介護・リハビリロボットの研究開発動向:少子高齢化社会にむけた取り組み

アスタミューゼ株式会社

はじめに:介護・リハビリロボットとは

介護・リハビリテーションロボットとは、高齢者や障がい者の日常生活の質を向上させることを目的に設計された、自律型または半自律型の機器やシステムです。

これらのロボットは、リハビリテーションのサポートや移動補助、さらには認知症予防や見守りなど、幅広い介護タスクをカバーしています。AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、センサー技術、機械学習などの先進技術を組み合わせることで、個々の利用者に最適なサポートを提供する高度な自律システムをそなえたロボットが研究・開発されている一方、被介護者や介護職員の負担軽減にむけた社会実装も進んでいます。

本稿では、アスタミューゼ独自のデータベースを活用した、介護・リハビリテーションロボットの開発と実用化の動向について、全体像を見ていきます。

研究予算と特許の動向からみる介護・リハビリロボット関連技術

アスタミューゼのデータベースをもちいて、キーワードの出現数の年次推移を算出し、近年伸びている技術要素を特定する分析「未来推定」により、萌芽的な分野の予測が可能です。キーワードの変遷をたどることで、ブームがさっている技術やこれから脚光をあびると要素技術を可視化して、これから発展する技術や黎明・萌芽・成長・実装といった技術ステータスを推定します。ここでは、まずグラント(科研費などの競争的研究資金)のデータから、注目される技術分野をさぐります。グラントには、これから研究を進めていくプロジェクトに投じられる資金がふくまれ、まだ論文発表されていない、あらたなアプローチが見出される可能性があります。

図1に2012年から2023年までの、介護・リハビリテーションロボットに関するグラントの研究概要にふくまれている特徴的なキーワードの年次推移をしめします。

図1:介護・リハビリテーションロボットに関わるグラント文献に含まれる特徴的なキーワードの年次推移

成長率(growth)は全期間の文献内における出現回数に対する、後半6年間の文献での出現回数の割合です。その数値が1に近いほど、対象期間の後半に多く出現している語とみなせます。

「hand-exoskeleton」や「exoskeletal-assisted」といった「exoskeleton」(外骨格)を含む語が複数、増大語としてあらわれています。日本では「パワーアシストスーツ」とよばれることもある、重量物の持ち上げなどを補助する装置ですが、介護者の補助ではなく、被介護者のリハビリなどに用いるための研究プロジェクトで多く見られる語です。

また、「emg-controlled」が成長率、出現数ともに高い語です。これは表面筋電位(EMG)を用いてユーザーの意図をロボットに伝える技術です。いずれも被介護者がみずからの意思で活動できる範囲を広げるための技術ですが、要介護状態からの回復・復帰や、自立して生活できる期間を長くたもつ取り組みです。介護・医療の費用を低減するためにも、研究プロジェクトが進捗しているものと考えることができます。

図2は、研究プロジェクト配賦額の、国別の推移です。期間は2012年から2023年です。配賦金額はプロジェクト期間で均等割りし、各年度に配分して集計しています。たとえば3年計画で3万米ドルのプロジェクトは各年に1万米ドルずつ計上しています。

図2:介護・リハビリテーションロボットに関連する研究プロジェクト賦与額の国別の推移

米国では、介護・リハビリテーションロボットに関連する医療やAIに関する大型プロジェクトに対する投資が続いていますが、日本では伸び悩んでいます。

図3は、図2と同じ期間、同じ国のグラントのプロジェクト件数の推移を示します。

図3:介護ロボットに関連する研究プロジェクト件数の国別の推移

日本以外でも多くの国で、2017、2018年ごろから件数が停滞しています。とくにEUでは、少数のプロジェクトに対して長い期間に高額の資金を投入する傾向があり、件数の減少が一年ごとの賦与額の低下に直結していない可能性があります。

以下に配賦額の高いグラントの事例を紹介します。

  • Digital Innovation Hubs in Healthcare Robotics

    • 研究機関/企業:University Hospital Aachen他

    • グラント名/国:CORDIS/EU

    • 研究期間:2019~2023年

    • 配賦額:約2,200万米ドル

    • 概要:医療ロボティクスに特化した欧州のデジタル・イノベーション・ハブネットワークを構築する取り組み。技術と医療を結びつけ、採用障壁を減らすことでイノベーションを促進する。

  • 神経ダイナミクスから社会的相互作用に至る過程の理解と構築による構成的発達科学

    • 研究機関/企業:大阪大学

    • グラント名/国: 日本学術振興会(科研費)/日本

    • 研究期間:2012~2016年

    • 配賦額:約5億円(約330万米ドル)

    • 概要:運動障害に対するロボットによるリハビリテーションを含む、行動の神経ダイナミクスの研究。神経力学モデリングと行動実験を使用して、脳機能、社会的相互作用、および患者向けのロボットベースのリハビリテーション プラットフォーム構築をめざす。

  • A Brain Circuit Program for Understanding the Sensorimotor Basis of Behavior

    • 研究機関/企業:California Institute of Technology

    • グラント名/国:NIH/米国

    • 研究期間:2017~2022年

    • 配賦額:約1,500万米ドル

    • 概要:脳と脊髄の回路が感覚機能と運動機能を統合して行動を制御する仕組みの包括的な研究。神経疾患のよりよい治療法の開発や、義肢や補助ロボットの改良を目的とする。被介護者の生活の質を上げるためのロボットに関わる。

新規の研究プロジェクトが減少している場合、その技術領域が研究機関による開発段階から事業会社による実用化に移行している可能性があります。この移行段階の可能性を見るため、特許の推移を分析しました。なお、原則として、特許は出願後18か月を経過してから公開されるので、直近には未公開の特許が多くあり、出願数が小さく計上されます。

図4は2012年から2022年における特許出願数の動向です。

図4:介護ロボットに関連する特許出願数の推移

2015年ごろから出願数が大きく伸びており、介護・リハビリロボットの社会実装に向けた知財化が進んでいると考えられます。出願国別では中国が首位、2位が国際出願(WPO)ですが、3位は米国でも日本でもなく、韓国でした。中国、韓国はともに少子高齢化の進展が著しく、介護・リハビリロボットの市場として注目されています。

介護・リハビリロボットに関するスタートアップ企業の動向

つづいて、スタートアップ企業の動向を見ていきます。スタートアップ企業は、あたらしいテクノロジーを駆使して社会や既存企業に大きな影響をあたえることが期待されており、その資金調達額は社会的な興味の方向性や課題解決への期待を反映していると考えられます。

図5は2012年から2023年までの、介護・リハビリテーションロボットに関するスタートアップ企業の会社概要にふくまれているキーワードの年次推移です。

図5:介護・リハビリテーションロボットに関連するスタートアップ企業の概要に含まれる特徴的なキーワードの年次推移

「robot-exoskeleton」や「exoskeletons」など、グラントでもみられた外骨格技術に関連する用語があらわれています。くわえて、「legs」や「mobility」といった歩行や移動に関連する語、「hands」や「finger」など、上肢や手に関する語も成長が顕著であり、歩行や手・腕の動作補助が事業化に近いことが予想されます。

図6は、2012年から2023年までの間における、介護・リハビリテーションロボットに関するスタートアップ企業の設立された社数と資金調達額の推移です。

図6:介護・リハビリテーションロボットに関連するスタートアップ企業の設立数と資金調達額の推移

設立数は2015年と2018年に2つのピークがあり、資金調達額のピークは2022年にあります。この期間における設立数は米国が9社、中国が6社で、そのほかの国では3社以下です。

2020年以降は設立数が減少する一方、資金調達額は増加しています。これは、高度な技術開発をおこなっている一部の成功したスタートアップ企業に資金が集中していることをしめしています。

2019年にはCOVID-19パンデミックが発生し、非接触型のケアや介護サービスが注目されました。ロボット技術の導入への関心が急速に高まったことが、2020年以降の介護・リハビリテーションロボット関連のスタートアップへの投資の増加につながったと考えられます。2022年については、遠隔ケアや介護現場の自動化を推進するロボット技術が注目されたのにくわえて、医療技術系スタートアップへの世界的な資金調達ブームにより大きく伸びたと推測されます(注1)。

注1:https://www.pymnts.com/startups/2022/global-startups-raised-621b-in-2021/

以下に、1,000万米ドル以上の資金調達に成功したスタートアップ企業の一部を紹介します。

  • RoboCT

    • https://www.roboct.com/

    • 所在国/創業年: 中国/2017年

    • 事業概要:下半身の運動機能障害を持つ患者が歩行を習得するのを助ける外骨格ロボットおよびロボットをもちいた改善プログラムを提供。

  • Aether Biomedical

    • https://www.aetherbiomedical.com

    • 所在国/創業年: ポーランド/2018年

    • 事業概要:AIベースの生体信号処理に取り組む医療用ロボットのスタートアップ企業。リハビリテーション用ロボット機器や、低コストで高い効果を発揮する多機能なバイオニック義肢を開発。

  • Tombot

    • https://www.tombot.com

    • 所在国/創業年: 米国/2018年

    • 事業概要:認知症の症状を軽減し、メンタルヘルスを改善する子犬のロボットを開発、提供。

まとめ:介護・リハビリテーションロボットの現状と将来展望

WHO(世界保健機関)の統計によれば、世界の60歳以上の人口は2050年には20億人をこえると予想されていています(注2)。

注2:https://www.who.int/news-room/facts-in-pictures/detail/ageing

一方、日本や米国では、長時間労働や低賃金といった要因で介護労働者の離職率が高くなっており(注3)、多くの国々において介護職に従事する人材が不足しています。

注3:https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2011/06/pdf/084-085.pdf

和歌山県や群馬県では、介護・リハビリテーションロボットの導入を促進するための補助金制度が整備されるなど、介護・リハビリテーションロボットの社会実装への期待は大きいといえます。これにこたえるべく、介護・リハビリテーションロボットの技術は、研究段階から社会実装、ビジネスにむかっていることが、グラント・特許・スタートアップの動向を俯瞰することで見えてきました。とくに高齢化の進展が速いとされる中国、韓国では、ビジネスチャンスに注目した特許出願が多くなっています。

また、グラントとスタートアップ企業のキーワード分析からは、被介護者のできることを増やすための研究・事業に重点がおかれていることがわかります。介護・リハビリテーションロボットによる自立支援、リハビリテーション支援、感情的な支援などによって、介護労働者の必要性を減らし、被介護者の自立と生活の質を向上させることが、遠くない将来に実現できると期待されます。

著者:アスタミューゼ株式会社 塩原 秀 博士(マテリアルサイエンス)

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会社概要

アスタミューゼ株式会社

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業種
情報通信
本社所在地
東京都千代田区神田錦町2丁目2-1 KANDA SQURE 11F WeWork
電話番号
03-5148-7181
代表者名
永井 歩
上場
未上場
資本金
9500万円
設立
2005年09月