シリア:「屋外刑務所」アルホール・キャンプの危険と絶望

シリア北東部にあり、過激派組織「イスラム国」の支配地から移された人が多く暮らすアルホール難民キャンプでは、女性や子どもを含む多くの人びとが無期限かつ恣意的に拘束され、医療へのアクセスも制限され、犯罪や暴力、搾取の世界から抜け出す展望を持てずにいる。

国境なき医師団(MSF)はこのたび、救急搬送の許可に時間を要したため死亡した2人の男の子の事例や、同様の悲劇、MSFの活動から得た医療データをまとめた報告書『Between Two Fires: Danger and Desperation in Syria's Al-Hol Camp』(英文)を公開した。キャンプで暮らす人びとが長期にわたって身柄を拘束されていることの残酷さを浮き彫りにし、基本的な医療へのアクセスや、キャンプに拘束されている外国人の安全な送還を訴えている。

アルホール・キャンプの様子=2020年3月9日 © Ricardo Garcia Vilanovaアルホール・キャンプの様子=2020年3月9日 © Ricardo Garcia Vilanova

 
  • 子どもたちの悲劇的な死

2021年2月、アルホール・キャンプにあるMSFの診療所に、7歳の男の子が運ばれてきた。顔と腕に真皮に達する第2度のやけどを負っていた。車で1時間以内の場所に救命医療施設があるにも関わらず、キャンプ当局が男の子の移送を許可したのは2日後で、男の子は母親と別れて病院に向かう途中で苦しみながら息を引き取った。

そのわずか数カ月後の5月、トラックにはねられた5歳の男の子が、同じ診療所に運ばれてきた。緊急手術の必要性からMSFのスタッフは、男の子を病院へ一刻も早く移送するよう勧めたが、許可が下りるまで何時間もかかり、男の子は病院に向かう途中で意識不明のまま一人で亡くなった。

2021年にアルホール・キャンプで亡くなった人のうち35%は16歳未満の子どもであり、この2人の男の子以外に77人もの子どもが亡くなっている。
 
  • 希望を見いだせないキャンプでの生活
 

キャンプの中の厳しい環境で過ごす子ども=2021年6月7日 © Florent Vergnesキャンプの中の厳しい環境で過ごす子ども=2021年6月7日 © Florent Vergnes


「アルホール・キャンプでは、救急医療の受診が大幅に遅れた結果、子どもが死亡したり、11歳頃になる少年たちが母親から強制的に引き離され、二度と会えなくなったりするという悲惨な話を数多く見聞きしています」と、シリアでMSFのオペレーション・マネジャーを務めるマルティヌ・フロクストラは話す。

「また、たとえ病院に行けたとしても、恐ろしい目に合うことも多いのです。キャンプから車で1時間ほどの場所にある病院に搬送される子どもには、武装した護衛が付き添いますが、ほとんどの場合、家族や看護師などには同行許可がおりないからです。

このキャンプはもともと、シリアとイラクの紛争で避難してきた市民に、安全な仮住まいを用意して人道援助を行うために作られました。しかし、2018年12月に『イスラム国』の支配地から人びとが移されて以来、キャンプの性質と本来の目的からは逸脱し、年を追うごとに危険で不衛生な、事実上の屋外刑務所になりつつあるのです。

キャンプに暮らす大半は子どもで、その多くはここで生まれました。子ども時代を奪われ、暴力と搾取にさらされる日々を送り、教育も医療援助もなく、希望も見出だせないでいます」
 
  • 終わりの見えない状況へ終止符を

マルティヌ・フロクストラはさらにこう付け加える。「アルホール・キャンプやシリア北東部の他の収容施設やキャンプには、対『イスラム国』有志連合国やその他の国々の出身者が拘束されたままで、自国への送還は進んでいません。そうした国々は責任をもって、何らかの対応策を見出すことが求められているにも関わらず、送還を遅らせるか拒否する、場合によっては市民権を剥奪し、無国籍にすることさえあるのです。

アルホール・キャンプは暴力行為が横行して危険な状況であり、さらに5万人余りがここに移されてから3年以上が経過したにもかかわらず、キャンプ閉鎖への動きは進んでいません。

この恣意的で無期限の拘束を終わらせるための長期的な代替策もまだない状態です。アルホール・キャンプに長く閉じ込められるほど、状況は悪くなり、新しい世代が搾取の危険にさらされ、暴力から解放された子ども時代を過ごせる見込みもなくなります」
 
  • 数字で見るアルホール・キャンプ(報告書からの抜粋)

●アルホール・キャンプの人口の64%が子どもであり、かつ50%は12歳未満である。10代に入った少年が母親や養育者から強制的に引き離されたという報告も多い。少年たちがどこに連れて行かれてどのような扱いを受けるのかは明らかにされていない。

●2021年、アルホール・キャンプで亡くなった人の35%は16歳未満の子どもであった。死因の第1位は犯罪関連死で、全死亡者の38%を占め、85人に上った。

●現在のキャンプの総人口は約5万3000人で、そのうち約1万1000人が外国人で、「アネックス」と呼ばれるキャンプ内で区画された場所に収容されている。

●アルホール・キャンプや関連する収容キャンプに国民がいる国は、英国、オーストラリア、中国、スペイン、フランス、スイス、タジキスタン、トルコ、スウェーデン、マレーシアなど60カ国近くあるとみられる。2020年10月以降、1300世帯余りのシリア人家族がアルホール・キャンプから出る許可を得た。しかし、待機者リストは長く、許可を得られるまでのプロセスも不透明だ。一方で、2022年8月、約3000人のイラク人がイラクに帰還した。

報告書『Between Two Fires: Danger and Desperation in Syria's Al-Hol Camp』(英文)はこちらから
https://www.msf.or.jp/publication/pressreport/pdf/Between_Two_Fires_Danger_and_Desperation_in_Syria's_Al-Hol_Camp.pdf
 

 

11年にわたる戦争により、シリアでは過去最高の1460万人が人道援助を必要としている。国内避難民は世界最多の690万人。そのほとんどが女性と子どもだ。多くの人が何度も家を追われ、不安定な状況で暮らしている。MSFは可能な限りシリアで活動しているが、現在も続く治安の悪さと現地入りの規制によって、ニーズの規模に見合うだけの人道援助を行うのは難しいのが実情だ。MSFは、シリア政府支配地域での活動許可を繰り返し求めているが、戦争が始まって以来実現に至っていない。シリア北西部や北東部など、交渉次第では現地入り可能な地域では、病院や診療所を運営・支援し、移動診療を通じて医療を提供している。


 
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