地下鉄内での音楽聴取によって高まる“スマホ難聴”リスク。イヤホンのノイズキャンセリング機能が難聴予防に有用。

学校法人 順天堂

順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター耳鼻咽喉科の池田勝久特任教授と電気通信大学大学院情報理工学研究科の小池卓二教授、順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学講座・リハビリテーション室の保科卓成言語聴覚士らの研究グループは、各種イヤホン装着時の音楽聴取の実験から、地下鉄の騒音環境下での音楽聴取は難聴リスクを高め、ノイズキャンセリング*1機能によって難聴リスクが回避できることを明らかにしました。


現在、イヤホンを介した音楽聴取による娯楽性難聴*2は若者に増加しており、世界保健機構(WHO)が警鐘を鳴らしていますが、本研究により、その予防策としてイヤホンのノイズキャンセリング機能が有効であることが証明されました。これは、社会生活に重要な“聴こえ”の健康維持につながるものです。本研究成果はJournal of Audiology & Otologyオンライン版に3月24日付で公開されました。

本研究成果のポイント
  • 地下鉄騒音下でイヤホンを用いた音楽聴取によって難聴リスクが高まる。
  • ノイズキャンセリング機能によって難聴リスクが回避できる。
  • 習慣化された音楽聴取によって生じる“スマホ難聴”の予防策が判明。

背景
携帯型音楽プレーヤーやスマートフォンの普及により、現在、多くの人が手軽に音楽を聴くことができるようになっています。その一方でWHOは、2010年の報告で中~高所得国の10歳代の約半数が不適切な音量で携帯音楽プレーヤーを使用していると伝えており、2015年には世界で11億人の若者が聴取器機の不適切な使用によって難聴の危険にさらされていると報告して、これらの娯楽性難聴に警鐘を鳴らしてきました。また、米国の国民健康栄養調査では1994~2006年の間に10歳代の難聴は3.5%から5.3%に増加しており、最近の報告では9~11歳の小児の15%程度に難聴を認めるなど、小児や青少年などの若者世代に高い率で難聴が生じています。
耳の感覚細胞は、定期的または長期に及んで大きな音に晒されることにより徐々に傷つき、永久的な聴力損失につながるとされています。また、携帯型音楽プレーヤーやスマートフォンで強大音量を聴取する習慣が5年以上も継続すると、一時的または永続的な高周波域の難聴になることも示されています。一方で、多くの研究によって、安全な音響の上限は85dBで8時間までとされていますが、現在使用されている携帯型音楽プレーヤーやスマートフォンで出力可能な最大音量は安全域を越えています。これらの音楽デバイスが静寂な環境で使用された場合は、音量は一般的には安全域とされていますが、地下鉄内など雑音が生じている中では音量を増大させる傾向にあります。しかし、雑音下でのイヤホンによる安全な音楽聴取の対策はこれまで明らかになっていませんでした。

内容
研究グループは、聴力が正常な成人23名を対象として実験を行いました。4種類のイヤホン(図1のA:耳置き型、B:ヘッドホン、C:インサート型、D:ノイズキャンセリング(NC)機能付きインサート型)を用いてポップスとクラシック音楽を聴取し、一番聞き心地の良い音量(最適リスニングレベル)を任意で調整してもらいました。静寂な環境条件下と地下鉄内で録音した環境騒音(80dB)下でそれぞれの音楽の最適リスニングレベルを計測しました(図2)。

図1.使用したイヤホン図1.使用したイヤホン


今回の研究結果は以下となります。

①地下鉄の背景雑音下で最適リスニングレベルは、 A、B、Cのイヤホンでは静寂下に比べて増加し、 AとBのイヤホンではCとDに比べて増加し、AとBでは危険な音量である85dB以上となる場合がありましたが、ノイズキャンセリング機能のあるインサート型イヤホン(D)では安全音量の75dB以下でした(図3左)。
②静寂下に比べて背景雑音下での最適リスニングレベルのクラシック音楽がCの方がDよりも増加した以外は、ポップスとクラシックの違いは認めませんでした。
③騒音下の最適リスニングレベルの増加量は、外耳道*3内での環境雑音圧の減少と相関がありました(図2右、図3右)。

以上のことから、騒音環境下では、安全に音楽聴取をするためにノイズキャンセリング機能のついたイヤホンの使用が有効であることが明らかになりました。

図2.測定システムの模式図:外耳道内の音圧はイヤホンを装着しながらプローブマイクを挿入することで測定しました。図2.測定システムの模式図:外耳道内の音圧はイヤホンを装着しながらプローブマイクを挿入することで測定しました。

図3.最適リスニングレベルの計測結果:左側はイヤホンの種類別(黒塗りは騒音下、白抜きは静寂下)、右側は外耳道での音圧との関係。図3.最適リスニングレベルの計測結果:左側はイヤホンの種類別(黒塗りは騒音下、白抜きは静寂下)、右側は外耳道での音圧との関係。


今後の展開
地下鉄などの騒音環境下では、通常のイヤホンでの音楽聴取は危険な音量に達する可能性があることが今回の研究から明らかとなり、難聴予防の面からノイズキャンセリング機能の使用が推奨されます。しかしながら、最適リスニングレベルには個人差があるため、聴取している音量をモニターして危険な音量に到達した場合に警告を発する仕組みの開発も望まれます。また定期的に聴力検査を施行して早期に一過性の難聴を発見するとともに、永続的な難聴への進行を予防することも重要です。
難聴に伴う社会問題として、難聴が認知症の最も重要な危険因子であることが知られています。加齢性難聴に娯楽性難聴が加わり、難聴が重症化することによって認知症の危険が高まることも危惧されます。超高齢社会に達しているわが国での重要な問題である認知症の予防の面からも娯楽性難聴を注視することが求められます。

用語解説
*1 ノイズキャンセリング:内部回路による信号処理によって発生させた逆位相の音を重ねて周囲の音を打ち消す仕組みです。
*2 娯楽性難聴:娯楽性難聴は騒音性難聴のひとつで、ナイトクラブ、ディスコ、パブ、コンサート、スポーツ観戦、フィットネスクラスなど娯楽施設での騒音曝露や音楽プレーヤーなどの娯楽機器での過大音聴取で引き起こされる難聴です。
*3 外耳道:耳の入り口から鼓膜までの孔のことです。

原著論文
本研究はJournal of Audiology & Otology誌のオンライン版で先行公開(2022年3月24日付)されました。
タイトル:The Effects of an Active Noise Control Technology Applied to Earphones on Preferred Listening Levels in Noisy Environments
タイトル(日本語訳): 騒音環境下での最適リスニングレベルに対するイアホンのノイスキャンセリング機能の影響
著者:Takunari Hoshina 1), Daiki Fujiyama 2), Takuji Koike 2), and Katsuhisa Ikeda 3)
著者(日本語表記):保科卓成1)、藤山大輝2)、小池卓二2)、池田勝久3)
著者所属:1)順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学講座・リハビリテーション室、2)電気通信大学大学院情報理工学研究科、3)順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター耳鼻咽喉科
DOI: https://doi.org/10.7874/jao.2021.00612

本研究はJSPS科研費JP11K1111, JP12K2222, 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成事業、科学研究費助成事業(15K00737)の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

 

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会社概要

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URL
http://www.juntendo.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
東京都文京区本郷2-1-1
電話番号
03-3813-3111
代表者名
小川 秀興
上場
未上場
資本金
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設立
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