戦後、福岡の炭鉱町が舞台の私小説『黒いダイヤとパイナップルの缶詰』発売! 決して大人だけではない、子供たちも確かに闘っていた。飢えや病気と、貧困や社会の不条理と生存を賭けて闘っていた…。
パレードブックスは、2025年7月30日(水)に『黒いダイヤとパイナップルの缶詰』を全国書店にて発売いたします。

『黒いダイヤとパイナップルの缶詰』(著・目鯨翁)
僕達は戦争を知らない。しかしこの国の大人達は人間の尊厳をも脅かす敗戦の後遺症にのたうち回っていた。住む場所が無い人がいた、三度の飯にありつけない人がいた、手作りの松葉杖をつき、施しを乞う傷痍軍人達が街角に立っていた。健康保険証がなく医療の施し無く死んでゆく子供達がいた、給食にありつけず水道水で空腹をしのぐ生徒がいた。大人たちは傷を庇うように戦争のことを語らなかったが、今度は絶望という敵と闘っていたのだ。
子供たちはそれを聞いてはならないとわかっていた。子供もまた飢えや貧困と闘っていたからだ。
学校に行かず子守りをする少女達がいた、絶望した大人や社会の〝とばっちり〟と闘っていた、生きることを妨げるあらゆるものと闘っていた。しかしその痩せこけた顔の窪んだ瞳は希望を見つけようと必死に遠くを見ていた。
あらすじ
(炭鉱町の暮らし)
妹のキヨコは僕が幼稚園に行っている間、線路の向こうのキク婆ちゃんの家で預かってもらっていた。母がお金を払いお願いしていたのだ。(中略)ある日の夜、キク婆ちゃんの家のそばに住んでいるおばさんが母を訪ねて来た。
「あのねえ奥さん、ヨウジ君が毎日持ってくるキヨコちゃんのお弁当やけどね、キクさん殆ど自分や孫達で食べてるとよ、キヨコちゃんには残りもんとか、芋とか食べさせてね。私、余計な事ばってん、見るにみかねてねえ…」
母は大きくため息をついて、
『キヨコちゃん、母ちゃんが作った玉子焼き、食べてるの?』
「あのね、えっとね、婆ちゃんとユッコちゃんが食べる」
『キヨコはなにを食べてると?』
「あのね、えっとね、おイモさん」
(紙芝居)
…お盆のお楽しみで僕たちが能古島での海水浴のあと博多の鹿鳴春でから揚げとスーパイコと豚マンを満喫し日野ルノーのタクシーで帰宅中のことです。タクシーはまだ舗装すらされていない県道を亀山から志免へとホコリを立てながら走っていました。するとそのヘッドランプが前からヨロヨロと走ってくる自転車を映し出しました。その自転車はデコボコ道の砂利石にバランスを崩し、タクシーの前で転倒してしまいました。運転手さんは急ブレーキをかけて止まると、窓を降ろし『おいさん、大丈夫な? けがしとらんな?』と声を掛けました。自転車のおじさんはやっと立ち上がり、バラけた荷物を脇に避けて道を空け、野球帽を脱いで言いました。
「大丈夫、すんません、行ってください」そのホコリまみれの綿のように疲れ果てた顔の人は紙芝居のあの薮睨みのおじさんでした。おじさんからは僕達が見えていません。僕達が年に一度のごちそうを食べて、タクシーで帰宅しているときにボロ雑巾になって家族の元に帰る途中のあの怖いおじさんでした。僕が『あれ、紙芝居のオヤジ!』と声を上げると、母は無言で僕の口を塞ぎました…
(炭坑夫黙示録)
…ユネスコがなんと言おうが、〝脱脂粉乳〟はくそまずかった。それにさえありつけない級友達は新聞紙に包んだ蒸し芋を一本持ってきていた。しかし芋さえも持たない者数人は昼休みになると苦笑いを浮かべ、そっと教室を出て運動場に向かった、そして手洗い場にある水道の蛇口に口を付け腹いっぱい水を飲んでいた。
…集落の真ん中の広場に会社が造った大きな共同浴場があり、24時間操業の抗員の為に一日中湯が沸いていました。三交代の坑員達が何時でも炭塵にまみれた体を洗えるようにと住込みの夫婦が湯を守っているのです。僕の家でも母が忙しくて家の風呂が沸いていない時などにその風呂を利用しました。
『一番方のおじさん達が上がって来る前に早く入ってきなさい』
と母に言われ、まだ日が落ちない内に一番湯を目指して浴場へと向かいました。女湯と違い男湯は1日3回全身炭塵にまみれた男達に占領されるからでした。午後3時のサイレンが鳴り終わり、僕達が体を洗い、グズグズと湯船で遊んでいると、ほぼ全身真っ黒な男達と出くわすことも決して珍しくはなかったのです。僕達は湯船で頭だけ出して、真っ黒なおじさん達を観察しました。作業服を解いても、パンツの跡以外は真っ黒な男達が最初の洗い場で粉塵を丁寧に洗い流すのをじっと見物しました。それまでは誰彼はもとより、年齢の見当すら付かない男達が正体を表すのをじっと観察しました。そして、その何人かに一人は流れ落ちた粉塵の下から〝倶利伽羅紋紋〟が姿を表すことも決して珍しくはなかったのです。炭鉱は凶状を持った極道達の最後の生き場所でもあったのです。今でも、はっきりと覚えていますが、この〝倶利伽羅紋紋〟の男達は僕達子供や、周りの堅気の住人に対しては事のほか優しく、そして自ら線でも引いたかの如く、堅気の生活圏には立ち入りませんでした。
(パイナップルの缶詰)
…その時だった、すでに切られて死んで、第一広場に待機していた4年生の一人が血相を変えて大声で走ってきた。『ジープが来たバイ、アメチャンが来たバイ!』
「隠れろ!」という斎藤君の声にみんな林側のススキが密集した中にしゃがんで身を隠し、息を殺した。(中略)
誰かが「えらいことバイ、みんな帰るぞ、逃げるぞ!」と叫んだ。みんながそれに敏感に反応してし、動き始めようとしたとき、別の誰かが叫んだ「茂雄がおらん!」
茂雄は1年生でわが軍の大将で、合戦の初めに一番広場のススキの中に隠れさせたままだったのだ。数人がススキの薮に向かい、押し殺した声で「茂雄~っ、茂雄~っ!」と呼んだら、茂雄はすぐにごそごそと藪からみんなの所へ出て来た。手に何か重そうに持っていた。
『これが落ちとった』
それを受け取った斎藤君が
「パインや、パインの缶詰バイ!」…
(あとがき)
…炭坑は閉山後、坑道による地盤沈下を防ぐため、大量の水を注入すると聞いた覚えがあるが、本当は殉死した沢山の炭抗夫達が真っ黒な顔に目をギロギロと光らせた〝黒いダイヤの精〟となって地盤沈下を堪えているに違いない…。
著者プロフィール
目鯨翁(めくじらおう)
昭和24年生。23歳の時、仕事中の事故で右足大腿部を切断した。義足で半世紀以上を生きてきた。今も尚、幻覚痛(幻肢痛)のため鎮痛剤とは縁が切れない。しかし障害者という特設リングにはどうしても馴染まなかった。結婚歴2回、子供3人。45歳の時、25年務めた会社を退職、世の不条理に打ちひしがれ、さりとて理不尽には決して屈せず、乗り越えた試練を鎧に纏い、抗えない運命は笑い飛ばし、悪魔との取引には決して応じず、さりとて神のご加護も得られず、何度も脱輪し、多くの人を傷つけ、自らもまた深手を負い、蛇腹の人生邁進中。後期高齢者となった今も生傷は絶えない、悩みの種は尽きない、『それでも人生は捨てたもんじゃあないぜ』と独り言ちながら生きている爺さんです。
書籍情報
書籍:黒いダイヤとパイナップルの缶詰
著者:目鯨翁(めくじらおう)
出版社:パレード
発売日:2025年7月30日
ISBN:978-4-434-36350-4
仕様:四六判/並製/146ページ
価格:1,000円+税
Paradebooks:https://books.parade.co.jp/category/genre01/978-4-434-36350-4.html
Amazon:https://amzn.to/3ZYZSpq
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【会社概要】
商号:株式会社パレード
大阪本社:大阪府大阪市北区浮田1-1-8
東京支社:東京都千代田区西神田2-8-5 SHONENGAHO-1 5階
代表取締役:原田直紀
設立:1987年10月20日
資本金:4000万円
事業内容:広告企画・アートディレクション、グラフィックデザイン全般、Webサイト企画・制作、出版事業『パレードブックス』
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