LIXILと静岡大学にて共同研究を実施。学校でのケガの当事者意識を促す安全教育プログラムの開発
取り組みの背景
従来の小学校保健「けがの防止」に関する授業や安全教育プログラムでは、けがの防止に向けたKYT(危険予知トレーニング)シートや応急処置などの授業が取り組まれてきました。しかし、けがの防止について児童らが当事者意識を持つことが難しく、自分事として考えることが難しい、と指摘されています。そこで、本研究では、身の周りのけがについて児童らが当事者意識を持つことを目的としたプログラムを開発することとしました。
取り組み内容
本研究は、2つのポイントがあります。1つ目は、ワークシート(下記)を使って「ケガをしてしまう場面」を想像することです。従来の安全教育はトラブル事例を提示し、怖がらせる授業となってしまい、ケガを自分事として捉えさせることが困難でした。そこで本教材は「どこで」「なにがどのように」「気持ち」のキーワードから「自分がケガをしてしまう場面」を考えることで、いくつかの要因が重なると「自分がケガをしてしまうかもしれない」と、ケガを自分事化することができます。2つ目は、対策アイデアの考え方を学ぶことです。子ども達が対策を考える時に、「ケガをしてしまう場面」を分析したことで、その要因に沿った具体的な対策アイデアを考えることができます。また、場面強制想像法やアイデア検討などのワークショップ型の授業とすることで、楽しく学べる安全教育となります。
▲静岡県浜松市立気賀小学校での授業の様子(気賀小学校のWEBより引用)
https://weblog.city.hamamatsu-szo.ed.jp/kiga-e/index7.html
本プログラムの成果
本授業の事前と事後において、児童らにアンケートを行いました。「自分がどんな気持ちのときにケガを起こしやすいかわかっている」という質問に5段階で回答してもらった結果、1組では授業事前が平均2.98点から授業事後が4.29点となり、「周りがどんな状況のときにケガを起こしやすいかわかっている」という質問に対しては、授業が3.41点から授業事後が4.16点で、有意に増加したことが明らかとなりました。その他のクラスでも同様の結果が得られています。こうした結果から、本プログラムを通して安全意識が醸成されたと言えます。
さらに、「私は教室で『ケガをしてしまう可能性がある』と思う」という質問では、1組では授業事前が平均2.95点から授業事後が4.08点となり、有意に増加したことが明らかになりました。その他のクラスでも同様の結果が得られています。したがって、けがへの自覚を促せたと言えます。このように児童らが学校でのけがに対し当事者意識を持つことで、けがの予防につながると考えられます。
また、児童らの自由記述では以下のような記述がありました。
「どこでけがしやすいのかわかったし、けがをするのは自分や友達だけではなく周りの環境も原因があるということが分かったのでこれからは自分でもケガをしないようにさせないように気をつけたいです。」
「けががおこりやすい場所が分かった。自分がケガをしやすい場所が分かったので、自分の気持ち、行動や環境を変えるなど工夫があるとわかったので気をつけていきたい。」
このように、授業に参加したことで、けがの背後要因やけがの防止に向けた対策への意欲が高まった様子が伺えます。
LIXIL担当者のコメント
株式会社LIXILの安全・品質統括部では、「家の中や学校での事故」をテーマに子どもたちのリスクリテラシーを育ませるために、学校への教材配布や出前授業を展開してきており、その教材開発において静岡大学塩田研究室とのカリキュラム開発は本作で2作目となります。
これまでの教材においても、子どもたちは、楽しみながら積極的に手を挙げ、発言し、先生方からの評判も良い中で運営することができています。一方で、「発生する事故」に対する認識をもっと「自分事」として捉えさせ、事故回避能力を高めるための教材を作りたいとの思いから、今回の開発に至りました。
今回のカリキュラムは従来の「事故を起こさない、起こらないため」という視点ではなく「自分が事故に遭うとしたらどんなシチュエーション(場面)か」を考えその時の「気持ち」「状態(環境)」を理解し対策を考える新たな視点でのカリキュラムとなっています。
これまでの実施結果(アンケート)からも狙い通りの成果が出現しており、子どもたちのリスクリテラシー醸成のための新たな一助となることを期待しています。
LIXILは、新たな出前授業の一つとして学校に出向き実施する予定。さらに従来の出前授業とセットで、シリーズものとしても展開を予定しています。
教材URL
参考資料
■場面強制想像法を用いたワークシート
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