【岡山大学】食われる側も工夫する:異なる天敵には違う捕食回避戦略を使う甲虫~フリーズか、それとも死を装うのか?~

国立大学法人岡山大学

2022(令和4)年 2月 11日
国立大学法人岡山大学
http://www.okayama-u.ac.jp/
 



<発表のポイント>
  • これまでの生物の研究では、食われるものが食うものに対抗する捕食回避術には、一連の行動パターンがあり、敵と対峙すると最初にフリーズし、それでも敵が攻撃してこようとすると、最後の手段として死んだふりをして死を装うと考えられてきました。
  • ところが微小甲虫を用いた私達の研究では、襲う天敵の種類によって食われる生物は、敵に対する戦術を変えていることが世界で初めてわかりました。
  • 今回の成果は動物の対捕食者行動の研究分野で従来の常識を覆す新しい発見となりました。


◆概 要
 国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:槇野博史)の学術研究院環境生命科学学域(農)の宮竹貴久教授らの研究グループは、米・小麦類の世界的重要害虫である微小甲虫のコクヌストモドキにおいて異なる種類の天敵が襲ったときに、天敵によって回避する行動戦術を変えることを発見しました。

 これまで食われるものが食うものに対抗する微小甲虫の捕食回避術として、まずじっと動かなくなりフリーズし、次に場合によっては反撃に転じたり逃げたりし、最後の手段として死んだふりをすると考えるのが定説でした。

 これまでの研究でも本種は、追撃型の天敵であるハエトリグモに襲われるとフリーズせずすぐに死んだふりをすることが明らかにされていましたが、今回の研究では待ち伏せ型の天敵であるコメグラサシガメを与えたところ、死んだふり行動はまったく見られず、フリーズして天敵をやり過ごす戦術に徹底しました。つまり体長5ミリにも満たないこの微小甲虫は、攻撃してくる敵のタイプによって、フリーズするか、死んだふりをするのかを使い分けることが世界で初めて明らかとなりました。
 


 フリーズと死を装うという2つの行動は、少なくとも本ケースでは、ドーパミンを介した対捕食行動間の多面発現によって異なる捕食者に対する行動スイッチが入ると考えられます。

 本研究成果は、2022年2月7日米国時間午前9時(日本時間7日午後11時)に米国のオンラインオープンアクセス科学雑誌「Ecology and Evolution」(Wiley Publishing Group)に掲載されました。


◆宮竹貴久教授からのひとこと
 昆虫の行動や生態をじっくりと観察することは大切です。ゲノム科学が飛躍的に進んだ今こそ、この原点回帰の観察は世界の誰も明らかにしていない発見に繋がる可能性を秘めています。それがいつかは人の暮らしの役に立つこともあるのです。大切なのは面白がって調べること。それは人生を豊かにしてくれる秘訣でもあると僕は思います。

宮竹貴久教授宮竹貴久教授


◆論文情報
 論 文 名:Freezing or death feigning? Beetles selected for long death feigning showed different tactics against different predators
 邦 題 名:「フリーズか、それとも死を装うか?長時間の擬死を育種した微小甲虫は、捕食者ごとに異なる回避戦術を示した」
 掲 載 紙:Ecology and Evolution
 著   者:Masaya Asakura, Kentatou Matsumura, Ryo Ishihara, Takahisa Miyatake
 D  O  I:10.1002/ECE3.8533
 U  R  L:https://doi.org/10.1002/ece3.8533


◆詳しいプレスリリースについて
 食われる側も工夫する:異なる天敵には違う捕食回避戦略を使う甲虫~フリーズか、それとも死を装うのか?~
 https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r3/press20220207.pdf


◆参 考
・昆虫の細菌感染密度に季節性 世界に先駆けて発見
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id459.html
・“逃げるは恥”ではない!? 戦闘で負けた後に4日間逃げ続ける昆虫について動物の行動様式の進化を数理モデルで解析
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id437.html
・LEDと性フェロモンを用いた環境・生産に負荷の少ない新型の害虫誘殺トラップを開発
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id419.html
・ウォーキング・ブームが少子化を招く?~昆虫からの示唆~
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id561.html
・死んだふりを制御する遺伝子群を世界に先駆けて発見!~ファーブルも注目した死にまねの仕組みを解明~
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id669.html
・歩かない虫のオスは、より多くの子の父となる!~より歩かないオスのほうがメスをめぐる競争に勝つ~
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id638.html
・大きな大顎を持つオスは死んだふりをしやすい?甲虫を用いた検証により世界で初めて明らかに
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id802.html
・コーヒーは虫のオスにとって精力剤なのか~カフェインを飲んだオスは、求愛にせっかちになる!~
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id774.html
・体内時計のリズムの振幅は北に行くほど小さくなる!昆虫を使った実証で発見
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id806.html
・世界初! 天敵から逃れる戦略を制御するゲノムの特徴を解明 ~死んだふりを操る遺伝子の全貌を突き止めた~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000337.000072793.html
 



◆本件お問い合わせ先
 岡山大学 学術研究院 環境生命科学学域(農) 教授 宮竹貴久
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス
 TEL:086-251-8339
 https://sites.google.com/view/miyatake/home

<岡山大学の産学連携などに関するお問い合わせ先>
 岡山大学研究推進機構 産学官連携本部
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
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