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【国立科学博物館】新種発見!深山に潜む焔色のサンショウウオ

~日本産ハコネサンショウウオ属の7種目を発見 日本の生物多様性解明に貢献~

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​​ 独立行政法人国立科学博物館(館長:篠田謙一)の吉川夏彦(動物研究部脊椎動物研究グループ研究員)らは、紀伊半島から北陸・中部地方にかけての本州中部に分布するハコネサンショウウオ属の未記載種について、既知種との遺伝的・形態的な比較を行い、これをOnychodactylus pyrrhonotus Yoshikawa and Matsui, 2022 として新種記載しました。ハコネサンショウウオは江戸時代に最初の記載が行われた種ですが、この10年間の再検討によって、実は7種に分かれていることが明らかになりました。本種は、その最新の発見になります。
炎のような美しい赤色の斑紋にちなんで、和名は「ホムラハコネサンショウウオ」を提唱しています。本種は四国産の近縁種と系統的に最も近く、四国と近畿地方(紀伊半島)の生物地理学的な関連を示す例の一つと考えられます。
 本研究成果は2022年2月出版の爬虫両生類学の国際誌「Current Herpetology」誌に掲載されました。

 

新種として記載されたホムラハコネサンショウウオOnychodactylus pyrrhonotusのオス。

【研究のポイント】

  • 近畿地方から北陸、中部地方にかけての本州中部のハコネサンショウウオ属の中には「近畿型」と呼ばれる未記載種が存在し、狭義のハコネサンショウウオと共存していることが知られていた。
  • 「近畿型」とその近縁種の分子系統解析および外部形態の比較に基づいて、これをホムラハコネサンショウウオOnychodactylus pyrrhonotus Yoshikawa and Matsui, 2022として新種記載した。これにより日本産のハコネサンショウウオ属は吉川らが発見した5種を含めて計7種となり、日本産小型サンショウウオ類としては46種目となる。
  • 本種は四国産の種に近縁で、近畿地方と四国の関連性を示す生物地理学的にも重要な種であることが示された。
  • 本種は限られた地域の山地にのみ分布する希少種であり、日本産ハコネサンショウウオ属の多様性の解明により、両生類をはじめとした日本の生物多様性の保全に向けた今後の取り組みや対策につながることが期待される。

【研究の背景】
 日本列島には現在45種の小型サンショウウオ(サンショウウオ科に属する両生類)が生息します。このグループは近年の研究により急速に分類が進んで種数が増加しましたが、それでも日本列島の小型サンショウウオ類の多様性の全容解明には至っていません。
 ハコネサンショウウオ属(Onychodactylus)は山地の渓流やその周辺に生息する小型サンショウウオのグループです。日本産種の数は、この10年でわずか1種から大幅に増加しており、吉川らの発見した4種と他の研究グループが記載した1種を含む合計6種となっています(図1)。これらの種は外部形態が非常によく似ており、DNAの解析手法の発達によってはじめてその多様性の実態が解明され、種の分類が促進されてきました。そのような中で、近畿地方を中心とした本州中部には「ハコネサンショウウオ近畿型」と呼ばれる、固有の遺伝集団が存在することが報告されていました(図1)。「近畿型」は、四国産のシコクハコネサンショウウオに近縁であること、同所的に分布する狭義のハコネサンショウウオとの間には交雑がないことが先行研究で示されており、遺伝的な証拠からは独立種とするのが妥当とされてきました。しかし、近縁種との形態比較などの分類学的研究に必要な成体の標本を得るのが難しく、その種としての地位は確定していませんでした。

図1.2021年までの日本産ハコネサンショウウオ属6種と「近畿型」の分布。(国土地理院発行の「陰影起伏図」を用いて作図)図1.2021年までの日本産ハコネサンショウウオ属6種と「近畿型」の分布。(国土地理院発行の「陰影起伏図」を用いて作図)


【研究の内容】
 本研究にあたり、紀伊半島から近畿、北陸、中部地方にかけての本州中部のハコネサンショウウオ属の標本を収集・調査しました。近畿型と狭義のハコネサンショウウオは同じ場所に混棲するため、使用した全標本についてあらかじめDNAの分析をおこなって同定をおこない、それに従って種ごとの外部形態の比較をおこなう手法を取りました。その結果、近畿型は外部形態では同属の近縁種に非常によく似ていましたが、背面に赤色~ピンク色の鮮やかな斑紋をもつこと、腹面に多数の細かい白点をもつことが大きな特徴であることが判明し、一部の集団を除いて他種と識別可能であることがわかりました。本研究による外部形態の比較と先行研究の遺伝的なデータに基づき、「近畿型」をOnychodactylus pyrrhonotus Yoshikawa and Matsui, 2022という新種として記載しました。種小名の「pyrrhonotus」は「火の色の背中」を意味し、本種の背中にみられる鮮やかな赤色の斑紋にちなみます。和名もこの体色を炎の色に例え、「ホムラハコネサンショウウオ」を提案しています。本種は本州中部(岐阜、石川、福井、滋賀、京都、三重、奈良の各県)から広く分布が確認され、本研究では先行研究で記録のなかった岐阜・石川の両県でも新たに生息を確認しました。

 分子系統解析をおこなったところ、本種は同所的に分布する狭義のハコネサンショウウオ O. japonicusと明確に異なること、四国・中国山地産のシコクハコネサンショウウオ O. kinneburiに最も近縁であることが改めて確認されました(図2)。特に後者は、過去に存在した近畿地方(特に紀伊半島)と四国の山地が過去にはつながっていたことを示す生物地理学的な例の一つと考えられ、同様の事例はコガタブチサンショウウオ種群などでも知られています。

図2.ミトコンドリアDNAの塩基配列に基づく日本産ハコネサンショウウオ属の系統樹。図2.ミトコンドリアDNAの塩基配列に基づく日本産ハコネサンショウウオ属の系統樹。


【当研究成果から期待されること、今後の課題など】
 本研究により日本産小型サンショウウオ類の多様性の一端が解明されましたが、本種の分類を通してさらにいくつかの今後の課題が浮かび上がりました。

・本研究により、日本列島に分布する小型サンショウウオ(サンショウウオ科)の種数は46種、ハコネサンショウウオ属としては7種となりました。日本列島はサンショウウオ科両生類の種多様性と固有性が世界で最も高い地域で、特にサンショウウオ属と本種を含むハコネサンショウウオ属の多様性が高くなっています。今回の発見はその多様性の全容把握とその形成史の解明につながるものの一つと期待されます。

・ホムラハコネサンショウウオは、分布域のほぼ全域で狭義のハコネサンショウウオと共存しています。先行研究により、これらの2種は異なる場所で種分化したものが二次的に接触したと考えられています。どのような仕組みで2種が互いを認識し、種の交雑を避けるための「生殖隔離機構」が進化していったのか、という点を明らかにするのが今後の課題です。

・2020年版環境省レッドリストには、日本産サンショウウオ科の実に41種(89%)が絶滅危惧種・準絶滅危惧種として掲載されていますが、今回新種記載されたホムラハコネサンショウウオも絶滅が危惧される種の一つです。本種は涼しく湿った山地の高標高部を好むため、温暖化のような気候変動の影響を強く受ける恐れがあります。環境開発により生息地の環境も悪化しています。近年では希少種の乱獲やネットオークションなどによる売買も社会問題化しています。こうした脅威に対し、本種の保全に向けた早急な対策が求められます。

・長らく日本国内に広く分布する普通種とされていたハコネサンショウウオに、実はこれほど多数の種が含まれていたことを示した一連の研究は、よく知られた身近な種であっても未知の多様性を秘めていることの好例です。これは生物多様性保全の基礎となる「種」を認識する学問である分類学の重要性を示しており、今後の同分野の研究の推進が望まれます。


【発表論文】
表題:A new salamander of the genus Onychodactylus from central Honshu, Japan (Amphibia, Caudata, Hynobiidae) (本州中部からのハコネサンショウウオ属[両生綱, 有尾目, サンショウウオ科]の一新種)
著者:吉川夏彦[1], 松井正文[2]
[1]国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究員
[2]京都大学大学院 人間・環境学研究科 名誉教授
掲載誌:Current Herpetology(日本爬虫両棲類学会英文誌)vol.41 No.1
(URL) https://doi.org/10.5358/hsj.41.82 (オープンアクセス)

(本研究の一部は国立科学博物館の館長支援事業「日本産サンショウウオ類の分類および系統地理学的研究のスタートアップ支援」によって行われました。また科研費(JP26870320)および昭和聖徳記念財団学術研究助成の支援を受けています。)


◆国立科学博物館:https://www.kahaku.go.jp/
◆国立科学博物館 筑波研究施設:https://www.kahaku.go.jp/institution/tsukuba/

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