新型コロナ医薬品 独占権を放棄して公平な普及を――MSF、日本など反対各国に公開書簡
世界貿易機関(WTO)は3月10日から、新型コロナウイルス感染症の医薬品などに対する知的財産権保護を、パンデミック(世界的大流行)収束まで一時的に停止するという提案について再び協議する。本提案はインドと南アフリカ政府によって昨年10月に出されたが、日米欧などの反対に合い、結論に至っていない。国境なき医師団(MSF)は本日、反対する国々に対し公開書簡を送り、提案を阻止せず、WTOでの正式な協議を進めるよう求めた。
本提案が採択されれば、世界中のジェネリック薬(後発医薬品)メーカーなどが、特許や他の独占的権利に関わらず、薬やワクチン、その他関連品の生産を開始できる道が開かれ、世界的な公平な普及に拍車がかかると期待されている。
公開書簡全文(和訳)は以下の通り。
公開書簡:パンデミック下で新型コロナ医療ツールの独占を止めるための提案に反対する政府の皆様へ
国境なき医師団(MSF)インターナショナル会長・医師
クリストス・クリストゥ
国境なき医師団(MSF)インターナショナル会長として、各国政府の皆様には、世界貿易機関(WTO)での画期的な提案に対して決定を拒む、または、遅らせることによって、その進展を止めることのないようお願いしたく、この度、本書簡をお送りいたします。人命を救うために必要な保健医療技術を用いて新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)と闘おうとする国々を、WTOの全加盟国が支援すべきであると、私たちは考えます。
この提案が認められれば、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」のもとに特定の知的財産権の一時的な停止が可能になり、パンデミックの間、新型コロナウイルス感染症に関する医療ツールの独占が排除されます。インドと南アフリカ共和国が昨年10月に提出したこの提案には、現在、58カ国が共同提案国となっています。また、100カ国以上の政府がこの提案を歓迎し、何百という市民団体や国際機関も賛同しています。
MSFは2020年1月から、70カ国以上で新型コロナウイルス感染症のパンデミックに対応し、必須の保健医療の継続と、新型コロナウイルス感染症患者への十分なケアの確保を支えてきました。パンデミックの初期には各国で必須の医療物資が不足し、人命を守るための医療の提供を制限するという苦渋の決断を強いられました。
新型コロナウイルス感染症に関わる保健医療技術の知的財産や、その生産に必要な技術、データ、知識は公に共有し、能力ある生産者が世界中で製造・供給できるようにすべきです。しかしながら、パンデミックが1年を経過した今も、製薬企業は市場の独占を続けようとしており、その中には、多大な公的投資の恩恵を受けた製品も含まれています。企業は依然として、非公開の商取引によって、治療薬やワクチンをどこで生産するか、誰がそれを最初に受け取るか、いくらで売られるか、それらの主要な決定権を握っています。開発途上国に存在する生産力を使って製造・供給の拡大に踏み出した企業はわずかです。新型コロナウイルス感染症関連の知的財産と保健医療技術を世界規模でオープンに共有することを推進する、世界保健機関(WHO)のCOVID-19 技術アクセス・プール(C-TAP)のような動きに、製薬業界が具体的な支持を示したこともありません。
製薬企業からの協力の欠如に加え、多くの富裕国は、入手可能な新型コロナウイルス感染症ワクチンの大部分を確保してしまっています。そのうち一部の政府は、途上国での製造・供給を拡大するための技術移転の重要性を認めながらも、その実現に向けた具体的な行動は取っていません。
必要な医療ツールの供給者を世界中で増やすために、さらなる努力がなされなければ、途上国の人びとの利用機会は今後も不当に制限され続けるでしょう。各国は、既存の知的財産法の法的柔軟性を最大限に活用し、公衆衛生を守るべきです。ただ、世界的なニーズが膨大であるパンデミックにも関わらず、その柔軟性の活用にも限界があります。
知財の一時停止という今回の提案は、新型コロナウイルス感染症関連の医薬品の製造・供給を妨げかねない法的リスクを、より速やかに排除できる、追加的な政策の選択肢となります。これにより、民間産業の利害や動きにとらわれず、開発・製造・供給の共同作業を促進することができます。重要な点は、これによって各国政府には、公平なアクセスを確保するために必要な、可能性のあるすべての医療保健ツールが与えられるのです。
TRIPSにおける本提案のもたらす公衆衛生上の利益が明らかであるにもかかわらず、ごく一部の豊かな国々がWTOでの交渉を頑なに阻んだり、遅らせたりすることを、私たちは深く憂慮しています。この提案を拒み、遅らせている、オーストラリア、カナダ、EU諸国、日本、ノルウェー、スイス、英国、米国などの国々の多くはまた、現在入手可能なワクチンの大半を確保してしまった国々でもあります。
既存の、また今後実用化される、治療薬、ワクチン、検査法などの、命にかかわる医療ツールは、世界の公共財として扱い、私的な独占にとらわれず、すべての人に入手可能で、手が届くものにしなくてはなりません。
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本提案はこれまで、世界中の何百もの市民団体と、世界保健機関(WHO)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ(DNDi)、南センター(The South Center)、ユニットエイド(UNITAID)、第三世界ネットワーク(Third World Network)を含む多くの国際機関が歓迎を表明。2月下旬には、115人を超える欧州議会議員(MEP)が、欧州委員会と欧州理事会に対し、独占権放棄案への反対を取り下げるよう求めていた。
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