油で汚染された土壌専用の洗浄剤を開発
汚染により再利用困難な“ブラウンフィールド”問題に向けた新技術
今回の研究成果の一部は、第29回 地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会(2024年6月13~14日・山形県)にて発表しました。
*1 土壌汚染の存在あるいはその懸念から、土地が有する価値よりも著しく低い用途あるいは未利用となった土地のことです。
背景
土地の土壌が汚染されているために売却や再開発ができず、長期間放置されるブラウンフィールド問題が世界中で発生しています。日本においても、東京ドーム約5,988個分にあたる2.8万ヘクタールがブラウンフィールド化すると試算されており*2、対応策が課題です。しかし、現在主流の「掘削除去法」は、汚染土壌を掘削して新しく入れ替える、掘削した土壌をプラントに運んで機械で洗浄するなどの必要があるため、多額の費用がかかります。花王は、ブラウンフィールドを引き起こしやすい土壌汚染の中でも、ガソリンスタンドや工場跡地で発生する油由来の汚染に着目。得意とする界面化学技術と衣類の洗たくで培ってきた知見を活かし、汚染された土壌を移動させずにその場で洗浄できる新たな洗浄剤の開発を試みました。
*2 環境省 「土壌汚染をめぐるブラウンフィールド対策手法検討調査」中間とりまとめの公表についてhttps://www.env.go.jp/press/8300.html
油を土から強力に引き剥がす土壌専用の洗浄剤
土壌には粒子の大きさが異なる土が混在しています。油は粒子が小さい土の間に集まる性質がありますが、洗浄により除去することは難しいとされており、従来の洗浄剤では75μm以下の小さい土粒子の間に集まった油を引き剥がすことはできていませんでした。花王は、土粒子同士をバラバラに分散させ、かつ土粒子表面を油と反発する性質(親水性)に変化させることを考案。これにより、水を加えて撹拌すると、土の粒度に左右されず、土に付着した油だけを引き剝がして分離し、水中に浮き上がらせることが可能な土壌専用洗浄剤の開発に成功しました。この洗浄剤を使用することで、プラントに運搬して機械による洗浄をせずとも、その場で土壌を洗浄できると考えられ、今までよりも格段に簡単に土壌の浄化が行えるようになることが期待できます(図1)。
土壌専用の洗浄剤を用いた実験
開発した土壌専用洗浄剤の効果を確かめるため、共同で工法の開発に取り組んでいる株式会社タツノと2024年7月に試験場で実験を行いました。実験では、模擬的に作成した5㎡(重量約9t)の油汚染土をコンテナに入れて土壌に見立て、水と洗浄剤を添加して重機で5分間撹拌し、30分静置した後に浮いてきた油と洗浄水を回収。この工程を2回繰り返し、再度水ですすぎを行った後に油汚染が除去できているか評価しました*3。汚染の評価には、環境省が策定した油汚染対策ガイドラインにおける油臭、油膜の発生有無、それらを補完するTPH(Total Petroleum Hydrocarbon)測定の3つの指標を用いました*4。
洗浄後、油臭は「油のにおいであるとらくに感知できる」程度から「無臭」にまで低減(5段階中の3から0)し、油膜も消失、TPHは5300mg/kgから240㎎/kgに低下しました(図2)。この結果から、開発した土壌専用洗浄剤の土壌の油汚れを落とす効果を確認できました。
さらに、洗浄後の排水を別コンテナに移し、凝集沈殿処理と活性炭処理を行ったところ、水質汚濁防止法に定められている一般排水基準値に収まることも確認しました。また、環境への影響を評価するため、ライフ・サイクル・アセスメント(LCA)の手法を用いてCO2排出量の計算を行ったところ、土壌を洗浄する工法で現在主流である掘削除去法に比べてCO2排出量を約30%削減*5できることがわかりました。この結果より、実用化すれば、コストだけでなく環境負荷も抑えた土壌浄化の方法となる可能性があると考えます。
*3 試験場で、砂質土の軽油汚染濃度TPH約5000mg/kgの油汚染土壌5m3に対し、水3m3と洗浄剤7.5kgを使用して洗浄を行いました。
*4 環境省が制定した油汚染対策ガイドラインhttps://www.env.go.jp/water/dojo/oil/full.pdfを参考に、油臭評価は土壌50gを試験管に入れて30分放置した後ににおいを嗅いで0~5(無臭~強烈なにおい)の5段階で評価。油膜評価は蒸留水を入れたシャーレに薬さじ1杯分(総重量約5g)の土壌を静かに入れ、直後の液面を目視で観察。TPHはGC-FID法を用いて濃度を測定。なお、TPHは石油由来の炭化水素化合物の総量を表し、TPH濃度を測定することでどの程度土壌に油が含有されているかを確認できます。
*5 掘削除去法は熊本県熊本市で発生した油汚染土を大阪府大阪市大正区に運搬して廃棄処理した事例に基づき試算。土壌洗浄は同汚染場所で洗浄(今回の実験と同様)と排水処理(活性炭使用量5t)を行った場合を想定しています。
今後の展望
今回、土壌の土の粒度に左右されず、油汚染を取り除くことができる土壌専用の洗浄剤を開発し、土を移動させることなくその場で洗浄する工法を構築しました。これにより、今までよりも少ないコスト、時間、環境負荷で土壌の浄化が行えるようになると考えられます。油汚染が発生しているガソリンスタンドや製油所、工場跡地での使用を想定し、ブラウンフィールド問題解決に向け、実用化をめざして研究を進めていく予定です。
参考情報
ケミカルサイト | 技術情報トピックス https://chemical.kao.com/jp/infrastructure/topics/news-031/
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像