次世代太陽電池の最有力候補、ペロブスカイト太陽電池の表面構造評価法を確立 発電効率や耐久性の向上へ道筋
千葉大学大学院工学研究院の吉田弘幸教授、ピーター・クリューガー教授らの共同研究チームは、これまで困難であったペロブスカイトの表面終端[1]を評価できる技術を開発しました。
ペロブスカイト太陽電池は、インク状にした原料溶液を基板に塗るだけで、低コストで高性能な太陽電池が作製できるため、次世代太陽電池の最有力候補とされています。最近の研究で表面構造(表面終端)によって太陽電池の性能や耐久性が左右されることが明らかになり、表面終端を制御する表面処理法のニーズが高まっています。本研究の成果がペロブスカイト太陽電池の表面処理の評価法として開発研究に広く利用されることで、さらなる高効率化と耐久性の向上が期待されます。
本研究成果は、科学誌Advanced Materialsに2020年12月8日(中央ヨーロッパ時間)付で掲載されました。
ペロブスカイト太陽電池は、インク状にした原料溶液を基板に塗るだけで、低コストで高性能な太陽電池が作製できるため、次世代太陽電池の最有力候補とされています。最近の研究で表面構造(表面終端)によって太陽電池の性能や耐久性が左右されることが明らかになり、表面終端を制御する表面処理法のニーズが高まっています。本研究の成果がペロブスカイト太陽電池の表面処理の評価法として開発研究に広く利用されることで、さらなる高効率化と耐久性の向上が期待されます。
本研究成果は、科学誌Advanced Materialsに2020年12月8日(中央ヨーロッパ時間)付で掲載されました。
- 研究の背景と目的
一方で、結晶内部が高品質であっても、結晶の表面でエネルギー損失が起こったり、発電した電流を取り出す効率が表面の状態に左右されるため、ペロブスカイトの表面は太陽電池の性能や寿命を大きく左右することが分かっています。
特に最表面の元素組成を意味する表面終端は、表面の性質を決定づける最も基本的な要素です(図1)。理論計算でも、表面終端の違いによりペロブスカイト太陽電池の電流取り出し効率が大きく変わることが予想されていました。
上記のことから、ペロブスカイトの表面終端を適切に評価することは、次世代太陽電池の研究開発において重要といえます。しかし、一般的に物質の表面構造を調べる実験手法として用いられる走査型トンネル顕微鏡[4]では、単結晶を低温にしなければならないなど限られた条件でしか測定できず、実際の太陽電池に使われる溶液から作製したペロブスカイトの表面終端を調べることができませんでした。このようなことから、広範囲な実用的ペロブスカイト材料について、容易に表面終端を決定できる評価方法が求められていました。
図1:最も標準的な太陽電池用ペロブスカイトであるヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3)の表面終端の構造
ヨウ化鉛(PbI2)とヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)のどちらかが表面終端になる可能性がある。
本研究で、ヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)が表面終端であることを明らかにした。
- 研究成果
紫外線とヘリウム原子のエネルギーは20エレクトロンボルトとほぼ同じですが、紫外線が物質の内部まで浸透するのに対して、ヘリウム原子は物質内部に入り込めません。このため、UPSとMAESを比較すると、どの元素が表面にあるかが判別でき、表面終端が決定できます。
図2A:紫外光電子分光法(UPS)での分析イメージ
電子のエネルギーは原子や分子種により特徴が異なるため、右のスペクトルのΦ1a、Φ2aのように区別ができる。
図2B:準安定原子電子分光法(MAES)での分析イメージ
ヘリウム原子は物質の中に入り込めないため、右のスペクトルのΦ1bのように、最表面の原子や分子種のみが観測される。
研究グループは、この方法を用いて、ヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3)という太陽電池の標準であるペロブスカイトの表面終端を調べました。理論的には、ヨウ化鉛(PbI2)とヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)の2つの表面終端の可能性があります(図1)。UPSとMAESを比べた実験結果では、メチルアンモニウム(CH3NH3)とヨウ素(I)の信号はUPSでもMAESでも検出されるのに対して、鉛(Pb)の信号はMAESでは見られませんでした(図3)。このことから、表面終端はヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)であるとわかりました。さらに、太陽電池の電子取り出しに用いられるC60[6]との界面をUPSと低エネルギー逆光電子分光(LEIPS[7])により調べたところ、ヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)が終端である場合の理論予測とよく一致することが確かめられました。
図3:ヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3)のUPSとMAESの比較
UPSでは、Pb(矢印赤)、CH3NH3(緑)、I(紺)に由来するピークが観測されている。MAESではCH3NH3、Iに由来するピークは観測されているのに対して、Pbに由来するピークが消えている。このことからヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)が表面終端層であることが分かる。
- 今後の発展・展望
本研究の手法は、表面処理による表面終端の違いも的確に評価することができます。本研究の成果がペロブスカイト太陽電池の表面処理の評価法として広く利用されることで、表面処理の開発研究を加速させ、次世代電池として期待が寄せられているペロブスカイト太陽電池の光電変換効率や大気安定性の向上に貢献します。
- 用語解説
[2]光電変換効率(こうでんへんかんこうりつ)とは、太陽電池に入射した太陽光のエネルギーに対する太陽電池から取り出せる最大電力の比率。太陽電池の重要な性能指標である。1961年にショックレーとクワイサーが提唱した理論によれば、33%が光電変換効率の理論的限界であり、超えることはできない。この限界値に近づけるように太陽電池の研究開発が行われている。
[3]アメリカの国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が2020年9月に発表した太陽電池の光電変換効率 “Best Research-Cell Efficiencies” による。定期的に次のウェブサイトに掲載されている。https://www.nrel.gov/pv/cell-efficiency.html
[4]走査型トンネル顕微鏡(そうさがたとんねるけんびきょう、STM)は、物質の表面構造を調べる実験手法。原子と同程度まで尖らせた探針を物質の表面に近づけて、流れるトンネル電流をモニターしながら探針を走査することで、表面の原子レベルの電子状態や構造を観測する。表面構造を調べる最も有力な手段のひとつである。
[5]光電効果(こうでんこうか)は、物質に光を照射すると電子が表面から放出される現象。照射した光のエネルギーよりも電子のエネルギーは低くなる。この差は、物質内の電子状態を反映している。アインシュタインが1905年に原理を解明したことでも知られている。光電効果を利用して、電子状態を調べるのが紫外光電子分光法(UPS)である。
[6]C60は、炭素Cが60個でできたサッカーボール状の分子である。このような炭素だけでできる籠状の分子を総称してフラーレンと呼ぶ。C60は最も早く発見されたフラーレンである。このC60の薄膜は有機半導体であり、ペロブスカイト太陽電池では電子を集めて電極に輸送する標準的な物質として使われる。
[7]低エネルギー逆光電子分光法(ていえねるぎーぎゃくこうでんしぶんこうほう)は、吉田弘幸教授が2012年に開発した空軌道の電子状態を観測する実験手法。試料の外部から電子を試料に照射して空軌道に電子を注入し、この際に発生する光エネルギーと強度の関係を精密に測定する。従来の逆光電子分光法は、試料が損傷する、分解能が低いなどの問題があったが、照射電子のエネルギーを下げることで、これらの問題を解決した。占有軌道の電子状態を調べる方法であるUPSとは相補的な実験手法である。
- 研究グループ・論文情報
論文タイトル:“Surface Termination of Solution-Processed CH3NH3PbI3 Perovskite Film Examined Using Electron Spectroscopies”
雑誌名:Advanced Materials (2020年のインパクト・ファクター27.4)
巻号:33
記事番号:2004981
年号:2021
著者:Abduheber Mirzehmet, Tomoki Ohtsuka, Syed A. Abd. Rahman, Tomoki Yuyama, Peter Krüger, Hiroyuki Yoshida
DOI: 10.1002/adma.202004981
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