顕微鏡で視える!分子が自ら連なる五つの環~世界初 数十ナノメートルに達するポリカテナンの合成に成功~
千葉大学グローバルプロミネント研究基幹の矢貝史樹 教授を中心とする国際共同研究チームは、世界で初めて数万個の小分子が自己集合することで、リング状構造が鎖のように連なったポリカテナンを合成し、さらに、その幾何学構造を原子間力顕微鏡(AFM)で可視化することに成功しました(図1・2)。これまでにも、リング状分子が鎖状に繋がったポリカテナンは知られていましたが、分子の自己集合現象を用いてサイズが数百ナノメートルに達する顕微鏡で視えるサイズの大きなポリカテナンの合成を実現した例は初めてのことです。この成果は、ナノメートル単位の複雑な形(トポロジー)を造る技術の第一歩であり、このように緻密に構造制御された分子の集合体は、未だ知られていない特異な性質を示すことが期待されます。本研究の成果は、「Nature」にて2020年7月15日(水)に公開されました。
なお、この国際共同研究チームには、千葉大学の他、英キール大学、英シンクロトロン光源科学施設、英ラザフォード・アップルトン研究所、南スイス応用科学芸術大学、伊トリノ大学が参画しています。
なお、この国際共同研究チームには、千葉大学の他、英キール大学、英シンクロトロン光源科学施設、英ラザフォード・アップルトン研究所、南スイス応用科学芸術大学、伊トリノ大学が参画しています。
- 研究の背景
- 研究成果
研究者らは、分子がよく溶ける溶媒と溶けない溶媒を急激に混合する手法(溶媒混合法)でナノリングを作成していたところ、ナノリングの約20%がカテナン構造を自発的に形成していることをAFM観察によって見出しました。メカニズムを詳細に解析したところ、すでに形成された環構造の表面が足場となり、新たな環構造が形成されやすいことが明らかになりました(図3)。このような現象は「二次核形成」と呼ばれ、アルツハイマー病などを引き起こすタンパク質の凝集においても重要な現象です。まさに、分子集合における鋳型合成と言うことができます。
この結果を踏まえ、研究者らは二次核形成がより起こりやすい溶媒や混合法を徹底的に検討し、最終的に環状分子集合体が形成されたアルカン溶液へモノマーのクロロホルム溶液を逐次加えていくことで、カテナンの鎖長を長くすることに成功し、最大22個の環構造からなるポリカテナンの形成に成功しました。このポリ[22]カテナンの長さは500 nmにも及ぶことがAFMによって確認されました(図2)。
- プロジェクトリーダー 矢貝史樹教授のコメント
- 研究プロジェクトについて
・科学研究費助成事業(19H02760、P19341、17J02520、26102010、26102001)
・村田学術振興財団 平成31年度 研究助成「トポロジー制御によって発展する超分子ポリマーエレクトロニクス」
・松籟科学技術振興財団 2019年度 研究助成「発光性ポリカテナンの創出と革新的機能の探求」
・Swiss National Science Foundation (SNSF grants IZLIZ2_183336、200021_175735)
・H2020 Excellent Science European Research Council under the European Union’s Horizon 2020 research and innovation program (818776-DYNAPOL)
- 論文情報
・著者:Sougata Datta*1、加藤泰輝*2、東原口誠也*2、新津敬介*2、磯辺篤*2、齋藤卓穂*2、
Deepak D. Prabhu*1、北本雄一*3、Martin J. Hollamby*4、Andrew J. Smith*5、Robert Dagleish*6、
Najet Mahmoudi*6、Luca Pence*7、Claudio Perego*7、Giovannni M. Pavan*7,8、矢貝史樹*1,2,3
*1 千葉大学大学院工学研究院
*2 千葉大学大学院融合理工学府先進理化学専攻
*3 千葉大学グローバルプロミネント研究基幹
*4 キール大学(英国)
*5 シンクロトロン光源科学施設(英国)
*6 ラザフォード・アップルトン研究所(英国)
*7南スイス応用科学芸術大学(瑞国)
*8トリノ大学(伊国)
・雑誌名:Nature
・DOI:10.1038/s41586-020-2445-z
- 関連ニュースリリース
・「キメラ型超分子ポリマーの開発に成功 次世代高分子材料の開発に期待」千葉大学 2019 年 10 月 11 日発行
・「自発的に折りたたまれるポリマー材料の開発に成功 タンパク質の機能を模倣する新素材への応用に期待」千葉大学 2018 年 8 月 31 日発行
- 用語解説
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