【国立科学博物館】哺乳類の多様で複雑な臼歯は単純な原理から生じる
~草食は縞模様、肉食は水玉模様~
独立行政法人国立科学博物館(館長:篠田謙一)の森田航研究員(人類研究部人類史研究グループ)、九州大学の三浦岳教授らからなる研究グループは、マウスの上顎と下顎の臼歯の形成パターンが、それぞれストライプ(縞)模様、スポット(水玉)模様を生み出す数理モデルにより再現できることを示しました。進化の過程で草食や肉食に特化したものが生まれ、哺乳類の食性が多様化していったこととの関連が示唆されます。本研究成果は2022年6月14日に国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
- 研究のポイント
・上下顎の臼歯の形態形成をシミュレートし、ストライプ(縞)模様のモデルでは上顎臼歯が、スポット(水玉)模様のモデルでは下顎臼歯がうまく形成されることを示しました。
・哺乳類の様々な臼歯の形は、形態形成メカニズムにおけるスポット模様とストライプ模様の柔軟な切り替えにより可能となり、食性の多様化(草食・肉食に特化した動物の出現)につながったことが示唆されます。
- 研究の背景
平面でのパターン形成において、チューリング・モデルでは、大まかにストライプ(縞)模様、もしくは、スポット(水玉)模様のどちらかが生じます。今回私たちの研究グループは、一般的な実験動物であるマウスの上下の臼歯が、それぞれストライプ模様、スポット模様に対応して形成されているのではないかと仮説を立てモデル化を試みました(図1上)。
図1 チューリング・モデルと哺乳類の臼歯。
(上)活性因子と抑制因子が拡散しながら相互作用することで、ストライプ模様もしくはスポット模様が生じる。
(下)哺乳類の食性とストライプ・スポット模様の違いとの対応関係
- 研究の内容
図2 上顎臼歯(上)と下顎臼歯(下)の発生過程のモデル化
このようなマウスで見られた上下の臼歯の形態形成パターンの違いは、哺乳類の食性の違いにも対応し多様な形態を生じさせた要因になったことを示唆します(図1下)。哺乳類は進化の過程で、咬頭(歯の中で山のように高まった部分)の数が少なく単純な形の歯から、多数の咬頭が複雑に配置された歯へと変化していきます。このように複雑で発達した稜線を持つ臼歯形態が草食性を可能にし、哺乳類の適応放散へとつながります。本研究が示した、歯の形態形成メカニズムにおけるスポット模様とストライプ模様の柔軟な切り替えが哺乳類の臼歯に見られる様々な形を生み出し、食性の多様化(草食・肉食に特化した動物の出現)をもたらしたと考えられます。
- 当研究成果から期待されること、今後の課題
【発表論文】
表題:Stripe and spot selection in cusp patterning of mammalian molar formation
著者:Wataru Morita, Naoki Morimoto, Keishi Otsu, Takashi Miura
掲載誌:Scientific Reports, 41598 Article number: 13539 (2022)
(URL) https://doi.org/10.1038/s41598-022-13539-w
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