地中海の海難救助船「アクエリアス号」が再び出航――海上の人命救助は急務
国境なき医師団(MSF)と市民団体「SOSメディテラネ」が共同運航する海難救助船「アクエリアス号」が8月1日、フランス南部のマルセイユから出航する。同船はアフリカから地中海を越えて欧州に向かう難民や移民の海難者を救助してきたが、マルセイユで1ヵ月以上の停泊を余儀なくされていた。
世界でも最も危険な航路
アクエリアス号は地中海中部で2年余り捜索・救助活動を行ってきたが、1ヵ月以上にわたり港に停泊するのは今回が初めて。停泊が長引いた原因は、救助活動を大きく左右する同水域の状況の著しい変化にある。海難救助を行った複数の船舶が、上陸港を巡る政争で何週間も立ち往生させられた。イタリアとマルタでは、海上で人命救助に携わる人道団体が犯罪者扱いされ、寄港を拒まれている。
アクエリアス号でMSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるアロイス・ヴィマールは、「地中海中部は世界でも最も危険な航路です。しかしこの海域には救助船がほとんど残っておらず、欧州諸国による救難体制も機能していません。海上の人道援助はこれまで以上に急務となっているのです。海難者の救助は法的かつ倫理的な責務であるにもかかわらず、この数週間だけでも700人余りが水死しました。人命の軽視に愕然とさせられます」と話す。
リビアで難民、移民、庇護希望者が受ける深刻な暴力と搾取は欧州諸国でもよく知られているが、EUは支援するリビア沿岸警備隊への役割移行を加速、6月末には国際海事機関(IMO)がリビア合同救援挑戦センター新設を承認した。リビア国内では難民、移民、庇護希望者が過密で非人道的な施設への非合理な勾留を受け、人道援助もニーズの高まりに対応できていない。
ヴィマールは、「状況は複雑さを増していますが、MSFの目的は一貫して海上の人命救助にあります。性別・年齢に関係なく水死を予防し、生きるために最低限の必要が満たされ、権利が保護・保証される安全な場所に送り届けることにあるのです」と語っている。
MSFおよびSOSメディテラネは再出航に当たり下記の点を改めて明言する。
- アクエリアス号は海事法に最大限配慮しつつ、海難者の救助を続ける
- アクエリアス号は国際海事条約を重んじ、全ての関係海事局との調整を継続する
- アクエリアス号は、海難者を危険から救出し安全な場所に送り届けるために、他の可能な限りの措置と手段が既に講じられているという確信のない限り、救助延期の指示には従えない
- アクエリアス号は救助した人をリビアでは下船させない。これは同国が難民、移民、庇護希望者にとって安全な場所ではないため。安全な場所とは、これらの人びとの最低限の必要が満たされるとともに、受けられる可能性のある保護を申請でき、かつ、新たな虐待や暴力の危険にはさらされない場所だ。リビアは当面、そのような場所とは見なせない
- 海上で拿捕された難民、移民、庇護希望者をリビアに送還してはならない。これに則り、アクエリアス号も、救助された海難者をリビアに返す、または、リビアに上陸させる見込みの船舶に引き継ぐといった海事局の指示は全て拒否する
マルセイユへの寄港では、救難活動の効率向上の目的で新たに高速救助艇1隻が搭載された。また、海難者が安全な港への上陸を船上で待つ日数の長期化が強く懸念されるようになったことから、追加の食糧と医療物資が積み込まれた上、甲板には水死者の遺体を保管するための冷凍輸送コンテナも設置。地中海中部の航路では死亡リスクが高まっている。
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