企業倒産、抑制から一転12カ月ぶり増加 急激な円安・物価高が続き、中小企業の経営に閉塞感漂う ― 倒産件数は517件、1年ぶりに前年同月比増加
負債総額は785億4000万円、2カ月連続の前年同月比減少 ― 全国企業倒産集計2022年4月報
帝国データバンクは、2022年5月報の企業倒産件数(負債1000万円以上の法的整理が対象)について集計し、分析を行った。
<主要ポイント>
■概況 倒産件数は517件、コロナ禍以降続いた倒産抑制から増加に転じる
負債総額は785億4000万円と、前年同月(1664億4700万円)で負債1000億円を超える大型倒産が発生した影響もあり、前年同月比で52.8%の大幅減となった。
■業種別 7業種中5業種で前年同月比増加
一方、小売業(前年同月100件→87件、13.0%減)では、飲食店(同49件→33件)が3カ月連続の2ケタ減となり、依然として低水準で推移している。
■主因別 「不況型倒産」の件数は396件、構成比は76.6%
※倒産主因のうち、販売不振、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振を「不況型倒産」として集計
■規模・業歴別 負債5000万円未満の構成比56.5%、製造業では大幅に増加
■地域別 北陸を除く8地域で前年同月比増加、北海道・東北・四国は前年同月から倍増
一方、北陸(前年同月20件→17件、15.0%減)では2カ月連続で前年同月比2ケタ減となり、特に福井県(同5件→2件)は4カ月連続での2ケタ減となった。
■態様別 「破産」は483件、構成比は93.4%
民事再生法は13件で、うち7件を個人事業主が占めた。
■特殊要因倒産
人手不足倒産:8件(前年同月5件、60.0%増)発生、3カ月ぶりの前年同月比増加
企業倒産、抑制から一転12カ月ぶり増加 倒産の波は小規模零細から中堅にも
2022年5月の企業倒産は前年同月を56件上回る517件となり、21年5月以来12カ月ぶりに増加した。かつて月間600件台で推移していたコロナ前と比較すれば依然として低位に抑えられているものの、ほぼ横ばいで推移してきた倒産動向が増加に転じるなど潮目の変化が訪れようとしている。また、1年前(2021年5月)における増加も、内容は緊急事態宣言の影響で過去2番目の少なさとなった2020年5月から反動増の側面が強く、実質的には2020年7月以来約2年ぶりの増加といえる。長引くコロナ禍で中小企業の業況回復には遅れもみられるなか、コロナ融資をはじめとした各種資金繰り支援策による倒産抑止効果に陰りが見え始めている。
一方、負債総額は785億4000万と前年から半減し、2カ月連続で減少した。ただし、これは前年に負債1000億円を超える大型倒産(東京商事、特別清算、負債1004億8300万円)による影響が大きい。これを除けば負債総額も実質的には増加へ転じており、これまで多くを占めていた小規模零細企業の倒産から、負債1億円を超える中堅企業へと倒産の波が広がりつつある。
急激な物価上昇の陰で価格転嫁進まず、圧迫される中小企業経営
値上げの波が止まらない。帝国データバンクが食品主要105社を対象とした調査では、食品や飲料など年内に実施予定の値上げは1万品目を突破。6月だけでも、カップ麺や菓子、ソースといった1500品目超が値上げされた。さらに7月以降も4000品目超が値上げを控え、短期間でこれだけの品目が値上げされる異常事態となっている。食用油や小麦粉の急騰に、20年ぶりの水準となった円安、原油高といったコスト増加分も積み増しされ、平均値上げ幅は13%に達する。家庭用の日用品のみならず、ガソリンや包装資材など石油製品、木材や鉄骨資材など産業用製品でも値上げの動きが相次いでおり、あらゆるモノで「値上げラッシュ」の様相を呈している。
ただし、こうした値上げ分が最終消費者に十分転嫁されているとは言い難い。変動の大きい生鮮食品を除く直近4月の消費者物価指数は前年比伸び率が2%を超えたものの、企業物価指数の伸び率は10%と大きく上回っている。背景には、輸入原材料価格の上昇ペースが早く値上げが追いつかないほか、顧客離れを懸念する川下産業で値上げ分を被っている実情がある。ただ、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比で0.2%減(今年3月)と3カ月ぶりにマイナスに転じるなど、物価上昇に賃金の伸びが追いつかない構造的な問題が横たわる。景況感や労働者の実質賃金が上がらないまま物価上昇が続く現在の状況が長引けば、1970年代のオイルショック時に発生したスタグフレーションが、今年中にも日本経済に顕現する可能性が指摘されている。
一部の業界では、最近の急激な物価上昇に価格転嫁が追いつかず、経営破綻を余儀なくされた事例が既に出始めている。スーパー向けなどに豆腐や油揚げなどの製造を手掛けていたシェ・ポワ(兵庫県、5月事業停止)や筑豊食品(福岡県、5月破産)は、従前から上がっていた主原料となる輸入大豆の取引価格高騰が、ロシアとウクライナの戦闘が市場に影響してさらに高騰。直近の円安も加わって、仕入価格の好転が見込めない状態が続いた。他方、値上げによる顧客離れを懸念するスーパーなど納入先との価格交渉が難航したため価格への転嫁もできず、コストを吸収できなくなったことで経営が限界に達し、事業継続を断念した。
コロナ融資“効力希薄化”も 経営環境はかつてない閉塞感、倒産増加の傾向強まる
こうしたなか、コロナ禍の直撃を受けた中小企業の資金繰りを支えるべく、官民合わせて56兆円が投入された無利子無担保のコロナ融資、通称ゼロゼロ融資で効力希薄化の予兆もみられる。2022年5月のコロナ融資後倒産は41件発生し、初めて40件を超えた。累計では300件に達し、発生ペースも加速傾向にある。いずれも、コロナ融資を活用してキャッシュ枯渇といった事態は免れたものの、事業が回復していない状態で本格的な返済が間近にせまり、返済原資が確保できず事業の先行きを諦めたケースが多かった。足元では、私的整理の積極活用や円満な廃業支援、返済条件の変更など懸命な中小企業支援が続けられているものの、いずれも過剰債務の返済原資確保や抜本再生など根本的解決に向けた「即効薬」とはなりきれず、問題の先送り感も否めない。コロナ融資返済の小さな山は今夏、ピークは23年夏頃と目される中で、業績の回復が遅れ、返済負担が重くのしかかる中小企業は今後加速度的に増加することが予想される。
コロナ禍の影響が残る一方、急激な円安に原材料価格の高騰など懸念事項が山積しており、中小企業の経営環境にはかつてない程の閉塞感が漂う。企業倒産は今夏の国政選挙を前に控えながらも、これまでの減少トレンドから一転、増勢傾向が強まりつつある。
- 業種別にみると、7業種中5業種で前年同月比増。サービス業(前年同月110件→124件、12.7%増)は、2カ月連続の前年同月比2ケタ増となった。一方、小売業(前年同月100件→87件、13.0%減)では、飲食店(同49件→33件)が3カ月連続の2ケタ減
- 主因別にみると、「不況型倒産」の合計は396件(前年同月347件、14.1%増)と、3カ月ぶりに前年同月比増加となった。構成比は76.6%(対前年同月1.3ポイント増)を占める
- 負債規模別にみると、負債5000万円未満の倒産は292件、構成比は56.5%を占める
- 地域別にみると、北陸を除く8地域で前年同月比増加。北海道(前年同月12件→24件)・東北(同12件→24件)・四国(同6件→13件)の3地域では、前年同月から倍増した
- 態様別にみると、破産は483件(構成比93.4%)、特別清算は20件(同3.9%)となった
- 人手不足倒産は8件(前年同月5件、60.0%増)発生、3カ月ぶりの前年同月比増加
- 後継者難倒産は45件(前年同月38件、18.4%増)発生、2カ月連続の前年同月比増加
- コロナ融資後倒産は41件発生、集計開始後1年11カ月で300件突破
■概況 倒産件数は517件、コロナ禍以降続いた倒産抑制から増加に転じる
倒産件数は517件(前年同月461件)と、前年同月を12.1%上回った。前年同月比増加は2021年5月以来1年ぶり。ただし、前年同月は緊急事態宣言で法的整理が滞留した2020年5月からの反動増となったことが要因で、これを除くと実質的に2020年7月以来1年10カ月ぶりとなる。従来からのコロナ関連の支援策などによって、倒産は抑制されてきたものの、2021年7月(42.1%減)をピークに減少率の縮小が続き、今月で増加に転じた。
負債総額は785億4000万円と、前年同月(1664億4700万円)で負債1000億円を超える大型倒産が発生した影響もあり、前年同月比で52.8%の大幅減となった。
■業種別 7業種中5業種で前年同月比増加
業種別にみると、7業種中5業種で前年同月を上回った。建設業(前年同月84件→105件、25.0%増)では、建築資材の高騰や労務費の上昇といった影響を受け、内装工事など職別工事業(同35件→55件)で57.1%の大幅増。サービス業(同110件→124件、12.7%増)は、宿泊業(同5→11件)や医療業(同5→11件)などが全体の件数を押し上げ、2カ月連続の前年同月比2ケタ増となった。また、運輸・通信業(同22件→31件、40.9%増)は、トラック輸送など道路貨物運送(同13件→19件)の増加が目立った。
一方、小売業(前年同月100件→87件、13.0%減)では、飲食店(同49件→33件)が3カ月連続の2ケタ減となり、依然として低水準で推移している。
■主因別 「不況型倒産」の件数は396件、構成比は76.6%
主因別にみると、「不況型倒産」の合計は396件(前年同月347件、14.1%増)と、3カ月ぶりに前年同月比増加となった。構成比は76.6%(対前年同月1.3ポイント増)を占めた。
※倒産主因のうち、販売不振、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振を「不況型倒産」として集計
■規模・業歴別 負債5000万円未満の構成比56.5%、製造業では大幅に増加
負債規模別にみると、負債5000万円未満の倒産は292件(前年同月281件、3.9%増)、構成比は56.5%を占めた。このうち、サービス業(81件)が構成比27.7%(対前年同月0.8ポイント減)を占め最多。建設業(67件)が構成比22.9%(同3.0ポイント増)が続く。また、製造業(27件)は前年同月から58.8%増加、なかでも飲食料品製造業などの業種が多い。
■地域別 北陸を除く8地域で前年同月比増加、北海道・東北・四国は前年同月から倍増
地域別にみると、北陸を除く8地域で前年同月から増加した。関東(前年同月176件→190件、8.0%増)は、製造業(同13件→25件)が前年同月比90%超の大幅増となり、全体でも4カ月ぶりに前年同月を上回った。また、北海道(同12件→24件、100.0%増)、東北(同12件→24件、100.0%増)、四国(同6件→13件、116.7%増)の3地域は前年同月から倍増、中国(同23件→32件、39.1%増)では、岡山県が前年同月の0件から14件と大幅に増加した。
一方、北陸(前年同月20件→17件、15.0%減)では2カ月連続で前年同月比2ケタ減となり、特に福井県(同5件→2件)は4カ月連続での2ケタ減となった。
■態様別 「破産」は483件、構成比は93.4%
態様別にみると、破産は483件(構成比93.4%)、特別清算は20件(同3.9%)となった。
民事再生法は13件で、うち7件を個人事業主が占めた。
■特殊要因倒産
人手不足倒産:8件(前年同月5件、60.0%増)発生、3カ月ぶりの前年同月比増加
後継者難倒産:45件(前年同月38件、18.4%増)発生、2カ月連続の前年同月比増加
コロナ融資後倒産:41件(前年同月9件、355.6%増)発生、集計開始後1年11カ月で300件を突破
■今後の見通し
企業倒産、抑制から一転12カ月ぶり増加 倒産の波は小規模零細から中堅にも
2022年5月の企業倒産は前年同月を56件上回る517件となり、21年5月以来12カ月ぶりに増加した。かつて月間600件台で推移していたコロナ前と比較すれば依然として低位に抑えられているものの、ほぼ横ばいで推移してきた倒産動向が増加に転じるなど潮目の変化が訪れようとしている。また、1年前(2021年5月)における増加も、内容は緊急事態宣言の影響で過去2番目の少なさとなった2020年5月から反動増の側面が強く、実質的には2020年7月以来約2年ぶりの増加といえる。長引くコロナ禍で中小企業の業況回復には遅れもみられるなか、コロナ融資をはじめとした各種資金繰り支援策による倒産抑止効果に陰りが見え始めている。
一方、負債総額は785億4000万と前年から半減し、2カ月連続で減少した。ただし、これは前年に負債1000億円を超える大型倒産(東京商事、特別清算、負債1004億8300万円)による影響が大きい。これを除けば負債総額も実質的には増加へ転じており、これまで多くを占めていた小規模零細企業の倒産から、負債1億円を超える中堅企業へと倒産の波が広がりつつある。
急激な物価上昇の陰で価格転嫁進まず、圧迫される中小企業経営
値上げの波が止まらない。帝国データバンクが食品主要105社を対象とした調査では、食品や飲料など年内に実施予定の値上げは1万品目を突破。6月だけでも、カップ麺や菓子、ソースといった1500品目超が値上げされた。さらに7月以降も4000品目超が値上げを控え、短期間でこれだけの品目が値上げされる異常事態となっている。食用油や小麦粉の急騰に、20年ぶりの水準となった円安、原油高といったコスト増加分も積み増しされ、平均値上げ幅は13%に達する。家庭用の日用品のみならず、ガソリンや包装資材など石油製品、木材や鉄骨資材など産業用製品でも値上げの動きが相次いでおり、あらゆるモノで「値上げラッシュ」の様相を呈している。
ただし、こうした値上げ分が最終消費者に十分転嫁されているとは言い難い。変動の大きい生鮮食品を除く直近4月の消費者物価指数は前年比伸び率が2%を超えたものの、企業物価指数の伸び率は10%と大きく上回っている。背景には、輸入原材料価格の上昇ペースが早く値上げが追いつかないほか、顧客離れを懸念する川下産業で値上げ分を被っている実情がある。ただ、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比で0.2%減(今年3月)と3カ月ぶりにマイナスに転じるなど、物価上昇に賃金の伸びが追いつかない構造的な問題が横たわる。景況感や労働者の実質賃金が上がらないまま物価上昇が続く現在の状況が長引けば、1970年代のオイルショック時に発生したスタグフレーションが、今年中にも日本経済に顕現する可能性が指摘されている。
一部の業界では、最近の急激な物価上昇に価格転嫁が追いつかず、経営破綻を余儀なくされた事例が既に出始めている。スーパー向けなどに豆腐や油揚げなどの製造を手掛けていたシェ・ポワ(兵庫県、5月事業停止)や筑豊食品(福岡県、5月破産)は、従前から上がっていた主原料となる輸入大豆の取引価格高騰が、ロシアとウクライナの戦闘が市場に影響してさらに高騰。直近の円安も加わって、仕入価格の好転が見込めない状態が続いた。他方、値上げによる顧客離れを懸念するスーパーなど納入先との価格交渉が難航したため価格への転嫁もできず、コストを吸収できなくなったことで経営が限界に達し、事業継続を断念した。
コロナ融資“効力希薄化”も 経営環境はかつてない閉塞感、倒産増加の傾向強まる
こうしたなか、コロナ禍の直撃を受けた中小企業の資金繰りを支えるべく、官民合わせて56兆円が投入された無利子無担保のコロナ融資、通称ゼロゼロ融資で効力希薄化の予兆もみられる。2022年5月のコロナ融資後倒産は41件発生し、初めて40件を超えた。累計では300件に達し、発生ペースも加速傾向にある。いずれも、コロナ融資を活用してキャッシュ枯渇といった事態は免れたものの、事業が回復していない状態で本格的な返済が間近にせまり、返済原資が確保できず事業の先行きを諦めたケースが多かった。足元では、私的整理の積極活用や円満な廃業支援、返済条件の変更など懸命な中小企業支援が続けられているものの、いずれも過剰債務の返済原資確保や抜本再生など根本的解決に向けた「即効薬」とはなりきれず、問題の先送り感も否めない。コロナ融資返済の小さな山は今夏、ピークは23年夏頃と目される中で、業績の回復が遅れ、返済負担が重くのしかかる中小企業は今後加速度的に増加することが予想される。
コロナ禍の影響が残る一方、急激な円安に原材料価格の高騰など懸念事項が山積しており、中小企業の経営環境にはかつてない程の閉塞感が漂う。企業倒産は今夏の国政選挙を前に控えながらも、これまでの減少トレンドから一転、増勢傾向が強まりつつある。
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