日本の若い女性に「やせ」の背景、ダイエット経験の有無で
~やせの健康課題に個別の情報提供の必要性~
本研究成果のポイント
やせ型(BMI18.5 kg/㎡未満)の若い女性を対象に多面的な背景検証調査を実施
ダイエット経験の有無により、出生時体重、ボディイメージ、体重認識、運動・食習慣、摂食態度、eHealthリテラシー、メディアから受ける美の影響、性格特性等、異なる背景があることを発見
やせた女性でも痩身願望やダイエット行動の有無により提供すべき情報が異なる必要性を示唆
背景
日本は、先進国の中でもやせている女性の割合が最も高く、さらに、若い世代(18~29歳)では約20%がBMI(体格指数)18.5kg/㎡未満のやせ型です。近年、「少食で運動不足」の若いやせ型女性は、肥満者と同様に糖尿病リスクが高い可能性が明らかにされ(田村ら、2021)、やせた女性の健康問題は社会課題になりつつあります。しかし、そもそも「若いやせ型の女性がやせに至った背景」については、これまで十分に検討されてきませんでした。若いやせ女性が、将来にわたり健康で豊かな生活を送ることができる社会を実現するためには、やせに至る背景を解明し、個人に最適化された運動習慣や食生活を検討することが必要と考えられます。
そこで、本研究は、やせ型女性の「ダイエット経験の有無」に着目し、出生時体重、ボディイメージ、体重に対する認識、運動・食習慣、摂食態度、eHealthリテラシー、メディアから受ける美の影響と内在化する傾向の度合、性格特性、自尊感情等多面的な背景検証調査を実施しました。
内容
やせ型女性の背景検証を行うにあたり、やせ型並びに母子手帳を基に出生時体重の申告が可能な対象者をスクリーニングする目的で18~29歳の女性にWebアンケート調査を実施しました。5,905名から回答を得られ、このうち、23.5%(1,390名)が低体重(18.5kg/㎡未満)の条件に該当しました。本調査において、低体重女性400名を対象に、ダイエット経験、身長や体重(BMI)、母子手帳に基づく出生時体重(母子手帳を基とした回答者:ダイエット経験なし168名、ダイエット経験あり136名)、ボディイメージ(自身がイメージしている自身の体型)、体重への認識、小学生から現在までの運動習慣*1、食習慣等について尋ねました。また、5つの標準化された質問紙(摂食態度調査*2、eHealth リテラシー*3、メディアから受け取る美のメッセージを内在化する傾向の度合い*4、性格5因子*5、自尊感情*6)を調査しました。解析の結果、出生時体重、自身のボディイメージや体重への認識、運動や食習慣、摂食態度、メディアから受け取る美のメッセージ内在度合い、性格特性等において、ダイエット経験有無の両グループには異なる背景が存在していることが明らかとなりました(表1)。
表1 ダイエット経験有無による主な背景の違い
ダイエット経験のないグループ(180名) 平均身長158.64cm 体重43.81Kg (BMI 17.38kg/㎡) | ダイエット経験のあるグループ(220名) (BMI 17.46kg/㎡) |
Ⅰ.体重 |
1.出生体重 2894.66g 2.肥満だと感じる体重54.31Kg(BMI 21.57) 3.体重を増やしたくない 38.9% 4.体重減りやすい | 1.出生体重 3053.74g 2.肥満だと感じる体重 51.83Kg(BMI 20.55) 3.体重を増やしたくない 67.3% 4.体重減りにくい |
Ⅱ.運動習慣 |
1.運動習慣は40%程度(幼少期から現在) 2.運動習慣を持つ理由 「美容や肥満解消のため」 44.0% 3.運動習慣の重要性認識があるが、 ダイエット経験者と比べて行動に移せていない | 1.運動習慣は約55~62%(幼少期から現在) 2.運動習慣を持つ理由 「美容や肥満解消のため」 71.2% 3.運動の重要性認識があり、ダイエット 未経験者と比べて行動に移せている |
Ⅲ.食習慣 |
1.食事量を増やすことに対する抵抗が少ない 2.ストレスで食べ過ぎる23.9% 3.ストレスで食欲が減少する 34.4% 4.将来の食習慣の重要性認識があるが、 ダイエット経験者と比べて 行動に移す意欲が少ない | 1.食事量をあまり増やしたくない 2.ストレスで食べ過ぎる 49.5% 3.ストレスで食欲が減少する 23.6% 4.将来の食習慣の重性認識があり、 ダイエット未経験者と比べて 行動に移す意欲がある |
Ⅳ.標準化された質問紙 |
1.摂食態度得点が経験者より低い *2 2.メディアからの美に関する情報について 3.開放性(性格特性)が経験者より高い*5 | 1.摂食態度得点が未経験者より高い*2 2.メディアからの美に関する情報について、 3.勤勉性(性格特性)が未経験者より高い*5 |
以下では、各グループの特徴をまとめました(図1,2は公開したインフォグラフィック動画の一部を抜粋)。
1.ダイエット経験のない若いやせた女性
ダイエット経験のないグループは、出生時体重がダイエット経験のあるグループよりも軽く(Ⅰ-1)、体重が減りやすいと回答する割合が多い(Ⅰ-4)ことから、潜在的なやせ体質である可能性が考えられます。肥満だと感じる体重(Ⅰ-2)はダイエット経験のあるグループよりも約2.5Kg重い数値を申告しました。体重や食事量を増やすことに対しては、比較的抵抗が無いような認識がみられました(Ⅰ-3, Ⅲ—1)。
運動習慣を有する割合は、小学生時代から現在まで、ダイエット経験のあるグループよりも15~20%程度少ないことが分かりました。運動習慣を持たないと回答したグループは、運動嫌いやこれまで実施機会がなかったとする理由が多い結果でした(Ⅱ-1)。ストレス時には、「食欲が減少する」割合がダイエット経験のあるグループより多くみられました(Ⅲ-3)。性格5因子のうち「開放性」の得点が高いため興味関心が外へ向けられる特徴があることから、新しい経験や健康行動に対して積極性がある可能性が考えられます(Ⅵ-4)。しかし、現在の運動習慣(Ⅱ-3)や食習慣(Ⅲ-4)に着目すると、あまり行動に移せていない傾向がありギャップがみられました(Ⅲ-3)。少食で運動不足の場合、糖尿病等、将来の健康リスクが高くなると考えられるために、適切な運動や食習慣を得られるような情報提供の必要性が示唆されました。
2. ダイエット経験のある若いやせた女性
ダイエット経験のあるグループは、体重が落ちにくく(Ⅰ-4)、ストレスや疲れを感じたとき食事量が増える傾向がみられました(Ⅲ-2)。肥満だと感じる体重(Ⅰ-2)はダイエット経験のないグループよりも約2.5Kg軽い数値を申告しました。体重増加や食事量の増加に対する抵抗感が強い傾向にありました(Ⅰ-3, Ⅲ—1)。運動習慣は、小学生時代から現在まで、ダイエット経験のないグループよりも高い割合でした(Ⅱ-1)。現在の運動習慣を持つ理由のうち「美容と肥満解消のために運動を行う」と回答した割合が高い結果でした(Ⅱ-2)。
摂食態度を測定する質問紙(EAT-26)の得点(Ⅵ-1)やメディアによる美に関する情報の内在化傾向がダイエット経験のないグループと比較して高く(Ⅵ-2)、ボディイメージの歪みといった主観的認知への影響が生じやすい可能性が考えられました。性格5因子のうち、「勤勉性」の得点が高いため(Ⅵ-3)、責任感が強く、自制心を持ち忠実に行動し、目標達成に向けて努力する傾向が考えられます。痩身行動や思考のあるやせた女性に特化した情報提供の必要性が示唆されました。
今後の展開
本研究は、やせた女性でも痩身願望やダイエット経験がある人と、そうでない人への健康に関する情報提供が異なる必要性が示唆されました。本研究の結果は、各個人に最適化されたスポーツ機会の検討や、適切な栄養摂取ができるようにするためのアプローチに役立てられます。これらに取り組むことで女性が年齢を重ねても長く健康で豊かな生活を送ることができると考えます。また、今後の低体重女性に関する研究の推進に広く役立てられることが期待できます。ただし、自然に痩せているような女性も多く、すべての痩せた女性がリスクを持っている訳ではありません。私達が体型の多様性やリスクについて正しく認識できるようなエビデンスが不足しており、今後さらなる研究を続けていきます。
用語解説
*1 運動習慣者の定義:週2回以上、1回30分以上、1年以上、運動をしている者(国民栄養調査参照)。
*2 摂食態度調査票(EAT-26):食事障害の可能性をスクリーニングするための自己報告式尺度(診断ツールとは異なる)で、合計スコアが20点以上の場合、食事障害の可能性を示唆すると考えられ、専門家によるさらなる評価が推奨される。
*3 eHealth Literacy Scale日本語版(eHealth):個々がインターネットを介した健康情報の検索、理解、評価、適切に活用する能力を測定し、得点が高いほどeHealthリテラシーが高い。
*4 Sociocultural Attitudes Towards Appearance Questionnaire-3短縮版(SATAQ-3 JS):個人が社会文化的な美の規範や外見に対する圧力をどの程度認識し、受け入れているかを測定し、得点が高いほど影響が高いことを示す。
*5 日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J):個々の人の性格を理解するための基本的な枠組み性格5因子(開放性・勤勉性・外向性・協調性・神経症傾向)から構成される。
*6 自尊感情尺度(Rosenberg’s Self Esteem Scale: RSES):個々の自尊心を測定するための心理学的な尺度で、得点が高いほど自尊感情が高いことを意味する。
本研究で作成した教育・啓発動画の紹介 |
本研究の成果を基に、「順天堂大学が伝える健康のハナシ」として教育・啓発映像を制作し、順天堂大学公式YouTubeサイトより公開いたしました。 1.教育用インフォグラフィック動画(教育機関・教育実施者向け) URL:https://youtu.be/HRgKYhiszZI 2.啓発用インフォグラフィック動画(一般向け・教育現場) URL:https://youtu.be/2TNoxQgiqEo ※論文の主要内容をレジュメ(和文)としてまとめた資料をYouTubeサイト概要欄、または、次のURLよりダウンロード頂けます。 レジュメ URL:https://www.juntendo.ac.jp/assets/attachmentfile/attachmentfile-file-6154.pdf |
研究者のコメント
順天堂大学スポーツ健康科学部/スポーツ健康科学研究科
准教授 室伏 由佳(むろふし ゆか)
私は長年アスリートとして活動する間、婦人科疾患等の健康課題に直面した経験から、女性アスリートの健康課題の啓発活動に携わっています。2021年、順天堂大学スポーツ健康医科学推進機構(JASMS)のもと田村好史先生らと"やせ女性プロジェクト"を立ち上げ、若いやせた女性に向けたエクササイズプログラムを設計・公表する等の啓発活動を進めてきました。その中で、若い女性のやせの背景に応じた健康教育を行う必要性感じ、内分泌代謝学、健康寿命学、スポーツ医学・スポトロジー、アスレチックトレーニング・運動学、健康心理学、スポーツ心理学の専門家と共に研究グループを組織し、本研究に取り組みました。この研究成果は、国際的にも重要な示唆を与えると考えており、若いやせた女性の健康教育に役立てられることを期待しています。
原著論文
本研究はオープンアクセスジャーナルFrontiers in Public Healthに2023年6月2日付で公開されました。
タイトル: Multidimensional Background Examination of Young Underweight Japanese Women: Focusing on Their Dieting Experiences
タイトル(日本語訳):日本人の若い低体重女性の多面的な背景検証:ダイエット経験に着目して
著者: Yuka Murofushi*, Shinji Yamaguchi, Haruka Kadoya, Hikaru Otsuka, Kasane Ogura, Hideyoshi Kaga, Yasuyo Yoshizawa and Yoshifumi Tamura
著者(日本語表記):室伏由佳、山口慎史、門屋悠香、大塚 光、小倉かさね、加賀英義、吉澤裕世、田村好史
* 筆頭著者所属:順天堂大学スポーツ健康科学部/大学院スポーツ健康科学研究科
Doi: 10.3389/fpubh.2023.1130252
URL: https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpubh.2023.1130252/full
本研究は、公益財団法人JKA 2022年度研究補助(公益振興)「女性のスポーツの機会の向上に係る研究事業」の補助を受けて実施しました。また、順天堂大学スポーツ健康医科学推進機構(JASMS)の「若年女性のやせと健康に関するプロジェクト」の一環として行われました。
【URL】https://jasms.juntendo.ac.jp/magazine/537/なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
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