心臓限局性サルコイドーシス患者の臨床背景および予後

― 世界最大級のサルコイドーシスレジストリからの報告 ―

学校法人 順天堂

順天堂大学医学部循環器内科講座の前田大智 非常勤助教、大学院医学研究科循環器内科学の末永祐哉 准教授、堂垂大志 非常勤助教、砂山勉 非常勤助教、南野徹 教授らの研究グループは、心臓限局性サルコイドーシス患者における臨床背景および予後を明らかにしました。心臓限局性サルコイドーシスに関しては、これまで十分な症例数での検討はなされておらず、特に予後に関しては不明でした。本研究は、世界最大規模の多施設レジストリデータ(*1)であるILLUMINATE-CSを用いて、心臓限局性サルコイドーシス患者は非心臓限局性サルコイドーシス患者と比べて、診断時に心機能が悪く、不整脈や心不全を伴う症例が多いが、予後は同等であることを明らかにしました。本成果は、心臓限局性サルコイドーシスの早期発見、早期治療の必要性を示唆する重要な報告と考えます。

◆本研究成果のポイント

  • 心臓サルコイドーシス患者の25%が心臓限局性サルコイドーシスであった

  • 心臓限局性サルコイドーシス患者は診断時の心機能が悪く、併存疾患が多いことが明らかになった

  • 心臓サルコイドーシス患者の予後は全身性心臓サルコイドーシス患者と同等であった

 

◆背景

サルコイドーシスとは、指定難病であり、まだ未解明な点が多い疾患ですが、体内に原因不明の炎症が起こり、その炎症を起こした細胞が肉芽腫と呼ばれる塊を作る病気とされています。この肉芽腫は、肺、皮膚、眼などの全身の臓器にできる可能性があり、心臓に認められると心臓サルコイドーシスと呼ばれ、命に関わる危険な心室性不整脈(*2)や心不全、さらには突然死を引き起こす可能性があることが知られています。サルコイドーシスが心臓のみに認められる場合、心臓限局性サルコイドーシスと呼ばれます。心臓限局性サルコイドーシスは、以前からその存在は認識されていたものの、長らくその特徴や予後は不明でした。本研究は、心臓限局性サルコイドーシスの頻度、患者背景、予後などを網羅的に検討することを目的として実施しました。

 

内容

本研究では、2001年から2017年の間に、国内33病院において、2016年の日本循環器学会のガイドラインに基づいて心臓サルコイドーシスと診断された475人のデータを統計的に解析しました。心臓限局性サルコイドーシスの診断は前述の2016年の日本循環器学会のガイドラインに従って行いました。

心臓サルコイドーシスと診断された475人の内、119人(25.1%)が心臓限局性サルコイドーシスと診断されました。心臓限局性サルコイドーシス患者は、非心臓限局性心サルコイドーシス患者と比べて、診断時に左室駆出率(*3)が低く、心房細動や心不全を既往にもつ割合が高値でした。中央値42カ月間の追跡の間に、イベント (死亡、心不全による入院、致死性不整脈の複合) は141人 {心臓限局性サルコイドーシス:41人(34.5%)、非心臓限局性心サルコイドーシス:100人(28.1%)} に発生しました。単変量モデルにおいては、心臓限局性サルコイドーシスは非心臓限局性心サルコイドーシスよりも有意にイベント発生率が高い結果でありました。しかし、その他のリスク因子で調節したところ、心臓限局性サルコイドーシスと非心臓限局性心サルコイドーシの予後に統計学的な差がないことが明らかとなりました。

以上の結果より、心臓限局性サルコイドーシス患者は非心臓限局性心サルコイドーシス患者と比べて、一見予後が悪く見えますが、それは診断時の全身の状態が悪いことを反映している可能性 (図1) が考えられます。

今後の展開  

今回の研究では、心臓限局性サルコイドーシスであるか非心臓限局性サルコイドーシスであるかよりも、診断時の心機能や併存疾患の有無が予後を左右する可能性が示唆されました。したがって、いかにして心臓サルコイドーシスを早期に発見し、早期に治療介入を行えるかが今後の重要な課題となると考えます。本研究の結果より、心臓サルコイドーシスの早期発見に関する研究が進むことが期待されます。

 

◆用語解説 

*1 多施設レジストリデータ:特定の疾患に関する様々なデータ(患者数、検査結果、予後など)を調査するため、複数の病院において、特定の疾患に罹患した患者を網羅的に登録したデータのこと。

*2 心室性不整脈:心室から生じる不整脈全般のこと。心室頻拍や心室細動はこの一種で、心停止の原因となる重篤な不整脈 (致死性不整脈) である。

*3 左室駆出率:心臓の収縮機能評価の指標の一つ。心臓が拡張した際の左室の容積から収縮時の左室の容積を差し引いたもの(駆出量)の拡張期の左室容積に対する割合。

 

◆研究者のコメント

長らく十分な情報が不足していた心臓限局性サルコイドーシスに関するまとまったデータを出すことができ嬉しく思います。本研究が心臓サルコイドーシス患者さんの診断や治療を向上させる一助になれば幸いです。

 

◆原著論文

本研究はEuropean Journal of Heart Failure誌のオンライン版に2023年10月12日付で公開されました。

タイトル: Clinical characteristics and prognosis of patients with isolated cardiac sarcoidosis: Insights from the ILLUMINATE-CS study

タイトル(日本語訳): 心臓限局性サルコイドーシス患者の臨床背景および予後

著者:Daichi Maeda 1), Yuya Matsue 1), Taishi Dotare 1), Tsutomu Sunayama 1), Takashi Iso 1), Kenji Yoshioka 2), Takeru Nabeta 3)4), Yoshihisa Naruse 5), Takeshi Kitai 6), Tatsunori Taniguchi 7), Hidekazu Tanaka 8), Takahiro Okumura 9), Yuichi Baba 10), Tohru Minamino 1)11)

著者(日本語表記): 前田 大智 1), 末永 祐哉 1), 堂垂 大志 1), 砂山 勉 1), 礒 隆史 1), 吉岡 賢二 2), 鍋田 健 3)4), 成瀬 代士久 5) , 北井 豪 6), 谷口 達典 7), 田中 秀和 8), 奥村 貴裕 9), 馬場 裕一 10), 南野 徹 1)11)

著者所属:1) Department of Cardiovascular Biology and Medicine, Juntendo University Graduate School of Medicine, Tokyo Japan 2) Department of Cardiology, Kameda Medical Center, Chiba, Japan 3) Department of Cardiovascular Medicine, Kitasato University School of Medicine, Sagamihara, Japan 4) Department of Cardiology, Leiden University Medical Center, Leiden, Netherlands 5) Division of Cardiology, Internal Medicine III, Hamamatsu University School of Medicine, Hamamatsu, Japan 6) Department of Cardiovascular Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center, Osaka, Japan 7) Department of Cardiovascular Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine, Osaka, Japan 8) Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, Japan 9) Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan 10) Department of Cardiology and Geriatrics, Kochi Medical School, Kochi University, Nankoku, Japan 11) Japan Agency for Medical Research and Development-Core Research for Evolutionary Medical Science and Technology (AMED-CREST), Japan Agency for Medical Research and Development, Tokyo, Japan

著者所属(日本語表記):1) 順天堂大学 大学院医学研究科 循環器内科学講座 2)亀田総合病院 循環器内科 3) 北里大学 循環器内科学 4) ライデン大学 循環器内科 5) 浜松医科大学 内科学第三講座 6) 国立循環器病研究センター 心臓血管内科 7) 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 8) 神戸大学大学院 循環器内科学 9) 名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学 10) 高知大学老 年病・循環器内科学 11) AMED-CREST

DOI: 10.1002/ejhf.3056

 

また、本研究はJSPS科研費JP11K1111, JP12K2222,および文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成事業の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。

なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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