高齢者の加齢による肝臓の薬物処理能力の変化を初めて明確に
臓器の重量と血流量に比例して40歳から年に0.8%低下
千葉大学大学院薬学研究院の樋坂章博 教授らの研究グループは、加齢による肝臓の能力の変化について、18薬剤の情報を独自の方法で統合して解析した結果、40歳から年に0.8%の割合で薬物処理能力が低下することを初めて明らかにしました。
これにより、薬物処理能力の変化は加齢による肝臓の重量や血流量の変化と合理的に対応することがわかり、その機能を把握することで薬の服用量を調節することが可能になると考えられます。
本研究成果は、Clinical Pharmacokineticsに9月13日(日本時間)にオンラインで公開されました。
これにより、薬物処理能力の変化は加齢による肝臓の重量や血流量の変化と合理的に対応することがわかり、その機能を把握することで薬の服用量を調節することが可能になると考えられます。
本研究成果は、Clinical Pharmacokineticsに9月13日(日本時間)にオンラインで公開されました。
- 研究の背景
腎臓については臨床検査の結果からそのような機能を考慮した用量調節が行われています。しかし、薬の代謝で最も重要な働きをする肝臓での代謝は多様なことに加えて、薬物血中濃度の時間変化が薬物によって大きく異なることから、これまで加齢変化の程度について、複数の薬の情報に基づいた確かな解析はありませんでした。
- 研究成果 1:複数の母集団解析の結果から、高齢者の肝臓の薬物処理能力の加齢変化を知る
研究グループはまず、数多くある薬の中から、肝臓の薬物代謝酵素の活性を阻害したときに大きく薬物血中濃度が変化する薬を、肝臓の代謝能力で薬物動態が決定される薬として選びました。次に、選んだ薬を対象に母集団薬物動態解析(注1)の結果を調べて、加齢による薬物血中濃度の変化が報告されているものに絞り込みました。結果として選択された18の薬を独自の技術で統合解析し、加齢で肝臓の薬物代謝能力が相対的にどの程度変化するかを解析しました。なお、肝臓の重量は成長とともに増加し、40歳以降になって一定の割合で減少するため、今回の解析では40歳を加齢変化の基準としました。
その結果、図に示すように40歳を基準にした場合に一年間に0.8%の割合で、すなわち70歳では24%、80歳では32%、90歳では40%、それぞれ減少することを見出しました。解析の対象とした薬物はさまざまな種類の薬物代謝酵素によって代謝されますが、加齢による変化の程度はこれらの薬物酵素の種類によって大きく異なる様子はありませんでした。この変化はすでに知られている加齢による肝臓の重量変化、および肝臓の血流量変化の情報と非常によく一致することもわかりました。また肝臓の重量や血流量は男性が女性に比べて大きい値ですが、加齢による相対変化には違いがないことがわかっています。
- 研究成果 2:腎臓の薬物処理能力との比較と将来の応用の可能性
今回私たちは肝臓と比較するために腎臓から排泄されるイヌリン(注2)の処理能力の加齢変化についても解析したところ、40歳以降に一年間に0.97%減少しており、腎臓の血流量の加齢変化とよく一致することが確認できました。すなわち、肝臓も腎臓も、加齢による臓器の重量あるいは血流量の生理学的変化によって薬物の処理能力が変化していると統一的に理解できることがわかりました。
これらの結果により、将来は腎排泄型の薬物だけでなく様々な肝代謝・排泄型の薬物についても、高齢者への適切な用量調節が進歩すると期待されます。
- 研究者からのコメント(千葉大学大学院薬学研究院 樋坂章博 教授)
- 研究プロジェクトについて
- 用語解説
(注2)イヌリン:腎臓の薬物排泄の機構の中で基本となる糸球体濾過により選択的に排泄されることが分かっているため、腎機能の検査でよく用いられる。食物繊維の1種として食品に含まれることも多い。
- 論文情報
Clinical Pharmacokinetics, 2021, Sep 13. in press.
著者:副島呉竹(医学薬学府 先端創薬科学専攻 博士課程3年)1,2、佐藤洋美(講師)1、樋坂章博 (教授)1
1: 千葉大学大学院薬学研究院 臨床薬理学
2: ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社 R&D Japan 臨床薬理戦略部
(副島はブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社の社員ですが、ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社はこの研究には関与していません)
DOI: https://doi.org/10.1007/s40262-021-01069-z
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