アニメ制作、苦境続く 「赤字」割合は過去最高の4割 市場は初の2年連続減、大手と中小の格差鮮明
「アニメ制作業界」動向調査(2022)
2021年のアニメ業界は、劇場版を中心に多くのヒットがあった。1995年に放映開始した国内屈指の大型タイトルの完結作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開に加え、海外でも大ヒットした『鬼滅の刃 無限列車編』など、明るい話題が多かった。
一方、国内アニメ産業の発展をけん引してきた日本アニメの世界市場は11年ぶりに減少。コロナ禍での巣ごもり需要により、アニメの視聴機会がテレビ放送からネット配信へ軸足が移りつつあるなど、外部環境はコロナ禍によって一変している。制作企業でも、制作ニーズは引き続き旺盛な一方でデジタル人材不足が深刻化するなど、課題は今なお山積している。
帝国データバンクでは、信用調査報告書ファイル「CCR」(190万社収録)ほか外部情報をもとに、アニメ制作企業を対象とした業界調査を行った。なお、同様の調査は2021年8月に続き7回目。
一方、国内アニメ産業の発展をけん引してきた日本アニメの世界市場は11年ぶりに減少。コロナ禍での巣ごもり需要により、アニメの視聴機会がテレビ放送からネット配信へ軸足が移りつつあるなど、外部環境はコロナ禍によって一変している。制作企業でも、制作ニーズは引き続き旺盛な一方でデジタル人材不足が深刻化するなど、課題は今なお山積している。
帝国データバンクでは、信用調査報告書ファイル「CCR」(190万社収録)ほか外部情報をもとに、アニメ制作企業を対象とした業界調査を行った。なお、同様の調査は2021年8月に続き7回目。
<調査結果(要旨)>
アニメ制作に従事する企業のうち、直接制作を受託・完成させる能力を持つ「総合制作企業・グロス請企業(元請・グロス請)」と、脚本や演出、原画、動画、CG、背景美術、特殊効果、撮影、編集などの専門分野において、下請としてアニメ制作に携わる企業(専門スタジオ)
アニメ制作市場、初の2年連続減少 コロナ禍の制作遅延、本数減少を背景に
足元ではコロナ禍の影響が緩和され、2022年の市場は一転して増加するとみられる。しかし、コロナ禍で制作遅延となった作品の「繰り延べ」による影響が多く含まれるほか、過去最高だった19年の水準には届かない見通しで、アニメ制作市場は頭打ちの傾向がみられる。
制作態様別の業績動向
元請・グロス請:自社IPの有無で、元請間でも格差が広がる
引き続き、コロナ禍の影響によるスポンサー撤退や出資見送りなどに加え、自社の受注限界に迫る制作量などから制作スケジュールに影響し、翌期への持ち越しといったケースが散見された。ただ、自社IP(知的財産)を有する大手元請などでは、特にコロナ禍で需要が拡大した動画ストリーミング配信などによるライセンス収入が利益に大きく貢献し、黒字や増益となった企業が多くみられた。他方、自社版権を多く持たない中堅以下の元請では、制作本数減による減収に加え、特にアニメーター不足から受注量を拡大できない企業が多いほか、作品によっては外注費の上昇で採算割れが発生したケースもあり、減益や赤字が多く発生した。元請内においても、自社IPの有無や制作能力の多寡によって制作収入と利益のバランスに安定感を欠く構造が続いている。
専門スタジオ(下請):制作本数減が影響 設備投資負担も重く、減収・赤字割合も高水準
専門スタジオでは、アニメーターの積極採用や外注増加、老朽化に伴う機材更新やデジタル化対応設備の導入など、積極的な設備投資が行われてきた。その効果として受注消化能力が向上していることや、3DCGなどでは最新設備の導入で制作現場の付加価値が高まり、請負単価の上昇といった恩恵を受ける専門スタジオもあった。しかし、コロナ禍の影響で全体的にアニメ作品の制作見送りや中止などが発生し、元請からの発注量は減少を余儀なくされたことで減収となるケースが多く、上昇傾向にあったコスト負担を吸収できずに損益面でも大幅に悪化した。
2021年までのアニメ業界動向 TOPICS
テレビアニメ制作本数は7年ぶり300本割れも、『SPY×Family』など話題作は豊富
2021年のテレビアニメは、20年の『鬼滅の刃』クラスのメガヒットはなかったものの、各ジャンルで安定して人気を獲得したアニメ作品が多かった。シリーズ最新作の『ラブライブ!スーパースター!!』、スマホゲームで人気が急上昇した『ウマ娘 プリティーダービー Season 2』など話題作が多い。22年シーズンも『SPY×Family』『パリピ孔明』など人気作が出ているほか、ショートアニメでは『八十亀ちゃんかんさつにっき』など、SNSやスマホゲームと連動した複合メディアミックス型のアニメ制作プロジェクトが新たなファン層の獲得や人気の底上げに結び付いている。
進む海外取引、米国企業との取引は前年調査の2倍に急増
「新作頼み」の成長モデルに限界露呈 クオリティ維持可能な利益確保の仕組みづくり急務
2021年は、アニメ制作業界においても新型コロナウイルス感染拡大により、制作スケジュール遅延などの影響を大きく受けた。ただ、自社コンテンツを有する大手制作や元請制作では、ライセンス収入などで安定的な収益を確保した一方、自社で有力なコンテンツを持たない中小アニメ制作、専門スタジオでは減収や赤字割合が拡大して過去最高となるなど、規模や制作工程によって経営動向の二極化はより進行・拡大している。とりわけ、いかに有力で展開しやすいIPを有するか否かで収益動向が左右される点は、独立などで新規に参入する制作企業の安定性を損なう要因になっている。
国内テレビアニメに目を向けると、2022年も放映がスタートしたシリーズ最新作の『ラブライブ!スーパースター!!』をはじめとして話題作が多く、「日本アニメ」ブランドによる優位性を背景に、キラーコンテンツとしての地位を今後も確保できよう。ただ、足元では新作タイトルの飽和にともなう制作市場の頭打ち感もみられる一方で、クオリティ維持に向けた最新設備などへの投資や、特に若手アニメーター不足に起因する人件費・外注費の増加でコスト上昇が続いており、収益力は年々低下している。近年では中小アニメ制作でも人材育成の仕組みづくりに注力する動きが目立つものの、現状の不安定な経営事情を背景に労務面や生産性の改善といった課題は残ったままで、抜本的な解決に向けた道筋は見えていない。一方で海外、特に中国のアニメ制作企業がアニメ原作の供給力・制作力の双方で日本に比肩する実力をつけるなか、人的・質的な制作能力を日本アニメ制作業界全体で維持できなければ、早ければ10年以内に日本アニメ自体が地盤沈下する可能性も出ている。
海外の動画プラットフォーマーなどでは、高額な制作費を投下して長期にわたる共同制作を行うほか、アニメーター育成に向けサポートする動きもみられ、人的・資金面で国内アニメ制作会社との共存を目指す動きもある。質の高さを担保してきた、国内アニメ産業の発展を支えてきた「制作委員会方式」の良さを生かしながらも、アニメ制作会社のクオリティ維持や将来に向けた投資が可能とする、ヒット作の収益還元といった仕組みづくりが引き続き急がれる。
<参考データ>
本社所在地:9割が東京都内に集中
京都アニメーションなど地方に本社を置くアニメ制作企業や、特定分野に特化したスタジオを地方に設置する動きも進んでおり、これらのスタジオは地方創生の観点からも注目を集める。
企業規模:従業員数は増加傾向
従業員規模では、最も多かったのは「5人以下」(93社)で、「6~20人以下」(88社)が続いた。従業員20人以下の企業が全体の6割を占める傾向には変化がなかった。他方で、近年の人材不足等などから、各社で進むアニメーター囲い込みの動きが進み、従業員数が増加するケースもある。
設立年代:2010年代の設立、全年代で初の100社超で最多
- 2021年(1~12月期決算)におけるアニメ制作業界の市場規模(事業者売上高ベース)は、前年(2633億円)を5.2%下回る2495億8200万円となった。過去最高だった2019年から10年ぶりに減少に転じた2020年に続き、2年連続で市場が縮小した。2年連続で減少となったのは、データのある2000年以降で初めて
- 制作企業1社当たり平均売上高は8億1800万円だった。2017年以降、19年まで3年連続で増加していたものの、20年は減少に転じ、21年は減少幅がさらに拡大した。ただし、元請・グロス請に比べて下請けとなる専門スタジオの減少幅が大きかった
アニメ制作に従事する企業のうち、直接制作を受託・完成させる能力を持つ「総合制作企業・グロス請企業(元請・グロス請)」と、脚本や演出、原画、動画、CG、背景美術、特殊効果、撮影、編集などの専門分野において、下請としてアニメ制作に携わる企業(専門スタジオ)
アニメ制作市場、初の2年連続減少 コロナ禍の制作遅延、本数減少を背景に
アニメ制作市場推移
足元ではコロナ禍の影響が緩和され、2022年の市場は一転して増加するとみられる。しかし、コロナ禍で制作遅延となった作品の「繰り延べ」による影響が多く含まれるほか、過去最高だった19年の水準には届かない見通しで、アニメ制作市場は頭打ちの傾向がみられる。
アニメ制作1社当たりの平均売上高推移
アニメ制作会社の業績動向(2021年)
制作態様別の業績動向
元請・グロス請:自社IPの有無で、元請間でも格差が広がる
業績動向(元請・グロス請)
引き続き、コロナ禍の影響によるスポンサー撤退や出資見送りなどに加え、自社の受注限界に迫る制作量などから制作スケジュールに影響し、翌期への持ち越しといったケースが散見された。ただ、自社IP(知的財産)を有する大手元請などでは、特にコロナ禍で需要が拡大した動画ストリーミング配信などによるライセンス収入が利益に大きく貢献し、黒字や増益となった企業が多くみられた。他方、自社版権を多く持たない中堅以下の元請では、制作本数減による減収に加え、特にアニメーター不足から受注量を拡大できない企業が多いほか、作品によっては外注費の上昇で採算割れが発生したケースもあり、減益や赤字が多く発生した。元請内においても、自社IPの有無や制作能力の多寡によって制作収入と利益のバランスに安定感を欠く構造が続いている。
専門スタジオ(下請):制作本数減が影響 設備投資負担も重く、減収・赤字割合も高水準
業績動向(専門スタジオ)
専門スタジオでは、アニメーターの積極採用や外注増加、老朽化に伴う機材更新やデジタル化対応設備の導入など、積極的な設備投資が行われてきた。その効果として受注消化能力が向上していることや、3DCGなどでは最新設備の導入で制作現場の付加価値が高まり、請負単価の上昇といった恩恵を受ける専門スタジオもあった。しかし、コロナ禍の影響で全体的にアニメ作品の制作見送りや中止などが発生し、元請からの発注量は減少を余儀なくされたことで減収となるケースが多く、上昇傾向にあったコスト負担を吸収できずに損益面でも大幅に悪化した。
2021年までのアニメ業界動向 TOPICS
テレビアニメ制作本数は7年ぶり300本割れも、『SPY×Family』など話題作は豊富
アニメ制作本数推移
2021年のテレビアニメは、20年の『鬼滅の刃』クラスのメガヒットはなかったものの、各ジャンルで安定して人気を獲得したアニメ作品が多かった。シリーズ最新作の『ラブライブ!スーパースター!!』、スマホゲームで人気が急上昇した『ウマ娘 プリティーダービー Season 2』など話題作が多い。22年シーズンも『SPY×Family』『パリピ孔明』など人気作が出ているほか、ショートアニメでは『八十亀ちゃんかんさつにっき』など、SNSやスマホゲームと連動した複合メディアミックス型のアニメ制作プロジェクトが新たなファン層の獲得や人気の底上げに結び付いている。
進む海外取引、米国企業との取引は前年調査の2倍に急増
アニメ制作会社の海外取引動向
「新作頼み」の成長モデルに限界露呈 クオリティ維持可能な利益確保の仕組みづくり急務
2021年は、アニメ制作業界においても新型コロナウイルス感染拡大により、制作スケジュール遅延などの影響を大きく受けた。ただ、自社コンテンツを有する大手制作や元請制作では、ライセンス収入などで安定的な収益を確保した一方、自社で有力なコンテンツを持たない中小アニメ制作、専門スタジオでは減収や赤字割合が拡大して過去最高となるなど、規模や制作工程によって経営動向の二極化はより進行・拡大している。とりわけ、いかに有力で展開しやすいIPを有するか否かで収益動向が左右される点は、独立などで新規に参入する制作企業の安定性を損なう要因になっている。
国内テレビアニメに目を向けると、2022年も放映がスタートしたシリーズ最新作の『ラブライブ!スーパースター!!』をはじめとして話題作が多く、「日本アニメ」ブランドによる優位性を背景に、キラーコンテンツとしての地位を今後も確保できよう。ただ、足元では新作タイトルの飽和にともなう制作市場の頭打ち感もみられる一方で、クオリティ維持に向けた最新設備などへの投資や、特に若手アニメーター不足に起因する人件費・外注費の増加でコスト上昇が続いており、収益力は年々低下している。近年では中小アニメ制作でも人材育成の仕組みづくりに注力する動きが目立つものの、現状の不安定な経営事情を背景に労務面や生産性の改善といった課題は残ったままで、抜本的な解決に向けた道筋は見えていない。一方で海外、特に中国のアニメ制作企業がアニメ原作の供給力・制作力の双方で日本に比肩する実力をつけるなか、人的・質的な制作能力を日本アニメ制作業界全体で維持できなければ、早ければ10年以内に日本アニメ自体が地盤沈下する可能性も出ている。
海外の動画プラットフォーマーなどでは、高額な制作費を投下して長期にわたる共同制作を行うほか、アニメーター育成に向けサポートする動きもみられ、人的・資金面で国内アニメ制作会社との共存を目指す動きもある。質の高さを担保してきた、国内アニメ産業の発展を支えてきた「制作委員会方式」の良さを生かしながらも、アニメ制作会社のクオリティ維持や将来に向けた投資が可能とする、ヒット作の収益還元といった仕組みづくりが引き続き急がれる。
<参考データ>
本社所在地:9割が東京都内に集中
アニメ制作企業の分布
京都アニメーションなど地方に本社を置くアニメ制作企業や、特定分野に特化したスタジオを地方に設置する動きも進んでおり、これらのスタジオは地方創生の観点からも注目を集める。
企業規模:従業員数は増加傾向
企業規模別
従業員規模では、最も多かったのは「5人以下」(93社)で、「6~20人以下」(88社)が続いた。従業員20人以下の企業が全体の6割を占める傾向には変化がなかった。他方で、近年の人材不足等などから、各社で進むアニメーター囲い込みの動きが進み、従業員数が増加するケースもある。
設立年代:2010年代の設立、全年代で初の100社超で最多
設立年代別
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