2021年度倒産、歴史的低水準となる5000件台の見込み ウクライナ侵攻、原油高などコストアップの影響注視 ― 全国企業倒産集計2022年2月報
概況
倒産件数は428件、コロナ融資などによる倒産抑制効果に陰り
負債総額は780億6600万円と、前年同月(777億4500万円)から3億2100万円増加し、前年同月比で0.4%増。4カ月ぶりの前年同月比増加となった。
また、2021年度通期(2021年4月~2022年2月)の累計件数は5329件となり、1965年度(5593件)以来56年ぶりの歴史的低水準を記録する見込み。
<調査結果(要旨)>
■業種別 7業種中4業種で前年同月比減少、小売業は9カ月ぶり増加
一方、小売業(前年同月82件→83件、1.2%増)では、全国的なまん延防止等重点措置の実施などの影響により、飲食店(同28→33件)が9カ月ぶりに増加に転じたほか、同じく減少傾向が続いていた飲食料品小売業(同15→20件)でも増加。全体として8カ月連続2ケタ減から一転、9カ月ぶりの増加となった。
■主因別 「不況型倒産」は339件、構成比は79.2%
※倒産主因のうち、販売不振、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振を「不況型倒産」として集計
■規模・業歴別 負債5000万円未満の構成比57.2%
一方、東北(前年同月8件→30件、275.0%増)、北陸(同11件→20件、81.8%増)、四国(同7件→12件、71.4%増)の3地域は、前年同月から増加した。特に、東北は域内全県で増加するなど、前年同月より大幅増となった。
■態様別 民事再生法は施行後最少の1件、「清算型」倒産の割合は99.8%を記録
■特殊要因倒産
人手不足倒産:13件(前年同月5件、160.0%増)発生、2カ月連続の前年同月比増加
今後の見通し
■「“ベルリンの壁”以来」 ウクライナ侵攻、日本企業にとって前例のない事態に
2022年2月24日(現地時間)、ロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始した。これを受け、日米欧ではロシアの大手銀行を国際決済網(SWIFT)から排除することを決定。ロシアはこれに対して報復を示唆するなど、コロナ禍から立ち直りつつあった日本・グローバル経済は、1980年代まで続いた米ソ冷戦以来となる東西陣営の深刻な対立で、先行き不透明感が濃くなっている。
ウクライナ侵攻を受け、当初は同国に進出する企業の生産体制や営業などに直接的な影響が出ると見込まれた。それでも、進出は大手を中心に57社と少なく、また事業規模も総じて大きくないこともあって、関連企業も含めて日本国内の経済活動における影響は当初限定的とみられた。しかし、ウクライナ侵攻によりロシアへの国際的な非難と制裁範囲が広がるにつれ、影響はロシアビジネス全体に広がっている。日本政府が米欧のSWIFT制裁を支持したことを皮切りに「国内の主要・大手行ではロシア向けの送金を自主的に取り止めている」(関係者)ケースもあるなど、ロシア企業との取引・決済手段は今後大幅に狭まる見通しだ。こうした事態は「1961年の“ベルリンの壁“で米ソ対立が決定的となったとき以来」と言われ、ほとんどの中小企業では前例や対応ノウハウがないだけに、相当の混乱が予想される。
■ウクライナ情勢で「自社への悪影響」6割が回答 モノ不足、コストアップといった影響が広がる
短期的には、対ロ輸出の中心となる自動車や同部品、建設機械などで、ロシア工場への部品供給や、日本からの完成車輸出・販売面でまず影響が表面化とみられる。特に自動車は産業のすそ野が広く、数十万台にも及ぶとされるロシア向け自動車生産が消失するとなれば、サプライヤーも含めて広範な打撃が避けられない。輸入面では、イクラやカニ、スケトウダラなどの水産品、建築用合板など木材加工製品などに影響が及びそうだ。ロシア産木材はコロナ禍からの回復で住宅用資材が不足した「ウッドショック」で代替調達先となったケースもあり、企業によっては再度の調達先変更や在庫の確保といった動きが出る可能性がある。
小麦などの穀物、天然ガスなどエネルギー市場価格の高騰も多くの産業でコストアップ要因として徐々に顕在化する見込みで、価格転嫁に悩む中小企業の業績をさらに下押ししかねない。帝国データバンクが2月に実施した調査では、ウクライナ情勢を受けて自社の企業活動に「マイナスの影響がある」と答えた企業は、回答約1400社のうち6割を占めた。なかでも、原油・天然ガスなどエネルギー価格の高騰によるマイナスの影響を重くとらえる企業が多かった。
こうしたなか政府は、ウクライナ情勢で影響を受ける中小企業への支援姿勢をいち早く表明。日本貿易振興機構や日本貿易保険は、ロシアと取引のある事業者への送金が止まった際の資金繰りなどについて保険金の迅速な支払いに応じる。日本政策金融公庫も中小企業向けセーフティネット貸付の要件について、ウクライナ情勢による原油価格高騰などにも対象を拡大して「中小企業への支援に万全を期す」(萩生田経済産業大臣)方針だ。こうした支援策の充実を背景に、短期的にはウクライナ情勢の悪化による影響を受けた企業の早期破たんに繋がるとは考えにくい。ただ、事態が長期化すれば、品不足やコストアップなどに耐え切れず、事業継続を断念するケースが発生してもおかしくない。
■倒産は56年ぶり6000件割れと低水準も、EVシフト・過剰債務・海外情勢と経営環境は激変
国内に目を向けると、自動車部品大手のマレリHDが3月1日、私的整理である事業再生ADRを申請した。金融債務は1兆円規模が見込まれ、2017年に民事再生を申請したタカタ(負債約1兆823億8400万円)に匹敵する。ただ、同手続きは主に取引金融機関へ借入金の返済猶予や債権放棄によるものが主体となる。そのため、全国約4万社に上るサプライヤーへの資金面での影響はないとみられ、連鎖倒産などの事態は一先ず回避できそうだ。ただ、今後策定される再建計画にはリストラ策も必要とされ、地域によっては悪影響が及ぶ可能性がある。近年、2019年1月に同スキームを申請した曙ブレーキをはじめ、経営難に陥った大手自動車部品メーカーが事業再生ADRを申請するケースなど、業界再編が相次いでいる。脱炭素の潮流でEVシフトが急速に進むなか、経営体力に勝るメガサプライヤーであっても、従来の内燃機関を中心とした部品供給のみではもはや生き残れなくなっていることを示している。EVシフトへの対応ができず、経営体力に余力のない中小サプライヤーでも、今後再編や淘汰が進む可能性がある。
足元では、2022年2月の企業倒産は428件(前年同月比3.2%減)と9カ月連続の前年同月比減少となり、2021年度通期の倒産件数は1965年度(5593件)以来56年ぶりの6000件割れと、歴史的な低水準を記録する見込みだ。ただ、基幹産業の自動車産業におけるEVシフトや過剰債務問題、海外情勢、さらに3月4日には中小企業版私的整理ガイドラインが示されるなど中小企業の経営環境は目まぐるしく変化しており、倒産動向にも注視が必要だ。
倒産件数は428件、コロナ融資などによる倒産抑制効果に陰り
倒産件数は428件と、前年同月(442件)から14件減少、前年同月比で3.2%減となった。2月としては集計開始以降最少を記録する一方、減少率は前月から縮小するなど底打ちの兆しがみられ、これまでのコロナ融資などによる倒産抑制効果にも陰りが出つつある。
負債総額は780億6600万円と、前年同月(777億4500万円)から3億2100万円増加し、前年同月比で0.4%増。4カ月ぶりの前年同月比増加となった。
また、2021年度通期(2021年4月~2022年2月)の累計件数は5329件となり、1965年度(5593件)以来56年ぶりの歴史的低水準を記録する見込み。
<調査結果(要旨)>
- 業種別にみると、7業種中4業種で前年同月比減少。一方、小売業(前年同月82件→83件、1.2%増)では、8カ月連続2ケタ減から一転、9カ月ぶりの増加となった
- 主因別にみると、「不況型倒産」の合計は339件(前年同月325件、4.3%増)と、9カ月ぶりに前年同月を上回った。構成比は79.2%(対前年同月5.7ポイント増)を占める
- 負債規模別にみると、負債5000万円未満の倒産は245件、構成比は57.2%を占める
- 地域別にみると、9地域中6地域で前年同月比減少。中部(前年同月69件→38件、44.9%減)では、域内全県・全業種で2ケタの大幅減となり、約32年ぶりの低水準。一方、東北(前年同月8件→30件、275.0%増)は、前年同月より大幅増となった
- 態様別にみると、民事再生法は施行後最少の1件、「清算型」倒産の割合は99.8%を記録
- 人手不足倒産は13件(前年同月5件、160.0%増)発生、2カ月連続の前年同月比増加
- 後継者難倒産は42件(前年同月27件、55.6%増)発生、2カ月ぶりの前年同月比増加
- コロナ融資後倒産は20件(前年同月10件、100.0%増)発生、8カ月連続の前年同月比増加
■業種別 7業種中4業種で前年同月比減少、小売業は9カ月ぶり増加
業種別にみると、7業種中4業種で前年同月を下回った。建設業(前年同月72件→69件、4.2%減)は、2021年7月以降増加傾向が続いていたなか、3カ月ぶりの前年同月比減となった。サービス業(同111件→108件、2.7%減)は、宿泊業(同8→4件)などで減少し、全体として9カ月連続で減少した。
一方、小売業(前年同月82件→83件、1.2%増)では、全国的なまん延防止等重点措置の実施などの影響により、飲食店(同28→33件)が9カ月ぶりに増加に転じたほか、同じく減少傾向が続いていた飲食料品小売業(同15→20件)でも増加。全体として8カ月連続2ケタ減から一転、9カ月ぶりの増加となった。
■主因別 「不況型倒産」は339件、構成比は79.2%
主因別にみると、「不況型倒産」の合計は339件(前年同月325件、4.3%増)と、9カ月ぶりに前年同月を上回った。構成比は79.2%(対前年同月5.7ポイント増)を占めた。
※倒産主因のうち、販売不振、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振を「不況型倒産」として集計
■規模・業歴別 負債5000万円未満の構成比57.2%
負債規模別にみると、負債5000万円未満の倒産は245件(前年同月275件、10.9%減)、構成比は57.2%を占めた。このうち、サービス業(74件)が構成比30.2%(対前年同月1.1ポイント増)を占め最多。小売業(58件)が構成比23.7%(同0.8ポイント増)で続く。
資本金規模別では、資本金1000万円未満(個人事業主含む)の倒産が274件(前年同月283件、3.2%減)、構成比は64.0%を占めた。
■地域別 9地域中6地域で前年同月比減少
地域別にみると、9地域中6地域で前年同月から減少した。近畿(前年同月98件→88件、10.2%減)は、建設業(同23→11件、52.2%減)などが大幅に減少したこともあり、9カ月連続の前年同月比2ケタ減。また、中部(同69件→38件、44.9%減)では、域内全県・全業種で2ケタの大幅減となり、約32年ぶりの低水準となった。
一方、東北(前年同月8件→30件、275.0%増)、北陸(同11件→20件、81.8%増)、四国(同7件→12件、71.4%増)の3地域は、前年同月から増加した。特に、東北は域内全県で増加するなど、前年同月より大幅増となった。
■態様別 民事再生法は施行後最少の1件、「清算型」倒産の割合は99.8%を記録
態様別にみると、民事再生法は2000年4月の施行後最少となる1件となった。この結果、破産(400件、構成比93.5%)と特別清算(27件、同6.3%)を合わせた「清算型」倒産の割合は99.8%を記録し、2000年以降で最高となった。
■特殊要因倒産
人手不足倒産:13件(前年同月5件、160.0%増)発生、2カ月連続の前年同月比増加
後継者難倒産:42件(前年同月27件、55.6%増)発生、2カ月ぶりの前年同月比増加
コロナ融資後倒産:20件(前年同月10件、100.0%増)発生、8カ月連続の前年同月比増加
※特殊要因倒産では、主因・従因を問わず、特徴的な要因による倒産を集計
今後の見通し
■「“ベルリンの壁”以来」 ウクライナ侵攻、日本企業にとって前例のない事態に
2022年2月24日(現地時間)、ロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始した。これを受け、日米欧ではロシアの大手銀行を国際決済網(SWIFT)から排除することを決定。ロシアはこれに対して報復を示唆するなど、コロナ禍から立ち直りつつあった日本・グローバル経済は、1980年代まで続いた米ソ冷戦以来となる東西陣営の深刻な対立で、先行き不透明感が濃くなっている。
ウクライナ侵攻を受け、当初は同国に進出する企業の生産体制や営業などに直接的な影響が出ると見込まれた。それでも、進出は大手を中心に57社と少なく、また事業規模も総じて大きくないこともあって、関連企業も含めて日本国内の経済活動における影響は当初限定的とみられた。しかし、ウクライナ侵攻によりロシアへの国際的な非難と制裁範囲が広がるにつれ、影響はロシアビジネス全体に広がっている。日本政府が米欧のSWIFT制裁を支持したことを皮切りに「国内の主要・大手行ではロシア向けの送金を自主的に取り止めている」(関係者)ケースもあるなど、ロシア企業との取引・決済手段は今後大幅に狭まる見通しだ。こうした事態は「1961年の“ベルリンの壁“で米ソ対立が決定的となったとき以来」と言われ、ほとんどの中小企業では前例や対応ノウハウがないだけに、相当の混乱が予想される。
■ウクライナ情勢で「自社への悪影響」6割が回答 モノ不足、コストアップといった影響が広がる
短期的には、対ロ輸出の中心となる自動車や同部品、建設機械などで、ロシア工場への部品供給や、日本からの完成車輸出・販売面でまず影響が表面化とみられる。特に自動車は産業のすそ野が広く、数十万台にも及ぶとされるロシア向け自動車生産が消失するとなれば、サプライヤーも含めて広範な打撃が避けられない。輸入面では、イクラやカニ、スケトウダラなどの水産品、建築用合板など木材加工製品などに影響が及びそうだ。ロシア産木材はコロナ禍からの回復で住宅用資材が不足した「ウッドショック」で代替調達先となったケースもあり、企業によっては再度の調達先変更や在庫の確保といった動きが出る可能性がある。
小麦などの穀物、天然ガスなどエネルギー市場価格の高騰も多くの産業でコストアップ要因として徐々に顕在化する見込みで、価格転嫁に悩む中小企業の業績をさらに下押ししかねない。帝国データバンクが2月に実施した調査では、ウクライナ情勢を受けて自社の企業活動に「マイナスの影響がある」と答えた企業は、回答約1400社のうち6割を占めた。なかでも、原油・天然ガスなどエネルギー価格の高騰によるマイナスの影響を重くとらえる企業が多かった。
こうしたなか政府は、ウクライナ情勢で影響を受ける中小企業への支援姿勢をいち早く表明。日本貿易振興機構や日本貿易保険は、ロシアと取引のある事業者への送金が止まった際の資金繰りなどについて保険金の迅速な支払いに応じる。日本政策金融公庫も中小企業向けセーフティネット貸付の要件について、ウクライナ情勢による原油価格高騰などにも対象を拡大して「中小企業への支援に万全を期す」(萩生田経済産業大臣)方針だ。こうした支援策の充実を背景に、短期的にはウクライナ情勢の悪化による影響を受けた企業の早期破たんに繋がるとは考えにくい。ただ、事態が長期化すれば、品不足やコストアップなどに耐え切れず、事業継続を断念するケースが発生してもおかしくない。
■倒産は56年ぶり6000件割れと低水準も、EVシフト・過剰債務・海外情勢と経営環境は激変
国内に目を向けると、自動車部品大手のマレリHDが3月1日、私的整理である事業再生ADRを申請した。金融債務は1兆円規模が見込まれ、2017年に民事再生を申請したタカタ(負債約1兆823億8400万円)に匹敵する。ただ、同手続きは主に取引金融機関へ借入金の返済猶予や債権放棄によるものが主体となる。そのため、全国約4万社に上るサプライヤーへの資金面での影響はないとみられ、連鎖倒産などの事態は一先ず回避できそうだ。ただ、今後策定される再建計画にはリストラ策も必要とされ、地域によっては悪影響が及ぶ可能性がある。近年、2019年1月に同スキームを申請した曙ブレーキをはじめ、経営難に陥った大手自動車部品メーカーが事業再生ADRを申請するケースなど、業界再編が相次いでいる。脱炭素の潮流でEVシフトが急速に進むなか、経営体力に勝るメガサプライヤーであっても、従来の内燃機関を中心とした部品供給のみではもはや生き残れなくなっていることを示している。EVシフトへの対応ができず、経営体力に余力のない中小サプライヤーでも、今後再編や淘汰が進む可能性がある。
足元では、2022年2月の企業倒産は428件(前年同月比3.2%減)と9カ月連続の前年同月比減少となり、2021年度通期の倒産件数は1965年度(5593件)以来56年ぶりの6000件割れと、歴史的な低水準を記録する見込みだ。ただ、基幹産業の自動車産業におけるEVシフトや過剰債務問題、海外情勢、さらに3月4日には中小企業版私的整理ガイドラインが示されるなど中小企業の経営環境は目まぐるしく変化しており、倒産動向にも注視が必要だ。
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