世界初 キラル渦光照射による有機化合物の不斉増幅に成功 ~生命のホモキラリティー起源の解明へ第一歩~
千葉大学大学院工学研究院 坂本 昌巳 教授と尾松 孝茂 教授(分子キラリティー研究センター長)らの研究グループは、ラセミ体(注1)の有機化合物の飽和溶液に、照射された物体に捻れを誘起させる力のあるキラル渦光(注2)を照射することにより、鏡像異性体の片方のみを高い純度で選択的に得ることに世界で初めて成功しました。
本研究成果は、光を用いた不斉制御法の開発のみならず、生体を構成する分子に関する未解明事項(ホモキラリティー)の理解への前進となり、生命の起源を解明する手がかりとなる可能性があります。
本研究成果は、ドイツ化学誌Angewandte Chemie International Editionに掲載されました。
本研究成果は、光を用いた不斉制御法の開発のみならず、生体を構成する分子に関する未解明事項(ホモキラリティー)の理解への前進となり、生命の起源を解明する手がかりとなる可能性があります。
本研究成果は、ドイツ化学誌Angewandte Chemie International Editionに掲載されました。
- 研究の背景
鏡像異性体とは、その物質を構成する原子は同じであるものの、その分子の結合方法の違いにより異なる性質をもつ化合物(異性体)の中でも、立体配置が鏡写しのような関係になっており、回転しても重ね合わせることができないものです(図1)。鏡像異性体の片方だけを創り分ける(不斉を制御する)ことは、物質科学の課題とされています。
生物を構成するタンパク質やDNAなどの生体分子は、鏡像異性体の片方だけである(生体分子のホモキラリティー)ことが解明されていますが、なぜそのように片方のみに偏っているのかは明らかになっていません。この生体分子のホモキラリティ―の起源については、超新星爆発の時に発生した円偏光によってラセミ体アミノ酸が不斉分解(注3)され、隕石として地球にもたらされたとする説があります。しかし、不斉の偏りはほんの僅かであり、現在の生体分子のホモキラリティーを説明するには他に不斉を増幅する機構が必要なはずですが、その仕組みは未解明となっていました。研究グループは、照射された物体に捻れを誘起させる力のあるキラル渦光が、結晶核の不斉を制御できるのではないかと予想して研究を行いました。また、僅かな不斉の偏りを光学的に純粋な化合物へと不斉増幅(注4)する手法として、結晶化誘起動的光学分割法(注5)を利用しました。
- 研究成果
今回研究グループは、図2のような装置を用いて、キラル渦光をラセミ体のイソインドリノンの過飽和溶液に照射しました。暫くすると結晶核が形成され、その後撹拌することで、溶液中では化合物のラセミ化を伴いながら、生成した結晶核を基に多くの結晶が析出しました(図3)。
その結晶を分析したところ、右回りの光渦(L=+1)を照射すると(S)-体の化合物が光学的にほぼ純粋な結晶として得られ、左回りの光渦(L=-1)を照射すると(R)-体の結晶が選択的に得られることを発見しました。キラル渦光によってラセミ体から片方の鏡像異性体の結晶核の形成を誘起し、その核をもとに容器内のほぼ全ての分子を不斉増幅することに成功しました。
- 今後の展望
- 研究者のコメント(千葉大学大学院工学研究院 教授 坂本昌巳)
- 研究プロジェクトについて
- 用語解説
(注2)キラル渦光:平面の波面を有する円偏光とは異なり、螺旋状の波面を有するキラル光で、照射された物体にトルク力を与える性質がある。これまでに、金属やポリマーに捻れを誘起させる実験が行われている。
(注3)不斉分解:鏡像異性体の片方だけを優先的に分解して、ラセミ体混合物から光学活性体を得る反応。
(注4)不斉増幅:光学純度の低い原料から反応の進行に伴い徐々に光学純度が増加していく現象。
(注5)結晶化誘起動的光学分割法(による不斉増幅):ラセミ体混合物を結晶化させると、それぞれの鏡像異性体が別々に結晶化する性質を利用した光学分割法。母液中でのラセミ化を伴いながら結晶化させることで、ラセミ体から完全に片方の鏡像異性体結晶に収束させることができる、工業的にも展開が可能な技術である。
- 論文情報
著者:坂本昌巳*1、上村直弘*2、齋藤 玲*2、下林榛菜*2、吉田泰志*1、三野 孝*1、尾松孝茂*1
*1 千葉大学大学院工学研究院・千葉大学分子キラリティー研究センター
*2 千葉大学大学院融合理工学府先進理化学専攻
雑誌名:Angewandte Chemie International Edition
DOI:https://doi.org/10.1002/anie.202103382
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