単純CT画像から冠動脈周囲脂肪濃度の測定が可能に
― 造影剤不要の新たな心血管イベントリスク評価法の開発―
順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科学の高橋 大悟 大学院生、藤本 進一郎 准教授、南野 徹 教授らの研究グループは、造影剤を用いずに撮影できる心電図同期胸部単純CT画像(*1)という手法を開発し、この手法が冠動脈周囲脂肪組織(PCAT)濃度(*2)の測定において有用であることを確認しました。PCAT濃度は、冠動脈硬化の不安定性に関連する炎症の程度を反映していると考えられていますが、これまでは造影剤を用いた「冠動脈CT」という手法で評価するのが一般的でした。研究グループが独自に開発した手法で、単純CT画像からPCAT濃度を測定したところ、従来法の値と良好な相関を示しており、さらにはPCAT濃度が独立した予後規定因子であることが明らかになりました。心電図同期単純CT画像から得られるPCAT濃度と冠動脈石灰化スコア(*3)の評価とを組み合わせることで、より精度の高い、低侵襲かつ簡便な心血管イベントのリスク層別化の実現が期待されます。本論文はAtherosclerosis誌のオンライン版に2023年1月31日付で公開されました。
研究成果のポイント
背景
心臓は大動脈から枝分かれしている冠動脈という血管によって血液が供給されており、冠動脈が動脈硬化による狭窄や閉塞をきたすことで、狭心症や心筋梗塞が引き起こされます。冠動脈周囲の脂肪組織の濃度は、冠動脈の動脈硬化の進行や不安定化を促進する炎症を反映すると言われており、造影剤を用いた冠動脈CT画像から算出される冠動脈周囲脂肪濃度の値が高いほど、死亡率や急性心筋梗塞の発症率が高いことが報告されています。しかしながら、造影剤を用いるCT検査は腎臓病、気管支喘息、薬剤アレルギー等の患者には施行しづらく、適応は限定的でした。今回研究グループは、造影剤を用いない単純CT画像から冠動脈周囲脂肪濃度の値を測定する手法を独自に開発し、幅広い患者層に対して簡便な心血管イベントのリスク評価を実現するため、その臨床的有用性について検証を行いました。
内容
今回の研究では、冠動脈石灰化スコアの評価に用いられる心電図同期胸部単純CTの水平断画像において、右冠動脈起始部背側の心臓周囲脂肪に、15×15mmの正方形の関心領域を設置し、その領域内におけるCT値の平均の値を単純CT画像による冠動脈周囲脂肪濃度(NC-PCAT)と定義しました(図1)。心電図同期胸部単純CT と冠動脈CTを同時に撮像した300名のデータにおいて、NC-PCATの値は造影剤を用いた冠動脈CTから算出されるPCATの値と良好な正の相関関係を示しました。また、NC-PCATの値は、心血管イベントの発症に関連するハイリスクプラーク(*4)の存在の予測に有用であること、特に冠動脈石灰化が既に進行している患者群においては唯一の関連因子であることが示されました。また、中等度以上の冠動脈狭窄を有する333名を対象に平均2.9年観察したところ、NC-PCATの値は死亡や心筋梗塞の発生を予測する独立した唯一の指標であり、NC-PCATを中央値(-93.55 HU[Hounsfield Units])で2群に分けて解析を行ったところ、NC-PCAT高値群で有意に死亡・心筋梗塞の発生率が高いことが明らかになりました(図2)。これまで心電図同期胸部単純CTでの冠動脈疾患スクリーニングには冠動脈石灰化スコアが有用とされてきましたが、このスコアは冠動脈の狭窄度や冠動脈硬化の程度を反映する一方、急性心筋梗塞の発生母地となるような冠動脈の炎症や不安定さとの明らかな関連は認められませんでした。今回、冠動脈石灰化スコアとNC-PCATによる評価を組み合わせることで、より精度の高い心血管イベントのリスク層別化が実現でき、特にすでに石灰化や冠動脈硬化を有している症例においてNC-PCATの評価の有用性がより高いと考えられました。
今後の展開
今回研究グループは、造影剤を用いない単純CT画像から、冠動脈周囲脂肪濃度(NC-PCAT)を算出する独自の手法を考案し、その妥当性・有用性を立証しました。心電図同期胸部単純CTから評価される冠動脈石灰化スコアにNC-PCATによる評価を加えることで、幅広い患者層に対して、低侵襲かつ簡便に、より精度の高い冠動脈疾患のリスク評価ができるようになることが期待されます。
用語解説
*1 心電図同期胸部単純CT画像: 心電図で心拍のリズムを確認しながらタイミングを合わせて撮影することで、心臓の動きによるブレを少なくしたCT画像。
*2 冠動脈周囲脂肪組織(PCAT)濃度:冠動脈の周囲に存在する脂肪組織のCT値(濃淡)を測定したもの。冠動脈硬化における炎症の程度を反映すると言われている。
*3 冠動脈石灰化スコア: 心電図同期胸部単純CTから評価される冠動脈の石灰化(カルシウム)の程度を表す指標。冠動脈疾患のリスクと相関を認める。
*4 ハイリスクプラーク: 冠動脈プラークのなかでも、脂質に富んでいる、被膜が薄い等、破綻して急性心筋梗塞をきたしやすい特徴を持つプラークの総称。
原著論文
本研究はAtherosclerosis誌のオンライン版で(2023年1月31日付)先行公開されました。
タイトル: Validation and Clinical Impact of Novel Pericoronary Adipose Tissue Measurement on ECG-gated Non-contrast Chest CT
タイトル(日本語訳): 心電図同期胸部単純CTにおける冠動脈周囲脂肪濃度測定法の開発とその臨床的有用性の検討
著者:Daigo Takahashi, Shinichiro Fujimoto, Yui O. Nozaki, Ayako Kudo, Yuko O. Kawaguchi, Kazuhisa Takamura, Makoto Hiki, Hideyuki Sato, Nobuo Tomizawa, Kanako K. Kumamaru, Shigeki Aoki, Tohru Minamino
著者(日本語表記): 高橋大悟1), 藤本進一郎1), 野崎侑衣1), 工藤綾子1), 川口裕子1), 高村和久1), 比企誠1), 佐藤英幸1,2), 富澤信夫3), 隈丸加奈子3), 青木茂樹3), 南野徹1)
著者所属:1)順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科学講座、2)順天堂大学医学部附属順天堂医院 放射線部、3)順天堂大学大学院医学研究科 放射線科学講座
DOI: https://doi.org/10.1016/j.atherosclerosis.2023.01.021
本研究にご協力いただいた放射線部の皆様に心より感謝いたします。
- 単純CT画像から冠動脈周囲脂肪濃度の値を測定する手法を開発
- 単純CTにおける冠動脈周囲脂肪濃度の値が独立した予後規定因子であることを発見
- より精度が高く、低侵襲かつ簡便な心血管イベントのリスク評価の実現に期待
背景
心臓は大動脈から枝分かれしている冠動脈という血管によって血液が供給されており、冠動脈が動脈硬化による狭窄や閉塞をきたすことで、狭心症や心筋梗塞が引き起こされます。冠動脈周囲の脂肪組織の濃度は、冠動脈の動脈硬化の進行や不安定化を促進する炎症を反映すると言われており、造影剤を用いた冠動脈CT画像から算出される冠動脈周囲脂肪濃度の値が高いほど、死亡率や急性心筋梗塞の発症率が高いことが報告されています。しかしながら、造影剤を用いるCT検査は腎臓病、気管支喘息、薬剤アレルギー等の患者には施行しづらく、適応は限定的でした。今回研究グループは、造影剤を用いない単純CT画像から冠動脈周囲脂肪濃度の値を測定する手法を独自に開発し、幅広い患者層に対して簡便な心血管イベントのリスク評価を実現するため、その臨床的有用性について検証を行いました。
内容
今回の研究では、冠動脈石灰化スコアの評価に用いられる心電図同期胸部単純CTの水平断画像において、右冠動脈起始部背側の心臓周囲脂肪に、15×15mmの正方形の関心領域を設置し、その領域内におけるCT値の平均の値を単純CT画像による冠動脈周囲脂肪濃度(NC-PCAT)と定義しました(図1)。心電図同期胸部単純CT と冠動脈CTを同時に撮像した300名のデータにおいて、NC-PCATの値は造影剤を用いた冠動脈CTから算出されるPCATの値と良好な正の相関関係を示しました。また、NC-PCATの値は、心血管イベントの発症に関連するハイリスクプラーク(*4)の存在の予測に有用であること、特に冠動脈石灰化が既に進行している患者群においては唯一の関連因子であることが示されました。また、中等度以上の冠動脈狭窄を有する333名を対象に平均2.9年観察したところ、NC-PCATの値は死亡や心筋梗塞の発生を予測する独立した唯一の指標であり、NC-PCATを中央値(-93.55 HU[Hounsfield Units])で2群に分けて解析を行ったところ、NC-PCAT高値群で有意に死亡・心筋梗塞の発生率が高いことが明らかになりました(図2)。これまで心電図同期胸部単純CTでの冠動脈疾患スクリーニングには冠動脈石灰化スコアが有用とされてきましたが、このスコアは冠動脈の狭窄度や冠動脈硬化の程度を反映する一方、急性心筋梗塞の発生母地となるような冠動脈の炎症や不安定さとの明らかな関連は認められませんでした。今回、冠動脈石灰化スコアとNC-PCATによる評価を組み合わせることで、より精度の高い心血管イベントのリスク層別化が実現でき、特にすでに石灰化や冠動脈硬化を有している症例においてNC-PCATの評価の有用性がより高いと考えられました。
今後の展開
今回研究グループは、造影剤を用いない単純CT画像から、冠動脈周囲脂肪濃度(NC-PCAT)を算出する独自の手法を考案し、その妥当性・有用性を立証しました。心電図同期胸部単純CTから評価される冠動脈石灰化スコアにNC-PCATによる評価を加えることで、幅広い患者層に対して、低侵襲かつ簡便に、より精度の高い冠動脈疾患のリスク評価ができるようになることが期待されます。
用語解説
*1 心電図同期胸部単純CT画像: 心電図で心拍のリズムを確認しながらタイミングを合わせて撮影することで、心臓の動きによるブレを少なくしたCT画像。
*2 冠動脈周囲脂肪組織(PCAT)濃度:冠動脈の周囲に存在する脂肪組織のCT値(濃淡)を測定したもの。冠動脈硬化における炎症の程度を反映すると言われている。
*3 冠動脈石灰化スコア: 心電図同期胸部単純CTから評価される冠動脈の石灰化(カルシウム)の程度を表す指標。冠動脈疾患のリスクと相関を認める。
*4 ハイリスクプラーク: 冠動脈プラークのなかでも、脂質に富んでいる、被膜が薄い等、破綻して急性心筋梗塞をきたしやすい特徴を持つプラークの総称。
原著論文
本研究はAtherosclerosis誌のオンライン版で(2023年1月31日付)先行公開されました。
タイトル: Validation and Clinical Impact of Novel Pericoronary Adipose Tissue Measurement on ECG-gated Non-contrast Chest CT
タイトル(日本語訳): 心電図同期胸部単純CTにおける冠動脈周囲脂肪濃度測定法の開発とその臨床的有用性の検討
著者:Daigo Takahashi, Shinichiro Fujimoto, Yui O. Nozaki, Ayako Kudo, Yuko O. Kawaguchi, Kazuhisa Takamura, Makoto Hiki, Hideyuki Sato, Nobuo Tomizawa, Kanako K. Kumamaru, Shigeki Aoki, Tohru Minamino
著者(日本語表記): 高橋大悟1), 藤本進一郎1), 野崎侑衣1), 工藤綾子1), 川口裕子1), 高村和久1), 比企誠1), 佐藤英幸1,2), 富澤信夫3), 隈丸加奈子3), 青木茂樹3), 南野徹1)
著者所属:1)順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科学講座、2)順天堂大学医学部附属順天堂医院 放射線部、3)順天堂大学大学院医学研究科 放射線科学講座
DOI: https://doi.org/10.1016/j.atherosclerosis.2023.01.021
本研究にご協力いただいた放射線部の皆様に心より感謝いたします。
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