光触媒式太陽電池の実用化に前進 性能向上の鍵を特定

国立大学法人千葉大学

千葉大学大学院融合理工学府博士前期課程2年の漆舘 和樹 氏と同理学研究院の泉 康雄 教授、同工学研究院の小島 隆 准教授らの共同研究グループは、光触媒(※1)を両極に用いる高電圧型太陽電池の性能を向上させる鍵が光触媒結晶の分極率と触媒活性にあることを明らかにしました。これまでに同研究グループの光触媒式太陽電池は、単セル(※2)で2.11 Vという他の太陽電池や燃料電池では類例を見ない起電力を記録しており、これらの成果を組み合わせて発電することで、屋外に設置でき、より環境負荷の少ないバックアップ用電源としての応用が期待されます。本研究成果は2020年1月27日に米国化学会刊行「ACS Sustainable Chemistry & Engineering」第8巻第3号に掲載され、この号の表紙を飾りました(図1)。

図 1 表紙を飾った本研究の概念図図 1 表紙を飾った本研究の概念図

(図1:両側(黄緑色)の光電極上を薄い光触媒膜で覆った高電圧型太陽電池を示しており(中央)、負極(右側)上の酸化チタン結晶が交流/直流印加時に分極しやすいほど、また水を酸素へ触媒変換しやすいほど、電池の起電力および出力が向上することを解明しました。正極(左側)上のオキシ塩化ビスマス結晶は酸素を水に戻す働きがあります。)

  • 研究の背景
化石燃料の使用により大気中のCO2濃度が徐々に上昇し、その結果として地球温暖化による生態系への悪影響が懸念されています。持続可能な社会を実現するためには、化石燃料に依存しない再生可能エネルギーへのシフトが求められています。中でも、太陽光を電力に変換する太陽電池(3)や水素等の化学エネルギーを電力に変換する燃料電池(4)は発電時にCO2を発生しない発電方法として重要で、太陽電池と燃料電池の研究・開発が広範に行われています。しかし、既存の電池では単セルでの起電力1V以下がほとんどであり、実用するには直列に重ね合わせる必要がありました。そこで光触媒式太陽電池(5)によって高効率で低価格な太陽電池を実現する研究が進められているものの、光触媒式太陽電池の場合、光電極の電気的、化学的特性の複雑なバランスに依存するため、性能を向上させる因子が明らかになっていませんでした。
  • 研究の成果

図 2 形状とサイズを制御したTiO2膜のインピーダンス測定と分極率との関連(上)および18O2(※18は上付き)ガスとTiO2膜表面の酸素原子との交換における反応の起こりやすさについてのエネルギー図(下)。図 2 形状とサイズを制御したTiO2膜のインピーダンス測定と分極率との関連(上)および18O2(※18は上付き)ガスとTiO2膜表面の酸素原子との交換における反応の起こりやすさについてのエネルギー図(下)。

本研究では、光触媒式太陽電池の性能を向上させる因子を特定するために、光触媒結晶の形状や薄膜形成法に着目しました。光触媒には酸化チタン結晶(TiO2)を用いて、 負極上に種々の形状(紡錘状、立方体状、菱形状)およびサイズを制御して合成した触媒結晶を配置しました。また、薄膜形成法も制御して複数の方法(キャスト法、スライド法、粉砕&スライド法、粉砕&機械成膜法)を調べました。さらに、形成した膜のかさ密度を電子顕微鏡を使って計測し、紫外可視蛍光発光、交流および直流(AC/DC)印加時の膜インピーダンス、18O2(※18は上付き)ガスとTiO2膜表面の酸素原子との交換反応速度を測定し、図1のように組んだ太陽電池の発電特性を比較検討しました。
その結果、サイズを揃えて合成した立方体状、菱形状TiO2はいずれも、電子の通しやすさを示す分極率が低いため、電子を通しにくいことが分かりました(図2右上)。一方、サイズが不揃いのTiO2あるいは紡錘状に合成したTiO2は分極率が高く、かつ光酸化反応の起こりやすさ(触媒活性)を示す酸素解離反応が遅い(図2下のΔE2がΔE1より大きい)ため、太陽電池の出力を85.2 μW平方センチメートル、起電力を1.94Vまで高めることに成功しました。
同研究グループでは、これまでにTiO2に有機色素を添加することで起電力を2.11 Vまで高めることにも成功しています(2018年出版 論文2)。光触媒式太陽電池では、光触媒が紫外光を吸収するのと、有機色素が可視光を吸収する電子エネルギーの変化がつながって起きるため、他の太陽電池と異なり起電力が高くなっています。
  • 今後の展望
今回の実験を主導した泉 康雄 教授は、次のように述べています。「本研究により、光触媒式太陽電池の性能を向上させる因子を明らかにすることができました。今後は、起電力だけでなく、出力が生物電池以上のレベルとなる光触媒式太陽電池の実現を目指します」
  • 用語解説
(※1)光触媒:光を吸収することで、化学反応を促進する物質の総称。光を当てることで、通常の触媒では温度を上げないと困難な化学反応(汚染物質の分解など)を常温で促進できるため、環境分野への幅広い応用が期待されている。
(※2)セル:電池を構成する基本単位。複数のセルを配列し、パッケージ化したものをモジュールという。
(※3)太陽電池:光を吸収することで物質内の電子エネルギーが変化することを利用して電力を得るデバイスの総称で、シリコン太陽電池・色素増感太陽電池・ペロブスカイト太陽電池・有機膜太陽電池等が研究開発されている。
(※4)燃料電池:水素やアルコールが燃焼する際の化学エネルギーを利用して電力を得るデバイスの総称で、固体高分子形燃料電池・リン酸形燃料電池・固体酸化物形燃料電池・バイオ燃料電池等が研究開発されている。
(※5)光触媒式太陽電池:両方の電極上に光触媒を載せた太陽電池で、両方の物質内の電子エネルギーが変化する前後のエネルギーを電力として得るデバイス。光触媒は光照射で電子エネルギーが約3V変化するので、理論上3Vを電力として得られる。
  • 研究プロジェクトについて
本研究は、科学研究費助成事業「精密制御積層膜を用いた二酸化炭素光燃料化高速化と動的作用過程の顕微分光追跡」(17K05961)、千葉大学グローバルプロミネント研究基幹・リーディング研究推進プログラム、高エネルギー加速器研究機構・フォトンファクトリー課題の支援を受けて行われました。
  • 論文情報
(1)論文タイトル:Polarizability and Catalytic Activity Determine Good Titanium Oxide Crystals but Not Homogeneity in Solar Cells Using Photocatalysts on Both Electrode
雑誌名:ACS Sustainable Chemistry & Engineering
DOI: https://doi.org/10.1021/acssuschemeng.9b05576
(2)論文タイトル:Solar Cell with Photocatalyst Layers on Both the Anode and Cathode Providing an Electromotive Force of Two Volts per Cell
雑誌名:ACS Sustainable Chemistry & Engineering
DOI: https://doi.org/10.1021/acssuschemeng.8b02166
 

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会社概要

国立大学法人千葉大学

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URL
https://www.chiba-u.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月