次世代大容量高速光通信の実現に一歩!センチメートルスケールの螺旋ポリマーファイバー創成に世界初成功

 千葉大学の尾松孝茂教授、有田佳彦客員准教授(英国セントアンドリュース大学 研究員兼任)、英国セントアンドリュース大学のKishan Dholakia教授らの国際共同研究グループは、光渦(注1)の安定した空間伝搬を可能にする「螺旋ポリマーファイバー」を、先行研究より100倍以上長いセンチメートルスケールで創成することに世界で初めて成功しました。非回折光渦(注2)の性質と自己組織化現象を生かして、光硬化性樹脂に光照射をするだけで形成されるこの「螺旋ポリマーファイバー」は、大容量高速光通信を実現する次世代型光ファイバーの実用化に向けて大きく寄与します。本研究成果は、2020年7月15日に科学雑誌「Optics Letters」にてオンライン掲載されました。
  • 研究の背景
 より大容量・高速の通信を実現する手段として、光渦を利用した次世代光通信が注目されています。複数の光渦にデータを幾重にも重ねることで、100テラバイト毎秒を超える大容量高速通信ができるとされています。
 しかし、光渦を安定して空間伝搬できる実用的なファイバーの作製方法は未だ確立されていません。これまでも光渦を伝搬するためのファイバー形成の研究は行われてきましたが、長さはマイクロメートルスケールが最大であり、実用化には多くの課題が残されていました。
  • 研究の成果

図1 本研究にて形成された螺旋ポリマーファイバーの例。(長さ5.8mm、ファイバー直径~6μm、螺旋のねじれの間隔は平均250 μm)図1 本研究にて形成された螺旋ポリマーファイバーの例。(長さ5.8mm、ファイバー直径~6μm、螺旋のねじれの間隔は平均250 μm)

図2 非回折ではない光渦の伝搬方向プロファイル(上)と非回折光渦の伝搬方向プロファイル(下)。非回折光渦の方が10倍以上長い焦点深度を持つ。図2 非回折ではない光渦の伝搬方向プロファイル(上)と非回折光渦の伝搬方向プロファイル(下)。非回折光渦の方が10倍以上長い焦点深度を持つ。

 本研究では、光硬化性樹脂に非回折光渦を照射して硬化させ、図1のような長尺ファイバーの形成に成功しました(「実験の詳細」参照)。
 非回折光渦は、空間伝搬しても空間的強度分布が変わらない非回折性と図2に示すような長い焦点深度(注3)を有し、これらの性質により長尺のファイバーが形成できました。また、形成されたファイバーは拡大図を見ると螺旋を描いていることが分かりますが、これは非回折光渦の軌道角運動量(注4)が転写されてファイバーが捩じれたことによります。
 これまで光照射によって形成された螺旋ファイバーの長さは最大でも140μmでしたが、今回の実験でできたファイバーの長さは最大1cmを超え、世界で初めてセンチメートルスケールの長尺螺旋ファイバーを光照射だけで作製することに成功しました。また、作製した螺旋ファイバーの光伝播性能は良好であることも確認されました。
 本成果により創成された「長尺螺旋ポリマーファイバー」は、光渦を安定して伝搬できる光ファイバーの実用化に向けた大きなステップと言えます。
  • 実験の詳細

図3  樹脂中でできたファイバー中を伝搬してファイバーから出射した非回折ではない光渦(上)と非回折光渦(下)。図3 樹脂中でできたファイバー中を伝搬してファイバーから出射した非回折ではない光渦(上)と非回折光渦(下)。

 実験には、波長532nmのレーザーを用いました。螺旋型位相板と円錘レンズを用いて発生させた非回折光渦(1次ベッセルビーム)を開口数0.4、倍率20の顕微鏡対物レンズを用いて光硬化性樹脂中に照射しました。焦点距離が長い非回折光を用いることで、長尺螺旋ファイバーを容易に作製することができます。図1のファイバーは、照射したレーザーのパワー0.75W、露光時間15秒で形成されました。
 本実験では、「光導波路自己形成」という名前で知られた自己組織化現象を利用しています(関連ニュースリリース参照)。光硬化性樹脂は光硬化と同時に屈折率が上昇し、光を閉じ込めるレンズのように振舞います。その結果、光は硬化した樹脂中を回折することなく安定に伝播すると同時に、さらに光硬化を促進します。このような過程で、樹脂がファイバーへと成長します。
 図3は、非回折でない通常の光渦(LG:ラゲールガウスビーム)と非回折光渦(BB)で作製したファイバーの透過光パターンを比較したものです。光を照射することで徐々にファイバーが延びていきますが、非回折ではない通常の光渦でファイバーを作製した場合、ファイバーが形成されるとともに(時間経過とともに)透過光のパターンは急激に劣化して、最終的には原形をとどめないランダムな散乱光になってしまいます。一方、非回折光渦でファイバーを作製すると、ファイバーからの透過光は、時間経過によらず円環状であることが分かります。
  • 用語解説
注1) 光渦 光の等位相面である波面が螺旋状(螺旋波面)になっており、ドーナツ型の強度分布をもつ光を光渦と呼ぶ。光渦の螺旋波面は光の波長に対する波面の螺旋の巻き数ℓ(整数)で定義することができる。
注2) 非回折光渦 空間伝搬しても回折しない性質(非回折性)をもつことにより、空間伝搬しても断面積や空間強度分布が変わらない光渦。
注3) 焦点深度 集光したレーザー光の回折による光の広がりが無視できる領域。通常、光の断面積が、最小断面積の2倍以下である領域を示す。
注4) 軌道角運動量 偏光に依存しない螺旋状波面に由来する光の角運動量。軌道角運動量を持つ光を微小物質に照射すると、微小物質は光のトルクを受けて公転運動したり、捩じれたりする。
  • 論文情報
論文タイトル:“Photopolymerization with high-order Bessel light beams”
雑誌名:Optics Letters
  • 関連ニュースリリース
「光渦が創る螺旋ポリマーファイバー~DNAシミュレーターへの応用にも期待~」千葉大学 2018年10月5日発行 
https://www.f-eng.chiba-u.jp/topics/files/20181009.pdf
  • 研究プロジェクトについて
本研究は、科学研究費補助金新学術領域「光圧によるナノ物質操作と秩序の創生」および科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として行われました。
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