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アスタミューゼ株式会社
会社概要

積層造形技術におけるバイオプリンティングの未来展望 ~スタートアップ企業と研究開発資金から見える現状と未来~

アスタミューゼ株式会社

アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、バイオプリンティングに関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

積層造形技術、バイオプリンティングとは

次世代のものづくりの技術として積層造形技術が注目されています。積層造形技術は、樹脂や金属などの材料を薄い層状に積層し立体物を製作する技術で、2012年のアメリカのオバマ大統領による支援表明により広く認知されました。アメリカでは現在「Critical and Emerging Technology」と呼ばれる重要技術1つに指定されています(注1)。

注1:https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2024/02/Critical-and-Emerging-Technologies-List-2024-Update.pdf

積層造形技術の構成技術として、以下のものがあげられます。

  • 材料開発

  • 加工技術

  • 積層過程のモデリング・予測

  • 製品設計

積層造形技術を活用することで、個別製品の製造期間短縮、多種少量生産、幅広い材料を活用した自由度の高い設計等が可能になります。以前は、ラピットプロトタイピングといった試作品での利用が主でしたが、近年では少量生産品や高付加価値製品製造での活用も期待されています。また、工業製品の分野だけでなく食品や医療といった分野でも注目されています。

その中でも医療分野は、人の命にもかかわる分野でもあるため、生体適合性や生分解性といった部位や用途に合わせた材料を活用した安全な医療器具を短期間で開発し、患者個人に適した形状で個別に提供することが求められます。積層造形技術とは相性が良いといえるでしょう。

医療分野での積層造形技術要素としては以下のものがあげられます。

  • 材料開発:医療用高分子の合成、バイオインクの開発

  • シミュレーション、性能予測:医療材料の物性シミュレーション、材料設計シミュレーション

  • 医療機器・器具の設計開発:金属インプラント等の作製

  • 細胞由来の人体の代替部位の開発:人工臓器、再生治療用細胞増殖足場開発など

  • 動物試験を伴わない代替評価手法の開発:試験用の臓器モデル、組織モデル開発など

この中でも、バイオプリンティングと呼ばれる生きた細胞を含んだ材料を積層させる技術が注目されています。細胞をそのまま3次元的に配置させられることから、動物試験に依存しない評価用の体内環境構築などさまざまな活用が見込まれています(注2)。

注2:https://www.jst.go.jp/crds/report/CRDS-FY2020-FR-03.html

他にも患者に合った再生治療用の移植デバイスや、オルガノイドと呼ばれる臓器のミニチュアモデルを高精度で作製できる技術としても注目を集めています。

本レポートでは技術として、バイオプリンティング技術をとりあげます。アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、スタートアップと研究プロジェクト から技術動向を分析しました。

バイオプリンティング技術に関連するスタートアップ企業の分析

医療分野でのバイオプリンティングに関するスタートアップ企業をアスタミューゼのデータベースから抽出しました。スタートアップ企業は、あたらしい技術で社会に影響をあたえる企業であり、その資金調達額は社会からの期待値を示しているといえます。

ここでは、特徴的なキーワードの年次推移を抽出することで、近年注目されている技術要素を特定する「未来推定」という分析を行います。この分析では、キーワードの変遷をたどることで、これから脚光をあびると推測される要素技術の流れを可視化することが可能です。キーワードごとの成長率は、2013年以降の文献中の出現回数と、2018年以降の文献中の出現回数の比で定義され、1に近いほど直近の出現頻度が高いとみなされます。

図1に2013年から2022年におけるバイオプリンティングに関するスタートアップの会社概要に含まれるキーワードを示します。

図1:バイオプリンティングに関わるスタートアップ文献内の特徴的なキーワードの年次推移

「extracellular-matrix(細胞外マトリクス)」や「bioink」、「biofabrication」といったバイオプリンティングに直接関連するワードや「cancer」、「bone」のような治療部位に関するワードが多くみられる一方、「assays」といった検査に関連するワードや「implants」のような体内に挿入する器具に関する用語がみられます。前者は、主に薬品やその他前臨床における評価用のモデル製造、後者は再生医療用材料のバイオプリンティングを用いた製造に関連するワードであると考えられます。このことから、前臨床用の評価モデルの開発と再生医療用の足場などの材料開発が注目されているといえるでしょう。

「animal」を含むスタートアップ企業も少数あります。動物試験の代替となる評価手法のための組織モデル開発に関連するスタートアップでした。医薬品や医療機器の開発において実験動物を犠牲にしないという観点も今後は重要な価値になってくることがうかがえます。

図2は2013年以降に設立されたスタートアップ企業の年ごとの設立数、および資金調達額の推移です。資金調達額については2012年以降設立の企業を対象としています。

図2:年ごとのスタートアップ設立数および資金調達額の推移(2013~2022)

設立数は2016年に16件と増加し、2018年、2019年と10件以上の設立が見られる年があるものの、2020年以降の設立数は減少しています。一方、資金調達額については、2017年を境に大きく増加しており、2022年は2019年の10倍以上となっています。資金調達額が多い近年の企業に注目すると、様々な企業が広く薄く資金を調達しているわけではなく、一部のスタートアップ企業に多くの資金が集まっている傾向がみられます。

例えば、バイオプリンティング組織を用いた創薬会社の Prellis Biologics は2022年全体の約6割となる3500万米ドルを調達しています。2021年には研究開発用の3D細胞モデルの製造スタートアップである Inventia Life と Prellis Biologics がそれぞれ2500万米ドル、3300万米ドルと巨額の資金を集めています。

以下に資金調達額上位の注目スタートアップを紹介します。

  • Aspect Biosystems

    • https://www.aspectbiosystems.com/

    • 所在国/創業年:カナダ/2013年

    • 資金調達状況:8100万米ドル

    • 事業概要:臓器再生および機能回復を目的としたバイオプリントによる組織治療用のインプラントを開発するスタートアップ

  • Prellis Biologics

    • https://www.prellisbio.com/

    • 所在国/創業年:アメリカ/2016年

    • 資金調達状況:約7900万米ドル

    • 事業概要:3Dバイオプリントで製造したリンパ節のオルガノイドを製造しin vitroでの抗体生成を模倣し、機械学習を活用したスクリーニングと組み合わせることで、効率的な抗体医薬の開発をおこなうスタートアップ

  • ROKIT Healthcare

    • https://orp.rokithealthcare.com/

    • 所在国/創業年:韓国/2012年 

    • 資金調達状況:約1500万米ドル

    • 事業概要:3Dバイオプリンティング技術を活用した皮膚および軟骨、腎臓の再生医療用プラットフォームを開発。皮膚および軟骨については臨床試験の段階まで進んでいる

バイオプリンティング技術に関連するグラント(研究開発資金)データの分析

図3に2013年から2022年におけるバイオプリンティングに関するグラントの文章に含まれるキーワードを示します。

図3:バイオプリンティングに関わるグラント文献内の特徴的なキーワードの年次推移

スタートアップ企業と同様にバイオプリンティングに直接関連するワードや、治療部位、製薬や試験、再生医療用のデバイスに関するワードが見られる一方、「bacteria-reactive」、「lung-immune」、「microbiome-immune」などの免疫系や「neurodegenerative」、「neuronal」といった神経系に関するワードが増加しています。また、臓器を模倣した構造体「organoids」、マイクロ流体チップ内でヒトの細胞を培養して臓器や組織の挙動を再現するシステム「organs-on-chip」等のワードも増加しています。バイオプリンティングで構築した臓器や体内組織を活用した再生医療や病気のメカニズム解明、前臨床技術の開発といった研究が増加していると考えられます。

上記を踏まえると、バイオプリンティング技術では治療用材料・デバイスに関する用途、試験・評価用の組織モデル用途の2つが注目されているとみえます。

図4はそれぞれの用途に関するグラント配賦額の2013年以降の年次推移です。

図4:グラント配賦額の分野別推移(2013~2022)

中国はグラントデータを非公開としており、実態を反映しない可能性が高いことから本レポートでは対象から除外しています。また、公開直後のグラント情報にはデータベースに格納されていないものもあり、直近の集計値については完全ではなく参考値となります。

治療用材料・デバイスに関しては、2013年に大規模案件があり、翌年に大きく下がったものの、以降は増加傾向となっています。2013年の数値は、EU、イギリス、アメリカによる軟骨や血管、創傷治癒用の足場などの構築に関する1000万米ドル規模の巨大プロジェクトによるものです。2020年以降のプロジェクトでも軟骨再生用のインプラントは見られるものの、薬剤徐放性の付与など、機能性を高めたものになります。特に軟骨の再生に関しては、一部スタートアップ企業も立ち上がっていることから、実用化に向けて着実に進んでいることがわかります。他にも移植用の肝臓組織や心臓、脳機能再生用のインプラントなど、より重要な部位に関連するプロジェクトも多くあり、現時点では研究段階であるものの今後の動向が注目されます。

組織モデルの動向も、年によって増減はありますが全体としては増加傾向にあります。薬品スクリーニングや毒性評価、病気メカニズム解明のための組織・臓器モデル開発プロジェクトが多くみられます。

組織構造の再現だけではなく、他の臓器モデルとの相互作用を可能とする臓器モデル・機能の構築や再現に関するプロジェクトも多くの資金を得ています。薬剤クリーニング向けの組織モデルに関するスタートアップ企業も立ち上がっていますが、精密な臓器の再現に関しては課題が残っていると考えられます。

他にはバイオプリンティング腫瘍モデルと人工知能、ロボットを組み合わせた高性能のスクリーニングシステムや、神経系の病気のメカニズム解明のための神経血管や脳モデルの構築といった研究も多くの資金を獲得しています。以下に最近のプロジェクトのうち注目のグラント事例を紹介します。

治療用材料・デバイス

  • Controlled Organoids transplantation as enabler for regenerative medicine translation

    • 機関・企業:CSEM CENTRE SUISSE D'ELECTRONIQUE ET DE MICROTECHNIQUE SA - RECHERCHE ET DEVELOPPEMENT(スイス)

    • プロジェクト期間:2020年~2023年

    • 資金調達額:約710万米ドル

    • 概要:肝臓再生治療を目的としたオルガノイド技術をベースの移植用3Dバイオプリント肝臓組織作製技術の開発に関する研究

  • 3D BIOPRINTED PERSONALISED SCAFFOLDS FOR TISSUE REGENERATION OF ANKLE JOINT

    • 機関・企業:VISCOFAN SA(スペイン)

    • プロジェクト期間:2021年~2024年

    • 資金調達額:約700万米ドル

    • 概要: 腱障害と変形性関節症等の治療を目的としたゼラチンとコラーゲンをベースとした移植用患者個人に調整可能なバイオプリント足場の作製に関する研究。薬剤徐放機能を組み込み細胞の成長と分化を促進させることで筋骨格組織の損傷を効率的に回復させることが可能

  • 4-Deep Brain Reconstruction

    • 機関・企業:FUNDACIO DE RECERCA CLINIC BARCELONA-INSTITUT D INVESTIGACIONS BIOMEDIQUES AUGUST PI I SUNYER(スペイン)

    • プロジェクト期間:2022年~2025年

    • 資金調達額:約310万米ドル

    • 概要:神経疾患に由来の脳障害の回復を目的としたバイオプリンティングによる脳細胞マトリクスや血管系、ワイヤレス制御刺激チップ等を組み合わせた脳埋め込み型のデバイス開発に関する研究

試験・評価用組織モデル

  • Next-generation phenotypic screening for oncological applications

    • 機関・企業:Université Paris Sciences et Lettres(フランス)

    • プロジェクト期間:2021年~2029年

    • 資金調達額:約1700万米ドル

    • 概要:蛍光バイオセンサーを備えた細胞をベースとしてバイオプリンティングにより腫瘍モデルを製造し、人工知能による画像解析とロボットによる自動化を組み合わせることで高効率の新しい薬剤スクリーニングシステムを構築する研究

  • Bioprinting on-chip microphysiological models of humanized kidney tubulointerstitium

    • 機関・企業:UNIVERSITEIT MAASTRICHT(オランダ)

    • プロジェクト期間:2021年~2025年

    • 資金調達額:約350万米ドル

    • 概要:人工多能性幹細胞を利用したバイオプリンティングおよびorgan-on-chip技術の併用により、腎臓疾患の生物学的な理解を目的とした実物の腎臓の構造および機能を高い精度で再現する in vitro 人腎臓モデルを構築する研究

  • Lasting Impacts: Dynamic, Fully Natural Bioprinted 3D Human Neurovascular Biomimetic Model to Study Traumatic Brain Injury Pathophysiology

    • 機関・企業: LAWRENCE LIVERMORE NATIONAL SECURITY, LLC (アメリカ)

    • プロジェクト期間:2021年~2026年

    • 資金調達額:約200万米ドル

    • 概要:外傷性脳損傷が将来的な認知障害、運動障害等の神経疾患の発症につながるメカニズムを解明するための、バイオプリント神経血管構造の構築に関する研究

バイオプリンティングの現状と未来展望

バイオプリンティング技術はスタートアップ企業とグラントの両方で、資金調達額および配賦額の増加がみられます。スタートアップ企業では、バイオプリンティング組織を活用した創薬スクリーニングや再生治療用のインプラントに関連する企業が高い資金を調達している一方、グラントは創薬スクリーニングや再生治療用のインプラントに加え、疾患メカニズム解明のための正確な臓器・組織モデルの構築に関連する研究に資金が投入されています。一部の分野では実用化が近づいているものの、引き続き成長していくと考えられます。

再生治療については近年様々な部位での人への臨床試験実施例が報告され、実用化へ向けた動向に注目が集まっています。アメリカでは、再生医療の会社である 3DBio Therapeuticsが3Dバイオプリンティングで製造した耳の形をしたインプラント「AuriNovo」による耳再建用の臨床試験を報告しています(注3)。

注3:https://ir.printbio.com/3dbio-therapeutics-and-the-microtia-congenital-ear-deformity-institute-conduct-human-ear-reconstruction-using-3d-bioprinted-living-tissue-implant-in-a-first-in-human-clinical-trial/

日本でも、2023年に京都大学医学部附属病院による、末梢神経損傷患者への3Dバイオプリンティングを活用した三次元神経導管の移植による神経再生技術の世界初の臨床試験に成功しています(注4)。

注4:https://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/press/20230424.html

医療の個別化が進む中、個人に合わせたデバイスやモデル組織を提供できるバイオプリンティング技術はより重要な技術となっていくでしょう。

著者:アスタミューゼ株式会社 田澤俊介 博士(工学) 

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本社所在地
東京都千代田区神田錦町2丁目2-1 KANDA SQURE 11F WeWork
電話番号
03-5148-7181
代表者名
永井 歩
上場
未上場
資本金
9500万円
設立
2005年09月
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