人工知能を搭載した持ち運び可能な超音波機器による新型コロナ肺炎診断
― CT検査との比較 ―
順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学の鍵山暢之 准教授、南野徹 教授、代田浩之 特任教授、呼吸器内科学の髙橋和久 教授らの研究グループは、人工知能(*1)を搭載した持ち運び可能な超音波(エコー)機器を使うことでCT検査と同等の精度で新型コロナウイルス肺炎の診断が可能であることを実証しました。従来、新型コロナウイルス肺炎の診断には診療放射線技師によるCT検査が必須であり、新型コロナウイルス感染症拡大時には医療逼迫により、多くの患者さんが在宅医療や酸素ステーションなど医療物資の十分ではない環境での治療を余技なくされたため、迅速に適切な検査・治療を受けられず重症化してしまうケースもありました。本成果は、医療資源の限られた環境において新型コロナウイルス肺炎の診断を的確に行い、高度医療機関へ搬送することで、早期治療に繋げる可能性を示すものです。本論文はPLOS ONE誌に2023年3月16日付で公開されました。
本研究成果のポイント
背景
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年に中国で発生し、その後、世界的に大流行しています。この感染力の強いウイルスは、重症の肺炎を引き起こし、2022年3月時点で600万人の死者を出しています。このCOVID-19の大流行により、多くの国で医療資源が逼迫し、適切な検査や治療を受けられない事態が発生しました。肺炎の有無を確認するためには、診療放射線技師によるCT検査が必要でしたが、在宅医療や酸素ステーションではCT検査ができず、重症化してしまう患者さんが多くいました。超音波(エコー)検査でも肺炎の診断は可能ですが、診断は専門医師でなければできないため十分に普及していません。
近年、持ち運び可能な小型超音波機器の発展に伴い、人工知能が超音波検査の画像を解読し、専門医師でなくても肺炎を診断することができる可能性がでてきました(図1)。そこで、研究グループは、人工知能を搭載した持ち運び可能な超音波機器を使用することにより、専門医師でなくてもCOVID-19肺炎を正しく診断することが可能になると考え、その有効性を検証しました。
内容
研究グループは、人工知能を搭載した持ち運び可能な超音波機器の診断能力を調査するため、肺炎患者さん41人、健常者15人の計56人に対し、肺炎の検査を行いました。仰向けになれなかった患者さんを除いた55人の超音波検査とCT検査の結果を比べたところ、超音波検査では55人中52人で肺炎の有無を診断することができ、肺炎の見落としはわずか3名でした。超音波検査の精度は感度(*2)が92.3%、特異度(*3)が100%でした。本研究から人工知能を搭載した持ち運び可能な超音波機器を用いると、専門外の医師の検査でも、COVID-19肺炎を高い精度で診断できることが判明しました。
今後の展開
COVID-19は今後もしばらくの間、流行を繰り返すと予想されます。人工知能を搭載した持ち運び可能な超音波機器を用いれば、COVID-19で問題となる肺炎を、CT検査をしなくても診断することが可能となり、パンデミック時の重症患者さんの選定、高度医療機関への搬送、適切な早期治療に役立つことが考えられます。
用語解説
*1 人工知能:大量のデータから自動的に特徴を学習できるようにする技術
*2 感度:病気がある人を検査で陽性と正しく診断する精度
*3 特異度:病気がない人を検査で陰性と正しく診断する精度
研究者のコメント
新型コロナウイルス感染症の大流行により、不幸にも多くの方が適切な治療を受けられずに亡くなりました。この度の研究成果が今後の診療に生かされることで、1人でもそのような患者さんを減らすことができればと思い、本研究に着手致しました。お亡くなりになられた患者様のご冥福をお祈りするとともに、今後も新型コロナウイルス感染症の診療の発展に尽力します。
原著論文
本研究はPLOS ONE誌のオンライン版に2023年3月17日付(日本時間)で公開されました。
タイトル: Artificial Intelligence-based Point-of-care Lung Ultrasound for Screening COVID-19 Pneumoniae: Comparison with CT Scans
タイトル(日本語訳): 人工知能を用いたCOVID-19肺炎スクリーニングのためのポイントオブケア肺超音波検査の有用性:CT検査との比較
著者:Yumi Kuroda, Tomohiro Kaneko, Hitomi Yoshikawa, Saori Uchiyama, Yuichi Nagata, Yasushi Matsushita, Makoto Hiki, Tohru Minamino, Kazuhisa Takahashi, Hiroyuki Daida, Nobuyuki Kagiyama
著者(日本語表記): 黒田優美1)、金子智洋2)、吉川仁美1)、内山沙織3)、永田祐一1)、松下靖志4,5)、比企誠2,4)、南野徹2)、高橋和久1)、代田浩之2,6)、鍵山暢之2,6)
著者所属:1)順天堂大学大学院医学研究科呼吸器内科学講座、2)順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学講座、3)日本医科大学循環器内科、4)順天堂大学医学部附属順天堂医院救急科、5)順天堂大学大学院医学研究科膠原病内科学講座、6)順天堂大学保健医療学部デジタルヘルス・遠隔医療研究開発講座
DOI:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0281127
本研究はJSPS科研費21K18086の基に実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様に深謝いたします。
- 人工知能を搭載した持ち運び可能な超音波機器により、診療放射線技師以外の医師でもCOVID-19肺炎を診断できることを実証
- 本超音波機器により、新型コロナウイルス感染症拡大時(パンデミック)における重症患者さんの選定、早期治療に繋がる可能性があ
背景
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年に中国で発生し、その後、世界的に大流行しています。この感染力の強いウイルスは、重症の肺炎を引き起こし、2022年3月時点で600万人の死者を出しています。このCOVID-19の大流行により、多くの国で医療資源が逼迫し、適切な検査や治療を受けられない事態が発生しました。肺炎の有無を確認するためには、診療放射線技師によるCT検査が必要でしたが、在宅医療や酸素ステーションではCT検査ができず、重症化してしまう患者さんが多くいました。超音波(エコー)検査でも肺炎の診断は可能ですが、診断は専門医師でなければできないため十分に普及していません。
近年、持ち運び可能な小型超音波機器の発展に伴い、人工知能が超音波検査の画像を解読し、専門医師でなくても肺炎を診断することができる可能性がでてきました(図1)。そこで、研究グループは、人工知能を搭載した持ち運び可能な超音波機器を使用することにより、専門医師でなくてもCOVID-19肺炎を正しく診断することが可能になると考え、その有効性を検証しました。
内容
研究グループは、人工知能を搭載した持ち運び可能な超音波機器の診断能力を調査するため、肺炎患者さん41人、健常者15人の計56人に対し、肺炎の検査を行いました。仰向けになれなかった患者さんを除いた55人の超音波検査とCT検査の結果を比べたところ、超音波検査では55人中52人で肺炎の有無を診断することができ、肺炎の見落としはわずか3名でした。超音波検査の精度は感度(*2)が92.3%、特異度(*3)が100%でした。本研究から人工知能を搭載した持ち運び可能な超音波機器を用いると、専門外の医師の検査でも、COVID-19肺炎を高い精度で診断できることが判明しました。
今後の展開
COVID-19は今後もしばらくの間、流行を繰り返すと予想されます。人工知能を搭載した持ち運び可能な超音波機器を用いれば、COVID-19で問題となる肺炎を、CT検査をしなくても診断することが可能となり、パンデミック時の重症患者さんの選定、高度医療機関への搬送、適切な早期治療に役立つことが考えられます。
用語解説
*1 人工知能:大量のデータから自動的に特徴を学習できるようにする技術
*2 感度:病気がある人を検査で陽性と正しく診断する精度
*3 特異度:病気がない人を検査で陰性と正しく診断する精度
研究者のコメント
新型コロナウイルス感染症の大流行により、不幸にも多くの方が適切な治療を受けられずに亡くなりました。この度の研究成果が今後の診療に生かされることで、1人でもそのような患者さんを減らすことができればと思い、本研究に着手致しました。お亡くなりになられた患者様のご冥福をお祈りするとともに、今後も新型コロナウイルス感染症の診療の発展に尽力します。
原著論文
本研究はPLOS ONE誌のオンライン版に2023年3月17日付(日本時間)で公開されました。
タイトル: Artificial Intelligence-based Point-of-care Lung Ultrasound for Screening COVID-19 Pneumoniae: Comparison with CT Scans
タイトル(日本語訳): 人工知能を用いたCOVID-19肺炎スクリーニングのためのポイントオブケア肺超音波検査の有用性:CT検査との比較
著者:Yumi Kuroda, Tomohiro Kaneko, Hitomi Yoshikawa, Saori Uchiyama, Yuichi Nagata, Yasushi Matsushita, Makoto Hiki, Tohru Minamino, Kazuhisa Takahashi, Hiroyuki Daida, Nobuyuki Kagiyama
著者(日本語表記): 黒田優美1)、金子智洋2)、吉川仁美1)、内山沙織3)、永田祐一1)、松下靖志4,5)、比企誠2,4)、南野徹2)、高橋和久1)、代田浩之2,6)、鍵山暢之2,6)
著者所属:1)順天堂大学大学院医学研究科呼吸器内科学講座、2)順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学講座、3)日本医科大学循環器内科、4)順天堂大学医学部附属順天堂医院救急科、5)順天堂大学大学院医学研究科膠原病内科学講座、6)順天堂大学保健医療学部デジタルヘルス・遠隔医療研究開発講座
DOI:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0281127
本研究はJSPS科研費21K18086の基に実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様に深謝いたします。
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