妊娠中の農薬の摂取が、子どもの自閉症の発症に影響か ~新しい予防法・治療法の開発に期待~
千葉大学社会精神保健教育研究センターの橋本謙二 教授(神経科学)、大学院医学薬学府博士課程3年の蒲垚宇 氏らは、妊娠中の農薬グリホサートの摂取が、子どもの自閉症スペクトラム障害(※1 ASD: autism spectrum disorder)などの神経発達障害の病因に関係している可能性があることを示しました。病因が未解明となっているASDの予防法・治療法の開発の足掛かりになることが期待されます。本研究成果は、2020年5月11日(米国)に米国科学アカデミー紀要の電子版で公開されます。
- 研究の背景
- 研究成果
1. 農薬を含む水を飲ませた妊娠マウスから生まれた仔マウス(以下、母体暴露群)の行動異常
- 妊娠マウスにグリホサートを含む水を離乳期(生後21日)まで与えると、生まれた仔マウスがASD様の行動異常(社会性相互作用の障害など)を示した。
2. 母体暴露群と、通常の水を与えた妊娠マウスから生まれた仔マウス(以下、コントロール群)との比較結果
- 母体暴露群の腸内細菌叢はコントロール群と比較して乱れていた。
- 母体暴露群の前頭皮質のsEHの発現はコントロール群と比較して有意に高く(図2)、同部位におけるエポキシ不飽和脂肪酸の量は有意に低下した。
3. sEH を阻害することによる行動異常の抑制効果
- 妊娠マウスへ sEH 阻害薬※5TPPUを妊娠期から離乳期まで投与すると、母体暴露群のASD様の行動異常が抑制された。
- 今後の展望と課題
- 論文情報
・雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
・DOI:https://doi.org/10.1073/pnas.192287117
- 研究プロジェクトについて
- 用語説明
※2 グリホサート:1970年に米国モンサント社(現在:バイエル社)が開発した除草剤(農薬の一種)。アミノ酸グリシンの窒素原子にホスホノメチル基が置換した化合物。植物のシキミ酸経路に作用して、生育に必要な芳香族アミノ酸の合成を阻害し植物を枯らす。シキミ酸経路はヒトを含む哺乳類には存在しないが、ヒトの腸内細菌はシキミ酸経路を有することから、グリホサートはヒトの腸内細菌叢を乱す可能性がある。近年、ASD患者における腸内細菌叢の異常が数多く報告されている。2015年、国際がん研究機関は、グリホサートを発がんのリスクが高い区分(2A)にした。またグリホサートは、「除草剤耐性遺伝子組み換え作物」に幅広く使用されている。
※3 母体免疫活性化モデル:妊娠動物に炎症を引き起こす化合物「poly(I:C)など」を投与すると、生まれてくる仔にASDと類似した行動異常が出現することから、国内外でモデル動物として幅広く使用されている。
※4 可溶性エポキシド加水分解酵素(sEH):アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などの多価不飽和脂肪酸を代謝する酵素で、代謝によって生じるエポキシ脂肪酸は、強力な抗炎症作用を示す。
※5 sEH阻害薬:エポキシ脂肪酸による強力な抗炎症作用の治療薬として期待されている薬。TPPUは、実験に使用されているsEH阻害薬である。海外共同研究者Bruce D. Hammock教授(米国EicOsis社)は、新規sEH阻害薬EC5026の臨床試験を実施中である。
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