ビッグデータが明らかにする日本の敗血症の実態
―超高齢社会の新たな課題―
千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学 中田孝明教授、医学部附属病院 今枝太郎特任助教らは、2010年~2017年の8年間にわたる5,000万人以上の日本の入院患者のデータを抽出し、日本における敗血症(注1)の患者数や死亡数に関する全国的なデータをまとめ、日本の敗血症の実態を初めて明らかにしました。このデータは、日本独自の診療報酬の包括評価制度であるDiagnosis Procedure Combination (DPC)の保険請求に基づくデータベースを利用して抽出したものです。
本研究により、日本における敗血症患者の死亡率は低下傾向である一方、患者数や死亡数は増加傾向にあることがわかりました。高齢者は敗血症となるリスクが高く、超高齢社会である日本において、今後も敗血症患者数は増加傾向をたどると推測されます。このことから、敗血症の早期発見だけではなく、敗血症を引き起こすきっかけとなる感染症を予防するためのワクチン接種や衛生保持などの感染症に対する予防も重要であると考えられます。
本研究により、日本における敗血症患者の死亡率は低下傾向である一方、患者数や死亡数は増加傾向にあることがわかりました。高齢者は敗血症となるリスクが高く、超高齢社会である日本において、今後も敗血症患者数は増加傾向をたどると推測されます。このことから、敗血症の早期発見だけではなく、敗血症を引き起こすきっかけとなる感染症を予防するためのワクチン接種や衛生保持などの感染症に対する予防も重要であると考えられます。
- 研究の背景
敗血症の発症率と死亡率に関しては、地域間格差があると言われていますが、日本における敗血症の患者数や死亡数に関する全国的なデータはありませんでした。
日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本感染症学会は、敗血症の啓発と対策を行うためにJapan Sepsis Alliance(日本敗血症連盟)を立ち上げ、その中の研究グループがビッグデータを活用して日本の敗血症の実態を調べました。
2016年に、現在の敗⾎症の国際的な定義であるSepsis-3(注2)が発表され、敗血症は感染症に伴う臓器障害をきたしている状態とされました。海外の施設からはこの新たな定義を⽤いた敗⾎症患者の死亡率の年次推移や、敗⾎症に対する治療内容や結果などの報告がされています。しかし、その結果には地域間や⼈種間の違いがあることから、これらのデータを一般化して日本の実態に適用することはできない可能性がありました。
- 研究内容と結果
研究グループは、日本全国で多く用いられているDPCデータから敗⾎症患者を抽出し、日本独自の大規模データに基づいて敗血症の実態を明らかにするために本研究を行いました。
DPCデータ上では、感染症に伴う臓器障害をきたしている、すなわち敗⾎症にも関わらず「敗⾎症」という病名で登録されていない症例や、「敗⾎症」と登録されていても新定義に当てはまらない症例も多数存在します。よって、2010年から2017年のDPCデータより、①⾎液培養を採取し抗菌薬投与を行った患者を重症感染症患者として抽出、その中で②感染に伴う臓器障害をきたした患者を最終的に敗⾎症患者と定義して抽出作業を行い、抽出されたデータから敗⾎症患者数やその死亡数/死亡率の推移、感染巣(注3)、患者背景、治療などを解析しました。
①8年間の入院患者数全体に見る日本の敗血症の傾向
・2010年から2017年までの8年間に、約5,000万人の成人入院患者が含まれており、このうち約200万人(約4%)の患者が敗血症を発症し、約36万人が敗血症によって死亡しました。
・敗血症患者の年齢の中央値は76歳でした。
・主な併存疾患は、悪性腫瘍(約35%)、高血圧(約26%)、糖尿病(約22%)などで、高血圧や糖尿病の患者数は年々有意に増加していました。
・感染源としては、呼吸器感染症が最多です(約41%)。臓器障害については、呼吸不全患者が最も多く、2017年には約82%を占めていました。
・入院期間の中央値は約30日で、院内死亡率は約20%でした。
②2010年~2017年の傾向の変化(図参照)
・入院患者全体に占める敗血症患者の年間割合は、2010年に約11万人(入院患者全体の約3%)から2017年は約36万人(入院患者全体の約5%)に増加しました。
・入院患者1,000人当たりの敗血症の年間死亡数も、2010年の約6.5人から2017年は約8人に増加しました。
・敗血症が原因で死亡する人の数は、2017年に年間約6万人で2010年比2.3倍となりました。
・敗血症患者の死亡率は、2010年の約25%から2017年の約18%と、減少傾向を示しました。
- 今後の展開
今回の研究結果は、敗⾎症の適切な予防・治療・後遺症対策などを今後⾏政と共同で構築し実施していく上で重要なものであると考えます。Japan Sepsis Allianceはこれからも引き続き日本の敗血症対策を推進していきます。
- 用語解説
(注2)Sepsis-3:2016年に発表された敗血症および敗血症性ショックの国際的な定義の第3版。
(注3)感染巣:病原微生物が増殖している場所。例えば肺炎では、肺が感染巣です。腹腔内、皮膚・軟部組織、尿路なども具体例として挙げられます。
- 掲載論文
著者名: Taro Imaeda, Taka-aki Nakada, Nozomi Takahashi, Yasuo Yamao, Satoshi Nakagawa, Hiroshi Ogura, Nobuaki Shime, Yutaka Umemura, Asako Matsushima, Kiyohide Fushimi
掲載誌: Critical Care
掲載日: 2021年9月16日
DOI: https://doi.org/10.1186/s13054-021-03762-8
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