十分なPCR検査の実施国では新型コロナの死亡率が低い 死亡者数からは、西洋とアジアでは感染の広がりは100倍違う

国立大学法人千葉大学

PCR検査数を増やすと、陽性数を検査数で除した陽性率が低下します。千葉大学大学院 薬学研究院および医学研究院の研究グループは、西洋の国々で陽性率が7%未満の国では、陽性率がそれ以上の国に比べて1日の死亡者の割合が15%でしかないとの解析結果を発表しました。アジアの国々でも陽性率が7%以上の多くの国では感染者の増加が続いています。PCR検査はリスクの低い人に対し大量に実施しても、誤って陽性となる数が多くなるので検査の意味がなくなります。必要な検査数を保つことが重要で、陽性率はその指標になります。日本の陽性率は4月10日現在7.8%で上昇傾向にあり、死亡者数を増加させないために陽性率を低下させるようにPCR検査能力を拡大することが急務と考えられます。
  • 研究の背景
新型コロナ感染症が世界的に猛威をふるっていますが、現在はどこも自国での対応に精一杯で、他国との客観的な比較が十分ではありません。そこで、本研究グループでは入手可能な世界の情報を科学的に解析することで、感染症終息のための新たな戦略が見いだせると期待し研究にとりくみました。
 
  •  研究成果 1:感染の広がり方には100倍程度の地域差

一般に世界の感染拡大は国ごとのPCR検査陽性者数の増加で報告されていますが、新型コロナ感染症では無症状の感染者が多くいることから、この数字は各国の検査の徹底度に影響されており、感染者数を正確には表していないと考えられます。そこで、図1に示す1日の死亡者数をその国の人口で補正したデータを、その変化のパターンから地域ごとの予測を可能とする機械学習で解析しました。人口1億人あたりの1日の死亡者数は、世界の多くの国で感染拡大30日後にほぼ一定となり、その推定値(中央値)は西洋諸国(欧州、北米、オセアニアを含む)では1180人であるのに対し、中東では128人、ラテンアメリカでは97人、アジア(中東を除く)では7人でした。このように死亡者数から解析すると新型コロナ感染症の広がり方には、西洋とアジア地域では100倍程度の著しい地域差があります。地域差の原因は、国の政策、高齢化の程度、BCGワクチン接種を含む厚生制度、医療環境、そして国民性などによる影響が考えられますが、民族の遺伝的要因(遺伝子配列の違い)による可能性もあります。遺伝的要因の候補としては、ウイルスの細胞への侵入に関わる蛋白質や、ウイルスから体を守る蛋白質の遺伝子の民族による違いなどが考えられています。新型コロナとの関連について、この分野の今後の研究が必要です。 
  • 研究成果 2:十分なPCR検査を実施する国の1日あたりの死亡者数は少ない

 

感染による死亡者数には地域差が大きいため、条件のよく揃っている西洋諸国について、感染による死亡者数とPCR検査の状況を比較しました。人口で補正した死亡者数とPCR検査数の間に関係はありませんでしたが、その陽性率との間には明確な相関が見られました。機械学習の解析によると、陽性率が7%未満の国の死亡者数は陽性率がそれ以上の国の15%に過ぎませんでした。陽性率が7.0〜16.9%の国と17.0〜28.0%の国の間には推定死亡者数に差はなく、7%未満の陽性率を保つことが、死亡者数の抑制に重要と考えられました(図2)。また、西洋諸国に限らず、陽性率が2%以下の国には、1日の死亡者の減少傾向が認められる国が含まれています(オーストラリア、台湾、中国、韓国)。なお、日本を含めアジア諸国の陽性率は、これまでは感染者が少ないので西洋諸国に比べて決して高くないですが、4月13日の東京の陽性率は32%もありました。 
 
  • PCR検査の陽性率の補足説明
どこの国でも、PCR検査の陽性者が増加して数日経過してから死亡者の増加が始まります。この2つの増加の間の期間は国によって1〜25日間の違いがあります。私たちは、この死亡者数の増加がみられるまでの期間とPCR検査の陽性率が反比例することを見出しました(逆相関、p < 0.01)。すなわち、陽性者が見出されて直ちに死亡者が増加した(この期間の短い)国は、PCR検査が不十分で症状がでる前の早期感染者を見落としていた、あるいは重症者の入院が手遅れになった可能性が高いと考えられます。この結果からも、PCR検査の陽性率は死亡者数変動の指標となることが明らかになりました。

以上の結果から、新型コロナ感染症で死亡者数を減らすためにはPCR検査の陽性率を低下させることが必要であり、そのためにはPCR検査数を濃厚接触者などで症状が見られていない者にまで幅広く拡充させることが急務であると結論します。

 
  • 研究者からのコメント(研究を主導的に進めた千葉大学大学院 薬学研究院の樋坂章博教授)

 

千葉大学大学院 薬学研究院 樋坂章博教授千葉大学大学院 薬学研究院 樋坂章博教授

「この研究は世界で初めて新型コロナ感染症でのPCR検査陽性率と死亡者数との相関を見いだしたものです。死亡者を増やさないためには、PCR検査を充実させることが必要です。しかし、私たちは、医療従事者の負担を今以上に増やすことは無理であることをよく知っています。そこで私たちは、適切であれば医療関係者や研究者等を総動員してでも前向きに社会全体でPCR検査拡大を強くサポートする必要性を提案します。」
  • 研究手法の詳細
新型コロナ感染症の世界各国における検査陽性者および死亡者数は、欧州疾病予防管理センター(ECDC)のホームページより入手しました。いずれも5日間の移動平均を用いて平滑化しています。現在のPCR検査の実施状況は、英語版のWikipedia (COVID-19 testing) より入手しました。機械学習は勾配ブースティング決定木により、Python(3.7.3)のscikit-learnライブラリ(0.22.2)を用いて実施しました。
 
  • 論文情報
本研究結果は、研究データのプレプリント・サーバー(査読前論文公開サイト)「Preprints」に掲載されています。
・論文タイトル:Global Comparison of Changes in the Number of Test-Positive Cases and Deaths by Coronavirus Infection (COVID-19) in the World
・著者:樋坂章博(教授)*1、吉岡英樹(博士課程大学院生)*1、畠山浩人(准教授)*1、佐藤洋美(講師)*1、尾内善広(教授)*2、安西尚彦(教授)*3
*1: 千葉大学大学院薬学研究院 臨床薬理学
*2: 千葉大学大学院医学研究院 公衆衛生学
*3: 千葉大学大学院医学研究院 薬理学

 

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会社概要

国立大学法人千葉大学

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URL
https://www.chiba-u.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月