落としきれずに肥大化した衣類のバイオフィルム新洗浄技術を開発
~2種の界面活性剤によるバイオフィルムの分散除去~
今回の研究成果は、2024 AOCS Annual Meeting(2024年4月28日~5月1日・Montreal, Canada)、2024年繊維学会年次大会(2024年6月12~14日・東京)にて発表予定です。
■背景
バイオフィルムとは、菌が分泌した多糖やタンパク質を含む菌体外マトリクス(Extracellular Polymeric Substances:以下 EPS)と菌の複合体です(図1)。花王は、工場の排水設備、一般家庭のキッチンや浴室、さらには口腔内など、身の回りのさまざまな場所に存在する、このバイオフィルムに関して長年研究を行ってきました。これまでにタオルなどの繊維にもバイオフィルムが存在し*1、洗っても落ちないくすみやニオイ*2に関係していることを明らかにしています。通常のお洗たくや漂白剤、また煮沸の様に加熱してもバイオフィルムを落とすことは困難ですが、花王はこれまでにバイオフィルムを抑制・除去するさまざまな技術を開発してきました。しかし、落としきれずに蓄積して肥大化したバイオフィルムに関しては、除去は容易ではありませんでした。そのため今回は、肥大化したバイオフィルムに対して、新たなアプローチによる洗浄技術の確立を行いました。
*1 2022年4月14日 花王ニュースリリース
タオル繊維に付着する菌のかたまり(バイオフィルム)を発見-タオル内で独自の菌叢(きんそう)を形成していることを確認-
*2 2024年3月13日 花王ニュースリリース 洗っても落ちないタオルの嫌なニオイはバイオフィルムとともに局在、洗たく後のタオルのニオイとバイオフィルムとの相関を確認
■方法と結果
一般的に、バイオフィルムの主成分であるEPSは、時間経過や乾燥によって硬い結晶構造に変化することが知られています。今回、お洗たくで落ちづらい肥大化バイオフィルムの原因が、EPSの結晶化と関係あるのではないかと推測し、検証*3を行いました。その結果、衣類のバイオフィルムでも、乾燥工程などを経ることでEPSの結晶化を確認。さらに、EPSが結晶化したバイオフィルムは今までの洗浄技術では落ちづらく、結晶化が難除去の原因であることが示唆されました。
EPSが結晶化したバイオフィルムに対する新しいアプローチとして、内部にまで洗浄成分を浸透させる技術の開発に取り組みました。EPSモデル*4を用いてさまざまな界面活性剤の組み合わせで試験を行った結果、花王が独自に開発した陰イオン界面活性剤の「バイオIOS」*5と、特定の界面活性剤を組み合わせることが、結晶化したEPS除去に高い効果を持つことがわかりました。X線回析法による詳細解析で、これらの界面活性剤がバイオフィルムに及ぼす影響を調べたところ、特定の界面活性剤が硬い結晶構造を緩め、結びつきが緩んだ隙間に陰イオン界面活性剤の「バイオIOS」が入りこむことで、EPSを分散し、バイオフィルムが除去されていることが示唆されました(図2)。
*3 一般家庭から回収したタオルより菌を取り出し、その菌で試験布上にバイオフィルムを形成させて検証を実施しました
*4 EPSと同成分で作成した疑似的なEPS
*5 2019年1月23日 花王ニュースリリース 花王史上最高の洗浄基剤「バイオIOS」を開発~洗浄の世界に革新をもたらす~
次に、2種類の界面活性剤を組み合わせた新処方を作成し、実際の洗たく条件*6で検証を行いました。その結果、新処方ではEPS量が従来処方よりも低減し、さらに、レーザー顕微鏡で観察したところ、従来処方では除去できなかった肥大化したバイオフィルムも新処方では除去されていることも確認しました(図3)。
*6 1回洗たく(洗い10分、すすぎ1回)後に一晩乾燥。なお、従来処方は当社濃縮液体洗剤を使用
■まとめ
衣類上でバイオフィルムが肥大化し、落としづらくなるのは、主成分のEPSが硬い結晶構造に変化することが原因と見いだし、除去には性質の違う2種類の界面活性剤の組み合わせが効果的であることを発見しました。バイオフィルムを除去することにより、これまで洗っても落ちなかったニオイやくすみに対処できるようになると考えます。今後も引き続き、新たな洗浄技術の開発を進めていきます。
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