率は4年連続で改善、調査開始後の2011年以降で最低
2021年の全国・全業種約26万6000社における後継者動向は、後継者が「いない」、または「未定」とした企業が約16万社に上った。この結果、全国の後継者不在率は61.5%となり、20年の不在率65.1%から3.6ptの改善、4年連続で不在率が低下し、調査を開始した‘11年以降で最低となった。
コロナ禍で事業環境が急激に変化するなか、高齢代表の企業を中心に後継者決定の動きが強まった。経営者の年代別にみると、ボリュームゾーンとなる60~80代以上では不在率が前年を下回り、特に80代以上では調査開始の2011年以降で初めて不在率3割を下回った。代表者の高齢化問題が深刻化するなか、柔軟な発想や対応力がある若い世代、生え抜きの役員など後任に将来を任せたいなど、後継者問題に対する経営者の心境変化も影響しているとみられる。また、地域金融機関を中心にプッシュ型のアプローチが徐々に成果を発揮し始めていること、第三者へのM&Aや事業譲渡、ファンドを経由した経営再建併用の事業承継など支援メニューが全国的に整ったことも、後継者問題解決・改善の前進に大きく寄与した。実際に、後継者「あり」の企業約10万社のうち、昨年から新たに後継候補を選定した・あるいは計画を立てた「新規計画の策定」(後継者「不在」→「あり」へ変更)企業は全体の3.7%あった。
一方、昨年まで後継者がいたにも関わらず、2021年に「後継者不在となった「計画の中止・取りやめ」が全体の0.4%(約1000社)発生した。「後継者候補だった役員が退任し事業承継計画自体が白紙に戻った」「外部から人材を迎えたものの、後継者候補がなかなか見定まらない」ケースも散見され、足元では事業承継に課題を抱える企業が一定数存在している状況もうかがえる。また、経営者のボリュームゾーンの一つとなる50代では、後継者不在率が全年代で唯一増加したほか、2年ぶりに7割を超えた。代表交代直後などで後継者計画が未定となったケースも含まれるものの、これらの経営者層では後継者計画がコロナ禍による経営環境の変化で先送りなどが発生した可能性がある。
業種:全業種で不在率70%を下回る、2011年調査開始以降で初
業種別では、全業種で前年を下回り、かつ不在率70%を下回った。全業種で不在率が70%を下回るのは、2011年の調査開始以降で初めてで、全業種ともに過去最も低い。2021年の不在率が高いのは建設業(67.4%)であったが、‘11年の調査以来の70%割れとなった。卸売業と運輸・通信業の2業種は、調査開始以降で初めて不在率が6割を下回った。全業種で最も低いのは製造業(53.7%)だった。
都道府県:三重県が全国最低の35.8%、初めて不在率4割を下回る
都道府県で最も不在率が低いのは三重県で35.8%だった。三重県が全国最低となるのは2011年以降で初めてで、2021年のなかで不在率が4割を下回った唯一の県となった。同県では2019年に不在率69.3%を記録して以降、急激な低下がみられる。「地域金融機関などが密着して支援を行っていることに加え、経営や商圏が比較的安定している企業も多い」などの理由から、子息など親族が経営を引き継ぎやすい環境が整っていることも背景にある。
他方、鳥取県は全国平均を大幅に上回る74.9%となり、全国で最も高い水準だった。2011年以降で最高となった前年(77.9%)を下回ったものの、初めて不在率が8割を下回った沖縄県(73.3%)を上回り、最も後継者不在率が高い地域となった。沖縄県は、2011-20年調査まで一貫して全国で不在率がトップだったものの、初めて首位から外れた。
総じて、後継者不在率は全国的に低下傾向となっており、不在率60%を下回る都道府県は過去最多の22だった。ただ、九州地方をはじめとして、後継者不在率が総じて全国的に低かった地域では、近年不在率が上昇傾向となっている。北海道や沖縄県など、2011年の調査開始以降不在率が一貫して70%を超える地域もあり、後継者問題の改善状況には地域ごとに濃淡が表れている。
2.2021年の事業承継動向
就任経緯:M&A(買収)などによる事業承継が増加傾向
2017年以降の事業承継について、先代経営者との関係性(就任経緯別)をみると、2021年の事業承継は「同族承継」により引き継いだ割合が38.3%に達し、全項目中最も高かった。しかし、2017年からは3.3ptの低下となり、親族間の事業承継割合は緩やかに減少傾向をたどっている。代わって存在感を発揮しているのが、血縁関係によらない役員などを登用した「内部昇格」で31.7%となり、同族承継に次いで高い水準となったものの、前年からは割合が低下した。
また、買収や出向を中心にした「M&Aほか」の割合が17.4%と高く、事業承継は同族間での事業引き継ぎから幹部社員などへシフト=脱ファミリーの動きが鮮明となっている。同じ親族外の承継のうち、社外の第三者を代表として迎える「外部招聘」の割合も7.6%を占める。
後継者候補属性:「子供」の割合が低下、初の30%台へ 「脱ファミリー」加速
後継候補が判明する全国約10万社の後継者属性をみると、「子供」が最も高い38.5%で、前年からは1.9pt減少した。子供を後継者とする割合が全体の4割を下回るのは、調査開始以降で初めて。承継を受けた社長の先代経営者との関係別(就任経緯別)で、特に子供を後継者とする傾向が強い創業者・同族承継で、後継者を「子供」とする割合が大きく低下したことが影響した。
他方、社内外の第三者である「非同族」を後継候補に位置づけているのは「内部昇格」と「外部招聘」、買収などを含む「その他」に多い。「創業者」「同族承継」などファミリー企業でも「非同族」への事業承継=脱ファミリー化を考える割合が高まっている。
高まる事業承継ニーズ 今後は承継後の経営サポートにも目を向ける必要
帝国データバンクが2021年8月に実施した調査では、新型コロナウイルスの影響で事業承継の意識が変化した企業の割合は対象全体の8.7%に上った。「コロナ下でも、M&Aや後継者育成などで事業承継コンサルのニーズが旺盛」(M&A支援機関)といった声もあり、コロナ禍という未曽有の危機において改めて自社の後継者問題に向き合った中小企業は多いとされる。こうしたなか、M&Aの普及や事業承継税制の改良・拡大、金融機関主導の事業承継ファンドなど、多種多様なニーズ・ウォンツに対応可能なメニューが増えたことも、後継者問題の解消に大きな役割を果たしている。今後も、国や自治体によるプル・プッシュ型の公的支援といった働きかけが継続されれば、企業の後継者問題に対する意識が一層高まる形で、不在率も改善傾向に向かう可能性が高い。
他方、帝国データバンクが集計している「後継者難倒産」は1~10月で369件発生し、過去最高だった2019年と同様のペースで推移している。近時の後継者難倒産の特徴としては、後継候補への育成といった具体的な計画を進めていたにも関わらず、コロナ禍による業績の急変や後継候補と目した人材の退社、代表者が先に死亡するなどで事業承継が間に合わない「息切れ型」によるものが目立つ。また、後継者の経営手腕・資質が不十分であったり、先代からの従業員や取引先との意思疎通が円滑に引き継がれず、承継後早期に経営が行きづまるものも多い。事業承継は後継者候補の選定から育成・就任に至るまで相応の期間を要し、かつリ・スタートが難しい。そのため、こうした課題でつまずいた際の影響は時間や経営体力に余力がない中小企業ほど大きく、円滑な事業承継を阻害するほか、最終的に経営者心理が廃業などに傾く遠因にもなりかねない。
中小企業庁は4月に「中小M&A推進計画」を策定。後継者難などによる中小企業の休廃業防止に有効な手段としてM&Aを主軸に据える方針を明確に打ち出すなど、事業承継の支援フェーズはより踏み込んだ具体的な内容へ移行している。「後継者問題への啓蒙」による、経営者の後継者問題に対する意識改革は確実に成果を上げているなかで、次のステップとして後継者候補のリサーチや育成、社長の個人的な能力に依存するオーナー企業などでは内部管理体制の構築や引継ぎ前後の経営幹部人材の紹介・マッチングなど、それぞれの承継ステージや課題感に合った支援メニューの拡充にも目を向けていく必要がある。
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