【国立科学博物館】日本では3種目のマリモ類の発見!モトスマリモと命名

文化庁

 独立行政法人国立科学博物館(館長:篠田謙一)の辻彰洋研究主幹(植物研究部)は、山梨県の民家の水槽から発生したマリモ類がAegagropilopsis(アエガグロピロプシス)属の日本新産種と明らかにし、「モトスマリモ」と命名しました。
 日本で見つかった球状になるマリモ類としては、「マリモ」「タテヤママリモ」についで3種目です。


【研究のポイント】
  •  山梨県の民家で、淡水魚(タイリクバラタナゴ)を飼育していた水槽にマリモに似た藻類が大量に発生しました。
  •  この藻類の種レベルの差違をみるのに重要な遺伝子を解析した結果、オランダの熱帯水族館や中国の河川から報告されたAegagropilopsis clavuligera(アエガグロピロプシス・クラブリゲラ)の配列と一致しました。また、顕微鏡観察の結果、形態的特徴とも矛盾しませんでした。
  •  Aegagropilopsis clavuligeraは、日本で今まで報告がない日本新産種であり、本栖湖の二枚貝から発生したと推定されることから「モトスマリモ」と命名しました。
  •  マリモに似た球状の群体をつくるものとしては、「マリモ」「タテヤママリモ」についで3種目です。
 
  • 研究の背景
 国立科学博物館では、2011年から山中湖のマリモ類の研究を行っており、山中湖村教育委員会と共同で2度の学術調査を行ってきました。私たちの調査から、山中湖にはすでに「マリモ」と「タテヤママリモ」の2種のマリモ類が存在していることが分かっています。山中湖のマリモ類については、フジマリモ(富士毬藻、Aegagropila linnaei var. yamanakaensis)も知られていますが、現在、これは「マリモ」あるいは「タテヤママリモ」と同じものと考えられています。しかし、新種記載時の標本がまだ見つかっておらず、確定は出来ていません。
 
 今回、山梨県甲府市の民家の水槽からマリモが発生した(図1、図2)と連絡があり、調査を行いました。

 

​図1:山梨県の民家の水槽で飼育されているモトスマリモ​図1:山梨県の民家の水槽で飼育されているモトスマリモ

図2:山梨県の民家の水槽で飼育されているモトスマリモの拡大写真図2:山梨県の民家の水槽で飼育されているモトスマリモの拡大写真

 
  • 研究の内容
 阿寒湖で有名で山中湖でも見られる「マリモ」は、水槽で飼育を続けると、糸状体が伸びて丸い群体が崩れてきます。しかし、今回のマリモは特別なことはしていないのに水槽での長期の飼育中、球形が維持されています。また、「タテヤママリモ」よりも安定して密な球体を作っています。

 顕微鏡観察の結果、「マリモ」「タテヤママリモ」と同様に枝分かれした糸状体が絡み合って球形の群体を作っていました(図3)。また、「マリモ」ではほとんど観察例がない遊走子(鞭毛を持って水中を遊泳する胞子:図4)も見つかりました。

 

図3:モトスマリモの糸状体図3:モトスマリモの糸状体

図4:形成された遊走子図4:形成された遊走子


 種の区別に重要な遺伝子解析の結果(図5)から、今回の藻の配列はAegagropilopsis clavuligera(アエガグロピロプシス・クラブリゲラ)と一致しました。Aegagropilopsis clavuligeraは、スリランカから最初に報告され、オランダの熱帯水族館および中国の河川などから見つかっている種で、「マリモ(Aegagropila linnaei)」や「タテヤママリモ(Aegagropilopsis moravica)」とは明確に分かれます。Aegagropilopsis属は二枚貝に付着して生活することが知られており、この山梨県の民家の水槽には国内産地のタイリクバラタナゴ以外の外来種の導入例がないため、本種はこの水槽で飼育しているタイリクバラタナゴの産卵用に導入した本栖湖産の二枚貝に付着してもたらされたと推定し、和名をモトスマリモ」と命名しました。

図5:「モトスマリモ」「マリモ」「タテヤママリモ」のリボゾームRNA(18S rRNA)による系統関係 (関連部分抜粋図5:「モトスマリモ」「マリモ」「タテヤママリモ」のリボゾームRNA(18S rRNA)による系統関係 (関連部分抜粋

 

  • これからの研究について
 本種が本栖湖に在来種として生息していたのか、外来種として移入してきたのかについては、まだ分かりません。また、本栖湖では、水槽で見られるような球状の群体ではなく、二枚貝に短い糸状体として付着しているのではないかと考えられます。これらについては、富士五湖での潜水調査を計画しており、現在許可申請中です。
 今回見つかったモトスマリモは、「マリモ」や「タテヤママリモ」と極めて似ているため、いままで混同されてきた可能性があります。本発表によって、様々な地域から報告される可能性があります。
 私たちは2021年に山中湖のマリモの減少が地球温暖化によってもたらされている可能性があると発表しました。世界遺産・名勝・富士箱根伊豆国立公園として手厚く保護されている富士五湖ですが、その生物相については分かっていないことが多く、今後も調査を継続していく必要があると考えています。
 
  • マリモ類の分類学解説
「マリモ(Aegagropila linnaei)」は、阿寒湖のものが有名ですが、北海道〜東北のいくつかの湖沼でも見られます。山中湖のフジマリモは日本最南端のマリモ産地として報告されましたが、その後、琵琶湖からも報告されたため、現在の日本最南端は琵琶湖です。「マリモ」は、球体の群体を作るほか、コケのようなマット状に生育することもあり、後者の方が一般的です。「マリモ」は種名ですので、丸くなくても「マリモ」と呼ばれます。山中湖の学術調査ではマット状の「マリモ」が見つかりました。内部転写スペーサー領域(ITS領域)と呼ばれる種内変異を調べるための遺伝子が完全に一致しますので、富士五湖の「マリモ」については、阿寒の「マリモ」と同一分類群と考えています。

 「タテヤママリモ(Aegagropilopsis moravica)」は、立山市の民家に作られた池に突然発生し、当初は「マリモ」と同じと考えられていましたが、羽生田岳昭氏らによって1999年に「マリモ」とは遺伝子が異なる別種として報告されました。山中湖から亀田良成氏によって採集され、絵本「富士山のまりも(福音館書店)」によって知られるようになったマリモ類は遺伝子解析の結果、この「タテヤママリモ」であることが分かっています。これらのことから山中湖には2つのマリモ類がいたことが分かります。

 これらのマリモ類は形態変異が大きく顕微鏡によって形態を調べるだけでは確実に分類することは難しく、最終的には遺伝子解析によって種を同定する必要があります。
 
  • 発表論文
表題:First Record of Algal Ball-forming Aegagropilopsis clavuligera (Cladophorales, Ulvophyceae) from Japan
著者:辻彰洋 (Tuji, Akihiro)・新山優子 (Niiyama, Yuko)
掲載誌:国立科学博物館研究報告 B類(植物学) (11月22日出版予定)
    Bulletin of the National Museum of Nature and Science Series B (Botany)
    https://www.jstage.jst.go.jp/browse/bnmnsbot/-char/ja

本研究は、国立科学博物館の館内プロジェクト「文化財と自然史の関係を捉え直す−文化財の保護と活用に新たな視点を導入する自然史研究−」の一環で実施しました。
 

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1968年06月