TKCと宇都宮大学が「会計仕訳の異常の要因を推測する説明可能AI(XAI)」を共同開発しました
― 「本来のあるべき仕訳は何だったのか」までを推測 ―
株式会社TKC(本社:栃木県宇都宮市/代表取締役社長:飯塚真規)は、「会計不正を防ぐ最先端技術の研究」を行うことを目的に、宇都宮大学(所在地:栃木県宇都宮市、学長:池田宰)と「宇都宮大学・TKC AIソリューション共同研究室」を共同で設置しています。
当社から同研究室に出向している齊藤大輔准教授がこのたび、川面洋平准教授(宇都宮大学データサイエンス経営学部/データサイエンスセンター副センター長)とともに、「会計仕訳の異常について『本来のあるべき仕訳は何だったのか』まで推測する説明可能AI(XAI)」を開発しましたのでお知らせします。
その最大の特徴は、「会計監査で使う仕訳データの異常検知について、AIが異常と判定した理由を監査人に分かりやすく示し、さらに本来の正常な仕訳を推測する」ところです。

■研究概要
これまでのAIによる会計仕訳の異常検知の多くは、仕訳を「異常」と判定するだけであったため、財務諸表監査における仕訳テストなどの監査手続を実施する際や会計事務所が巡回監査をする際に、「なぜ異常なのか」も、「本来の正常な仕訳は何だったのか」も、監査人が一から調べ直すしかなく、大きな手間がかかっていました。
そこで、異常と判定した会計仕訳について、判定に効いた項目と、その項目をどの値に変えればAIが正常と判定するのかという修正候補を、自動で示す手法を開発しました。
従来のAIによる仕訳異常検知の多くは、正常な仕訳だけで学習したオートエンコーダ(注1)が、仕訳を重要な特徴だけを残すよう圧縮し、同じ仕組みで復元した際にうまく復元できなかったものを異常な仕訳として拾い上げるものでした。異常と判定された理由としては、復元した仕訳と元の仕訳とのずれを示す数値(再構成誤差/注2)だけを示すものであったため、監査手続の実施および監査上の判断を行うには不十分なものでした。
新たに開発した手法は、
①段階:検知
②段階:寄与項目のランキング
③段階:修正候補の探索
という3段階からなります(図1)。

異常と判定した仕訳について、まず既存の説明手法のRESHAPE(注3)で、再構成誤差を仕訳項目ごとに分解し、異常判定への寄与が大きい仕訳項目の順位(②段階)を求めます。次に、その順位を手がかりに反実仮想説明(注4)、つまり「この仕訳項目をこの値に変えればAIが正常と判定する」という最小限の修正候補を探します(③段階)。
②段階のRESHAPEは先行研究(Muellerら、2022年)の手法であり、その寄与度を「道しるべ」に、③段階の会計仕訳向けの修正候補探索を組み立てたところが本研究の中核にあたります。また、反実仮想説明はこれまで、画像認識のように「AかBか」を判定する分類AIを対象に研究されてきました。会計仕訳の異常検知に持ち込んだのは、本研究が初めてです。
なお、検証にあたっては、大企業のERP(統合基幹業務システム)で使われる形式の仕訳データ約53万件で行い、評価用に人工的に作成して注入した120件の異常を、全件検知し、正常な仕訳約8万件のうち、誤って異常とした件数は31件でした。
代表的な既存手法3種(Wachter法、DiCE、FACE)との比較では、変更後にAIが全項目を正常と判定する割合を100%に保ったまま、人工異常で改変した項目を正解としたときの完全一致率が最も高く、変更する項目数も最も少ない状況です(平均1.18項目)。
(注1)オートエンコーダ(Autoencoder):入力データをいったん低次元に圧縮し、そこから元のデータを復元するように学習するニューラルネットワーク。正常なデータだけで学習させると、正常なパターンは復元できるが、学習したことのない異常なデータは復元に失敗する。この失敗の度合いを異常の指標として使う。
(注2)再構成誤差:オートエンコーダが復元したデータと、もとの入力データとのずれの大きさ。大きいほど、学習した正常パターンから外れている。
(注3)SHAP/RESHAPE:SHAPは、ゲーム理論のシャープレイ値に基づき、AIの出力に各入力項目がどれだけ寄与したかを算定する手法。RESHAPEはこれを会計監査向けに特化させた先行研究(Mueller ら、2022年)の手法で、オートエンコーダの再構成誤差を勘定コードや金額といった項目単位の寄与度に分解する。本研究はこの寄与度を、修正候補を探す順序として利用している。
(注4)反実仮想説明(Counterfactual Explanation):「もし〇〇がこの値だったら、AIの判定は変わっていた」という形で、判定を覆す最小限の変更を示す説明手法。本研究では「この項目をこの値に変えればAIが正常な仕訳と判定する」という、監査人が確認すべき修正候補として使う。
(※)本研究成果は、9月9日、学術誌「IEEE Access」オンライン版に掲載されました。
・詳細は宇都宮大学のプレスリリースをご参照ください。
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