結膜が素早く能動的にアレルゲンを取り込む仕組みを解明

― 花粉症治療の新たなターゲットとなる可能性 ―

学校法人 順天堂

順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センターの安藤智暁 准教授、北浦次郎 教授、奥村康 センター長ら、および同大学医学部附属浦安病院眼科 木村芽以子 助手、大学院医学研究科眼科学 海老原伸行 教授らの研究グループは、眼の表面に存在する杯細胞(*1)が花粉の殻に反応してGoblet cell associated antigen passage (GAP)(*2)という構造を速やかに形成し、アレルゲンの取り込みに重要な働きをしていることを初めて明らかにしました。これまで眼の花粉症発症におけるアレルゲンの侵入は、バリア機能(*3)の破綻による受動的な取り込みが主であると考えられており、能動的な取り込みの存在は明らかになっていませんでした。研究グループは、マウスを用いた実験により、花粉の殻が神経系を介して速やかにGAP形成を誘導し、能動的なアレルゲン取り込みを引き起こすことによって、花粉症の発症を促すことを明らかにしました。本研究成果は、2023年10月11日正午(米国東部時間)に米国科学誌「JCI Insight」オンライン版に公開されました。

◆本研究成果のポイント

  • 粘液を産生する細胞が、アレルゲンの能動的な取り込みに関わることを発見

  • 花粉粒子が知覚されると、結膜の杯細胞はアレルゲンを素早く取り込むことが明らかに

  • 杯細胞をコントロールすることが新たな花粉症治療のターゲットになる

 

◆背景

花粉症の症状は、花粉が私たちの表面に付着して数分〜30分以内に出現しはじめますが、なぜそれほど短時間に反応が生じるかについては明らかになっていませんでした。眼や鼻などの表面は粘膜と呼ばれる湿った柔らかい組織で覆われており、皮膚より物質を通しやすい性質をもっています。しかし、アレルゲンとなる花粉などのタンパク質は分子サイズが大きいため、普段は粘膜のバリア機能によって阻まれ、深部に到達する量はわずかです。そのため、何らかのバリア機能の破綻が起きることにより、アレルギーの症状が出やすくなると考えられてきました。一方、これまでの研究グループによる、マウスを用いた実験では、花粉のエキスを点眼しただけでは花粉症がほとんど発症せず、花粉の殻と一緒に点眼することによって花粉症が生じることが明らかになっていました。そこで研究グループは、花粉の殻が粘膜に働きかけ、アレルゲン通過を促すのではないかと仮説を立て、検証しました。

 

◆内容

研究グループは、アレルゲンを蛍光色素で染色し、粘膜組織内でどのように分布するかを可視化しました。アレルゲンのみを点眼した場合と、花粉の殻とともに点眼した場合とを比較したところ、花粉の殻とともに点眼した場合には、杯細胞が細胞内に大量にアレルゲンを取り込み、その直下の免疫細胞に受け渡している様子が観察されました。この現象は花粉の殻と蛍光アレルゲンを点眼してから5分以内に観察されたことから、杯細胞を通じた能動的な取り込みが、アレルギー症状発症までの時間が早いことと関連している可能性が考えられます。そこで、マウスを用いた花粉症モデル実験において、花粉の点眼後に眼を洗ってみたところ、10分後に洗眼したマウスと、洗眼しなかったマウスとでは、花粉症の発症レベルにほとんど差がないことが判明しました。つまり、花粉が眼に付着してすぐに、杯細胞を介したアレルゲン取り込みが行われてしまい、その後に花粉がついたままであるかどうかはほとんど影響がないということがわかりました。

このような杯細胞を通じた物質の取り込み経路は、goblet cell associated antigen passage (GAP)と呼ばれ、他の研究グループによって腸管で機能していることが報告されてきました。しかし、腸管でのGAP形成は免疫寛容などに働くとされており、自然発生的に形成されます。これに対し、眼で生じるGAPは普段はほとんど見られず、花粉の殻の刺激によって大量に生じ、アレルギー反応を促進することが明らかになりました。(図1)

さらに、眼におけるGAP形成の仕組みを調べてみると、眼の表面で触覚などの感覚を司る三叉神経が重要な役割を担っており、神経を麻痺させるとGAPが形成されなくなることが判明しました。杯細胞からの粘液放出を促すアセチルコリン刺激では、眼のGAP形成はみられないことから、粘液放出とGAP形成は別々の信号で制御されていることもわかりました。


 

◆今後の展開

今回の研究では、眼に付着した花粉からのアレルゲン取り込みが、杯細胞のGAP形成によって素早く能動的に行われていることが明らかになりました。さらに、杯細胞が粘液を放出して眼の表面を保護する作用と、GAPを形成してアレルギー発症に関わる作用は、別々の信号によって制御されていることも判明しました。今後はこの信号の使い分けを解明し、眼を保護しながらアレルギーを抑制する方法の探索や、鼻など他の粘膜におけるGAPの役割の解明など、花粉症の予防や治療に繋がるように、さらなる研究を行っていきます。

 

◆用語解説

*1 杯細胞: 眼、鼻、気道、消化管などの表面に存在し、粘液を放出する細胞。粘液が蓄えられている様子が杯のように見えることからその名がある。

*2 Goblet cell associated antigen passage (GAP): 杯細胞が粘膜の外の物質を細胞内に取り込み、粘膜深部の細胞に受け渡す仕組み。

*3 バリア機能: 粘膜などの体表面から体内への物質の移動を妨げる機能。

 

◆研究者のコメント

なぜ花粉に暴露されてすぐに症状が出るのか、その謎がやっと解けました。この仕組みを止めることによって治療に役立てたり、逆に利用して物質を送り込んだりすることも可能かもしれません。この仕組みの詳細を解明し、花粉症の予防や治療に役立てる研究につなげたいと考えています。

 

◆原著論文

本研究はJCI Insight 誌のオンライン版に2023年10月11日付で公開されました。

タイトル: A nerve-goblet cell association promotes allergic conjunctivitis through the rapid antigen passage

タイトル(日本語訳): 神経-杯細胞連関が迅速な抗原通過によりアレルギー性結膜炎を促進する

著者:Meiko Kimura, Tomoaki Ando, Yasuharu Kume, Saaya Fukase, Moe Matsuzawa, Kosuke Kashiwagi, Kumi Izawa, Ayako Kaitani, Nobuhiro Nakano, Keiko Maeda, Hideoki Ogawa, Ko Okumura, Shintaro Nakao, Akira Murakami, Nobuyuki Ebihara , and Jiro Kitaura

著者(日本語表記): 木村芽以子1,2,3), 安藤智暁1), 久米泰治1,2,3), 深瀬紗綾1,2,3), 松澤萌1,2,3), 柏木項介1,4), 伊沢久未1), 貝谷綾子1), 中野信浩1), 前田啓子1,8), 小川秀興1), 奥村康1), 中尾新太郎 3), 村上晶3), 海老原伸行2,3), 北浦次郎1,5)

著者所属:1)順天堂大学 アトピー疾患研究センター, 2)順天堂大学 浦安病院 眼科, 3)順天堂大学 眼科学, 4)順天堂大学 小児科・思春期科, 5)順天堂大学 アレルギー・炎症制御学

DOI: 10.1172/jci.insight.168596.

本研究はJSPS科研費(20H03721, 20K08808), JST 創発的研究支援事業(JPMJFR220H)および参天製薬創業者記念眼科医学研究基金などの助成を受けて行われました。本研究にご協力いただきました皆様に深謝いたします。

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本社所在地
東京都文京区本郷2-1-1
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03-3813-3111
代表者名
小川 秀興
上場
未上場
資本金
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設立
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