エボラ流行から3ヵ月 国境なき医師団の対応は続く
コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の北東部で続くエボラ出血熱の流行に、国境なき医師団(MSF)は対応を続けている。北キブ州とイトゥリ州のエボラ治療センターでは、感染患者の治療とともに、感染制御と予防、除染と消毒、トレーニングなどを通じた支援を進めている。8月1日にコンゴ保健省がエボラ流行宣言を出してから約3ヵ月。これまでの症例数やMSFの対応をまとめた。
これまでの数字
(2018年10月25日現在・コンゴ保健省発表)
- 合計症例数:251 件(確定例 216件、および ほぼ確実※例35件)
- 確定例のうち、死亡した人数: 162人(確定例 127件、および ほぼ確実例35件)
- 治癒者数合計:67人
- 活動中のMSFスタッフ:100人 (北キブ州とイトゥリ州のエボラ・プロジェクト)
現在の状況
これまでに、北キブ州とイトゥリ州内にある10の保健区域(マンディマ、マバラコ、ベニ、オイシャ、ブテンボ、カルングタ、コマンダ、マサレカ、ミュジヤンエーヌ、チョミア)でエボラの確定例、またはほぼ確実例が報告されている。
現地は今回の流行で2度目のピーク期を迎えている。流行の中心はもともとの発生地であるマンギナ村から大都市ベニに移り、10月に入って確定例が目に見えて増加。北キブ州では9月、症例数が減少していると見られていたが、現在、状況はより深刻になっている。
今回の流行でもうひとつ懸念されるのは、広い地域で散発的な流行が繰り返し起きている点だ。イトゥリ州の州都ブニアから60km南にあるチョミアでは、9月20日に新たな症例が発見されたほか、ブニアの東45kmにあるコマンダでも新規症例が出ている。チョミアの病院で亡くなった感染患者の一人はベニで感染したとみられ、そのまま数十キロ北へ移動していた。ウガンダ国境にも近いため、隣国に飛び火する恐れも強まっている。
コンゴ保健省と世界保健機関(WHO)の疫学チームは、ウイルスに接触した人の追跡調査と経過観察を続けている。ただ、調査は一筋縄ではいかない。感染地の人びとは仕事や家庭の事情で移動が多く、村から村へと渡り歩いている。そのため医療機関もいろいろな場所で受診する。エボラの疑い例と分かり治療センターに搬送されるまでに、2ヵ所以上の診療所を受診していることが多い。流行の始まり以来、特定された接触者は8000人余り。現在2700人以上が保健省による経過観察を受けている。
MSFのエボラ対応と役割
コンゴ保健省の要請を受け、MSFはエボラ対策の調整とともに、感染者の治療を担っている。また、防護服の装着方法や感染予防・制御、トリアージ※などの訓練と、疫学的調査・監視活動も支援している。
※重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること
隔離病棟と治療センターの設置
- マンギナ: エボラ治療センターを8月14日に開院、ベッド数24床で運営。
- ベニ: 設置した隔離室を保健省に移譲、現在は治療センターとして他NGOが管轄。
- ブテンボ: 2つ目のエボラ治療センターを9月20日に開院、現在MSFと保健省が共同で運営。
- チョミア: 3つ目のエボラ治療センターを10月12日に開院、センターで働く保健省職員に専門技術の訓練を提供。
- マケケ:一時滞在センターで疑い例を隔離し、エボラウイルス検査を実施。陽性反応が出た患者をマンギナやベニのエボラ治療センターに移送。
開発中の薬による治療
対症療法のほか、感染が確認された患者には、承認前の5つの候補薬(ファビピラビル、レムデシビル、REGN3470-3471-3479、ジーマップおよびmAb114)から治療薬を選び、患者、または家族へのインフォームド・コンセントで合意が得られた場合にのみ、対症療法に加える形で行われる。
感染予防と制御
防護服などのエボラ対応備品を準備し、適切な衛生・感染制御ガイドラインを導入。地域の医療施設でスタッフを訓練し適切にエボラ疑い例のトリアージを行えるようにするほか、必要に応じて隔離室も設置できるようにしている。
緊急チームの立ち上げ
医師、看護師、給排水・衛生活動の専門家で構成される緊急チームを編成、各現場へ急行できる体制をとっている。
予防接種と健康教育
感染拡大防止のため、州境の地域で医療スタッフ、宗教指導者、埋葬人など、感染リスクの高い人に予防接種を実施。
疫学的調査と監視
コンゴ保健省とWHOによる疫学的調査と監視活動の戦略決定をサポート。各現場の医療施設をスクリーニングしている。
周辺国でも緊急事態に備える
ウガンダや南スーダンにいるMSFチームも、隔離病棟用テントを設置するなど国境を越えてエボラが流行する事態に備えている。
エボラ対応の課題
北キブ州のベニでは10月初めから症例数が激増した。新規症例の多くは他のエボラ患者の接触者リストに載っていない患者だ。ウガンダとの国境にあるアルバート湖地域に流行が広がっているのも懸念される。
現地で続く情勢不安により、流行の封じ込めが難しくなっている。ベニでは9月22日に襲撃事件が起こり、医療活動が全面的に停止した。この間は、エボラ患者の接触先の経過観察が不可能になった。また、危険で立ち入れない「レッド・ゾーン」ではエボラ患者の接触先を追うことは難しい。医療従事者に対する暴力もかなり深刻である。特に、感染制御のための安全な埋葬を行うチームは、埋葬方法が現地の伝統に反した形であるため、地域社会への説明が非常に難しい。
エボラ対応では、地域社会の信頼を得ることが重要だ。だがコンゴでは、長年の紛争により、住民の当局への不信感が根強くある。恐怖や抵抗を感じている人びとに対し、なぜエボラ治療センターに来ることが重要なのか、治療に来れば、愛する家族や友人を感染から守ることができると納得してもらうこともMSFの仕事だ。これは地域社会との良好なコミュニケーションを通じて初めて実現する。MSFは特に流行の中心となっているベニで、地域の信頼を得るための努力を続けている。
MSFのエボラ対応の経緯:公式サイトhttps://www.msf.or.jp/news/detail/pressrelease/cod20181106.html
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