アメニティで見るオフィス市場の動向(2023年)

三幸エステート株式会社

筑波大学大学院 システム情報工学研究群        松尾和史、青木日花

筑波大学システム情報系              教授 堤盛人

三幸エステート株式会社 マーケティング事業本部  今関豊和、工藤剛


筑波大学 不動産・空間計量研究室※1と三幸エステート株式会社※2は、賃貸オフィスビルに関する

各種データを活用し、オフィス市場の動態や賃料水準に関する調査を共同で行っています。

本稿では、2023年6月に公表したレポート※に関連して行った2023年末までにおける現代的なアメニティの経済効果に関する調査の結果を公表します。

※1 所在:茨城県つくば市、主宰:堤盛人教授 ※2 本社:東京都中央区、取締役社長:武井重夫

調査の背景と概要

 コロナ禍の経験を踏まえたオフィスの再構築が進む中で、質の高いオフィスビルに対する関心が高まっています。前回のレポート※では、東京都心5区に立地するオフィスビルに対して、ラウンジや屋上テラス、託児所、フィットネスなどの「現代的なアメニティ」の有無を調査し、現代的なアメニティの有無が賃料と空室率に有意な影響を及ぼすことを示しました。

 今回の調査では、調査の対象と期間を広げ、現代的なアメニティの経済効果について、最新の動向を分析しています。2023年12月末時点において、都心5区に立地する1フロア面積200坪以上、延床面積3,000坪以上の標準的な賃貸オフィスビル377棟を対象に、現代的なアメニティの有無を調査しました【図表1】。

※ 三幸エステート(2023).アメニティはオフィスの賃料・稼働率にプラス効果をもたらすのか? https://www.sanko-e.co.jp/pdf/data/OfficeUserReport230605.pdf

【図表1】調査概要

現代的なアメニティが賃料と空室率に与える影響

 前回の調査同様に、傾向スコアマッチングを用いて、現代的なアメニティを有するビルと、それらと類似した現代的なアメニティを有さないビルをマッチングし、両群の賃料、空室率の差異を分析しました。その結果、2023年時点で、現代的なアメニティを有するビルは賃料が5.1%高いことが分かりました【図表2】。

 一方、空室率の差異は軽微であり、2022年にあった有意差がなくなっています。これは、2022年から2023年にかけて、リニューアルによって新たに現代的なアメニティを付け加えたビルが複数棟あり、それらのオフィスビルはリニューアル時点で大きな空室を抱えていたことや、現代的アメニティがあることが当たり前となりつつある新築大規模オフィスビルが、まとまった面積の空室を抱えた状態で竣工したことに由来していると考えられます。 

 オフィスビルの賃貸借契約は、企業にとって重要な意思決定になるため、魅力的なオフィスビルでも、成約し、空室が解消されるまでには一定の時間を要します。そのため、新たに現代的なアメニティを付け加えても、即座に空室がなくなるわけではありません。しかし、リニューアルによって現代的なアメニティを付け加えたビルにおいても、個別の状況をみると、時間の経過とともに、空室は着実に解消しています。

 これらの結果は、依然として「アメニティの充実したオフィスビル」に対するニーズが高いことを示唆しています。統計的には、空室率への影響は有意な水準にないものの、賃料へのプラス効果は有意な水準にあり、この傾向は今後も継続することが見込まれます。但し、昨今は働き方の多様化や技術の発展に伴い、多種多様なアメニティがオフィスビルに付加されています。そのため、今後の調査では、「現代的なアメニティ」に限らず、より広範なオフィスビルの「質」について、その動向を調査する予定です。

【図表2】現代的なアメニティのプラス効果の経年変化

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会社概要

三幸エステート株式会社

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URL
https://www.sanko-e.co.jp/
業種
不動産業
本社所在地
東京都中央区銀座4-6-1 銀座三和ビル
電話番号
03-3564-8089
代表者名
武井 重夫
上場
未上場
資本金
1億円
設立
1977年05月