【国立科学博物館】世界で初めてミャンマーの活火山のマグマ生成メカニズムを解明 ~今後も噴火する可能性の高い活火山であることが判明~

文化庁

 独立行政法人国立科学博物館(館長:篠田謙一)の佐野貴司(地学研究部鉱物科学研究グループ)らは、ミャンマー中央部のポパ火山が、約33万年前から活動を開始した活火山であることを明らかにしました。さらに、成層火山をつくる溶岩は、「アダカイト質」という特殊な火山岩であることを発見しました。そして、現在も生産されているマグマ生成メカニズムを世界で初めて明らかにし、今後も噴火する可能性が高い活火山であることを示しました。本研究成果は2022年2月24日に国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
【研究のポイント】
  • ミャンマーで最大の火山体であるポパ山の地質調査と年代測定を行い、これを基に詳細な活動史を明らかにした。
  • 主要な溶岩について記載と化学分析を行った結果、「アダカイト質」という特殊な火山岩であることが判明した。
  • 世界の学会では、アダカイトは地下深部へ沈み込んだ海洋プレートが融けたものと提案されているが、これとは違うメカニズムによりマグマが生成したことが分かった。
  • ポパ火山のアダカイト質マグマは、水を含んだマントルが融けてできたマグマが、その後地下深部のマグマ溜まり内で分化(*1)してできたと考えられる。
  • ポパ火山の地下深部では、現在もアダカイト質マグマが生産されており、今後も噴火する可能性が高いことが分かった。


【研究の背景】
 国立科学博物館は、平成28年〜令和2年度の中期計画で行われた2つの分野横断型総合研究としてミャンマーのマンダレー大学等の協力を得て、ポパ火山の調査を行いました。その結果、詳細な火山の形成史が明らかとなりました。
 この研究メンバーは、国立科学博物館地学研究部鉱物科学研究グループの佐野貴司グループ長、谷健一郎研究主幹、理工学研究部の米田成一部長、ミャンマー メイティーラ大学地質学教室のラミン准教授、ミャンマー マグウェイ大学タウンタイ副学長、ミャンマー マンダレー大学地質学教室のジンマウンマウンテイン教授、愛媛大学大学院理工学研究科数理物質科学専攻の楠橋直准教授、慶應義塾大学文学部自然科学部門の河野礼子教授、京都大学霊長類研究所の高井正成教授、産業技術総合研究所活断層・火山研究部門の石塚治首席研究員、クリス・コンウェイ研究員です。
 ミャンマ−は日本と同じように、プレート同士が衝突する境界部に位置しており、火山と地震が多い国です。この4~5年間で、ミャンマーでの地質調査が精力的に行われ、中央部に3つの第四紀(*2)火山(ポパ、モンユワ、シング)が存在すること、最大のポパ火山は1万年以内に噴火した活火山であることなどが分かってきました(図1)。

図1 ミャンマーの簡易地質図。水色線は、ミャンマーの地下深部へ沈み込む海洋プレート上面の深度。


【研究の内容】
 ミャンマーの地下深部には、ベンガル湾沖から沈み込んだインドプレートが存在し、ポパ火山の下では120kmを越える深度があります(図1)。これは、日本において太平洋プレートが日本海溝から東北地方の下に沈み込んでいる状況と同じです。このプレートの沈み込みがマグマをつくり、マグマが何回も噴火することにより、島弧火山とよばれる成層火山がつくられています。
 ポパ火山は約8000年前にも噴火した活火山であることが、2018年に報告されていましたが、この成層火山の形成史は不明でした。そこで、新たに地質調査と年代測定(ジルコン年代、K-Ar年代、40Ar-39Ar年代)を行いました。その結果、約300万年前の堆積層(イラワジ層)を境として、1000~2000万年前に形成した古火山体と、96万年前以降に活動した新火山体とからなることが分かりました。さらに、新火山体は、下位の台地期(96~65万年前)と上位の成層火山期(33万年前以降)に区分されることも分かりました(図2)。

図2  本研究で明らかになったポパ火山の地質図および層序と年代。


 採取した火山岩について、記載、全岩化学分析、鉱物化学分析、ストロンチウム−ネオジム同位体比分析(*3)を行った結果、成層火山の主要部分は「アダカイト質(以降、アダカイトと略)」という特殊な火山岩からつくられていることが判明しました(図3)。

図3 ポパ火山岩の化学的特徴。(A)は、ポパ火山岩がアダカイト化学成分の領域に存在していることを示している。(B)は、ポパ火山岩が通常のアダカイトと異なる化学成分を持つことを示している(この図は論文の図を簡略化しています)。


 アダカイトとは、通常の島弧火山岩に比べて高いSr/Y比を持つ岩石です(図3A)。このような火山岩は、西アリューシャン列島やアメリカ合衆国西部のセントヘレンズ火山をつくっています。アダカイトという用語は、この特徴を持つ火山岩が最初に記載された西アリューシャン列島のアダック島にちなんで名付けられました。
アダカイトは地球深部に沈み込んだ海洋プレートが溶けたものであると提案されています(図4左)。

図4 (左)通常のアダカイトと(右)ミャンマーのポパ火山をつくるアダカイトのマグマ生成メカニズム(この図は説明を分かりやすくするために作成したもので、論文には掲載されていません)。

 ところが、ポパ火山のアダカイトは通常のアダカイトに比べて低いネオジム同位体比(143Nd/144Nd)を持つという例外的特徴があり(図3B)、ポパ火山のアダカイトは通常のアダカイトとは異なると結論づけました。
ポパ火山のアダカイトは沈み込んだ海洋プレートから出てきた水が付け加わったマントルが融けてできたことが分かりました(図4右)。海洋プレート起源の水は、低いネオジム同位体比を持つからです。そして、このマグマが地下深部のマグマ溜まりで分化(*1)してアダカイトマグマとなったことが分かりました。


【当研究成果から期待されること、今後の課題】
 成層火山の寿命は50~100万年であること、ポパ成層火山の形成が始まったのが約33万年前であること、8000年前にも噴火したことを考え合わせると、ポパ火山は今後も噴火する可能性の高い活火山であることが分かりました。モンユワ火山やシング火山も活火山の可能性があります。さらに、ミャンマー北部には、形成年代が不明の火山が複数あります。今回の研究成果により、ミャンマーで活火山の有無を調べる必要性が増しました。
 さらに、ポパ成層火山の主要溶岩は、アダカイトという特殊な火山岩であることが分かりました。アダカイトマグマの成因については、海洋プレート溶融説(通常モデル)、マントル溶融と地下深部での分化説(本論文での主張)の他にもいくつかのモデルが提案されています。しかし決着はついておらず、論争が続いています。恐らく、ミャンマーの火山からは、次もアダカイトマグマが噴出する可能性が高いため、今回の研究成果は、世界中のマグマ成因を調べている学者達に注目を浴び、議論が深まることが期待されます。
 

 写真:ポパ火山 外観


【発表論文】
表題:Petrogenesis of isotopically enriched Quaternary magma with adakitic affinity associated with subduction of old lithosphere beneath central Myanmar
著者:Takashi Sano, Kenichiro Tani, Shigekazu Yoneda, Hla Min, Thaung Htike, Zin Maung Maung Thein, Osamu Ishizuka, Nao Kusuhashi, Reiko T. Kono, Masanaru Takai, Chris E. Conway
掲載誌:Scientific Reports
(URL) www.nature.com/articles/s41598-022-07097-4 

本研究は、国立科学博物館が平成28年〜令和2年度に行なった2つの分野横断型総合研究(化学層序と年代測定に基づく地球史・生命史の解析;ミャンマーを中心とした東南アジア生物相のインベントリー)の成果の一部です。また、科学研究費補助金(26304019, 18H03746)の支援も受けました。


*用語説明
*1分化:地下でマグマの温度が低下して化学成分や粘性などの性質が変化すること。
*2第四紀:258万年前から現在に至る最も新しい地質時代。
*3同位体:原子は、原子核とその周りを動く電子からなり、原子核は、陽子と中性子でできている。原子には、陽子の数(原子番号)が同じでも中性子の数が異なる原子が存在する場合があり、これらを互いに同位体という。Nd-143は陽子60個と中性子83個からできているが、Nd-144に関しては、陽子60個は同じで中性子が84個になっている。同位体の比(143Nd/144Ndなど)は、マグマの成因を知るための重要なツールとして利用されている。

 




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未上場
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-
設立
1968年06月