腎臓病のサイン、蛋白尿が出てしまうメカニズムを解明 血中の蛋白をろ過する最終バリアに必要なものが明らかに
千葉大学大学院医学研究院 腎臓内科学 淺沼克彦 教授、山田博之 協力研究員・京都大学腎臓内科学大学院生(研究当時/現 京都大学初期医療 救急医学分野 特定病院助教)と京都大学大学院医学研究科 TMKプロジェクト・腎臓内科学 柳田素子 教授などの研究グループは、腎臓が持つ血液中の蛋白の最終濾過バリア(スリット膜)の構造維持機構を解明しました。この成果は、透析導入の原因となる慢性腎臓病の進行に関与する蛋白尿出現のメカニズムを明らかにしたものであり、慢性腎臓病の進行メカニズムの解明や、治療薬開発につながることが期待されます。本研究成果は、科学誌「キドニーインターナショナル(Kidney International)」に2020年10月31日にオンライン公開されました。
- 研究の背景
透析予備軍とされる慢性腎臓病患者は、日本人の成人人口の約13%(1330万人)で、国民病と言われるほどに多いと言われています。蛋白尿は、慢性腎臓病患者において腎不全への進行を予想させる指標であり、蛋白尿発症のメカニズムを解明することは、慢性腎臓病治療薬を開発する上で重要となります。腎臓は血液を濾過して尿をつくり、体内で作られた老廃物を捨てる役割を持つ臓器ですが、その濾過は、腎臓にある糸球体(注1)で行われます。糸球体で血中蛋白の最終濾過バリアとして働いているのは糸球体足細胞(ポドサイト(注2))の作るスリット膜(注3)です(図1A)。つまり、スリット膜が壊れると蛋白尿が出現し、慢性腎臓病が進行していくことになりますが、スリット膜の構造がどのように維持されているかはよくわかっていませんでした。
研究グループは以前の研究で、スリット膜を細胞の中から支える位置にMAGI-2(注4)という蛋白があること、MAGI-2を作れないようにしたマウスはスリット膜が不完全で大量の蛋白尿が出現し、慢性腎臓病から腎不全になって死んでしまうことを報告していました。そこで、研究グループは、MAGI-2がスリット膜の構造維持に重要な働きをしているのではないかと考えて研究を行いました。
- 研究の結果
①MAGI-2は、ヒト腎疾患において、腎臓での発現量が少なくなっている
実験動物に薬剤で蛋白尿を誘発すると、ポドサイトにおけるMAGI-2が減少しました。また、ヒトの腎生検検体の検討で、腎不全になりやすい腎臓の病気(ネフローゼ症候群、IgA腎症)になると、ポドサイトでMAGI-2が減少していることがわかりました。さらに、MAGI-2が減少しているポドサイトでは、スリット膜を形成する蛋白(ネフリンやNeph1)が減少していたことから、蛋白尿の原因は、MAGI-2が減少しているためと考えられました。
②ポドサイトにMAGI−2がないとスリット膜が壊れてしまうことを発見
ポドサイトだけMAGI-2を作ることができないようにしたマウスでは、大量に蛋白尿が出ますが、このマウスのスリット膜は壊れていました。その原因として、ポドサイトにMAGI-2がないために、スリット膜蛋白(ネフリンやNeph1)の配置が変化してしまっていることを遺伝子改変マウスと培養細胞の実験で見つけました。
③MAGI-2はスリット膜蛋白と結合してその配置と発現量を調節していることを証明
さらに①②の結果をふまえて、細胞実験により、MAGI-2は、スリット膜蛋白と結合し、スリット膜を本来の配置に並べる働きと、スリット膜蛋白の量を保つのに役立っていることを証明しました。
- 今後の展開:蛋白尿出現のメカニズムの解明と創薬に向けて
- 用語解説
(注1)糸球体:腎臓で血液を濾過して尿を作る際に血液を濾過する部分を糸球体と言います。毛細血管の毛糸玉のようになっているので糸球体と名づけられました(図2左)。
(注2)ポドサイト:糸球体の毛細血管を外側から取り囲んでいる細胞が糸球体足細胞(ポドサイト)です。写真のように毛細血管を細い足突起が噛み合わせ構造を作って取り囲んでいます(図2右)。
(注3)スリット膜:ポドサイトの細い足突起の噛み合わせ構造の間にある膜のことをスリット膜と言います。スリット膜は、血液中の蛋白が漏れでないようなメッシュ構造になっています(図1A)。
(注4)MAGI-2:MAGI-2は元々、神経細胞で同定された蛋白で、様々な膜貫通蛋白と細胞の内側で結合することがわかっています。腎臓においては、ポドサイトでのみ作られていて、スリット膜のある細胞の内側に存在することがわかっています(図1B)。MAGI-2は様々な蛋白と結合し蛋白複合体を作っています。
- 論文情報
・著者:Hiroyuki Yamada, Naritoshi Shirata, Shinichi Makino, Takefumi Miyake, Juan Alejandro Oliva Trejo, Kanae Yamamoto-Nonaka, Mitsuhiro Kikyo, Maulana A. Empitu, Ika N. Kadariswantiningsih, Maiko Kimura, Koichiro Ichimura, Hideki Yokoi, Masashi Mukoyama, Akitsu Hotta, Katsuhiko Nishimori, Motoko Yanagita, Katsuhiko Asanuma(Corresponding author)*
・雑誌名:Kindney Int.
・DOI: doi: https://doi.org/10.1016/j.kint.2020.09.027
- 研究プロジェクトについて
本研究は、主に日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究B (18H02823)の支援を受けて行われました。
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