指定難病 顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症の新たな治療法を開発 ~副腎皮質ステロイドの使用量を1/3程度に抑え、副作用減に大きな効果~
千葉大学医学部附属病院アレルギー・膠原病内科の古田俊介 特任講師、大学院医学研究院アレルギー・臨床免疫学の中島裕史 教授らの研究グループは、全国20箇所の病院と共同で国の指定難病である顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症に対する新治療法の臨床試験(LoVAS試験)を実施しました。従来の治療ではステロイド使用に伴う感染症などの副作用が問題となっていましたが、新治療法では治療効果を維持しつつ、副腎皮質ステロイドの使用量を従来の1/3程度に抑えられることが明らかとなりました。実際に、臨床試験の中では重篤な副作用の発生頻度の大幅な低下が確認されています。
本研究成果は、2021年6月1日(米国中部標準時間)、米国医師会の発行する雑誌The Journal of the American Medical Association (JAMA)に公開されました。
本研究成果は、2021年6月1日(米国中部標準時間)、米国医師会の発行する雑誌The Journal of the American Medical Association (JAMA)に公開されました。
- 研究の背景
ANCA関連血管炎は自己免疫疾患の中でも、抗体の産生源であるB細胞(注2)の関与が強い病気だと知られていました。近年、自己免疫疾患に対するリツキシマブ(注3)によるB細胞除去療法の臨床応用が進んでおり、研究チームは、ANCA関連血管炎においてもリツキシマブによるB細胞除去療法を利用することで副腎皮質ステロイドの使用量を抑えることができ、副作用の少ない治療を実現できると考えました。
- 研究の成果
①少量副腎皮質ステロイド群では副腎皮質ステロイドの投与量をプレドニゾロン(注5)換算で体重1kgあたり0.5mg/日から治療を開始し、その後急速に減量し5ヶ月後には投与を完全に中止しました(図1青)。②大量副腎皮質ステロイド群では体重1kgあたり1.0mg/日から治療を開始後、徐々に減量しながら、5ヶ月後以降は10mg/日で維持しました(図1赤)。半年間の副腎皮質ステロイドの総使用量は①少量副腎皮質ステロイド群で中央値1,318mg、②大量副腎皮質ステロイド群で中央値4,151mgでした。
治療の効果はBVAS(注6)という指標を用いて評価しました。治療開始後は両群ともBVASスコアが減少し疾患活動性が低下しました(図2)。半年後に寛解(BVASスコア=0)を達成した割合は①少量副腎皮質ステロイド群で71%、②大量副腎皮質ステロイド群で69%であり、治療の有効性は両群で同等であることが示されました。
重篤な副作用は②大量副腎皮質ステロイド群では36.9%の患者さんに認められたのに対し、①少量副腎皮質ステロイド群では18.8%と著明に低下しました(図3)。副作用の中でも、重篤な感染症については②大量副腎皮質ステロイド群で20.0%の患者さんに認められたのに対し、①少量副腎皮質ステロイド群では7.2%と特に大きく低下していました。
- 今後の展望
- 用語解説
注2)B細胞:リンパ球の一種、液性免疫の主要な担い手。病原体に対する抗体やANCAのような自己抗体(自分の体の構成成分に対して反応する病的な抗体)を産生する。
注3)リツキシマブ:B細胞の表面抗原(CD20)に対するモノクローナル抗体製剤。リツキシマブが結合したB細胞は免疫系により除去されるため、悪性リンパ種や自己免疫疾患の治療に用いられている。
注4)ランダム化割り付け:登録された患者さんがどちらの治療群に入るのかを、コンピューターを利用して無作為に割り振る。ランダム化することで、2群間の偏りがなくなり、正しい効果判定が可能になる。
注5)プレドニゾロン:市販されている副腎皮質ステロイド製剤にはいくつかの種類があるが、最も使用頻度が高いのがプレドニゾロンである。
注6)BVAS: Birmingham vasculitis activity score(バーミンガム血管炎活動性スコア)の略。血管炎による9系統の臓器の様々な症状について、それぞれ点数が振られている。合計スコアが高い状態ほど血管炎の活動性が高く、予後も悪いとされている。全ての症状が消失した場合のスコアは0となる。
- 論文情報
リツキシマブを併用した減量ステロイド療法vs大量ステロイド療法のANCA関連血管炎の寛解導入における効果
著者:Shunsuke Furuta, Daiki Nakagomi, Yoshihisa Kobayashi, Masaki Hiraguri, Takao Sugiyama, Koichi Amano, Takeshi Umibe, Hajime Kono, Kazuhiro Kurasawa, Yasuhiko Kita, Ryutaro Matsumura, Yuko Kaneko, Keita Ninagawa, Keiju Hiromura, Shin-ichiro Kagami, Yosuke Inaba, Hideki Hanaoka, Kei Ikeda, Hiroshi Nakajima.
雑誌名:The Journal of the American Medical Association
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