独自の解析アルゴリズムで、アマゾン熱帯雨林の季節変化を検出 次世代静止気象衛星の更なる活用に期待

国立大学法人千葉大学

 千葉大学環境リモートセンシング研究センターの樋口 篤志 准教授らが参画するNASA Ames 研究センター等との国際共同研究チームは、独自の解析アルゴリズムを次世代静止気象衛星(注1)GOES-16の観測データに適用し、アマゾン熱帯雨林の植生指標(注2)の解析を行いました。その結果、雲に隠れがちで従来の極軌道衛星(注3)観測では検出できなかった、熱帯雨林における植生指標の季節変動に関する情報の検出に成功しました。このことは、アマゾン熱帯雨林の環境変化が地球にもたらす影響の更なる理解につながる成果として期待されます。
 本研究成果は、国際学術誌Nature Communicationsに1月29日に掲載されました。
  • 研究背景

図1.極軌道衛星Terra に搭載されたMODISによる2021年1月1日の観測例。1日1回しか観測できず、雲に覆われると地表面の計測は不可能。図1.極軌道衛星Terra に搭載されたMODISによる2021年1月1日の観測例。1日1回しか観測できず、雲に覆われると地表面の計測は不可能。

 世界最大の熱帯雨林であるアマゾン熱帯雨林は、一般的には「常緑林」と理解されていますが、NASAの極軌道衛星に搭載されたMODIS(注4)による解析結果によると、一年のある時期に新緑の芽吹きがあると考えられていました。しかし、そのタイミングを正確に捉えるためには数日〜数週間といった短い期間で地表面に関する情報を得る必要がありますが、極軌道衛星では1日1回しか観測できず、雲に覆われると地表面の計測は不可能なこと(図1)から、十分な情報を得られずにいました。
 千葉大学環境リモートセンシング研究センターでは、2015年から世界に先駆けて運用されている次世代静止気象衛星、ひまわり8号のデータ解析に関する研究を重ねてきました。その成果の一つである、同センターの竹中栄晶 特任助教が開発した精密幾何補正(注5)アルゴリズムでは、これまでより精緻な位置情報に基づく解析が可能となりました。
 2017年に運用開始した次世代静止気象衛星GOES-16には、ひまわり8号とほぼ同等の機能を持つABI注6)が搭載されています。ABIは、MODISと類似した観測バンドを持ち、かつ観測頻度は1日1回から10分〜30分に1回と飛躍的に向上したことから、アマゾン熱帯雨林の雲に覆われていないABIの観測データ数は、2018年の解析ではMODISの約24倍にも達しました。
 そこで研究チームは、得られたGOES-16の観測データに、千葉大学の精密幾何補正解析アルゴリズムを適用することで、アマゾン熱帯雨林の季節変化に関する情報を得ることを試みました。
  • ​研究成果
 2018年のデータを解析した結果、植生の活性度を示す植生指標(NDVI)の最大値と最小値の差(図2)はアマゾン熱帯雨林の面積で約85%、数値にして従来のMODIS解析で得られた差の約3倍、明確な差として存在したことが今回の解析により明らかになりました。
 さらに地域的な違いに着目すると、高い植生活性度は月降水量の少ない乾季に多く見られるものの、地域性がかなり強いことも分かりました(図3)。

図3.アマゾン常緑林における植生指標NDVIの季節変化をまとめたもの図3.アマゾン常緑林における植生指標NDVIの季節変化をまとめたもの

(図3の地図、グラフについて:a〜f のグラフは図g, h 中で中丸文字で示した地域における月降水量(棒グラフ)および植生指標(実線)の季節変化を示す。図g は植生指標が最大値を取る月、図h は最小値を取る月をマップで色別に表した。)

 本研究結果は、この地域の熱帯林は水よりも太陽光(雲で覆われる頻度)がその生態を決める主要な条件であり、雨季より雲被覆が減る乾季に、より多くの太陽光が降り注ぐことが新緑の芽吹きに拍車をかけることが推察されました。この結果はアマゾン熱帯雨林の気候変動に対する植生応答に関するこれまでの科学的知見と整合的でした。
  • 研究者のコメント
NASA Ames 研究センター Hirofumi Hashimoto (橋本博文) 博士[本研究論文筆頭著者]:「静止気象衛星データが地球環境のモニタリングに大変有効であることは多くの研究者に認識されていましたが、データの扱いの難しさが研究利用への高い障害でした。気象衛星ひまわりのデータの扱いに長けた千葉大学との共同研究を通じて、今回の研究成果を得ることができました。更なる静止気象衛星の地球環境問題への活用が望まれる今、静止気象衛星の観測領域が国によって異なるため、地球全体のカバーを目的とした国際共同研究が益々望まれるでしょう。」

千葉大学 樋口篤志 准教授:「2007年度より環境リモートセンシング研究センターが継続的に進めてきた静止気象衛星データアーカイブ・利用推進に関するノウハウを本研究で活かすことができ、大変喜ばしく思います。市井教授を中心としたCEReS 陸域研究チームも良い成果をまとめつつあるので、今後の展開が大変楽しみです。」

NASA Ames 研究センター Rama Nemani 博士:「本研究成果は我々の惑星モニタリングの新たな可能性を示すものであり、大気・陸域・海洋における日周期を伴い変化する現象解明につながると共に、農業、(洪水・渇水等の)水文過程、ならびに災害監視に関する意思決定にも役立ちます。」
  • 研究プロジェクトについて
 本研究は日本側の経費として、地球気候系の診断に関わるバーチャルラボラトリーの形成(VL)、およびJST CREST/EMS 「協調分散型EMSにおける地球科学情報の可視化向上とエネルギー需要モデルの開発」(代表 東海大学教授 中島孝)の支援を受け遂行されました。
  • 論文情報
論文タイトル:”New generation geostationary satellite observations support seasonality in greenness of the Amazon evergreen forests”
著者名:Hashimoto, H., W. Wang, J. Dungan, S. Li, A. Michaelis, H. Takenaka, A. Higuchi, R. Myneni, R. Nemani
雑誌名:Nature Communications
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-021-20994-y(2021年1月29日 日本時間午後7時公開)
  • 用語解説
注1)次世代静止気象衛星:
2015年に運用を開始した日本のひまわり8号を皮切りに、米国ではGOES-16、 GOES-17がそれぞれ2017年・2018年に、中国はFY-4Aを2018年に、韓国ではGEO-KOMPSAT-2Aを2019年に、欧州ではMeteosat Third Generation (MTG) シリーズが2023年より運用予定としています。次世代静止気象衛星はこれまでの静止気象衛星と比較して、観測頻度・空間解像度・観測バンド数の全てにおいて大幅な機能向上を果たしており、静止気象衛星の世代的には第三世代にあたるため、第三世代静止気象衛星とも呼ばれます。大幅な機能向上により、気象現象のみならず陸域・海洋環境のモニタリング研究への更なる活用が期待されています。
注2)植生指標(NDVI):
衛星観測データを使い植生による光の反射の特徴を用いて、簡易な計算式で植生の状況を把握することを目的として考案された指標。植物の量や活力を表し、高い値ほど植生の量が多く活力が高くなります。
注3) 極軌道衛星:
地球の上空約700〜800kmを南北の極付近を通り赤道を大きな角度で横切る軌道を持つ衛星。地球の自転を利用し、MODIS では1日でほぼ全球を観測するよう設計されています。静止軌道衛星(静止気象衛星)は上空約36,000kmで地球の自転と同じ周回周期を持つことで常に地球の同じ面を観測することができます。
注4) MODIS (Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer; 中分解能撮像分光放射計):
NASA の極軌道地球観測衛星 Terra/Aqua に搭載された光学センサの略称です。20年以上におよぶ長期観測が現在もなされており、用途毎に高次処理されたデータがNASAから提供されています。
注5)幾何補正:
人工衛星が観測したデータを地球座標系に変換する際に必要となる補正処理の一つ。正しく対象とする位置に関する情報を抽出するためには精度の高い幾何補正処理が必須となります。
注6)ABI (Advanced Baseline Imager):
米国次世代静止気象衛星 GOES-16、 GOES-17 に搭載された光学センサの略称であり、ひまわり8号に搭載されたAHI (Advanced Himawari Imager)とほぼ同等の性能を持っています(一部の観測バンドや観測スケジュールに違いがあります)。

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業種
教育・学習支援業
本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月