【体験インタビュー】「奈良に居場所ができた」移住希望者と地域をつなぐ“奈良市お試し移住支援制度”
ゲストハウスなどの宿泊施設と連携した「お試し移住支援制度」を活用し、奈良市の暮らしを体験

今、奈良市への移住に注目が集まっています。
6年連続で転入超過(他の土地に移る人よりも、新たに移り住む人の方が多い状態)となり、市への移住問い合わせ件数も2020年に比べて約2倍増。「都会を離れて、自然豊かな環境で暮らしたい」「大好きな奈良に住みたい」など様々な思いを胸に、多くの方々が移住してきています。
しかし、移住にあたってネックなのが、「自分はその土地で本当に暮らしていけるの?」ということ。憧れてはいても、縁もゆかりもない地域にいきなり住むのはハードルが高いですよね。
そんな方に向けて奈良市が実施しているのが「お試し移住支援制度」。「観光」ではなく、「暮らしを体験する」目的で対象宿泊施設に連泊した方に、支援金(宿泊経費の一部を1人1泊あたり2,000円分、最大2万円分)を補助する制度です。

【お試し移住支援制度】
概 要:お試し移住目的で、対象宿泊施設を利用いただいた場合、宿泊経費の一部を給付します
給付額:1人1泊あたり2,000円分(最大2万円)
対象者:奈良市に移住を検討されている方
宿泊施設のオーナーとの交流で、奈良暮らしのリアルな情報が得られたり、地域の人とのつながりができたりするのが最大の魅力です。
実は、筆者もお試し移住体験者の一人。奈良には全く地縁がありませんでしたが、お試し移住で地域の人との関わりができたおかげでスムーズに移住を実現でき、現在は奈良市に暮らして5年目になります。本制度を利用して移住した友人も複数人おり、お試し移住は移住の大きな後押しになるんだと実感する日々です。
本記事では、奈良市お試し移住支援制度でお試し移住をした利用者さんと、本制度に参加して利用者を多数受け入れているゲストハウスオーナーさんにインタビュー。本制度を利用するとどんな体験ができるのか、制度の魅力を深ぼりします。
奈良暮らしや地方移住に興味がある方、必読です!
移住後の暮らしをイメージして滞在
今回、本制度の利用者としてインタビューしたのは、群馬県高崎市在住の大学生・城戸口 莉央(きどぐち りお)さん。

城戸口さんは高校生の頃、中宮寺(生駒郡斑鳩町)の菩薩半跏像に魅せられて、奈良好きに。以来、奈良旅行を楽しむようになり、仏像や人の温かさに魅了され、「奈良に住みたい!」という思いが高まっていったそうです。
城戸口:「奈良に通ううち、奈良市の公式LINEやX(旧Twitter)を見るようになって、お試し移住支援制度があることを知りました。『これは使うしかないでしょ!』と、何も迷わずに参加を即決しましたね」
今回の滞在期間は2泊3日。移住後の生活をイメージしながら滞在していたといいます。
城戸口:「お寺の講座に参加したり、気になるお店に入って店主の方とお話したり、カフェでゆっくり過ごしたり。『奈良に住んだら、こんな暮らしをしてみたいなぁ~!』って思う過ごし方をしてみました」

城戸口:「地元の方や、奈良が好きな方ともたくさん交流でき、発掘調査に参加したお話や、お寺の豆知識などをいろいろと聞かせてもらいました。奈良はやっぱり、歴史やお寺が身近なところが本当に楽しくて、奈良に住みたい気持ちがますます高まりましたね」
様々な交流をしてきた城戸口さんですが、中でも特に移住後のイメージが明確になったのは、滞在したゲストハウスでの体験でした。
3回の滞在で奈良生活のイメージがどんどんリアルに
今回、城戸口さんが滞在先に選んだのは、近鉄奈良駅の近くに位置する「GUEST HOUSE OKU」。

城戸口:「奈良市のオンライン移住相談に参加して、『城戸口さんに合うのでは』とおすすめしてもらって決めました」
実は城戸口さん、GUEST HOUSE OKUの利用は今回で3回目。1回目は奈良市主催の学生向けプロジェクト「ならわい for students」に参加した時、2回目は就職活動で奈良の企業の採用試験を受けた時に、それぞれ利用しています。
城戸口:就活では最終的に全国転勤の会社に内定したので、奈良に住めるかは今のところわからないんですが、今回は『今すぐでなくても、いつか奈良に住みたい!』って気持ちで利用させてもらっています」
なお本制度は、10泊以内であれば何度でも利用可能です。例えば、12月に4泊5日、3月に2泊3日など複数回に分けて滞在し、異なる季節の暮らしを体験する、といった使い方もできます。

城戸口さんも複数回滞在して、ゲストハウスのオーナー・奥洋子(おく ようこ)さんと交流を重ねる中で、奈良で暮らすイメージがどんどん具体的になっていったと語ります。
城戸口:「『大阪に住んで奈良に通うのもアリですよね』って相談したことがありました。そしたら洋子さんは、『それも一つの手段だね。でも奈良に住んだら、朝早く奈良公園を散歩できるし、休みの日も好きな所をすぐ巡れる。奈良に住んだからこそ経験できることもたくさんあるよ』ってアドバイスをくれて。
『確かに、早朝に奈良公園を歩けるのって住んでる人の特権だ!』と思って、朝に奈良公園を散歩してから通勤する生活に憧れるようになりましたね」

城戸口:「奈良の企業の採用試験を受けていた時もいろいろ相談させてもらって。私が奈良に住みたくて奈良で就活していることも伝えていたので、『市役所を受けてみるのはどう?』とか、地元の人ならではの目線で就職のアドバイスをくれたこともありました。
他にも、おすすめのお店を教えてもらって行ってみたら、そのお店がすごく好きになって、通うようになったことも。行きつけのお店があると、町に親近感が湧きますよね」

ゲストハウスならではの情報で、地域の魅力をより深く知った
城戸口さんは、GUEST HOUSE OKUに滞在しながら、奈良市主催の学生向けプロジェクト「ならわい for students(令和6年度)」にも参加。
「ならわい for students」は、学生が奈良の企業の新規事業に取り組む短期集中プログラム。学生が5人1チームになり、企業の課題を解決する企画を3日間で考案・提案します。
城戸口さんはもともと大学で地域活動をしてきた経験があり、「大好きな奈良に貢献したい」と、群馬から単身参加しました。
城戸口:「ほとんどの参加者が奈良の人で、関東から参加したのは私一人でした。でも、今回のテーマは『奈良の観光課題を解決する』こと。私は観光客として奈良に何度も通ってきたので、地元の人はなかなか思いつかない観光客視点のアイデアを出したら、チームの仲間に『いてくれて良かった!』って褒めてもらえて。すごく嬉しかったです!」


スムーズに進んでいたかのように思えた企画立案は、壁にぶち当たります。その時、ヒントをくれたのがGUEST HOUSE OKUの奥さんでした。
城戸口:「『外国人がまた奈良を訪れたくなるには?』というお題で企画を考えていたんですが、中間発表でボツになっちゃったんです。中間発表の翌日が最終発表なのに、案が全部ダメになっちゃって、めちゃくちゃ焦って……。
洋子さんに相談したら、『ゲストハウスに来た海外のお客さんは、奈良のどんなところに魅力を感じて、どう過ごしていたのか』を教えてもらえました。例えば、海外の方はガイドブックに載っていない場所に魅力を感じている人が多い、とか。そのお話は『あぁ確かに!奈良ってそういう魅力ある!』って腑に落ちるところも多くて、すごく学びになりました」

奥さんからの情報を参考にしながら改めて議論し、最終的にまとまった修正案は、企業の方からも好評をいただけたそう。
城戸口:「プロジェクトは3月だったので、チームの仲間とは東大寺二月堂の修二会にも行ったりして、一緒に奈良を楽しむ時間も過ごせました。奈良の魅力を改めて発見しながら、同年代の人とのつながりもつくれたので、参加して本当に良かったです」

「気分は半分、奈良市の住民」ゲストハウス滞在で奈良に居場所ができた
オンライン移住相談でゲストハウスをおすすめしてもらうまでは、旅先ではホテルに滞在することが多かったという城戸口さん。初めてGUEST HOUSE OKUに来た時は緊張していたそうです。
しかし、勇気を出して利用してみたことで、奈良移住が「憧れ」から「ちょっと先の未来」へと具体的にイメージできるようになりました。

城戸口:「ゲストハウスは、住人の一人でもあるオーナーさんから、地域の話を詳しく聞けるのが魅力だと思います。こういうコミュニケーションは、他の宿泊施設ではちょっと難しいですよね。
それまでは観光客として奈良に通ってきましたが、洋子さんといろいろなお話をさせてもらう中で、自分が奈良に住むイメージが湧いてきました。『住むなら近鉄奈良駅の近くがいいな』というエリアの希望が固まりましたし、物件情報も積極的に見るようになりました。
気づいたら、OKUが半分『家』みたいに思えるようになっていて。奈良が観光を楽しむ場所だけではなく、安心できる『自分の居場所』になった感覚があるんです。もう気分は『半分、奈良市の住民』です!」
「同じ移住者として力になりたい」先輩移住者のゲストハウスオーナーが利用者を支援
城戸口さんのお試し移住をサポートした、GUEST HOUSE OKUの奥さんにもお話を伺いました。

奥さんも実は、他の地域から奈良にやってきた移住者の一人。これから移住してくる方の力になりたいと、本制度に参加されています。
奥:「出身は埼玉県です。東京で接客の仕事をするなどして働き、36歳の時にイタリア留学に。帰国後は和歌山の宿泊施設で働く、といった様々な経験を経て、奈良とのご縁ができました」
和歌山で働いていた時、大阪・京都旅行を計画していた奥さんは、ふと思い立って旅行中に奈良にも立ち寄ることに。
奥:「そういえば奈良に行ったことない!って急に思って、行ってみたんです。その時に泊まったゲストハウスのオーナーさんに『ここで働かないか』と声をかけてもらって、それから3年間かけて定期的に奈良に通い、トータルで8ヶ月ほど働きました。
働く中で、『この仕事、自分に向いてる!』とピンと来て、自分でゲストハウスを開業することを決めました。いろいろな地域で働いてきましたが、町の雰囲気が自分にフィットしていたので、奈良で開業することに。2016年4月スタートなので、おかげさまで今年(2025年)で10年目になりました。
自分自身も移住者なので、少しでも奈良移住に興味がある方のお手伝いができればと、制度に参加しています」
利用者一人ひとりに向き合う接客が、多くの人の助けに
奥さんはゲストハウスでのお試し移住の体験を、「移住後のイメージを具体的に膨らませる機会にしてもらいたい」と語ります。
奥:「せっかく来てもらっているので、利用者さんの気持ちを固めるお手伝いをしたいんです。でも、利用者さんの移住へのモチベーションや状況は人によって本当に様々。『今すぐじゃないけど、いつか住みたい』っていう、城戸口さんのような方も多いですし。だから、相手の様子を見て、接し方を変えたりしています。なんとなく、感覚的にですけどね(笑)」

奥さんは、チェックイン時や滞在中の会話の中で、その利用者さんが「どんな思いで来ているのか」などを把握。「この人はこんな風にサポートしたら喜んでもらえそう!」と思いつくことがあれば、相手に合わせて提案や声がけをされています。
奥:「城戸口さんのように、移住へのモチベーションが既に高い人は、私が特別に何か働きかける必要はないので、基本的には『お声がけいただいたときにお答えする』という姿勢です。
一方、移住に興味があって来ていても、行動するのに少し勇気が必要そうな人も。その場合は、お相手の様子を伺いながらではありますが、できるだけそっと後押しできるように心がけています。」

物件情報を知りたいのに、勇気が出なくて不動産屋になかなか入れなかった利用者さんには、「お店に入って話を聞いてみたらどうですか?」と提案。その方はお店に入って資料をたくさんもらい、奥さんにも資料を見せながら物件を検討できたそうです。
奥:「ご本人の気持ちが固まれば、あとは自然とついてくると思っています。だから私は、利用者さんが今後どうするのか決めるためのサポートができればと思っているんです」
ちなみに、本制度の利用者アンケートには、奥さんへの感謝の声が多数寄せられています。「奥さんのお人柄に触れて、移住体験がより素敵なものになった」「奥さんのアドバイスで移住を決めた」といった、熱量の高い感想も。
奥さんが利用者さんから熱い支持を受けているのは、「どのようにサポートしたら喜んでもらえるか?」と自然体で考え、一人ひとりに丁寧に向き合っているからかもしれません。
ゲストハウスは「奈良の最初の拠点」に

移住を検討している人にとって、ゲストハウスは「単に滞在する場所」以上の大きな意味を持つ場面も。
奥:「以前、奈良に移住して間もない方が、OKUを訪ねてきたことがありました。その方は、『奈良に住みたくて移住したけれど、地域の方々とつながりを持つきっかけが分からず困っています 。先輩移住者の奥さんに話を聞きたい』と。
そこで、地域の人を紹介できればと思って、移住者の知り合いを呼んで、食事会を開きました。
地域とのつながりがない人でも、ゲストハウスという『奈良の最初の拠点』があれば、そこを起点に地元の人とつながるきっかけをつくれます。取っかかりさえできれば、その後はだんだんと自分で友だちをつくって、コミュニティに馴染んでいけるんだと思います」

地元の人との交流が活発なゲストハウスは、町の人とつながりやすい場所。その土地に縁もゆかりもない人が移住する時、移住生活を軌道に乗せる補助輪のような役割を果たす時があります。しかし、奥さんは「場所がすべてを変えてくれるわけではない」とも言います。
奥:「ゲストハウスは確かに移住の後押しになると思います。でも、『お試し移住に来ただけで自動的に移住がうまくいって、人生が変わる』というわけではなかったりします。利用者さんが滞在中、どう行動するかが一番大事だと思います。
せっかく来るのなら、この環境を活かして、良い移住体験にしてもらいたい。なので私は、もっと行動できそうだな~という人には結構、声がけしちゃうこともありますね。私、お節介なんです(笑)!」
お試し移住は、奈良暮らしへの大きな一歩
最後に、お二人に今後の展望や、お試し移住支援制度への思いについて伺いました。
城戸口:「私は、気持ちとしては今すぐ奈良に住みたいです!ただ、内定した会社は全国転勤なので、どこに行くかはまだわかりません。もちろん、配属先の第一希望は奈良で出していますけどね。
ただ、もし奈良に配属されなかったとしても、奈良に貢献できることをしていきたいです。実は、『奈良市地域に飛び出す学生支援事業補助金』という奈良市の事業に、ならわい for studentsのメンバーと一緒に参加していて、来年(2026年)2月にイベントを開く予定なんです。こうした機会も活かしながら、また新たなつながりをつくっていきたいですね。
この先、奈良に住める時が来たら、近鉄奈良駅の近く、猿沢池に歩いて行ける所に住みたいです。興福寺五重塔の修理工事が終わった時、猿沢池から塔を眺める生活をするのが夢で。その夢が叶う日まで今後も、奈良と関わり続けていきたいです」

奥さんは、すぐに移住予定の人だけでなく、城戸口さんのように「『いつか奈良に住みたい』という思いがある方なら、どなたでも歓迎!」と語ります。
奥:「『すぐに移住したい』人だけじゃなく、『いつか住みたい』って気持ちで制度を利用している方も多いんですよ。
暮らしを実際に体験してみて、『この町に住んでみたい』『数年後にでも、今の仕事を辞めて奈良に来たい』とか、より具体的に気持ちが固まるだけでも、体験する前と比べたらすごい進歩。こういう使い方も有意義だなと思います。
制度のおかげで、移住のハードルは低くなったと感じます。移住に興味があるなら、まずは体験してみたらいいんじゃないでしょうか。ファミリーも大歓迎ですよ!」
城戸口:「私は、この制度を20代の人にもおすすめしたいです。『本当は都会が合わないのに、とりあえず都会で就職して暮らしている』って人は結構いると思います。そんな人がもし、奈良のゆったりした空気を体験したら、『奈良で暮らす選択肢もいいな』って思ってもらえるんじゃないかなと」

本制度の対象宿泊施設はゲストハウスが多いので、「うまくコミュニケーションが取れるかな」と不安に思う方もいるかも知れません。しかし、利用者アンケートでは「緊張してたけど、宿の方が話しかけてくれて心の壁を取り払えた。素敵な移住体験になった」といった声もよく見られます。
城戸口:「私も最初にOKUに来た時は緊張していて、個室を使っていたんですよ。でも、洋子さんが他のお客さんとの会話の輪に入れてくれたりしたおかげで馴染めるようになって。今では相部屋で、他のお客さんとの交流も楽しみながら滞在できるようになりました」
奥:「せっかく同じ時間を共有しているので、お互い気持ちよく滞在できたらいいなと思って、声をかけることもありますね。お節介になりすぎないように、とは思っていますが(笑)。
私にとってもお試し移住の支援は、いろいろな方に出会える宝のような時間です。今後も、移住に興味のある人が『奈良に住みたい!』と思えるように、サポートしていきます。そして、利用者さんが移住してくれて、移住者の友だちが増えたら嬉しいなと思っています!」
「ゲストハウスは初めて」という人も、少し勇気を出して一歩踏み出してみるのはいかがでしょうか。その瞬間、あなたの奈良暮らしの物語が始まります。
(取材・文:五十嵐綾子)
掲載サイト:奈良市移住ポータルサイト「ならりずむ。」
関連リンク:奈良市お試し移住支援制度
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