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アスタミューゼ株式会社
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高温超伝導技術の未来展望:進む研究開発と社会実装

アスタミューゼ株式会社

アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、高温超伝導に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

「高温超伝導」技術とは

一般的に、電気伝導性の物質は温度に依存する電気抵抗をもちます。しかし、物質の種類によっては、ある一定の温度(超伝導転移温度Tc)以下の極低温で電気抵抗が突如0を示す奇妙な現象が観察されます。上記の現象・状態を超伝導(superconductivity)、物質を超伝導体と呼びます。

超伝導は1911年に極低温の水銀(Tc=4.2K(-269℃))で最初に観察され、この発見からしばらくの間は高価な液体ヘリウムによる極低温冷却を用いてようやく観察される現象でした。しかし、1986年にランタンバリウム銅酸化物(LBCO, Tc=30K(-243℃))が高い超伝導転移温度をもつことが報告されると、より高い転移温度を有する超伝導物質を探索する競争が巻き起こり、1987年には超伝導転移温度が液体窒素の沸点77K(-196℃)を超える「高温」超伝導体としてイットリウムバリウム銅酸化物(YBCO, Tc=93K(-180℃))が発見されました。高温超伝導体を探索する試みは現在も様々なアプローチから継続し、2024年現在最も高い転移温度として超高圧(200GPa)下におけるランタン超水素化物(Tc=260K(-13℃))があります(注1)。

注1:中央大学理工学部物理学科 極限凝縮系物性研究室「超伝導転移温度の推移」 (2023年11月)

https://kittaka.r.chuo-u.ac.jp/contents/others/tc-history/index.html

高温超伝導体の発見によって高価な液体ヘリウムの代わりに安価な液体窒素を用いた超伝導技術の普及への見通しが立つようになり、日常からかけ離れた極低温の奇妙な現象であった超伝導は社会インフラを支える基幹技術へと変化しつつあります。また、液体窒素の沸点77K(-196℃)は液体ヘリウムの沸点4.2K(-269℃)と比較して遥かに高いことから、すでに超伝導が実用化されている用途においても、冷却設備の簡素化、冷却に要する費用およびエネルギーの大幅な削減が見込めます。一方で、高温超伝導体の結晶は脆く線材やコイルへの加工が困難であるため、現在もなお実用化と普及に向けた研究開発が続けられています。

超電導の技術要素

超伝導の主な技術要素として、以下の要素を挙げることができます:

  • 強電分野

    • 超伝導電力線:超伝導線材を用いた低損失な大電流送電線。極めて低い電圧降下が実現できるため、遠隔地に対する効率的な電力伝送に利用される。

    • 超伝導電磁石:超伝導コイルを用いた低損失・高出力の電磁石。核磁気共鳴画像(MRI)、磁気浮上鉄道(リニアモーターカー)、磁気エネルギー貯蔵、磁気閉じ込め核融合炉などに利用される。

    • 超伝導加速空洞:超伝導空洞を用いた高効率な荷電粒子加速装置。

  • 弱電分野

    • 超伝導計算機:ジョセフソン素子(弱結合超伝導体のトンネル電流を使う接合素子)によって構成される計算効率・計算速度に優れたコンピュータ。

    • 超伝導量子干渉素子(SQUID):ジョセフソン接合を含む環状超伝導体を用いた超高感度な磁束計。生体磁気計測や磁気異常探知に利用される。

    • 超伝導フィルタ:超伝導薄膜により実装される低損失・高選択性の周波数フィルタ。次世代通信における周波数資源の有効利用に寄与する。

  • その他

    • 超伝導シールド:超伝導体の完全反磁性(マイスナー効果)を用いた磁気遮蔽。

上記の高温超伝導技術の実用化は、超伝導を応用した機器・設備に対するコンパクト化の要望、および極低温冷媒として用いられるヘリウムの価格高騰を背景とした運用コスト削減の需要を受けて、今後さらに進行するものと考えられます。

本レポートでは、将来の社会インフラを支える技術として、高温超伝導技術を取り扱います。アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、特許・グラント・スタートアップ企業についての情報をもとに、上記技術の動向について分析を行いました。

高温超伝導技術に関する特許の動向

アスタミューゼの保有する特許データベースより、要約(abstract)に「高温超伝導」や「銅酸化物超伝導体」などの特徴的なキーワードを含む特許母集団3,704件を抽出しました。

抽出された母集団を対象に、文献に含まれるキーワードの年次推移を抽出して近年進展のある技術要素を特定する「未来推定」分析を実行します。この分析によってキーワードの変遷を把握し、ブームが去った技術やこれから脚光を浴びると予測される技術等を定量的に評価することで、要素技術に対する技術ステータス(黎明・萌芽・成長・実装)の予測を行います。

2012年以降に出願された高温超伝導技術に関連する特許の要約に含まれるキーワードの年次推移が図1です。

図1:高温超伝導技術に関連する特許の要約に含まれるキーワードの年次推移

キーワードごとの成長率(growth)は、2012年以降の文献中における出現回数と、2019年以降の文献中における出現回数の比で定義され、値が1に近いキーワードほど直近の出現頻度が高いとみなされます。

「nitrogen」や「dewar」、特に成長率の著しく高い「liquid-helium-free」などの冷却技術に関するワードは、安価な窒素冷媒を用いた高温超伝導技術に関する長年の研究開発の進展と、近年の希少資源・戦略物質であり超伝導電磁石の極低温冷却剤として用いられるヘリウムの供給不足および需要逼迫を背景とした「脱ヘリウム冷媒」の世界的動向の双方を反映していると考えられます。

一方で、出現頻度が継続的に高い傾向にあるキーワードとして「coil」や「magnet」、「tape」や「quench」などの線材・電磁石に関するワードがみられ、電気抵抗ゼロの超伝導体の性質を活かして長距離間における極めてロスの小さい電力伝送を可能とする「超伝導電力線」や、従来の超伝導電磁石と比較してより小型かつ強磁場を発生できる「高温超伝導(HTS)電磁石」を実現する技術が継続的に注目されている状況が見られます。さらに、成長率の高いワード「maglev」には、HTS電磁石のコンパクト性を活かした鉄道などの磁気浮上用途における実用化への期待が現れています。

続いて、出願特許の件数を確認します。高温超伝導技術に関連する特許の国別出願件数の年次推移を図2に示します。

図2:高温超伝導技術に関連する特許の国別出願件数の年次推移

国別では中国の出願件数が圧倒的に多く、米国、日本、韓国、EUがその後に続いています。中国では近年、中国共産党中央委員会および国務院が2019年9月に『交通強国建設綱要』において交通産業の変革を引き起こしうる先進的かつ破壊的な技術の研究を強化する方針を発表しました(注2)。

注2:中華人民共和国中央人民政府「交通強国建設綱要」(2019年9月)

https://www.gov.cn/zhengce/2019-09/19/content_5431432.htm

それを背景に、時速600km級の高速リニアシステムや時速400km級の高速旅客鉄道システム、低真空チューブ(トンネル)高速鉄道などの技術基盤の研究開発が政府主導で推進されています(注3)。中国における高温超伝導分野の実用研究の隆盛が特許件数の形で明確に現れたものと推察されます。

注3:国立研究開発法人科学技術振興機構 Science Portal China「中国の高速リニアモーターカー、2035年に乗車可能か?」(2021年3月)

https://spc.jst.go.jp/news/210304/topic_5_01.html

以下に、近年の特許事例の一部を紹介します。

  • 「高温超伝導体向け周波数損失誘導クエンチ保護システムおよび関連使用方法」( US11217373B2)

    • 機関/企業:The Florida State University Research Foundation, Inc.

    • 国:アメリカ合衆国

    • 公開年:2022年

    • 概要:高温超伝導体(HTS)電磁石をクエンチ(超伝導状態の破れによる磁気エネルギーの急激な解放)から保護し,安全な消磁を実現するシステム。周波数損失誘導クエンチ(FLIQ)保護回路により、HTS磁気コイルの消磁過程において常伝導転移に伴う局所的な過熱が生じた際に、コイル全体に熱エネルギーを均一かつ迅速に分散させる保護システムを提供する。

  • 「高温超伝導磁気懸垂式空中鉄道」(CN218777420U)

    • 機関/企業:CHENGDU XIJIAO HUACHUANG TECHNOLOGY CO., LTD. | CHENGDU HUACI TECHNOLOGY CO., LTD.

    • 国:中華人民共和国

    • 公開年:2023年

    • 概要:高温超伝導(HTS)電磁石による磁気浮上を用いた懸垂式空中鉄道。車体は懸垂アームに備えられたHTS電磁石により永久磁石軌道から浮上する。車輪-レール間の摩擦に伴う騒音の除去、車体の自動安定化・自動誘導による安全かつ高信頼な都市交通システムを実現。

高温超伝導技術のグラントおよび研究プロジェクトの動向

次に、グラント(競争的研究資金)の動向を示します。論文などの形式で発表されていない問題や将来の研究課題が反映されるグラントをもとに、近い将来の研究の潮流を予測することができます。

特許の場合と同様の手法により、抽出したグラント母集団5,010件を対象とする「未来推定」分析を実行しました。2012年以降の高温超伝導技術に関連するグラントに含まれるキーワードの年次推移が図3です。

図3:高温超伝導技術に関連する特許の要約に含まれるキーワードの年次推移

「superhydrides」や「nickelates」などの超伝導材料に関する新規性の高いワードは、主に「水素化物超伝導体」や「ニッケル酸化物超伝導体」として、より高い超伝導転移温度を有する新物質を探索する新たな試みが続けられていることを反映しています。

一方で、出現頻度が継続的に高い傾向にあるキーワードとして「magnets」や「tapes」、「rebco」などの電磁石・線材に関するワードがみられ、超伝導電力線や高温超伝導(HTS)電磁石の実用化に向けて活発化しつつある継続的な基礎研究の動向が現れています。さらに、「fusion」や「plasma」といったワードは、HTS電磁石を用いた磁気プラズマ制御による核融合反応の実用化に向けた基礎研究が盛んになりつつあることを示唆します。これらの核融合反応の制御に関連する基礎研究は、2033年以降の稼働を目標とする国際熱核融合実験炉(ITER)計画(注4)も背景として、今後さらに発展するものと考えられます。

注4:日本経済新聞「国際核融合実験炉、33年に稼働延期 費用は8700億円増」(2024年7月)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR03DD70T00C24A7000000/

続いて、グラントの件数および配賦額を確認します。高温超伝導技術に関連するグラントの国別件数の年次推移を図4、国別配賦額の年次推移を図5に示します。ただし、中国はグラントデータを非公開としており、実態を反映しない可能性が高いことから本レポートでは対象から除外しています。また、公開直後のグラント情報にはデータベースに格納されていないものもあり、直近の集計値については過小評価されている場合があります。

図4:高温超伝導技術に関連するグラントの国別件数の年次推移
図5:高温超伝導技術に関連するグラントの国別配賦額の年次推移

グラント件数では、近年は米国と日本が上位2位を占めており、英国・EU・スイスがそれらに続いています。一方で、近年の配賦額では米国の総投入予算が顕著な増加傾向にあり、英国・EU・日本・スイスを大きく引き離しています。

日本のグラント総配賦額に対する件数の多さは、高温超伝導に関連する幅広い研究分野に対する投資、比較的小規模な研究プロジェクトへの配賦額の分散を反映していると推測できます。一方で米国では、米国立科学財団(NSF)が複数の中規模研究インフラに対する資金割当の方針(Mid-scale RI-1 program)や(注5)、2024年6月に核融合研究を支援する取り組みを強化する目的で米エネルギー省が1.8億ドルの追加拠出を発表する(注6)など、高温超伝導技術の基礎研究の成果を広範な分野の応用研究や社会インフラへの実装といった形で活用することを目的とした複数の大型プロジェクトが進行しており、これにより1件あたりの研究プロジェクトに賦与額が集中しつつあります。

注5:U.S. National Science Foundation「Mid-scale Research Infrastructure-1 (Mid-scale RI-1)」

https://new.nsf.gov/funding/opportunities/mid-scale-research-infrastructure-1-mid-scale-ri-1

注6:Bloomberg「US Moves to Accelerate Fusion Energy Amid Slow Progress」 (2024年6月)

https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-06-06/us-seeks-to-boost-fusion-research-with-public-private-funding

以下に、近年のグラント事例の一部を紹介します。

  • FUSION DEVELOPMENT AND TECHNOLOGY

    • 機関/企業:Massachusetts Institute of Technology

    • グラント名/国:DOE/アメリカ合衆国

    • 採択年:2017年

    • 資金賦与額:約1.4億米ドル

    • 概要:超伝導体と磁石技術、低温システムに関する基礎研究。特に高温超伝導体(HTS)に関連する技術開発に注力し、次世代の磁気閉じ込め核融合炉に適用可能な基盤技術としてのHTS磁石技術の技術水準向上を目指す。

  • Mid-scale RI-1 (M1:IP): 1.2 GHz NMR Spectrometer for National Gateway Ultrahigh Field NMR Center

    • 機関/企業:Ohio State University

    • グラント名/国:NSF/アメリカ合衆国

    • 採択年:2019年

    • 資金賦与額:約1800万米ドル

    • 概要:高温超伝導線材技術の進展によって初めて実用化された、超高磁場核磁気共鳴(NMR)用磁石を用いた超高磁場1.2GHz NMR分光計。共有NMR施設への導入を通して、ナノ材料や生体分子の構造解析など広範な分野の研究開発を大きく進展させうる重要なインフラを提供。

高温超伝導技術に関連するスタートアップ企業の動向

最後に、高温超伝導技術に関連する近年のスタートアップ企業を紹介します。特許・グラントと同様に弊社データベースで検索した結果、5件が抽出されました。高温超伝導技術の実用化には、高温超伝導材料の線材化や接合・曲げ加工が困難である等の障壁が存在しており、実用化の難しさがスタートアップ企業の少なさにあらわれています。今回抽出されたスタートアップ企業は、いずれも独自性が高く高温超伝導の実用化に大きく貢献する新規技術を主軸として資金調達を成功させた事例です。

スタートアップ企業は、新技術によって既存プレイヤーをはじめ、社会にインパクトを与える企業であり、その資金調達額は新技術に対する社会の期待値を反映していると考えられます。以下に、近年設立された資金調達額上位のスタートアップ企業の一部を紹介します。

  • VEIR

    • https://veir.com/

    • 所在国/創業年:アメリカ合衆国/2019年

    • 資金調達状況:約3700万米ドル

    • 事業概要:液体窒素冷却剤1kgあたりの冷却力が従来の20倍に向上した革新的な蒸発冷却システムを開発、高温超伝導体を利用して送電効率に優れた次世代の送電線を提供。

  • Renaissance Fusion

    • https://renfusion.eu

    • 所在国/創業年:フランス共和国/2020年

    • 資金調達状況:約1600万米ドル

    • 事業概要:独自の高温超伝導マグネット・液体リチウム炉壁技術に基づいて、コンパクトで低価格かつ高効率な核融合発電用ステラレータ(外部磁場によるプラズマ閉じ込め装置)を開発。

高温超伝導技術の未来展望

本レポートでは、高温超伝導技術に関連する特許・グラント・スタートアップ企業のデータベースを用いて、キーワードによる技術動向の推定と分析、具体的事例の抽出を行いました。

特許の分析からは、高温超伝導線材を用いた電力線・電磁石の製法や磁気浮上交通システムなど、高温超伝導技術の社会インフラへの導入を見据えた出願が多くみられることから、高温超伝導技術の運用面におけるコスト削減と安全性・高信頼性の両立が現在から近い将来にかけての主な課題であると推測できます。

一方でグラントの分析からは、電力線・電磁石に関連する研究とは別に、高温超伝導電磁石を用いたプラズマ制御に基づく核融合反応の実用化、より高い超伝導転移温度をもつ新物質の探索など、現在実現していない挑戦的な研究テーマに対する巨額の資金投入例がみられます。このことから、長期的には核融合炉の基幹技術としてエネルギー生成の領域においても重要な位置を占めることが予測されます。

さらに、スタートアップ企業の分析からは、近年独創的な高温超伝導の関連技術を保有している少数のスタートアップ企業が注目を集めており、近い将来の上記企業を中心として引き起こされる技術革新次第では、超伝導技術実用化に関与するプレイヤーや社会実装の進展などの様相が大きく変化する可能性があると考えられます。

上記の分析結果を総合すると、現在の高温超伝導技術は社会実装の初期段階にあり、近い将来にかけては超伝導電力線・電磁石や磁気浮上交通システムといったインフラ分野、さらなる将来にかけては磁場閉じ込め方式核融合炉といったエネルギー分野へと普及していくと考えられます。

著者:アスタミューゼ株式会社 池田龍 博士(理学)

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情報通信
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東京都千代田区神田錦町2丁目2-1 KANDA SQURE 11F WeWork
電話番号
03-5148-7181
代表者名
永井 歩
上場
未上場
資本金
9500万円
設立
2005年09月
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