コロナで企業の「脱首都圏」急増、過去最多の351社 11年ぶり転出超過 移転先、北海道がコロナ前から5倍に急増 「テレワーク」浸透背景に遠隔地への移転増加
首都圏・本社移転動向調査(2021年)
新型コロナウイルスの感染拡大で、本社機能や主要拠点が首都圏に集中することの脆弱性が改めて認知された2021年。足元では、在宅勤務が定着するなか、本社など主要拠点を都市部から地方に移転・分散する動きが急速に進んでいる。こうしたなか、首都圏から地方へ本社を移した企業の数は昨年351社となり過去最多、首都圏として11年ぶりの転出超過となった。
<調査結果(要旨)>
2021年の首都圏・本社移転動向
首都圏外への本社移転、過去最多の351社 11年ぶりの転出超過に
このうち、首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)から地方へ、本社または本社機能を移転した企業は351社判明、前年から2割超の大幅増加となった。転出企業が300社を超えるのは2002年以来19年ぶりで、これまで最多だった1994年の328社を大幅に上回り、過去最多を更新した。2020年に続き、首都圏外へ本社を移転する企業が増加した。一方、地方から首都圏へ本社を移転した企業は328社だった。前年から約1割増加し、2015年の335社に次ぐ2番目の多さだった。
この結果、2021年における首都圏の本社移転動向は、転出社数が転入を23社上回る「転出超過」となった。首都圏で転出超過となるのは2010年以来11年ぶり。地方の成長企業などを中心に、首都圏に本社を移す動きは前年より強まったものの、昨年11月時点で首都圏外への本社移転企業が300社を突破するなど、過去に例を見ないハイペースで企業の首都圏外への移転=脱首都圏の動きが進み、結果として転出超過に転じた。
首都圏外の本社移転をめぐっては、首都直下型地震など大規模災害によるダメージの軽減に加え、少子高齢化・人口流出に悩む地方の活性化につなげる目的で、政府や自治体による移転の優遇税制や補助金といった支援策が打ち出されてきた。ただ、企業側では地方移転によるメリットより、採用面や取引関係の維持などでデメリットが上回るという認識がコロナ禍以前は大きく、首都圏外への本社移転の動きには停滞感もみられていた。しかし、コロナ禍で首都圏一極集中の事業リスクが顕在したことに加え、業績悪化にともなうオフィスコストの圧縮といった後ろ向きの移転需要が増加。また、テレワークが普及・浸透したことでオンライン上でも業務可能となった企業では、首都圏におけるオフィス維持のメリットが薄れるなど、前向きな移転需要も重なった。総じて、地方に本社を移転することに対するメリットが改めて見直されたことが、首都圏外への本社移転が急増した大きな要因となっている。
2021年に本社を首都圏から移転した、または移転計画を明らかにした企業は、大手芸能事務所のアミューズ(東京→山梨県富士河口湖町)のほか、仏タイヤ大手の日本法人・日本ミシュランタイヤ(東京→群馬県太田市)、光学・電子製品向け材料部品製造のデクセリアルズ(東京→栃木県下野市)などがある。
首都圏→北海道、コロナ前の約5倍に急増 福岡、宮城、広島なども過去最多
首都圏への移転元では、最も多いのは「大阪府」の67社で、次いで「愛知県」(26社)、「北海道」(23社)、「茨城県」(22社)などが続き、前年から大きな順位の変化は無かった。
2021年の企業移転動向を都道府県別にみると、転入・転出ともに最も多かったのは「東京都」だった。東京都の転出数は893社と900社に迫り、前年から約200社増加。2年連続で前年を上回ったほか、2004年(970社)以来の高水準となった。なお、最も転入が少なかったのは「山形県」(ゼロを除く)、最も転出が少なかったのは「高知県」(それぞれ1社)。
各都道府県別の転入・転出超過をみると、企業の転入超過が最も多かったのは「神奈川県」(+146社)、2019年以来2年ぶりに全国トップとなった。転出超過は「東京都」が最も多い322社。
首都圏からの本社移転は、2021年においては物流センターや工場など大規模な施設の新築・移設を前提とする製造・流通業種ではなく、ソフトウェア開発など比較的移転の容易な業種で多くみられた。
首都圏への転入でも、「サービス業」が124社と最も多く、2015年(126社)に次ぐ高水準となった。以下、「卸売業」(52社)、「小売業」(35社)など流通業種が多くを占めた。
業容の小規模な企業で転出の動きが加速 転入はスタートアップなど多く
転入企業で最も多かったのは「1-10億円未満」の135社だった。企業数の多い首都圏に営業機会を求めた、成長途上の企業が多く転入したとみられる。
テレワーク、ウェブ会議の普及・浸透により、職場や取引先が集中する首都圏にオフィスを置く必要が薄れている。これらの動きはコロナ禍の影響を受けた「一過性」の現象となる可能性も否定はできない。しかし、首都圏外へ本社を移転する「動機」の変遷も含め、長く続いた企業の首都圏集中というトレンドを明確に断ち切った点は特筆すべきポイントだったと言える。
首都圏をめぐる本社移転の今後は、テレワークなどコロナ禍に対応したビジネス環境が定着するか、コロナ禍前に戻るかに左右されるとみられ、引き続き企業の「脱首都圏」の動きが続くかは不透明な状況下にある。ただ、企業側では拠点の集約化に加えオフィス賃料削減、「意思決定や経営のスピードが上がった」という副次的効果もあるなど、時間を経るごとに地方移転のメリットの多さが次第に明らかになってきた。こうしたなか、政府は「集中から分散へ」を新たな政策の柱に掲げ、地方への移住や企業移転に向けた具体策に取り組むほか、自治体によるサテライトオフィスや住居の整備、休暇先からリモートワークをする「ワーケーション」の誘致など、支援内容も多様化。これまでのまとまった工業団地の整備や助成金といった「モノ・カネ」中心の企業誘致策から、「働く“ヒト”」に焦点を当てた受け皿の整備が各地で進んでいる。そのため、多様な働き方を取り入れる企業が多いIT産業やスタートアップをはじめ、比較的移転が容易な小売業やサービス業といった企業では、首都圏外を有力な候補地として移転の検討や計画策定などの動きが活発化しそうだ。
一方で、首都圏から移転した企業の多くが、移転先にもともと事業所や工場などの拠点があるほか、創業の地など所縁のある地へ凱旋したケースが多い。対して、新たな土地に進出する形での本社移転は少ないなど、本社移転の内容には偏りもみられる。決め手の一つなるテレワークでも、「実用的な通信設備が無い場所は移転候補地として検討ができない」など、これまでとは異なる判断材料も新たに加わっている。受け入れ側となる地方都市では、首都圏など都市部と比較しても遜色のない通信網の整備が、企業誘致を軸とした地域活性化を図る上での重要課題となる。
- 2021年に本社移転を行った企業は、全国で2258社。このうち、首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)から地方へ、本社または本社機能を移転した企業は351社判明、前年から2割超の大幅増加となった。転出企業が300社を超えるのは2002年以来19年ぶりで、これまで最多だった1994年の328社を大幅に上回り、過去最多を更新した
- 地方から首都圏へ本社を移転した企業は328社。この結果、2021年における首都圏の本社移転動向は、転出社数が転入を23社上回る「転出超過」となった。首都圏で転出超過となるのは2010年以来11年ぶり
- 首都圏からの移転先では、最も多いのは「大阪府」の46社。「北海道」は33社で、コロナ前の19年(7社)から約5倍に急増した。首都圏から北海道への移転社数としては過去最多となる。首都圏への移転元では、最も多いのは「大阪府」の67社
- 首都圏からの転出企業を売上高規模別にみると、最も多かったのは「1億円未満」(176社)で、多くが小規模な企業だった。なかでも、5000万円未満の小規模企業、設立間もないスタートアップの割合はコロナ前を大きく上回る
2021年の首都圏・本社移転動向
首都圏外への本社移転、過去最多の351社 11年ぶりの転出超過に
2021年に本社移転を行った企業は、全国で2258社に上った。前年(2020年)から1割超の増加となり、1990年以降で01年(2299社)に次ぐ過去5番目の多さとなった。コロナ禍で県境をまたぐ移動の自粛を余儀なくされたことで、2020年中の移転計画などが中止・延期となった企業は多く、その反動として大幅に増えたものとみられる。
このうち、首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)から地方へ、本社または本社機能を移転した企業は351社判明、前年から2割超の大幅増加となった。転出企業が300社を超えるのは2002年以来19年ぶりで、これまで最多だった1994年の328社を大幅に上回り、過去最多を更新した。2020年に続き、首都圏外へ本社を移転する企業が増加した。一方、地方から首都圏へ本社を移転した企業は328社だった。前年から約1割増加し、2015年の335社に次ぐ2番目の多さだった。
この結果、2021年における首都圏の本社移転動向は、転出社数が転入を23社上回る「転出超過」となった。首都圏で転出超過となるのは2010年以来11年ぶり。地方の成長企業などを中心に、首都圏に本社を移す動きは前年より強まったものの、昨年11月時点で首都圏外への本社移転企業が300社を突破するなど、過去に例を見ないハイペースで企業の首都圏外への移転=脱首都圏の動きが進み、結果として転出超過に転じた。
首都圏外の本社移転をめぐっては、首都直下型地震など大規模災害によるダメージの軽減に加え、少子高齢化・人口流出に悩む地方の活性化につなげる目的で、政府や自治体による移転の優遇税制や補助金といった支援策が打ち出されてきた。ただ、企業側では地方移転によるメリットより、採用面や取引関係の維持などでデメリットが上回るという認識がコロナ禍以前は大きく、首都圏外への本社移転の動きには停滞感もみられていた。しかし、コロナ禍で首都圏一極集中の事業リスクが顕在したことに加え、業績悪化にともなうオフィスコストの圧縮といった後ろ向きの移転需要が増加。また、テレワークが普及・浸透したことでオンライン上でも業務可能となった企業では、首都圏におけるオフィス維持のメリットが薄れるなど、前向きな移転需要も重なった。総じて、地方に本社を移転することに対するメリットが改めて見直されたことが、首都圏外への本社移転が急増した大きな要因となっている。
2021年に本社を首都圏から移転した、または移転計画を明らかにした企業は、大手芸能事務所のアミューズ(東京→山梨県富士河口湖町)のほか、仏タイヤ大手の日本法人・日本ミシュランタイヤ(東京→群馬県太田市)、光学・電子製品向け材料部品製造のデクセリアルズ(東京→栃木県下野市)などがある。
首都圏→北海道、コロナ前の約5倍に急増 福岡、宮城、広島なども過去最多
首都圏からの移転先では、最も多いのは「大阪府」の46社で、次いで「茨城県」(37社)となった。大阪府への転出社数は2年連続で増加したほか、2010年の41社を上回り過去最多を更新した。3位の「北海道」は33社で、コロナ前の19年(7社)から約5倍に急増した。首都圏から北海道への移転社数としては過去最多となる。人口密度の低さなどから、本社機能や研究施設の受け皿として北海道が注目されていることも背景にある。上記に加え、「宮城県」(19年比+10社)、「岡山県」(同+9社)、「兵庫県」(同+7社)などはコロナ前から特に増加。「福岡県」(20社)、「宮城県」(14社)、「広島県」(10社)なども、首都圏からの転出先として過去最多(広島県は最多タイ)となった。これまで、首都圏からの本社移転先は大都市部、北関東3県など首都圏近郊が多かった。しかし、リモートワークが定着したことで、遠隔地のほか、人口密度の低い地方・中核都市が本社移転先の有力候補に新たに浮上している。
首都圏への移転元では、最も多いのは「大阪府」の67社で、次いで「愛知県」(26社)、「北海道」(23社)、「茨城県」(22社)などが続き、前年から大きな順位の変化は無かった。
参考:「転入超過社数」全国最多は神奈川県、2年ぶりに全国トップ
2021年の企業移転動向を都道府県別にみると、転入・転出ともに最も多かったのは「東京都」だった。東京都の転出数は893社と900社に迫り、前年から約200社増加。2年連続で前年を上回ったほか、2004年(970社)以来の高水準となった。なお、最も転入が少なかったのは「山形県」(ゼロを除く)、最も転出が少なかったのは「高知県」(それぞれ1社)。
各都道府県別の転入・転出超過をみると、企業の転入超過が最も多かったのは「神奈川県」(+146社)、2019年以来2年ぶりに全国トップとなった。転出超過は「東京都」が最も多い322社。
企業属性別 首都圏からの転出、ソフトウェア開発などサービス産業が上位
首都圏から転出した企業の業種は、「サービス業」が156社で最多。また、同業種としては2017年の114社を大幅に上回り、過去最多を更新した。このうち、ソフトウェア開発やベンダーなどソフトウェア産業が23社あり、サービス産業全体の1割超を占める。次いで「卸売業」(60社)、「製造業」(51社)が多かったものの、卸売業の割合(17.1%)は過去最低、製造業(14.5%)も19年(11.8%)に次いで低い水準だった。
首都圏からの本社移転は、2021年においては物流センターや工場など大規模な施設の新築・移設を前提とする製造・流通業種ではなく、ソフトウェア開発など比較的移転の容易な業種で多くみられた。
首都圏への転入でも、「サービス業」が124社と最も多く、2015年(126社)に次ぐ高水準となった。以下、「卸売業」(52社)、「小売業」(35社)など流通業種が多くを占めた。
業容の小規模な企業で転出の動きが加速 転入はスタートアップなど多く
首都圏からの転出企業を売上高規模別にみると、最も多かったのは「1億円未満」(176社)で、多くが小規模な企業だった。なかでも、5000万円未満の小規模企業、設立間もないスタートアップの割合はコロナ前を大きく上回る水準で、10年前(2011年)を大幅に上回った。研究開発型のスタートアップを中心に、研究施設の拡大などを目的として首都圏外に移転するケースがみられる。10億円規模の中堅企業も、コロナ前を上回る水準だった。
転入企業で最も多かったのは「1-10億円未満」の135社だった。企業数の多い首都圏に営業機会を求めた、成長途上の企業が多く転入したとみられる。
地方移転のメリット見直し進む 受け入れ側の通信インフラ整備が急務
テレワーク、ウェブ会議の普及・浸透により、職場や取引先が集中する首都圏にオフィスを置く必要が薄れている。これらの動きはコロナ禍の影響を受けた「一過性」の現象となる可能性も否定はできない。しかし、首都圏外へ本社を移転する「動機」の変遷も含め、長く続いた企業の首都圏集中というトレンドを明確に断ち切った点は特筆すべきポイントだったと言える。
首都圏をめぐる本社移転の今後は、テレワークなどコロナ禍に対応したビジネス環境が定着するか、コロナ禍前に戻るかに左右されるとみられ、引き続き企業の「脱首都圏」の動きが続くかは不透明な状況下にある。ただ、企業側では拠点の集約化に加えオフィス賃料削減、「意思決定や経営のスピードが上がった」という副次的効果もあるなど、時間を経るごとに地方移転のメリットの多さが次第に明らかになってきた。こうしたなか、政府は「集中から分散へ」を新たな政策の柱に掲げ、地方への移住や企業移転に向けた具体策に取り組むほか、自治体によるサテライトオフィスや住居の整備、休暇先からリモートワークをする「ワーケーション」の誘致など、支援内容も多様化。これまでのまとまった工業団地の整備や助成金といった「モノ・カネ」中心の企業誘致策から、「働く“ヒト”」に焦点を当てた受け皿の整備が各地で進んでいる。そのため、多様な働き方を取り入れる企業が多いIT産業やスタートアップをはじめ、比較的移転が容易な小売業やサービス業といった企業では、首都圏外を有力な候補地として移転の検討や計画策定などの動きが活発化しそうだ。
一方で、首都圏から移転した企業の多くが、移転先にもともと事業所や工場などの拠点があるほか、創業の地など所縁のある地へ凱旋したケースが多い。対して、新たな土地に進出する形での本社移転は少ないなど、本社移転の内容には偏りもみられる。決め手の一つなるテレワークでも、「実用的な通信設備が無い場所は移転候補地として検討ができない」など、これまでとは異なる判断材料も新たに加わっている。受け入れ側となる地方都市では、首都圏など都市部と比較しても遜色のない通信網の整備が、企業誘致を軸とした地域活性化を図る上での重要課題となる。
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